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第四章 竜神ノア
第4話 魔女の足跡
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天使の集団に追われた満身創痍のミランダは、この悪魔の坑道への入口を見つけて咄嗟に飛び込んだという。
「一度そこで回復ドリンクを使ったら、すぐに地上に戻って天使の連中を皆殺しにしてやろうと思ったわよ」
態勢を立て直すための一時的な避難とはいえ、自分に害なす敵は情け容赦なく叩き潰すのが信条のミランダには悔しいことこの上ない選択だったんだろう。
その時のことを話すミランダは拳を握り締めて、悔しさを露わにしていた。
そんなミランダの形相にブレイディもエマさんもアビーも若干顔を引きつらせている。
分かるよ。
怒っている時のミランダは触れれば破裂する爆弾みたいで怖いよねぇ。
そんな中、ヴィクトリアだけが平然とした様子でテーブルに肘をつきながらミランダに声をかけた。
「ま、気持ちは分かるがその状況なら地下に隠れて正解だな。くだらねえプライドでイノシシみたいに即座に突っ込んで行くのはアホのすることだ」
さ、さすがヴィクトリアと言うべきか。
ミランダ相手にもまったく臆した様子がない。
でも肝が据わっているのは分かるけど、そんな言い方しないほうがいいかと。
ほら。
ミランダがギロリと睨んでいますよ。
そんな魔女のキッツい視線にも構わずヴィクトリアは持論を展開する。
「反撃ってのは一番効果的に出来るときにするもんだ。そのほうがナメたマネした相手に、より大きなダメージを与えられるし、相手の再反撃を封じることも出来るからな」
そう語るヴィクトリアにミランダがユラリと手を動かした。
ヴィクトリアも拳をミランダに向ける。
やばい!
ケンカが……いや、怪獣大戦争が勃発してしまう!
この身を犠牲にしても止めねば。
そう思って僕が立ち上がりかけたその時、ミランダがフッと口元を緩めた。
「……あんた。なかなか分かってるじゃない」
「だろ?」
2人は互いにニヤリと笑って、前に突き出した拳を合わせた。
まさかの意気投合!
もしかしてこの2人、結構いいコンビなんじゃないか?
「まあ、だけどそれから私は天使を追撃するどころじゃなくなったのよ。腹立たしいことにね」
天使たちを追撃しようとこの地下坑道の中で回復を行ったミランダの前に、予想外の出来事が降りかかったらしい。
「坑道の中が急に騒がしくなったと思ったら大勢の連中が争い合う声が聞こえてきたのよ」
それを聞いたミランダは天使たちが自分を追って地下まで降りてきたのかと思ったそうだ。
「返り討ちにしてやろうと声のする方に向かったら……そこにいたのは悪魔の連中だったのよ。それがさっき会ったゾーランの部下たちだったってわけ」
ミランダの話によれば、さっき裏天界で出会った悪魔ゾーランは、悪魔のNPCで構成された愚連隊のボスだった。
どうやら悪魔の中にも色々な派閥や集団があり、ゾーラン一派はその中でも1、2を争う猛者ぞろいの武闘派集団なんだ。
「そいつら私を見た途端、部外者がなぜここにいるんだって騒ぎ始めてね。ケンカを売ってきたから全員シメてやったわよ」
さ、さすがミランダ。
彼女にケンカを売った悪魔たちの不運に同情するよ。
そしてミランダが手下たちを返り討ちにしたところ、ボスのゾーランが出てきてミランダと一騎打ちになったそうだ。
「タイマン勝負か! そんでどうなった?」
ヴィクトリアが嬉々として話の続きを催促する隣で、ブレイディが呆れて鼻白んでいる。
「私の話を聞いていた時とエライ違いだな君は」
確かに。
ヴィクトリアときたらブレイディの話の時は5分ともたずに居眠りしてたからね。
「もちろん勝ったわ。戦闘記録を見せられないのは残念だけど」
それからはさっきゾーランが語っていた通り、ミランダの実力に感服した彼らが彼女の手下になったってわけだ。
だけど話はそれでは終わらなかった。
ミランダが聞いた争うような声、それは坑道内で2つの悪魔の集団が抗争をしている騒音だったんだ。
「あ、悪魔同士が戦っていたの?」
「悪魔の連中は天使たちと違って一枚岩じゃないのよ。数年前にドレイクとかいう魔王が死んで、二代目魔王の座をかけて悪魔の派閥争いが激化してるの。ゾーランはこの坑道の中の所有権をかけてライバルの派閥とここで抗争やってたってわけ」
二代目魔王の座につけるのは悪魔の中で最大の功績を挙げた者。
細かいルールがあるらしいんだけど、一番手っ取り早いのは天樹の塔を制圧して天使長のイザベラさんを倒すこと。
そういう決まりになっているらしい。
だから天樹の塔への最短の道にして最有力な攻略経路であるこの坑道を制した者が圧倒的に有利なんだ。
「ま、正直私には悪魔の事情なんかどうでもよかったし、さっさとナメた天使どもをブチのめしてやろうと思って地上に戻ったんだけど、そこにそいつらがやってきたのよ」
そう言うとミランダはアビーとエマさんを指差した。
「アビーたちはミランダさんを追跡していたのです~。ようやくミランダさんを見つけてアルフレッド様やシスター・ジェネット達が天使たちに捕まって天樹の塔に囚われていることを伝えたのです」
「その時のミランダの剣幕は凶暴なオオカミみたいで怖かったわぁ。噛み殺されるかと思ったし。よっぽど兵士のオニーサンが心配だっ……」
「コホン。余計なこと言う奴はここであらためて噛み殺してやってもいいんだけど?」
ミランダに睨まれてアビーとエマの2人は首をすくめる。
「ま、ハッキリ言ってあんたのことは少しも心配していなかったわよ。アル。けど、家来を捕らえられて黙っていたんじゃ魔女の名折れだからね。すぐにでも天樹に攻め込んでやろうと思ったんだけど……」
そう言いかけたミランダは休憩室の入口に目を向けた。
ヴィクトリアが腰帯から羽蛇斧を取り出しながら言う。
「誰か来るぜ」
僕は思わず緊張したけれど、休憩室に現れた人物を見て肩の力を抜いた。
姿を見せたのは裏天界で別れた悪魔ゾーランだったんだ。
「姐御。言いつけ通り、この先の牢獄にあの女をブチ込んでおきやした。目を覚まして暴れやがったんで、あっしがのしてやりやしたぜ」
「そう。ご苦労だったわね。今ちょうど情報交換をしているところだから、あんたも座りなさい。ゾーラン」
ミランダの言葉に従い、ゾーランは僕らの向かい側の席に腰を落ち着けた。
それにしてもあの手ごわそうな女悪魔を押さえつけてしまうなんてすごいな。
ミランダに1対1で敗れたとはいえ、ゾーランも相当な実力者なんだろう。
悪魔の中でもトップクラスの武闘派集団のボスというのも伊達じゃない。
「そういえばゾーラン。ちゃんと紹介してなかったわね。こいつは私の第一の家来。アルフレッドよ」
「よ、よろしく。ゾーラン」
そう言う僕にゾーランはニッと笑いかけてくる。
例の怖い微笑みだ。
「姉御の右腕、アルフレッドの兄貴ですね。よろしく頼みやす」
「う、うん」
あ、兄貴って……。
呼ばれ慣れていないから、どんな反応をしていいのか分からないぞ。
それからこの場にいる全員と簡単に挨拶を済ませたゾーランにミランダが話の進み具合を説明した。
「今ちょうど私が天樹に向かおうとしていた時の話をしていたのよ」
それを聞いたゾーランは頷いて僕らに視線を向ける。
「飛び出していこうとする姐御をあっしが何とかお引き留めしやした。というのも、あっしの部下どもの話によれば天樹の塔の警備は最高レベルまで厳重になってやがって、しかも姐御の捜索のために精鋭の大部隊が動いているということでやしたから」
「フン。そんなもん私が蹴散らしてやるって言ったのに」
「いや、あっしも姐御なら一騎当千の強さで負けやしないと思いやしたが、ただ敵を殲滅するならともかく、アルフレッドの兄貴たちを奪還する必要がある状況ではあまりにも多勢に無勢と思いやして」
どうやらゾーランは自らの手勢でミランダに加勢をしてくれようとしていたらしい。
ただその時はライバルの派閥と抗争の真っ最中だったから身動きが取れなかったんだって。
「ゾーランの話を聞いた時は加勢なんて無用だって思ったんだけど、そこであることを思いついたのよ」
「あること?」
そう聞き返す僕にミランダは頷く。
「ゾーランの抗争相手を私がぶっ潰してやろうと思ってね」
「君が人助け? めずらしいね」
僕が眉を潜めてそう言うと、ミランダも同じように眉を潜めた。
「はぁ? 人助け? あんた何年私の家来をやってんのよ。そんなわけないでしょ」
「え? そうなの?」
「ちょうどいいチャンスだと思ったのよ。もう一度、鍛え直して自分を研ぎ澄ますためにはね」
ミランダの話に僕は意外な驚きを覚えた。
元より彼女は闇の洞窟での連日の戦闘でしっかり鍛え上げられているし、実戦経験という点においては誰にも負けていないはずだ。
だけど彼女は言う。
「天樹の塔での天使長イザベラとの模擬戦がああいう結果に終わって、自分の状態が分かったのよ」
「どういうこと?」
「裏天界であの女悪魔にヌルイとか言ったけど、私自身も腕がなまってるって感じたの。基本的に闇の洞窟での戦いは1対1でしょ。大勢の敵を1人で相手にする機会に乏しかったから。だから一度、自分の力を全部使い切るような戦いをしてみたかったってわけ。大勢の悪魔を相手に暴れられるならちょうどいいと思ってね」
ミランダの話を聞きながら実感を込めて頷いているのはヴィクトリアだった。
「分かるぜ。自分というものを最高の状態に研ぎ澄ませておかないと気持ち悪いんだ」
「そうね。それにアル。覚えてる? 私の新スキルの話」
その話は覚えている。
上位スキル・悪神解放の代わりに実装してきたという新スキル。
イザベラさんとの戦いではあえて使わなかったというその謎のスキル。
「それを実戦で試すいい機会にもなったのよ」
そう言うとミランダは不敵な表情でニヤリと笑った。
「一度そこで回復ドリンクを使ったら、すぐに地上に戻って天使の連中を皆殺しにしてやろうと思ったわよ」
態勢を立て直すための一時的な避難とはいえ、自分に害なす敵は情け容赦なく叩き潰すのが信条のミランダには悔しいことこの上ない選択だったんだろう。
その時のことを話すミランダは拳を握り締めて、悔しさを露わにしていた。
そんなミランダの形相にブレイディもエマさんもアビーも若干顔を引きつらせている。
分かるよ。
怒っている時のミランダは触れれば破裂する爆弾みたいで怖いよねぇ。
そんな中、ヴィクトリアだけが平然とした様子でテーブルに肘をつきながらミランダに声をかけた。
「ま、気持ちは分かるがその状況なら地下に隠れて正解だな。くだらねえプライドでイノシシみたいに即座に突っ込んで行くのはアホのすることだ」
さ、さすがヴィクトリアと言うべきか。
ミランダ相手にもまったく臆した様子がない。
でも肝が据わっているのは分かるけど、そんな言い方しないほうがいいかと。
ほら。
ミランダがギロリと睨んでいますよ。
そんな魔女のキッツい視線にも構わずヴィクトリアは持論を展開する。
「反撃ってのは一番効果的に出来るときにするもんだ。そのほうがナメたマネした相手に、より大きなダメージを与えられるし、相手の再反撃を封じることも出来るからな」
そう語るヴィクトリアにミランダがユラリと手を動かした。
ヴィクトリアも拳をミランダに向ける。
やばい!
ケンカが……いや、怪獣大戦争が勃発してしまう!
この身を犠牲にしても止めねば。
そう思って僕が立ち上がりかけたその時、ミランダがフッと口元を緩めた。
「……あんた。なかなか分かってるじゃない」
「だろ?」
2人は互いにニヤリと笑って、前に突き出した拳を合わせた。
まさかの意気投合!
もしかしてこの2人、結構いいコンビなんじゃないか?
「まあ、だけどそれから私は天使を追撃するどころじゃなくなったのよ。腹立たしいことにね」
天使たちを追撃しようとこの地下坑道の中で回復を行ったミランダの前に、予想外の出来事が降りかかったらしい。
「坑道の中が急に騒がしくなったと思ったら大勢の連中が争い合う声が聞こえてきたのよ」
それを聞いたミランダは天使たちが自分を追って地下まで降りてきたのかと思ったそうだ。
「返り討ちにしてやろうと声のする方に向かったら……そこにいたのは悪魔の連中だったのよ。それがさっき会ったゾーランの部下たちだったってわけ」
ミランダの話によれば、さっき裏天界で出会った悪魔ゾーランは、悪魔のNPCで構成された愚連隊のボスだった。
どうやら悪魔の中にも色々な派閥や集団があり、ゾーラン一派はその中でも1、2を争う猛者ぞろいの武闘派集団なんだ。
「そいつら私を見た途端、部外者がなぜここにいるんだって騒ぎ始めてね。ケンカを売ってきたから全員シメてやったわよ」
さ、さすがミランダ。
彼女にケンカを売った悪魔たちの不運に同情するよ。
そしてミランダが手下たちを返り討ちにしたところ、ボスのゾーランが出てきてミランダと一騎打ちになったそうだ。
「タイマン勝負か! そんでどうなった?」
ヴィクトリアが嬉々として話の続きを催促する隣で、ブレイディが呆れて鼻白んでいる。
「私の話を聞いていた時とエライ違いだな君は」
確かに。
ヴィクトリアときたらブレイディの話の時は5分ともたずに居眠りしてたからね。
「もちろん勝ったわ。戦闘記録を見せられないのは残念だけど」
それからはさっきゾーランが語っていた通り、ミランダの実力に感服した彼らが彼女の手下になったってわけだ。
だけど話はそれでは終わらなかった。
ミランダが聞いた争うような声、それは坑道内で2つの悪魔の集団が抗争をしている騒音だったんだ。
「あ、悪魔同士が戦っていたの?」
「悪魔の連中は天使たちと違って一枚岩じゃないのよ。数年前にドレイクとかいう魔王が死んで、二代目魔王の座をかけて悪魔の派閥争いが激化してるの。ゾーランはこの坑道の中の所有権をかけてライバルの派閥とここで抗争やってたってわけ」
二代目魔王の座につけるのは悪魔の中で最大の功績を挙げた者。
細かいルールがあるらしいんだけど、一番手っ取り早いのは天樹の塔を制圧して天使長のイザベラさんを倒すこと。
そういう決まりになっているらしい。
だから天樹の塔への最短の道にして最有力な攻略経路であるこの坑道を制した者が圧倒的に有利なんだ。
「ま、正直私には悪魔の事情なんかどうでもよかったし、さっさとナメた天使どもをブチのめしてやろうと思って地上に戻ったんだけど、そこにそいつらがやってきたのよ」
そう言うとミランダはアビーとエマさんを指差した。
「アビーたちはミランダさんを追跡していたのです~。ようやくミランダさんを見つけてアルフレッド様やシスター・ジェネット達が天使たちに捕まって天樹の塔に囚われていることを伝えたのです」
「その時のミランダの剣幕は凶暴なオオカミみたいで怖かったわぁ。噛み殺されるかと思ったし。よっぽど兵士のオニーサンが心配だっ……」
「コホン。余計なこと言う奴はここであらためて噛み殺してやってもいいんだけど?」
ミランダに睨まれてアビーとエマの2人は首をすくめる。
「ま、ハッキリ言ってあんたのことは少しも心配していなかったわよ。アル。けど、家来を捕らえられて黙っていたんじゃ魔女の名折れだからね。すぐにでも天樹に攻め込んでやろうと思ったんだけど……」
そう言いかけたミランダは休憩室の入口に目を向けた。
ヴィクトリアが腰帯から羽蛇斧を取り出しながら言う。
「誰か来るぜ」
僕は思わず緊張したけれど、休憩室に現れた人物を見て肩の力を抜いた。
姿を見せたのは裏天界で別れた悪魔ゾーランだったんだ。
「姐御。言いつけ通り、この先の牢獄にあの女をブチ込んでおきやした。目を覚まして暴れやがったんで、あっしがのしてやりやしたぜ」
「そう。ご苦労だったわね。今ちょうど情報交換をしているところだから、あんたも座りなさい。ゾーラン」
ミランダの言葉に従い、ゾーランは僕らの向かい側の席に腰を落ち着けた。
それにしてもあの手ごわそうな女悪魔を押さえつけてしまうなんてすごいな。
ミランダに1対1で敗れたとはいえ、ゾーランも相当な実力者なんだろう。
悪魔の中でもトップクラスの武闘派集団のボスというのも伊達じゃない。
「そういえばゾーラン。ちゃんと紹介してなかったわね。こいつは私の第一の家来。アルフレッドよ」
「よ、よろしく。ゾーラン」
そう言う僕にゾーランはニッと笑いかけてくる。
例の怖い微笑みだ。
「姉御の右腕、アルフレッドの兄貴ですね。よろしく頼みやす」
「う、うん」
あ、兄貴って……。
呼ばれ慣れていないから、どんな反応をしていいのか分からないぞ。
それからこの場にいる全員と簡単に挨拶を済ませたゾーランにミランダが話の進み具合を説明した。
「今ちょうど私が天樹に向かおうとしていた時の話をしていたのよ」
それを聞いたゾーランは頷いて僕らに視線を向ける。
「飛び出していこうとする姐御をあっしが何とかお引き留めしやした。というのも、あっしの部下どもの話によれば天樹の塔の警備は最高レベルまで厳重になってやがって、しかも姐御の捜索のために精鋭の大部隊が動いているということでやしたから」
「フン。そんなもん私が蹴散らしてやるって言ったのに」
「いや、あっしも姐御なら一騎当千の強さで負けやしないと思いやしたが、ただ敵を殲滅するならともかく、アルフレッドの兄貴たちを奪還する必要がある状況ではあまりにも多勢に無勢と思いやして」
どうやらゾーランは自らの手勢でミランダに加勢をしてくれようとしていたらしい。
ただその時はライバルの派閥と抗争の真っ最中だったから身動きが取れなかったんだって。
「ゾーランの話を聞いた時は加勢なんて無用だって思ったんだけど、そこであることを思いついたのよ」
「あること?」
そう聞き返す僕にミランダは頷く。
「ゾーランの抗争相手を私がぶっ潰してやろうと思ってね」
「君が人助け? めずらしいね」
僕が眉を潜めてそう言うと、ミランダも同じように眉を潜めた。
「はぁ? 人助け? あんた何年私の家来をやってんのよ。そんなわけないでしょ」
「え? そうなの?」
「ちょうどいいチャンスだと思ったのよ。もう一度、鍛え直して自分を研ぎ澄ますためにはね」
ミランダの話に僕は意外な驚きを覚えた。
元より彼女は闇の洞窟での連日の戦闘でしっかり鍛え上げられているし、実戦経験という点においては誰にも負けていないはずだ。
だけど彼女は言う。
「天樹の塔での天使長イザベラとの模擬戦がああいう結果に終わって、自分の状態が分かったのよ」
「どういうこと?」
「裏天界であの女悪魔にヌルイとか言ったけど、私自身も腕がなまってるって感じたの。基本的に闇の洞窟での戦いは1対1でしょ。大勢の敵を1人で相手にする機会に乏しかったから。だから一度、自分の力を全部使い切るような戦いをしてみたかったってわけ。大勢の悪魔を相手に暴れられるならちょうどいいと思ってね」
ミランダの話を聞きながら実感を込めて頷いているのはヴィクトリアだった。
「分かるぜ。自分というものを最高の状態に研ぎ澄ませておかないと気持ち悪いんだ」
「そうね。それにアル。覚えてる? 私の新スキルの話」
その話は覚えている。
上位スキル・悪神解放の代わりに実装してきたという新スキル。
イザベラさんとの戦いではあえて使わなかったというその謎のスキル。
「それを実戦で試すいい機会にもなったのよ」
そう言うとミランダは不敵な表情でニヤリと笑った。
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