だって僕はNPCだから 3rd GAME

枕崎 純之助

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最終章 決戦! 天樹の塔

第1話 潜入!

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「こ、こんなに簡単に入れるものなの?」

 僕は天樹の塔の1階廊下に入ったところで思わずそうつぶやいた。
 天樹の塔の裏口にある非常口から僕ら一行は内部への侵入を果たしたんだ。
 内部への侵入には堕天使だてんしらの妨害を退ける必要があると思っていた僕らだけど、ついぞ敵の1人にすら邪魔されることはなかった。

「ゾーランがかなり張り切っているおかげね」

 ミランダは満足げにそう言う。
 天樹の裏側は拍子抜けするほど静かだった。
 なぜなら表側で繰り広げられるゾーランたち悪魔の攻撃がかなり苛烈なものだからだった。

 天樹を迂回うかいしている途中で遠目に見た時に、天樹の周りにいた護衛の堕天使だてんしたちは全て表側に回らざるを得ないほどだった。
 ゾーランを先頭に悪魔たちは堕天使だてんしらの守備隊を突き崩し、数で勝る堕天使だてんしらは浮き足立っていた。
 そのおかげで僕らは誰にも見つかることなく天樹に接近し、その内部に足を踏み入れることが出来たんだ。

 1階部分の廊下に入ると途端に外の喧騒けんそううそのように聞こえなくなり、そこは静まり返っていた。
 まだ下層階だからなのか、周囲に堕天使だてんしの姿は見当たらない。

「じゃあワタシたちはジェネットたちの救出に向かうから」

 そう言って薬液でヤモリに変化したブレイディ、アビー、エマさんは素早く建物の壁や天井を伝って這い進んでいった。
 あの小ささなら目立たないから簡単には見つからないだろう。
 3人とは中央広場という場所で落ち合うことになっている。
 先日、僕らを歓迎する天使たちの宴が開かれた場所だ。
 天使長イザベラさんの執務室に行くためには、必ずそこを通らなくちゃならないことが塔の内部構造図には記されていた。

 ブレイディたちと僕らはそれぞれコピーした塔内図を持っている。
 念のため、エマさんが持っていた旧地図とキャメロンから受け取った新地図の両方を持つようにしたんだ。
 そのどちらの地図にも中央広場を通るルートは同じように記されている。
 だけど塔の中を進むにつれ、その他の場所については新地図の方が正しいことが判明した。
 キャメロンの言った通り、天樹の塔内部はサーバーダウンによるバグで書き換えられていたんだ。

「フンッ。だからといってあの小僧を信用するわけにはいかないわよ。ここはもう敵の腹の中なんだから一瞬の油断が命取りになるわ」

 そう言って警戒しながらミランダは僕のすぐ手前を進む。
 その前方、先頭を進むヴィクトリアはまるで臆することなく、嵐刃戦斧ウルカンを担いで意気揚々と進んでいた。
 回復が出来ないこの状況下で、それをまったく恐れていない2人には尊敬を通り越してあきれてしまうほどだ。

 この2人には怖いものがないんだろうか。
 その鋼鉄の度胸がうらやましいよ。
 そんなことを考える僕の後ろ、最後尾を進むノアがふいに立ち止まった。

「ノア? どうしたの?」
「後ろから追ってくる奴らがいる」

 その言葉に皆が振り返って後方を見る。
 丸い天樹の中の弧を描く廊下の先、見える範囲には誰の姿もない。
 
「本当に来るわけ?」
 
 まゆを潜めてそう言うミランダに、ノアではなくヴィクトリアが答えた。

「ノアのやつは地獄耳なんだ。何人くらい来る?」
「10や20ではない。その倍……いや、50は超えるであろう。5分とせずにここにたどり着くぞ」

 数が多い。
 この一本道の廊下で一番心配なのは後方からの相手と戦っている間に、前方から挟み撃ちをされることだ。
 僕は新地図を開いて、進む先の経路を確認した。

「アル。通路の幅がせまくて、壁を背にして戦える場所を探しなさい」

 ミランダの言葉にうなづくと、僕は一番近いその場所を見つけ出した。

「この先にあるT字路を左に行くと、小部屋があるよ。でもそこに入っちゃうと逃げ道がない」
「上等よ。敵を全滅させる覚悟でやるわ」

 僕らはそう言ってうなづき合うと、そのまま走り出した。
 回復が出来ない以上、ライフの消耗を出来る限り抑えて戦うしかない。
 やがて僕らはT字路を抜けた先にある、とびらのない小部屋にたどり着いた。

「ここで奴らを撃退するわよ。ヴィクトリアは前衛」
「おう。アタシが全員ぶっ殺してやる」

 そう息巻くヴィクトリアだけどミランダは首を横に振る。

「いいえ。あんたは盾を持って防御に徹しなさい」
「はあっ? 何でだよ!」
「ここにくる一団を倒してそれで終わりじゃないでしょ。今回は長丁場なの。回復手段が見込めない以上、ライフの消耗を抑える戦い方に徹するべきよ」

 ミランダの作戦はこうだ。
 前衛でヴィクトリアが壁役として防御に徹し、後衛からミランダと僕が魔法とEガトリングで敵を狙撃する。
 そしてノアは敵が飛び道具を使ってきた時に槍でそれを迎撃し、ヴィクトリアが苦しい時は壁役として自分も加勢する。
 ノアは体は小さいけれど、彼女のうろこはほとんどの攻撃を弾く。
 ヴィクトリアの補助としての壁役ならば十分に務まるだろう。

 この四身一体の陣形でこちらのダメージを最小限に抑えつつ、敵を全滅に追い込む。
 それがミランダの立てた戦略だった。
 敵を倒したくてウズウズしているヴィクトリアだけど、その作戦の合理性には納得したみたいで仕方なくうなづく。
 
「来るぞ」

 ノアがそう言った時には僕らにもはっきりと迫り来る敵の気配を感じ取ることが出来た。
 先頭でヴィクトリアが左手に盾、右手に小ぶりな羽蛇斧ククルカンを持って防御態勢を取る。
 その左側後方にミランダが陣取り、僕は右後方で緊張しながらEガトリングを構えた。
 ノアは蛇竜槍イルルヤンカシュを手にヴィクトリアのすぐ背後に控える。

 やがて……右から飛び出してきた堕天使だてんしらがとびらのない小部屋の前を横切って左へ通り過ぎようとした。
 き、来たっ!
 僕がEガトリングを速射するよりも早くミランダの黒炎弾ヘル・バレットが堕天使を直撃した。

「ヒギィィィッ!」

 黒く燃え盛る火球に撃ち落とされて先頭の堕天使だてんしが派手な悲鳴を上げながら息絶えていく。
 それにひるむことなく他の堕天使だてんしらは次々と襲いかかってきた。

「来いオラァッ!」

 ヴィクトリアが吠えた。
 堕天使らは剣や斧、槍といった各自の武器で一番先頭にいる彼女を攻撃する。
 だけどヴィクトリアは氷の盾と羽蛇斧ククルカン堕天使だてんしらの攻撃を防ぎ、いなし、受け流す。

 僕は今度こそEガトリングを速射して、堕天使だてんしたちをはちの巣にした。
 ミランダも自慢の黒炎弾ヘル・バレットで次々と堕天使だてんしを葬り去る。
 そして時折、僕やミランダに向けて堕天使だてんしが投げつけてくる鉄球などの投擲とうてき武器はノアが全て蛇竜槍イルルヤンカシュで叩き落としてくれた。

 いいぞ。
 地形効果もあってこれなら簡単にはこちらの陣形は崩されない。
 T字路のようになったこの部屋の地形の有利な点は、何と言っても相手が一斉に突っ込んで来られないことだ。
 奥行きがないため右側から攻めてくる相手は一度減速して立ち止まってから、こちらに攻撃を仕掛けなければならない。

 走りながら加速しての攻撃が出来ない分、圧力が少なくなり壁役のヴィクトリアの負担が減る。
 それに弓矢や魔法などの飛び道具も相手は使いにくい。
 これはかなりのアドバンテージだ。
 遠くから狙い撃ちにされることがなければこちらとしても対処しやすいからだ。

 だけど良い点ばかりじゃない。
 目の前に姿を現すまで敵の様子が見えないため、気配を感じ取ることは出来ても、敵が何をしようとしているのかまでは目で確認することが出来ない。
 堕天使だてんしらもそのことを学習し、10人ほどが倒されたところて右側の壁から姿を現さなくなった。

「オラオラァ! ビビってないでかかってこい!」

 苛立いらだって声を荒げるヴィクトリアにノアはあきれ顔で嘆息する。

「まるで縄張りを荒らされたメスゴリラよの」
「うるせえっ! 誰がゴリラだ!」

 そ、そんなこと言ってる場合じゃない。
 堕天使だてんしは何かをたくらんでいるはずだ。
 かといって逆にこちらから通路に出ていけばねらい撃ちにされる。

 ジリジリとした時間が過ぎ去っていく中で、ふいに赤い筒状の物が僕らの正面に投げ込まれた。
 それは猛烈な勢いで白い煙を噴射し始める。

「煙幕だ!」

 そう言った時にはすでに遅かった。
 あっという間に充満した白煙が辺りを包み込み、視界がかなくなる。
 まずいっ!

「くそっ!」

 ヴィクトリアは盾をかかげて羽蛇斧ククルカンを振り上げた。
 真っ白な視界の中に無数の人影がおどる。
 ここが好機とばかりに堕天使だてんしたちが一気呵成かせいに襲いかかってきた!
 牙城が突き崩されるっ!
 だけど、その時。

せよ!」

 ノアが叫んだ。
 その声に反応して僕らは全員咄嗟とっさに頭を下げる。

聖邪の吐息ヘル・オア・ヘブン

 頭の上に猛烈な勢いの空気の流れが発生した。
 ノアの口から光のブレスが盛大に吐き出され、白煙が吹き飛んだんだ。
 途端とたん堕天使だてんしらの悲鳴が響く。

「イギィアアアッ!」

 ノアの光のブレスをもろに浴びた堕天使だてんしらが、その場に転げてのたうち回っている。
 その数は十数体。
 我先にとT字路の狭い通路に殺到してきた堕天使だてんしらは、思わぬノアの反撃に完全に裏をかかれた形になった。

「アルッ!」
「う、うんっ!」

 即座に上がるミランダの声に反射的に僕はEガトリングを連射した。
 地面に転がる堕天使だてんしらを虹色の光弾が次々と撃ち抜いてその息の根を止める。
 そしてミランダは黒鎖杖バーゲストを振り下ろして、残った堕天使だてんしたちに素早くトドメを刺していく。
 その間にもヴィクトリアは油断なく盾を構えたまま、前方からの襲撃に備えた。
 だけど、それから数秒、十数秒、そして1分ほど待っても次の攻撃は開始されなかった。
 ヴィクトリアとミランダが怪訝けげんそうに視線を交わし合う中、耳を澄ませていたノアが蛇竜槍イルルヤンカシュを下げて言う。

「残った奴らは逃げ出した。すでにかなり遠ざかっておる」

 彼女の言葉通り、通路の先にはすでに堕天使だてんしたちの姿はなくなっていた。
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