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第一章 長身女戦士ヴィクトリア
第6話 戦いの序曲
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「ここは……王城の中じゃないの?」
「さっきの扉は別の空間への転移装置みたいだな」
王城の地下にある闘技場へのゲートをくぐり抜けた途端、僕らの目の前に広がったのは屋外の光景だった。
そこは闘技場と呼ぶにはあまりにも簡素すぎる造りの場所だ。
円形に象られた石床の舞台はあるものの、周囲には360度見渡す限り、無限の荒野が広がっている。
頭上を見上げるとそこは夜空に覆われていたが、満月が東西南北に4つも浮かんでいて、この空間を煌々と照らし出していた。
「にしても、ずいぶん殺風景なとこだね」
「まったくだぜ。観客もいねえ」
「対戦相手のノアはまだ来てないのかな」
僕がキョロキョロする横でヴィクトリアは彼女の武器である大きな両手斧・嵐刃戦斧を構えて腰を落とす。
「ボサッとするな。この闘技場に足を踏み入れた時点でもう戦いは始まってるんだ。お行儀よく試合開始のゴングなんざ鳴らしてもらえると思うなよ」
ヴィクトリアはそう言うと頭上を見上げた。
「来やがったぞ!」
彼女に倣って上空を振り仰ぐと、一匹の竜が月明かりを浴びてその体をキラキラと輝かせながら、夜空を泳ぐように飛んでいた。
それは蛇のように細長い胴体と大きな翼を持った飛竜だった。
それも胴体は白いが頭部が二股に別れて赤と青の2つの首となっている双頭竜だ。
「あ、あれがノア?」
「ハズレだ。ありゃノアのペットさ。二股の付け根にちびっこいのが乗ってんだろ。あのクソガキがノアだ」
ヴィクトリアの言葉に僕は目を凝らす。
すると確かに双頭竜の二股の間に小さい子どもがチョコンと座っていた。
遠目で顔まではよく見えないけど、話通りに幼い子供ほどの背丈しかない。
「ほ、本当に子供なんだね」
「ボサッとすんな!」
そこでヴィクトリアはいきなり僕の兵服の襟首を掴むと、力任せに僕を投げ飛ばした。
「うわっ! ふげっ!」
僕は彼女の力で軽々と後方に飛ばされ、背中から地面に落ちた。
背中を舞台の石床に打ちつけ、その痛みに思わず息が詰まる。
「イテテテ……いきなり何を?」
起き上がった僕は、自分が今まで立っていた場所が激しい炎によって焼かれているのを見て仰天した。
「うひぇぇっ!」
それは上空を飛ぶ双頭竜のうち、赤い首の奴が口から吐き出した火炎放射だった。
「あのふた首野郎の吐くブレスは射程も長けりゃ速度も早い。吐いた瞬間に避けねえと丸焼きになるぞ!」
ヴィクトリアの怒声が鳴り響く。
彼女もその場から素早く離脱して事なきを得ていた。
あ、危なかった。
咄嗟にヴィクトリアが助けてくれなかったら、今頃アッツアツの炎で全身をコンガリ焼かれていたところだった。
「一ヶ所に留まるな! 常に動き回るつもりでいろ!」
「りょ、了解!」
僕は役に立つかどうかも分からない槍を握り締め、立ち上がって駆け出した。
狙い撃ちにされないよう、僕とヴィクトリアは散らばって逃げる。
だけど、上空で僕らを狙う敵は双頭竜だ。
さっきの炎を吐く奴がまた僕を狙って炎を吐くと、対になるもう片方の奴はヴィクトリアに向けて凍りつく低温のブレスを吐いた。
「うわわわっ!」
僕が悲鳴を上げながら必死に炎を避ける一方で、ヴィクトリアは冷静に防御体制に入った。
彼女の防具・黒戦王は鎧・盾・兜の3点セットであり、そのうち炎の鎧と氷の盾が、双頭竜の氷と炎のブレスを弾いてくれるため、ヴィクトリアは最低限の回避行動を取ると攻撃にシフトする。
「羽蛇斧!」
そう叫ぶ彼女は両手斧をその場に放り出すと、腰帯に差してある2つの手斧を掴み、それを宙に向かって投げつけた。
それは無骨な両手斧・嵐刃戦斧とは違って優雅な装飾の施された左右一対となる金色と銀色の手斧だった。
羽蛇斧。
ヴィクトリアの持つ唯一の飛び道具だ。
手投げ用のそれは回転しながら宙を駆け上がり、上空の双頭竜を捉えようとする。
だが双頭竜は細い体をくねらせながら、それを避けてしまった。
「ああっ! 惜しいっ!」
僕が思わず声を上げる横でヴィクトリアは落ち着いていた。
「アタシの羽蛇斧からは逃れられないと知ってんだろ。ノア」
そう言うヴィクトリアの視線の先では、宙を舞う2本の手斧が旋回しながら方向転換し、まるでブーメランのように戻って来た。
そして速度を上げながら双頭竜の尾の先を容赦なく斬り落とす。
「す、すごい!」
「アタシは羽蛇斧を念力で自在に操れるんだよ。敵をどこまでも追尾して斬り刻むのさ」
そう言うとヴィクトリアは手元に戻ってきた二本の手斧を掴み、素早く腰帯に戻す。
手慣れた動作だ。
それは彼女の下位スキル・羽蛇斧追尾だった。
尾を切られた双頭竜は空中で苦痛の咆哮を上げながら、バランスを崩して地面に墜落した。
それを見たヴィクトリアは躊躇なく両手斧を拾い上げて猛然と突撃する。
「一気に決めるぜ!」
そして炸裂する大技に僕は思わず目を奪われた。
ヴィクトリアは重量のある大振りの両手斧をまるで小枝のように軽々と振り回しながら、地面に落ちてのたうつ双頭竜に突っ込んでいく。
「うおおおおっ! 嵐刃大旋風!」
彼女が8の字を描くように振り回す斧は、まさに嵐のような勢いとなる。
両手斧・嵐刃戦斧は重量金属で作られたとてつもなく重い武器であり、それを彼女の腕力と念力を組み合わせて猛烈な勢いで相手に叩きつける荒技、それが彼女の上位スキルである嵐刃大旋風だった。
ヴィクトリアの放った必殺の一撃が、双頭竜の細長い体を容赦なく斬り刻んでいく。
刃の嵐に巻き込まれた双頭竜は憐れにもバラバラになってライフが尽き、無残に消え去っていった。
え、えげつない攻撃力だ。
ヴィクトリアは一気に双頭竜を葬り去ったんだ。
「すごいよヴィクトリア!」
僕が歓喜の声を上げてヴィクトリアに駆け寄ると、彼女は興奮を抑えるようにフゥーっと大きく息を吐いた。
「こんなもんはただの準備運動だ」
そう言うと彼女は戦意をみなぎらせた顔で再び頭上に視線を転じる。
上空には小さな子供の姿とは不釣り合いなほど大きな両翼を広げたノアが静かに漂っている。
双頭竜が落下する際に飛び降りたんだろう。
「ノア……」
僕は思わず呻くようにそう声を漏らした。
竜人ノア。
綺麗な金色の髪に青色の瞳。
そして透き通るような白い肌。
でもなぜだろう。
見た目はかわいい子供なのに、両翼を広げたその姿は、さっきの双頭竜よりも遥かに凄みを感じさせる。
僕は緊張に息を飲む。
そんな僕にヴィクトリアは言った。
「なあアルフレッド。ヴィクトリアっていうアタシの名前な、勝利っていう意味を込めてご主人がつけてくれたんだ」
「えっ?」
「だからアタシは今日、今こそ勝ちたい。ご主人はもう戻ってこないかもしれないけれど、この名に恥じない勝利をこの手にすることがアタシの意地だ」
そう言うヴィクトリアの顔に浮かんでいたのは覚悟でも焦燥でもなく、「勝ちたい」という勝利への渇望だった。
そんな彼女の思いを感じ取った僕は、この戦いに向けて準備したことを思い返してヴィクトリアに声を返した。
「分かった。作戦通りやろう。大丈夫。勝てる」
僕の声にヴィクトリアは神妙な面持ちで頷いた。
そしてヴィクトリアは大きく息を吸い込むと、ノアに向けて声を張り上げた。
「ノア! 今日こそはアタシがおまえをブチのめす!」
だけどノアはまったく臆した様子もなく、さながら幼子が友に向けるような無邪気な笑みを浮かべた。
そして彼女は僕を指差す。
「その奇妙な男。誰ぞや?」
うぅ。
何か幼児にまで蔑まれているみたいで胸に突き刺さるなぁ。
ヴィクトリアは嵐刃戦斧を構えて腰を落とし、戦意を研ぎ澄ませながらノアを睨み付けた。
「ああ。気にすんな。こいつはアタシがおまえをブッ倒すところを見届ける生き証人さ。さあ来いよ。いつまでもアタシがお前のオイシイ餌だと思ってるなら、そいつが大きな間違いだってことを教えてやるぜ」
ヴィクトリアの言葉にノアは無邪気な笑みを崩さず槍を振り上げると、翼をたたんで一気に急降下してきた。
かれこれ11度目となる2人の戦いが幕を開けた。
「さっきの扉は別の空間への転移装置みたいだな」
王城の地下にある闘技場へのゲートをくぐり抜けた途端、僕らの目の前に広がったのは屋外の光景だった。
そこは闘技場と呼ぶにはあまりにも簡素すぎる造りの場所だ。
円形に象られた石床の舞台はあるものの、周囲には360度見渡す限り、無限の荒野が広がっている。
頭上を見上げるとそこは夜空に覆われていたが、満月が東西南北に4つも浮かんでいて、この空間を煌々と照らし出していた。
「にしても、ずいぶん殺風景なとこだね」
「まったくだぜ。観客もいねえ」
「対戦相手のノアはまだ来てないのかな」
僕がキョロキョロする横でヴィクトリアは彼女の武器である大きな両手斧・嵐刃戦斧を構えて腰を落とす。
「ボサッとするな。この闘技場に足を踏み入れた時点でもう戦いは始まってるんだ。お行儀よく試合開始のゴングなんざ鳴らしてもらえると思うなよ」
ヴィクトリアはそう言うと頭上を見上げた。
「来やがったぞ!」
彼女に倣って上空を振り仰ぐと、一匹の竜が月明かりを浴びてその体をキラキラと輝かせながら、夜空を泳ぐように飛んでいた。
それは蛇のように細長い胴体と大きな翼を持った飛竜だった。
それも胴体は白いが頭部が二股に別れて赤と青の2つの首となっている双頭竜だ。
「あ、あれがノア?」
「ハズレだ。ありゃノアのペットさ。二股の付け根にちびっこいのが乗ってんだろ。あのクソガキがノアだ」
ヴィクトリアの言葉に僕は目を凝らす。
すると確かに双頭竜の二股の間に小さい子どもがチョコンと座っていた。
遠目で顔まではよく見えないけど、話通りに幼い子供ほどの背丈しかない。
「ほ、本当に子供なんだね」
「ボサッとすんな!」
そこでヴィクトリアはいきなり僕の兵服の襟首を掴むと、力任せに僕を投げ飛ばした。
「うわっ! ふげっ!」
僕は彼女の力で軽々と後方に飛ばされ、背中から地面に落ちた。
背中を舞台の石床に打ちつけ、その痛みに思わず息が詰まる。
「イテテテ……いきなり何を?」
起き上がった僕は、自分が今まで立っていた場所が激しい炎によって焼かれているのを見て仰天した。
「うひぇぇっ!」
それは上空を飛ぶ双頭竜のうち、赤い首の奴が口から吐き出した火炎放射だった。
「あのふた首野郎の吐くブレスは射程も長けりゃ速度も早い。吐いた瞬間に避けねえと丸焼きになるぞ!」
ヴィクトリアの怒声が鳴り響く。
彼女もその場から素早く離脱して事なきを得ていた。
あ、危なかった。
咄嗟にヴィクトリアが助けてくれなかったら、今頃アッツアツの炎で全身をコンガリ焼かれていたところだった。
「一ヶ所に留まるな! 常に動き回るつもりでいろ!」
「りょ、了解!」
僕は役に立つかどうかも分からない槍を握り締め、立ち上がって駆け出した。
狙い撃ちにされないよう、僕とヴィクトリアは散らばって逃げる。
だけど、上空で僕らを狙う敵は双頭竜だ。
さっきの炎を吐く奴がまた僕を狙って炎を吐くと、対になるもう片方の奴はヴィクトリアに向けて凍りつく低温のブレスを吐いた。
「うわわわっ!」
僕が悲鳴を上げながら必死に炎を避ける一方で、ヴィクトリアは冷静に防御体制に入った。
彼女の防具・黒戦王は鎧・盾・兜の3点セットであり、そのうち炎の鎧と氷の盾が、双頭竜の氷と炎のブレスを弾いてくれるため、ヴィクトリアは最低限の回避行動を取ると攻撃にシフトする。
「羽蛇斧!」
そう叫ぶ彼女は両手斧をその場に放り出すと、腰帯に差してある2つの手斧を掴み、それを宙に向かって投げつけた。
それは無骨な両手斧・嵐刃戦斧とは違って優雅な装飾の施された左右一対となる金色と銀色の手斧だった。
羽蛇斧。
ヴィクトリアの持つ唯一の飛び道具だ。
手投げ用のそれは回転しながら宙を駆け上がり、上空の双頭竜を捉えようとする。
だが双頭竜は細い体をくねらせながら、それを避けてしまった。
「ああっ! 惜しいっ!」
僕が思わず声を上げる横でヴィクトリアは落ち着いていた。
「アタシの羽蛇斧からは逃れられないと知ってんだろ。ノア」
そう言うヴィクトリアの視線の先では、宙を舞う2本の手斧が旋回しながら方向転換し、まるでブーメランのように戻って来た。
そして速度を上げながら双頭竜の尾の先を容赦なく斬り落とす。
「す、すごい!」
「アタシは羽蛇斧を念力で自在に操れるんだよ。敵をどこまでも追尾して斬り刻むのさ」
そう言うとヴィクトリアは手元に戻ってきた二本の手斧を掴み、素早く腰帯に戻す。
手慣れた動作だ。
それは彼女の下位スキル・羽蛇斧追尾だった。
尾を切られた双頭竜は空中で苦痛の咆哮を上げながら、バランスを崩して地面に墜落した。
それを見たヴィクトリアは躊躇なく両手斧を拾い上げて猛然と突撃する。
「一気に決めるぜ!」
そして炸裂する大技に僕は思わず目を奪われた。
ヴィクトリアは重量のある大振りの両手斧をまるで小枝のように軽々と振り回しながら、地面に落ちてのたうつ双頭竜に突っ込んでいく。
「うおおおおっ! 嵐刃大旋風!」
彼女が8の字を描くように振り回す斧は、まさに嵐のような勢いとなる。
両手斧・嵐刃戦斧は重量金属で作られたとてつもなく重い武器であり、それを彼女の腕力と念力を組み合わせて猛烈な勢いで相手に叩きつける荒技、それが彼女の上位スキルである嵐刃大旋風だった。
ヴィクトリアの放った必殺の一撃が、双頭竜の細長い体を容赦なく斬り刻んでいく。
刃の嵐に巻き込まれた双頭竜は憐れにもバラバラになってライフが尽き、無残に消え去っていった。
え、えげつない攻撃力だ。
ヴィクトリアは一気に双頭竜を葬り去ったんだ。
「すごいよヴィクトリア!」
僕が歓喜の声を上げてヴィクトリアに駆け寄ると、彼女は興奮を抑えるようにフゥーっと大きく息を吐いた。
「こんなもんはただの準備運動だ」
そう言うと彼女は戦意をみなぎらせた顔で再び頭上に視線を転じる。
上空には小さな子供の姿とは不釣り合いなほど大きな両翼を広げたノアが静かに漂っている。
双頭竜が落下する際に飛び降りたんだろう。
「ノア……」
僕は思わず呻くようにそう声を漏らした。
竜人ノア。
綺麗な金色の髪に青色の瞳。
そして透き通るような白い肌。
でもなぜだろう。
見た目はかわいい子供なのに、両翼を広げたその姿は、さっきの双頭竜よりも遥かに凄みを感じさせる。
僕は緊張に息を飲む。
そんな僕にヴィクトリアは言った。
「なあアルフレッド。ヴィクトリアっていうアタシの名前な、勝利っていう意味を込めてご主人がつけてくれたんだ」
「えっ?」
「だからアタシは今日、今こそ勝ちたい。ご主人はもう戻ってこないかもしれないけれど、この名に恥じない勝利をこの手にすることがアタシの意地だ」
そう言うヴィクトリアの顔に浮かんでいたのは覚悟でも焦燥でもなく、「勝ちたい」という勝利への渇望だった。
そんな彼女の思いを感じ取った僕は、この戦いに向けて準備したことを思い返してヴィクトリアに声を返した。
「分かった。作戦通りやろう。大丈夫。勝てる」
僕の声にヴィクトリアは神妙な面持ちで頷いた。
そしてヴィクトリアは大きく息を吸い込むと、ノアに向けて声を張り上げた。
「ノア! 今日こそはアタシがおまえをブチのめす!」
だけどノアはまったく臆した様子もなく、さながら幼子が友に向けるような無邪気な笑みを浮かべた。
そして彼女は僕を指差す。
「その奇妙な男。誰ぞや?」
うぅ。
何か幼児にまで蔑まれているみたいで胸に突き刺さるなぁ。
ヴィクトリアは嵐刃戦斧を構えて腰を落とし、戦意を研ぎ澄ませながらノアを睨み付けた。
「ああ。気にすんな。こいつはアタシがおまえをブッ倒すところを見届ける生き証人さ。さあ来いよ。いつまでもアタシがお前のオイシイ餌だと思ってるなら、そいつが大きな間違いだってことを教えてやるぜ」
ヴィクトリアの言葉にノアは無邪気な笑みを崩さず槍を振り上げると、翼をたたんで一気に急降下してきた。
かれこれ11度目となる2人の戦いが幕を開けた。
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