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第二章 天国の丘
第5話 天使長イザベラ
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「な、何あれー!」
「お、大きい……」
「これは……壮大ですね」
「フンッ」
僕らは馬車の窓から見えるその光景に口々に感想を漏らした。
空飛ぶ馬車に乗って僕らが案内された天国の丘。
そこは文字通り草原地帯から続く丘陵の上だったんだけれど、丘の頂点には一本の巨大な木がそびえ立っていた。
遠くから見て塔だと思っていたそれは、大きな樹木だったんだ。
その大きさは常軌を逸していて、幹の直径はおそらく100メートル近くあるんじゃないだろうかという異様な太さだった。
高さについては数百メートルはあるだろうけれど、高過ぎて正確なところは分からない。
それは木というより、木の形をした建物のようだった。
「この巨大樹は天樹の塔と呼ばれていて、天使長様を初めとする全ての天使たちがこの中に住んでいます。これほど巨大な木でありながら今もまだ成長中なのですよ」
案内役として馬車に同乗している天使のミシェルさんがガイドのようにそう説明するのを聞き、僕らは驚きの声を上げた。
「まだ成長してるのか」
「すごいねー!」
そんな僕らを微笑ましげに見つめると、ミシェルさんは馬車の窓から見える天樹の塔の天辺付近に視線を移して説明を続ける。
「この塔が成長して天に向かって伸びていくと、やがて雲の上にある天界まで届きます。するとこの塔を通じて天界と地上とが繋がり、天界から注がれる聖なる力がこの地上に満ちるのです。そうなると悪魔たちはこの地上から一掃され、彼らの巣窟である地下深くへと封印されることとなります。それは悪魔たちにとって歓迎せざることなので、彼らはこの天樹の塔を枯らせようとあの手この手で様々な妨害をしてくるのです」
彼女の話によれば、天樹の塔を天界まで届かせることが出来れば天使側の勝利となり、塔を枯らせてしまえば悪魔側の勝利になるらしい。
なかなか面白いゲーム・システムだと思う。
「いつかこの木が伸びて本当に天の国まで届くと信じ、ここを守り発展させていくことが私たち天使の務めなのです」
ミシェルさんは誇らしげに天樹の塔を見ながらそう言った。
よく見ると天樹の塔の外壁の周辺を多くの天使たちが飛び回り、表皮の剥がれた部分を修繕したり、小枝を適度に剪定したりと、この塔の保全活動を行っている様子が分かる。
そして塔の中腹にはポッカリと大きめの穴が開いている箇所があった。
まるでリスやムササビなんかが出入りしそうな穴だけど、実際にそこから出入りしているのは天使たちや天馬の馬車だった。
僕らを乗せた馬車もその穴に向かっていく。
中に入るとそこは広い発着場となっていて、誘導役の天使に従って天馬は静かに着地した。
「到着しました。我らが母なる家へようこそ」
ミシェルさんはそう言うと馬車の扉を開けて外に出る。
僕らも彼女に続いて馬車から降りた。
発着場は広く、他にも何台もの天馬の馬車が発着を繰り返している。
そして床も壁も天井も全て木で出来たその場所には優しい樹木の香りが漂っていた。
「お疲れでなければ、まずは天使長様の執務室へご案内を……」
ミシェルさんがそう言いかけたその時だった。
「わざわざ執務室までご足労いただくことはありませんよ。ミシェル」
凛としていながら柔らかな声が発着場に鳴り響くや否や、その場の雰囲気がガラリと変わった。
声のした方に目を向けると、そこには輝くような白いドレスに身を包んだ美しい女性が立っていた。
「て、天使長様」
ミシェルさんは途端にその場に膝をついて畏まる。
その場にいる他の天使たちも同じように膝をついて頭を垂れた。
僕は畏敬の念を持ってその女性の姿を見つめる。
こ、この人が天使長様か。
銀色に輝く長い髪と真っ白で透明感のある肌が印象的で、綺麗なだけでなくとても上品な顔立ちと佇まいの女性だった。
そして天使長としての威厳に満ちていて、頭の上には他の天使たちとは異なる三段に連なる光輪が浮かんでいた。
階級を表しているのかな。
「ようこそおいで下さいました。この天樹の塔の責任者を務めます天使長のイザベラと申します」
鈴の音のような綺麗な声でそう言うと、イザベラさんは優雅な仕草でドレスの裾をつまんで見せた。
「わざわざ異世界よりお越し下さいましたばかりですのに、いきなり我が同胞たちをお救い下さった皆様には感謝の言葉もございません。今宵は心ばかりではございますが宴の席を設けさせていただきますので、どうぞごゆるりとおくつろぎ下さいませ」
イザベラさんは澱みのない口調でそう言う。
静かだけれど揺るぎない迫力を感じさせる彼女に僕はつい気圧されてしまう。
だけどそんな僕の隣で一歩前に歩み出たのはジェネットだった。
ジェネットは気負いのない仕草で一礼すると、柔らかな笑みをたたえて口を開く。
「天使長イザベラ様。この度はお招きいだたきまして大変光栄に存じます。天使の皆様のお役に立てるよう微力ながら力を尽くしてまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます」
ジェネットはつつがなく挨拶を済ませると優雅にお辞儀をした。
僕とアリアナも見よう見まねでぎこちなく頭を下げる。
ふぅ。
こういう時、礼節作法を心得たジェネットがいてくれて助かったよ。
彼女がいなければ天使長のイザベラさんを前にしても僕らはアタフタとするばかりだっただろう。
ミランダに至っては端の方で傲然と腕を組んで仁王立ちしているくらいなのだから言うまでもない。
ミランダからすれば、どこのお偉いさんが出てこようと関係ないんだ。
いついかなる時もブレない闇の魔女っぷりは返って気持ちがいいくらいだった。
「ではミシェル。皆様を客室にご案内して差し上げて。皆様。後ほど宴の席にてお会いいたしましょう」
そう言うと天使長のイザベラさんは従者たちに付き添われて通路へと戻っていく。
はぁ。
緊張した。
王城の王様に会う時も緊張するけれど、イザベラさんはまた別の雰囲気だなぁ。
優雅な女王様というのはああいう人のことを言うんだろうな。
だけど……ようやく緊張感から解放されるはずだった僕はそこで凍りついた。
「ねえ、そこの天使。宴とか客室とかどうでもいいから、さっさとこのイベントの主旨である『悪魔たちをブッ殺す祭り』に案内しなさいよ」
あろうことかミランダは去っていく天使長様の背中にそう声をかけたんだ。
凍りついたのは僕だけでなく、ジェネット、アリアナ、そしてその場にいる天使の皆さんたちも同様だった。
ちょ、ちょっとミランダさん。
空気を読まないにもほどがありますよ。
和やかな雰囲気だったのに血の気の多いことを言うもんだから、イザベラさんの横に控えるミシェルさんなんて顔を引きつらせて怯えちゃってるでしょうが。
足を止めた天使長のイザベラさんはゆっくりと振り返った。
だけどまったく気分を害した様子もなく、彼女は穏やかな笑みを浮かべて頭を下げた。
「申し訳ございません。悪魔との対決時刻は明日の正午となっておりまして」
「何それ。ここの悪魔はわざわざ日時を指定して襲撃してくるわけ? そりゃご親切なことで」
いや君も前にイベントで決まった日時に砂漠都市ジェルスレイムを襲撃してたでしょうが。
っていうかミランダ。
その辺にしておこうか。
これ以上は僕の心臓がもたない。
だけど僕が慌ててミランダを止めようとするよりも早く、イザベラさんは落ち着いた口調で言った。
「いえ。明日の正午に天界からの支援物資が地上へ投下されるのです。悪魔たちはそれを狙って襲撃してくるはずなので、皆様にはその際の警備隊に参加していただく予定なのです」
な、なるほど。
そういう段取りか。
イザベラさんの話にミランダはつまらなさそうに舌打ちした。
「チッ。悠長なもんね」
「ま、まあまあ。ミランダ。さっきの戦闘で悪魔たちも君に強烈な印象を覚えたはずだから、次はたぶん仲間を大勢連れて来るよ。その時に存分に腕を振るえばいいじゃん。ね?」
僕は何とかミランダの不機嫌モードを収めようと、彼女をなだめた。
このままだと「天使でもいいからかかって来なさい」とか言い出しかねないから、不穏当な発言が飛び出す前にミランダの苛立ちを抑えないと。
多分、ミランダにとってはさっきの悪魔との戦闘が物足りず、不完全燃焼だったんだろう。
それなりに長い付き合いだからミランダが感じていることは何となく分かる。
彼女はこのゲームに乗り込んでくる際、敵を倒しまくるイメージを描き、腕まくりをしてやって来たんだと思う。
まだ見ぬ敵を相手に暴れまくることを楽しみにしていたのかもしれない。
なのに実際は平和で穏やかな展開が続き、肩透かしを食って腹を立てているんじゃないのかな。
ミランダは闇を司る魔女で、その本質は闘争の中でこそ際立つ。
得意の魔法で敵を屠ることに理屈を超えた喜びを感じるんだ。
物騒な話だけど、でもそれがミランダのNPCとしての特質なんだと思う。
だからと言って、これ以上この場の空気を悪くすることは得策じゃないぞ。
イザベラさんは温和な態度を崩さずにいてくれるけれど、周囲から僕らを見る天使たちの目が明らかに厳しいものに変わりつつある。
そりゃそうだろ。
彼らからしてみれば、敬愛する天使長様がどこの馬の骨とも分からない魔女に不遜な態度を取られているんだから、面白いはずがない。
だけどそんな僕の懸念やこの場のピリピリしつつある空気を全て包み込むかのようにイザベラさんは言った。
「ではミランダ様。こうしましょう。今宵の宴の席で、天使たちによる演武や模擬戦を余興としてお見せする予定なのですが、ミランダ様もその模擬戦にご参加されてみてはいかがでしょうか。よい退屈しのぎになるかと」
ええっ?
ミランダが?
驚く僕の横でつまらなさそうにしていたミランダの表情が一変した。
「へぇ。それはちょっと面白そうだけど、私に見合う相手がいるのかしら? 腕の立つ奴を見繕ってくれなきゃつまらないわね」
不敵に笑いながらそう言うミランダに対し、イザベラさんは満面の笑みで頷いた。
そして思いもよらない提案をしてきたんだ。
「ご満足いただけるか不安ではありますが……不肖この私、天使長イザベラがお相手を務めさせていただきます」
……マ、マジ?
「お、大きい……」
「これは……壮大ですね」
「フンッ」
僕らは馬車の窓から見えるその光景に口々に感想を漏らした。
空飛ぶ馬車に乗って僕らが案内された天国の丘。
そこは文字通り草原地帯から続く丘陵の上だったんだけれど、丘の頂点には一本の巨大な木がそびえ立っていた。
遠くから見て塔だと思っていたそれは、大きな樹木だったんだ。
その大きさは常軌を逸していて、幹の直径はおそらく100メートル近くあるんじゃないだろうかという異様な太さだった。
高さについては数百メートルはあるだろうけれど、高過ぎて正確なところは分からない。
それは木というより、木の形をした建物のようだった。
「この巨大樹は天樹の塔と呼ばれていて、天使長様を初めとする全ての天使たちがこの中に住んでいます。これほど巨大な木でありながら今もまだ成長中なのですよ」
案内役として馬車に同乗している天使のミシェルさんがガイドのようにそう説明するのを聞き、僕らは驚きの声を上げた。
「まだ成長してるのか」
「すごいねー!」
そんな僕らを微笑ましげに見つめると、ミシェルさんは馬車の窓から見える天樹の塔の天辺付近に視線を移して説明を続ける。
「この塔が成長して天に向かって伸びていくと、やがて雲の上にある天界まで届きます。するとこの塔を通じて天界と地上とが繋がり、天界から注がれる聖なる力がこの地上に満ちるのです。そうなると悪魔たちはこの地上から一掃され、彼らの巣窟である地下深くへと封印されることとなります。それは悪魔たちにとって歓迎せざることなので、彼らはこの天樹の塔を枯らせようとあの手この手で様々な妨害をしてくるのです」
彼女の話によれば、天樹の塔を天界まで届かせることが出来れば天使側の勝利となり、塔を枯らせてしまえば悪魔側の勝利になるらしい。
なかなか面白いゲーム・システムだと思う。
「いつかこの木が伸びて本当に天の国まで届くと信じ、ここを守り発展させていくことが私たち天使の務めなのです」
ミシェルさんは誇らしげに天樹の塔を見ながらそう言った。
よく見ると天樹の塔の外壁の周辺を多くの天使たちが飛び回り、表皮の剥がれた部分を修繕したり、小枝を適度に剪定したりと、この塔の保全活動を行っている様子が分かる。
そして塔の中腹にはポッカリと大きめの穴が開いている箇所があった。
まるでリスやムササビなんかが出入りしそうな穴だけど、実際にそこから出入りしているのは天使たちや天馬の馬車だった。
僕らを乗せた馬車もその穴に向かっていく。
中に入るとそこは広い発着場となっていて、誘導役の天使に従って天馬は静かに着地した。
「到着しました。我らが母なる家へようこそ」
ミシェルさんはそう言うと馬車の扉を開けて外に出る。
僕らも彼女に続いて馬車から降りた。
発着場は広く、他にも何台もの天馬の馬車が発着を繰り返している。
そして床も壁も天井も全て木で出来たその場所には優しい樹木の香りが漂っていた。
「お疲れでなければ、まずは天使長様の執務室へご案内を……」
ミシェルさんがそう言いかけたその時だった。
「わざわざ執務室までご足労いただくことはありませんよ。ミシェル」
凛としていながら柔らかな声が発着場に鳴り響くや否や、その場の雰囲気がガラリと変わった。
声のした方に目を向けると、そこには輝くような白いドレスに身を包んだ美しい女性が立っていた。
「て、天使長様」
ミシェルさんは途端にその場に膝をついて畏まる。
その場にいる他の天使たちも同じように膝をついて頭を垂れた。
僕は畏敬の念を持ってその女性の姿を見つめる。
こ、この人が天使長様か。
銀色に輝く長い髪と真っ白で透明感のある肌が印象的で、綺麗なだけでなくとても上品な顔立ちと佇まいの女性だった。
そして天使長としての威厳に満ちていて、頭の上には他の天使たちとは異なる三段に連なる光輪が浮かんでいた。
階級を表しているのかな。
「ようこそおいで下さいました。この天樹の塔の責任者を務めます天使長のイザベラと申します」
鈴の音のような綺麗な声でそう言うと、イザベラさんは優雅な仕草でドレスの裾をつまんで見せた。
「わざわざ異世界よりお越し下さいましたばかりですのに、いきなり我が同胞たちをお救い下さった皆様には感謝の言葉もございません。今宵は心ばかりではございますが宴の席を設けさせていただきますので、どうぞごゆるりとおくつろぎ下さいませ」
イザベラさんは澱みのない口調でそう言う。
静かだけれど揺るぎない迫力を感じさせる彼女に僕はつい気圧されてしまう。
だけどそんな僕の隣で一歩前に歩み出たのはジェネットだった。
ジェネットは気負いのない仕草で一礼すると、柔らかな笑みをたたえて口を開く。
「天使長イザベラ様。この度はお招きいだたきまして大変光栄に存じます。天使の皆様のお役に立てるよう微力ながら力を尽くしてまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます」
ジェネットはつつがなく挨拶を済ませると優雅にお辞儀をした。
僕とアリアナも見よう見まねでぎこちなく頭を下げる。
ふぅ。
こういう時、礼節作法を心得たジェネットがいてくれて助かったよ。
彼女がいなければ天使長のイザベラさんを前にしても僕らはアタフタとするばかりだっただろう。
ミランダに至っては端の方で傲然と腕を組んで仁王立ちしているくらいなのだから言うまでもない。
ミランダからすれば、どこのお偉いさんが出てこようと関係ないんだ。
いついかなる時もブレない闇の魔女っぷりは返って気持ちがいいくらいだった。
「ではミシェル。皆様を客室にご案内して差し上げて。皆様。後ほど宴の席にてお会いいたしましょう」
そう言うと天使長のイザベラさんは従者たちに付き添われて通路へと戻っていく。
はぁ。
緊張した。
王城の王様に会う時も緊張するけれど、イザベラさんはまた別の雰囲気だなぁ。
優雅な女王様というのはああいう人のことを言うんだろうな。
だけど……ようやく緊張感から解放されるはずだった僕はそこで凍りついた。
「ねえ、そこの天使。宴とか客室とかどうでもいいから、さっさとこのイベントの主旨である『悪魔たちをブッ殺す祭り』に案内しなさいよ」
あろうことかミランダは去っていく天使長様の背中にそう声をかけたんだ。
凍りついたのは僕だけでなく、ジェネット、アリアナ、そしてその場にいる天使の皆さんたちも同様だった。
ちょ、ちょっとミランダさん。
空気を読まないにもほどがありますよ。
和やかな雰囲気だったのに血の気の多いことを言うもんだから、イザベラさんの横に控えるミシェルさんなんて顔を引きつらせて怯えちゃってるでしょうが。
足を止めた天使長のイザベラさんはゆっくりと振り返った。
だけどまったく気分を害した様子もなく、彼女は穏やかな笑みを浮かべて頭を下げた。
「申し訳ございません。悪魔との対決時刻は明日の正午となっておりまして」
「何それ。ここの悪魔はわざわざ日時を指定して襲撃してくるわけ? そりゃご親切なことで」
いや君も前にイベントで決まった日時に砂漠都市ジェルスレイムを襲撃してたでしょうが。
っていうかミランダ。
その辺にしておこうか。
これ以上は僕の心臓がもたない。
だけど僕が慌ててミランダを止めようとするよりも早く、イザベラさんは落ち着いた口調で言った。
「いえ。明日の正午に天界からの支援物資が地上へ投下されるのです。悪魔たちはそれを狙って襲撃してくるはずなので、皆様にはその際の警備隊に参加していただく予定なのです」
な、なるほど。
そういう段取りか。
イザベラさんの話にミランダはつまらなさそうに舌打ちした。
「チッ。悠長なもんね」
「ま、まあまあ。ミランダ。さっきの戦闘で悪魔たちも君に強烈な印象を覚えたはずだから、次はたぶん仲間を大勢連れて来るよ。その時に存分に腕を振るえばいいじゃん。ね?」
僕は何とかミランダの不機嫌モードを収めようと、彼女をなだめた。
このままだと「天使でもいいからかかって来なさい」とか言い出しかねないから、不穏当な発言が飛び出す前にミランダの苛立ちを抑えないと。
多分、ミランダにとってはさっきの悪魔との戦闘が物足りず、不完全燃焼だったんだろう。
それなりに長い付き合いだからミランダが感じていることは何となく分かる。
彼女はこのゲームに乗り込んでくる際、敵を倒しまくるイメージを描き、腕まくりをしてやって来たんだと思う。
まだ見ぬ敵を相手に暴れまくることを楽しみにしていたのかもしれない。
なのに実際は平和で穏やかな展開が続き、肩透かしを食って腹を立てているんじゃないのかな。
ミランダは闇を司る魔女で、その本質は闘争の中でこそ際立つ。
得意の魔法で敵を屠ることに理屈を超えた喜びを感じるんだ。
物騒な話だけど、でもそれがミランダのNPCとしての特質なんだと思う。
だからと言って、これ以上この場の空気を悪くすることは得策じゃないぞ。
イザベラさんは温和な態度を崩さずにいてくれるけれど、周囲から僕らを見る天使たちの目が明らかに厳しいものに変わりつつある。
そりゃそうだろ。
彼らからしてみれば、敬愛する天使長様がどこの馬の骨とも分からない魔女に不遜な態度を取られているんだから、面白いはずがない。
だけどそんな僕の懸念やこの場のピリピリしつつある空気を全て包み込むかのようにイザベラさんは言った。
「ではミランダ様。こうしましょう。今宵の宴の席で、天使たちによる演武や模擬戦を余興としてお見せする予定なのですが、ミランダ様もその模擬戦にご参加されてみてはいかがでしょうか。よい退屈しのぎになるかと」
ええっ?
ミランダが?
驚く僕の横でつまらなさそうにしていたミランダの表情が一変した。
「へぇ。それはちょっと面白そうだけど、私に見合う相手がいるのかしら? 腕の立つ奴を見繕ってくれなきゃつまらないわね」
不敵に笑いながらそう言うミランダに対し、イザベラさんは満面の笑みで頷いた。
そして思いもよらない提案をしてきたんだ。
「ご満足いただけるか不安ではありますが……不肖この私、天使長イザベラがお相手を務めさせていただきます」
……マ、マジ?
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