だって僕はNPCだから

枕崎 純之助

文字の大きさ
31 / 52
第三章 神の啓示

第7話 闇の胎動

しおりを挟む
 それから一日また一日と過ぎていき、三日めの朝を迎えていた。
 この洞窟には王城から毎日必ず見回りの兵士らが5~6人の集団で訪れていた。
 ミランダが洞窟に戻ってきていないかどうかをチェックするためだ。
 僕にも報告義務が課せられていたけど、「ミランダは戻ってない」という同じ報告を繰り返すばかりだった。

 この日も朝から兵士たちが来ていて僕の持っている巡回表に見回り済のサインをしていった。
 その巡回表には日付ごとに訪れる予定のメンバーの名前が記されていて、それによると明日の巡回業務担当者の中にはリードの名前が含まれていた。
 その名前を見ると、シェラングーンでの出来事を思い返して怒りがこみ上げてくる。
 いつも顔を合わせたくない相手だけど、今は特にその気持ちが強かった。

「リードか……また色々と言ってくるんだろうな」

 またミランダやジェネットのことを悪く言われるようなら僕だってもう黙っちゃいられない。
 だけど今は騒ぎを起こして運営本部ににらまれるようなことは出来ないんだ。

「ガマンしなくちゃな。何を言われても今はガマンだ」

 そう自分に言い聞かせ、拳を強く握り締めた。
 相変わらず僕は掲示板での情報収集にかかりきりだったけど成果のほうはサッパリだった。

 先日僕が立てたスレッド【闇の魔女ミランダがこの先もこのゲームに存続しうる可能性について】[無断転載禁止]には初日こそ多くの人の書き込みであふれていたけど、時間の経過とともにだんだんと訪れる人が少なくなっていった。
 僕はジリジリとつのあせりを必死にこらえていた。
 ここでこうしている間にも各地でミランダは襲撃を繰り返し、一日に何度もそのニュースがメインメニューのニュース速報を介して飛び込んでくる。
 ゲーム内では日に日にミランダに対するバッシングが苛烈かれつさを増していき、これに呼応するかのように運営本部は討伐隊とうばつたいを増員してミランダを取り押さえにかかっていた。
 各地から様々なプレイヤーやサポートNPCの猛者もさたちがミランダを狩るべく集結していた。

 どんなに強い人たちが集まっても今のミランダが簡単に負けるとは思えない。
 だけど、これはどう考えても多勢に無勢すぎるよ。

 ミランダ。
 もうやめるんだ。
 これ以上やったらきっと手痛いシッペ返しを食らうよ。
 何か良くないことが起きる。
 そんな気がして仕方ないんだ。

 僕はそんなあせりにさいなまれ、それでいて何も出来ない自分が歯がゆくて、思わずテーブルを手の平が痛くなるほど叩いた。
 むなしく鳴り響く音。
 その音に僕は小さくため息をついた。

「……少し頭を冷やさないと」

 僕はそう言うと立ち上がり、宿直室を後にして洞窟の中に歩み出た。
 ひんやりとした空気が心地いい。
 ずっと部屋にこもって画面を見つめていたから、思考も肩もりまくっているみたいだ。

 僕は頭の疲労をやわらげるべく、考えるのを止めてボーッと前方を見つめながら歩き続ける。
 するとすぐに洞窟の最深部である闇の祭壇さいだんへとたどり着いた。
 以前までだったら恐ろしい闇の魔女・ミランダが鎮座していた場所だ。
 そこでは闇の玉座がひっそりと主の帰りを待ち続けていた。
 どこかさびしげなその様子がまるで自分自身を見ているかのように思えて僕は思わずブンブンと首を横に振った。

「違う違う。僕はイスじゃないぞ」

 僕はそう言うと闇の玉座にドカッと座ってふんぞり返った。
 普段だったら絶対にやらない向こう見ずな行為だったけど、戻らないミランダに腹立たしい思いを抱いていたので、つい気持ちが大きくなっていた。

 どうだ。
 座ってやったぞミランダめ。
 いつまでも帰ってこないからだ。
 ザマーミロ!

「……って、何やってんだ僕は」

 あまりに馬鹿馬鹿しい自分の行いにさすがにあきれてしまい、僕は背もたれに深く背中を預けて虚空こくうを見つめながらポツリとつぶやいた。

「ミランダ……僕ごときに玉座を乗っ取られていいのか。今すぐに戻ってきておっかない顔で僕をしかりつけてみろよ」

 僕の言葉が洞窟内の薄闇に溶けていくその時だった。
 突如として闇の玉座が真っ黒なきりを噴出し始め、ガタガタッと揺れ始める。
 同時に僕の手に握られていた呪いの剣が激しく振動し始めたんだ。

「ひえっ! ごぉめんなすぁぁい! つ、つい出来心で。悪気はないんです!」

 本当にミランダが帰ってきたのかと思い、僕はそりゃあもうビックリしたよ。
 心臓に氷を押し付けられたかのように僕は心底驚いて飛び上がり、その拍子ひょうしに玉座の横に転げ落ちてしまった。

「い、いてっ! ……あ、あれ?」

 しこたま腰をぶつけて苦痛に顔をゆがめつつ、そこで僕はあることに気が付いたんだ。
 闇の玉座に変化が生じていた。
 つい先ほどまで何の変哲もなかったその玉座が、魔力に満ちて黒いオーラを漂わせていた。

 いや、変化が生じたというのは正確じゃない。
 ミランダがいた頃、もともとこの玉座はこうだった。
 魔力の根源であるかのような姿を取り戻したんだ。
 今の姿こそが本来のそれだった。
 かつてはミランダがここに座ることで、まるで魔力を充電しているかのように見えたものだ。

「な、何だこれ……どうして急に」

 そこで僕はふと思い立って玉座の背後に回り、そこに設けられた収納スペースを探った。

「ない。何もない」

 玉座の後ろにはミランダを倒したキャラクターに褒賞ほうしょうとして贈られるはずの『呪いの武器』シリーズが隠されていなかった。
 それは本来ここにあるべきものであり、ミランダが倒されて設定がリセットされた後は必ず新たに配備されるものだった。
 それが無い。

「一体どういうことなんだ?」

 僕が首をひねっていると、突然、目の前にメインメニュー画面が浮かび上がった。
 そこにはある表示がなされていて、それは掲示板で特定の書き込みに対する個人的レスポンスが書き込まれたことを示していた。
 要するに僕に宛てられた僕だけが見ることの出来るメッセージだ。
 そこにはこう書かれていた。

『欠品だ。その褒賞ほうしょうアイテムが再配備されないことと、ミランダに生じている致命的なシステムエラーには関連性がある』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...