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第四章 『魔神領域』
第8話 奇妙な男
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「来い! 灼焔鉄甲!」
地面に転がっていた灼焔鉄甲は俺の叫びに応じてこの腕に戻ってくる。
特殊な力を持つこの手甲は俺の意思に応じていつでもこの腕に戻ってくるんだ。
再び灼焔鉄甲を装備した俺は懸命に足を奮い立たせて立ち上がった。
さっきの頭突きでまだ脳が揺れている感覚が消えないが、今ここで動かねえと顎傷男も回復しちまう。
勝機はタイミングだ。
掴み損ねたもんの負けなんだよ。
だが、俺と同じことを顎傷男も考えていた。
「ガアッ!」
目が潰れて顎に重傷を負っているにも関わらず、奴は驚くほどすばやい動作で大口を開けて再び俺の首を狙いやがった。
頭がグラついているせいで今度は避け切れず、俺は首すじに食いつかれちまった。
鋭い痛みが走り鮮血が迸る。
「ぐああああっ!」
この野郎。
顎の傷から血がさらに噴き出すのも構わずに、ありったけの力を込めて来やがった。
全ては勝利のためだ。
子分どもの手前、明らかに格下の俺に負けるわけにはいかないんだろうよ。
ライフがさらに低下していく中、俺は痛みに苦痛の声を漏らしながらも拳を握りしめた。
「ぐぅぅぅ……上等だ」
体を苛む激痛で集中しにくいが、それでも俺は体内の魔力を最大限まで引き上げていく。
こっちだって意地があんだよ。
負けられない意地がな。
俺の全身が炎に包まれていく。
正直かなり体がしんどいが、ここでぶっ壊れて構わないつもりで俺はフルスロットルで魔力を開放した。
青い稲光がパチパチと爆ぜる音を聞き、俺は吠えた。
「焔雷!」
魔力を全て使い切る勢いで俺が全身から放出させた焔雷が顎傷男へと伝播する。
左足に装備している雷足環の力がだいぶ俺の体に浸透してきたようで、巻き起こる稲妻は以前よりも数段威力が増していた。
「ガァァァァッ……」
顎傷男はそれでも俺の首すじから口を放そうとしなかったが、焔雷の勢いに弾き飛ばされて後方によろめく。
そのせいで俺は首の肉を食いちぎられた。
「くはあっ……」
痛みを超えて麻痺状態となった首すじから血が溢れ出し、俺のライフがいよいよ残り20%の危険水域を切る警告色のオレンジ色に染まる。
だが俺は止まらなかった。
高熱化したままの右手に魔力を集中させる。
すると真っ赤に染まった右拳から炎が噴き上がった。
「噴殺炎獄拳!」
俺は魔力と炎が宿った拳を自分のこめかみの横に構える。
狙いは奴の目だ。
それを察知した顎傷男は電撃で痺れた体を無理やり動かして顎を引き、俺に頭突きを仕掛けてくる。
大した根性だ。
だが俺は繰り出す拳の軌道を変えた。
この技は元々こうして下から上に突き上げるんだよ!
俺が下から突き上げた燃える拳は、頭突きを繰り出してくる顎傷男の顎をガチッと捉えた。
その瞬間に俺は全ての力を込めて拳を突き上げる。
「ぬあああああっ!」
奴の顎の骨が砕ける感触がした。
跳ね上げられた顎傷男は力なく宙を舞うと俺の目の前の地面に落下して、仰向けに転がる。
俺はまだ息のある顎傷男に向けて痛む左足を振り上げた。
「楽しかったぜ。顎傷男。最後の土産を受け取りな。電撃間欠泉!」
そう言うと俺は奴の潰れかかった大きな一つ目を思い切り踏み抜いた。
途端に再び奴の全身から稲妻が迸る。
「ギガァァァァッ……グフッ」
苦しげに喘いだ末、顎傷男は息絶えた。
ライフゼロ。
ゲームオーバーだ。
顎傷男の体が光の粒子に包まれて消えていく。
この場所でもそういうエフェクトは変わらないようだな。
勝利の手応えが全身を包み込む中、俺は自分の左足が限界を迎えていることを知った。
いきなり左足の力が抜けてガクンとその場に片膝を着いちまったからだ。
「イテッ!」
地面に着いた左膝がひどく痛む。
電撃間欠泉を二度敢行したことで、負傷している左足に無理させ過ぎたようだな。
だが、そのくらいやらなきゃ勝てない相手だった。
紙一重の勝利だったが、ボロボロになってでも勝つことには意味がある。
格上との戦いに勝利することは何よりの経験だからだ。
「ふうっ……しんどい相手だったぜ。野郎が左手を失っていなかったら、やばかったかもな」
そう言うと俺はその場に座り込み、アイテム・ストックの中を探りながら考えた。
これが俺の現在地だ。
上級種と同等の相手と戦い勝利は収めた。
だがそれは相手の弱点を知り、相手に有利なはずのこの森の地形効果を逆利用して、なおかつ相手が左手を失っているというハンデがあっての、ようやくの勝利だ。
俺はかつて所属した部隊の長である上級種・ゾーランの顔を思い浮かべた。
「これじゃアイツに追いつくなんて夢のまた夢だ」
そう言いながら俺はアイテム・ストックから取り出した回復ドリンクを飲もうとした。
だが、そこで急に迫って来る飛来音を聞き、反射的に身を伏せた。
そんな俺の頭の上を次々と黒い岩石が通り抜けていく。
そのうちの一つが近くの木に激突して粉々に砕け散った。
その破片が俺を襲い、持っていた回復ドリンクの瓶を割り、この体を痛めつける。
俺のライフは残り10%を切った。
「チッ……親分のカタキ討ちってわけかよ」
俺はそう吐き捨てると周囲を見回した。
さっきまで俺と顎傷男のケンカを遠巻きに見ていた赤肌男どもが、岩石を手に近付いてきていた。
ま、そうなるだろうと思ってたがな。
ボスがやられたからって、弱った獲物である俺をこいつらが見逃すはずがねえ。
赤肌男どもはまるで次のボスの座を競うがごとく、我先にと俺に押し寄せてくる。
回復ドリンクを飲む暇もなく俺は立ち上がった。
「上等じゃねえか。やってやるよ」
左足に力が入らず、全身が痛みに悲鳴を上げている。
俺に向かってくる赤肌男は数十体。
こりゃ死ぬな。
だが、それがどうした?
目の前に敵がいる以上、俺はこの拳を振るうまてだ。
「最初にぶん殴られてえ奴はてめえか!」
真っ先に俺に襲いかかって来た赤肌男を俺は思い切り殴りつけようとした。
だがそこでいきなり背中に強い衝撃を受けて、うつ伏せに地面に押し倒される。
「うぐっ!」
俺の背中からにじり寄って来た別の赤肌男が、その巨大な手で俺を押さえつけやがった。
くそっ!
跳ね退けようにも左足にまったく力が入らねえ。
俺は右足と上体の力だけで起き上がろうと懸命にもがくが、さらに数体の赤肌男どもがよってたかって俺の体を押さえつけてくるため、まったく身動きが取れなくなった。
このクソ野郎どもが。
人の体にベタベタ触ってんじゃねえぞ。
気色悪いんだよ。
俺が身動き出来なくなったのを見計らうと、赤肌男どもがギャイギャイ騒ぎながら俺の両手両足を奪い合うように引っ張り、さらには俺の頭を手で掴みやがった。
俺を五体バラバラに引き裂いてシェアしながら食うつもりか。
強い力で体を引っ張られる痛みがピークを迎え、俺のライフが残り10%を切る。
いよいよゲームオーバーが近付いて来やがった。
必死に抵抗しながら、俺は最後を覚悟した。
ちくしょうめ。
また1からやり直しかよ。
そう思った俺は、急に頭髪や全身の毛がピリピリするのを感じた。
次の瞬間、辺りが不意に明るくなったかと思うと、ドーンと何かが破裂するような大音響が鳴り響き、地面が揺れた。
この音は……雷か?
「ま~ったく。オメエらは野暮だべな」
場にそぐわないノンビリとした訛りの強い声が聞こえてきたかと思うと、それまでギャアギャアと騒ぎ立てていた赤肌男どもが一斉に押し黙った。
突然の静寂に眉を潜める俺だが、赤肌男どもに押さえつけられているので身動きを取ることが出来ない。
さっきの声は何者だ?
一体誰が……。
「双雷閃」
その言葉とともに俺の左右を眩い光が駆け抜けた。
途端に体にかかっていた重圧が消え、俺は反射的に跳ね起きた。
すると俺を押さえ込んでいたはずの赤肌男どもがアッサリと崩れ落ちる。
見ると奴らはその赤い肌を真っ黒に焦がされて虫の息となっていた。
雷だ。
雷の力に焼かれたんだ。
それも俺の焔雷や電撃間欠泉とは比べ物にならないくらいの威力だ。
その力を振るっているのがさっきの声の主だった。
その男は派手な金色の長髪を靡かせて俺の前方数十メートルのところに立っていた。
俺より体は細いが、頭一つ分ほどは背が高いせいで、ヒョロリとした印象を抱かせる。
その男の頭の上にも六茫星のNPCマークが浮かんでいた。
あのマーク。
こいつも赤肌男と同じ魔神ってことか。
奴が現れた途端、周囲を取り囲む赤肌男どもの間に緊張が走るのが分かった。
どう見ても奴らは友好的な関係じゃない。
「オメエらのボスと、この悪魔くんが一騎討ちで勝負して、オメエらのボスが負けたんだべ。ボスが負けたってことはオメエらが負けたってことと同じなんだあよ。腹いせはダセエっつうの」
そう言うとその男は腰に下げた一本の斧を取り出した。
小振りな片手斧であるそれは柄の両側に金色の刃がある両刃斧だ。
金髪男がその両刃斧を頭上に掲げると、斧の刃がバチバチと稲光を放つ。
さっきの技といい、こいつは雷の属性を持つ魔神なんだろう。
ってことは雷が苦手な赤肌男どもにとっちゃ天敵だ。
その証拠に金髪男が戦闘態勢に入って殺気を撒き散らすと、赤肌男どもはジリジリと後退りし始めた。
明らかにビビッてやがる。
俺は今のうちにアイテム・ストックから回復ドリンクを取り出すべきかと迷ったが、あの金髪男の出方が分からず、じっと身動きせずに奴の動きを注視した。
「オラとケンカしても勝てっこねえのは分かってるべ? 痛い目見たくないなら、さっさと消えっちまえい!」
そう言うと金髪男は光り輝く金色の両刃斧を鋭く振るった。
途端に激しい稲妻が発生して赤肌男どもの蠢く木々の間を一閃する。
数体の赤肌男が避けきれずに稲妻を浴びて黒焦げになった。
この一撃が決め手となり、赤肌男どもは一斉に逃げ出した。
金髪男は追撃をかけるように二度三度と斧を振るったが、奴らを追っ払う程度の攻撃で、本気で殺そうとはしていないようだ。
こいつ、何を考えていやがる。
まさか俺を助けるつもりか?
俺は注意深く金髪男の挙動を見据える。
そいつは赤肌男どもが完全に逃げ去ったのを見送ると、満足げな笑みを浮かべてこちらを見やる。
「よう。悪魔くん。さっきのケンカ見てただよ。君、すっげえな。ただの悪魔なのにマンガラに1対1で勝つなんて大したもんだべ」
マンガラ?
さっきの顎傷男のことか。
俺は警戒心を解かずに金髪男を睨みつけた。
「てめえはナニモンだ」
「オラはシャンゴっていうだよ。さっきのマンガラの一味とは長年のケンカ相手なもんでなぁ。そのマンガラがヨソモンとケンカしてるから珍しくて見学させてもらっただよ」
地面に転がっていた灼焔鉄甲は俺の叫びに応じてこの腕に戻ってくる。
特殊な力を持つこの手甲は俺の意思に応じていつでもこの腕に戻ってくるんだ。
再び灼焔鉄甲を装備した俺は懸命に足を奮い立たせて立ち上がった。
さっきの頭突きでまだ脳が揺れている感覚が消えないが、今ここで動かねえと顎傷男も回復しちまう。
勝機はタイミングだ。
掴み損ねたもんの負けなんだよ。
だが、俺と同じことを顎傷男も考えていた。
「ガアッ!」
目が潰れて顎に重傷を負っているにも関わらず、奴は驚くほどすばやい動作で大口を開けて再び俺の首を狙いやがった。
頭がグラついているせいで今度は避け切れず、俺は首すじに食いつかれちまった。
鋭い痛みが走り鮮血が迸る。
「ぐああああっ!」
この野郎。
顎の傷から血がさらに噴き出すのも構わずに、ありったけの力を込めて来やがった。
全ては勝利のためだ。
子分どもの手前、明らかに格下の俺に負けるわけにはいかないんだろうよ。
ライフがさらに低下していく中、俺は痛みに苦痛の声を漏らしながらも拳を握りしめた。
「ぐぅぅぅ……上等だ」
体を苛む激痛で集中しにくいが、それでも俺は体内の魔力を最大限まで引き上げていく。
こっちだって意地があんだよ。
負けられない意地がな。
俺の全身が炎に包まれていく。
正直かなり体がしんどいが、ここでぶっ壊れて構わないつもりで俺はフルスロットルで魔力を開放した。
青い稲光がパチパチと爆ぜる音を聞き、俺は吠えた。
「焔雷!」
魔力を全て使い切る勢いで俺が全身から放出させた焔雷が顎傷男へと伝播する。
左足に装備している雷足環の力がだいぶ俺の体に浸透してきたようで、巻き起こる稲妻は以前よりも数段威力が増していた。
「ガァァァァッ……」
顎傷男はそれでも俺の首すじから口を放そうとしなかったが、焔雷の勢いに弾き飛ばされて後方によろめく。
そのせいで俺は首の肉を食いちぎられた。
「くはあっ……」
痛みを超えて麻痺状態となった首すじから血が溢れ出し、俺のライフがいよいよ残り20%の危険水域を切る警告色のオレンジ色に染まる。
だが俺は止まらなかった。
高熱化したままの右手に魔力を集中させる。
すると真っ赤に染まった右拳から炎が噴き上がった。
「噴殺炎獄拳!」
俺は魔力と炎が宿った拳を自分のこめかみの横に構える。
狙いは奴の目だ。
それを察知した顎傷男は電撃で痺れた体を無理やり動かして顎を引き、俺に頭突きを仕掛けてくる。
大した根性だ。
だが俺は繰り出す拳の軌道を変えた。
この技は元々こうして下から上に突き上げるんだよ!
俺が下から突き上げた燃える拳は、頭突きを繰り出してくる顎傷男の顎をガチッと捉えた。
その瞬間に俺は全ての力を込めて拳を突き上げる。
「ぬあああああっ!」
奴の顎の骨が砕ける感触がした。
跳ね上げられた顎傷男は力なく宙を舞うと俺の目の前の地面に落下して、仰向けに転がる。
俺はまだ息のある顎傷男に向けて痛む左足を振り上げた。
「楽しかったぜ。顎傷男。最後の土産を受け取りな。電撃間欠泉!」
そう言うと俺は奴の潰れかかった大きな一つ目を思い切り踏み抜いた。
途端に再び奴の全身から稲妻が迸る。
「ギガァァァァッ……グフッ」
苦しげに喘いだ末、顎傷男は息絶えた。
ライフゼロ。
ゲームオーバーだ。
顎傷男の体が光の粒子に包まれて消えていく。
この場所でもそういうエフェクトは変わらないようだな。
勝利の手応えが全身を包み込む中、俺は自分の左足が限界を迎えていることを知った。
いきなり左足の力が抜けてガクンとその場に片膝を着いちまったからだ。
「イテッ!」
地面に着いた左膝がひどく痛む。
電撃間欠泉を二度敢行したことで、負傷している左足に無理させ過ぎたようだな。
だが、そのくらいやらなきゃ勝てない相手だった。
紙一重の勝利だったが、ボロボロになってでも勝つことには意味がある。
格上との戦いに勝利することは何よりの経験だからだ。
「ふうっ……しんどい相手だったぜ。野郎が左手を失っていなかったら、やばかったかもな」
そう言うと俺はその場に座り込み、アイテム・ストックの中を探りながら考えた。
これが俺の現在地だ。
上級種と同等の相手と戦い勝利は収めた。
だがそれは相手の弱点を知り、相手に有利なはずのこの森の地形効果を逆利用して、なおかつ相手が左手を失っているというハンデがあっての、ようやくの勝利だ。
俺はかつて所属した部隊の長である上級種・ゾーランの顔を思い浮かべた。
「これじゃアイツに追いつくなんて夢のまた夢だ」
そう言いながら俺はアイテム・ストックから取り出した回復ドリンクを飲もうとした。
だが、そこで急に迫って来る飛来音を聞き、反射的に身を伏せた。
そんな俺の頭の上を次々と黒い岩石が通り抜けていく。
そのうちの一つが近くの木に激突して粉々に砕け散った。
その破片が俺を襲い、持っていた回復ドリンクの瓶を割り、この体を痛めつける。
俺のライフは残り10%を切った。
「チッ……親分のカタキ討ちってわけかよ」
俺はそう吐き捨てると周囲を見回した。
さっきまで俺と顎傷男のケンカを遠巻きに見ていた赤肌男どもが、岩石を手に近付いてきていた。
ま、そうなるだろうと思ってたがな。
ボスがやられたからって、弱った獲物である俺をこいつらが見逃すはずがねえ。
赤肌男どもはまるで次のボスの座を競うがごとく、我先にと俺に押し寄せてくる。
回復ドリンクを飲む暇もなく俺は立ち上がった。
「上等じゃねえか。やってやるよ」
左足に力が入らず、全身が痛みに悲鳴を上げている。
俺に向かってくる赤肌男は数十体。
こりゃ死ぬな。
だが、それがどうした?
目の前に敵がいる以上、俺はこの拳を振るうまてだ。
「最初にぶん殴られてえ奴はてめえか!」
真っ先に俺に襲いかかって来た赤肌男を俺は思い切り殴りつけようとした。
だがそこでいきなり背中に強い衝撃を受けて、うつ伏せに地面に押し倒される。
「うぐっ!」
俺の背中からにじり寄って来た別の赤肌男が、その巨大な手で俺を押さえつけやがった。
くそっ!
跳ね退けようにも左足にまったく力が入らねえ。
俺は右足と上体の力だけで起き上がろうと懸命にもがくが、さらに数体の赤肌男どもがよってたかって俺の体を押さえつけてくるため、まったく身動きが取れなくなった。
このクソ野郎どもが。
人の体にベタベタ触ってんじゃねえぞ。
気色悪いんだよ。
俺が身動き出来なくなったのを見計らうと、赤肌男どもがギャイギャイ騒ぎながら俺の両手両足を奪い合うように引っ張り、さらには俺の頭を手で掴みやがった。
俺を五体バラバラに引き裂いてシェアしながら食うつもりか。
強い力で体を引っ張られる痛みがピークを迎え、俺のライフが残り10%を切る。
いよいよゲームオーバーが近付いて来やがった。
必死に抵抗しながら、俺は最後を覚悟した。
ちくしょうめ。
また1からやり直しかよ。
そう思った俺は、急に頭髪や全身の毛がピリピリするのを感じた。
次の瞬間、辺りが不意に明るくなったかと思うと、ドーンと何かが破裂するような大音響が鳴り響き、地面が揺れた。
この音は……雷か?
「ま~ったく。オメエらは野暮だべな」
場にそぐわないノンビリとした訛りの強い声が聞こえてきたかと思うと、それまでギャアギャアと騒ぎ立てていた赤肌男どもが一斉に押し黙った。
突然の静寂に眉を潜める俺だが、赤肌男どもに押さえつけられているので身動きを取ることが出来ない。
さっきの声は何者だ?
一体誰が……。
「双雷閃」
その言葉とともに俺の左右を眩い光が駆け抜けた。
途端に体にかかっていた重圧が消え、俺は反射的に跳ね起きた。
すると俺を押さえ込んでいたはずの赤肌男どもがアッサリと崩れ落ちる。
見ると奴らはその赤い肌を真っ黒に焦がされて虫の息となっていた。
雷だ。
雷の力に焼かれたんだ。
それも俺の焔雷や電撃間欠泉とは比べ物にならないくらいの威力だ。
その力を振るっているのがさっきの声の主だった。
その男は派手な金色の長髪を靡かせて俺の前方数十メートルのところに立っていた。
俺より体は細いが、頭一つ分ほどは背が高いせいで、ヒョロリとした印象を抱かせる。
その男の頭の上にも六茫星のNPCマークが浮かんでいた。
あのマーク。
こいつも赤肌男と同じ魔神ってことか。
奴が現れた途端、周囲を取り囲む赤肌男どもの間に緊張が走るのが分かった。
どう見ても奴らは友好的な関係じゃない。
「オメエらのボスと、この悪魔くんが一騎討ちで勝負して、オメエらのボスが負けたんだべ。ボスが負けたってことはオメエらが負けたってことと同じなんだあよ。腹いせはダセエっつうの」
そう言うとその男は腰に下げた一本の斧を取り出した。
小振りな片手斧であるそれは柄の両側に金色の刃がある両刃斧だ。
金髪男がその両刃斧を頭上に掲げると、斧の刃がバチバチと稲光を放つ。
さっきの技といい、こいつは雷の属性を持つ魔神なんだろう。
ってことは雷が苦手な赤肌男どもにとっちゃ天敵だ。
その証拠に金髪男が戦闘態勢に入って殺気を撒き散らすと、赤肌男どもはジリジリと後退りし始めた。
明らかにビビッてやがる。
俺は今のうちにアイテム・ストックから回復ドリンクを取り出すべきかと迷ったが、あの金髪男の出方が分からず、じっと身動きせずに奴の動きを注視した。
「オラとケンカしても勝てっこねえのは分かってるべ? 痛い目見たくないなら、さっさと消えっちまえい!」
そう言うと金髪男は光り輝く金色の両刃斧を鋭く振るった。
途端に激しい稲妻が発生して赤肌男どもの蠢く木々の間を一閃する。
数体の赤肌男が避けきれずに稲妻を浴びて黒焦げになった。
この一撃が決め手となり、赤肌男どもは一斉に逃げ出した。
金髪男は追撃をかけるように二度三度と斧を振るったが、奴らを追っ払う程度の攻撃で、本気で殺そうとはしていないようだ。
こいつ、何を考えていやがる。
まさか俺を助けるつもりか?
俺は注意深く金髪男の挙動を見据える。
そいつは赤肌男どもが完全に逃げ去ったのを見送ると、満足げな笑みを浮かべてこちらを見やる。
「よう。悪魔くん。さっきのケンカ見てただよ。君、すっげえな。ただの悪魔なのにマンガラに1対1で勝つなんて大したもんだべ」
マンガラ?
さっきの顎傷男のことか。
俺は警戒心を解かずに金髪男を睨みつけた。
「てめえはナニモンだ」
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