72 / 89
最終章 決戦! 天樹の塔
第6話 集結! 5人娘
しおりを挟む
「どいてどいてどいて~!」
気合い十分のアリアナが外周通路を走りながら声を上げて拳を振るう。
行く手を阻もうとする堕天使が次々と蹴散らされて壁、床、天井に叩きつけられていった。
後続を走る僕とジェネットはほとんど出番がないほどだ。
ローザを倒した時もすごかったけれど、今日はアリアナが絶好調だぞ。
おかげで僕らはあまり時間をかけずに中央広場に到達することが出来た。
そしてアリアナは氷結拳で中央広場へ続く扉をぶち破ろうとした。
そんな彼女をジェネットが制止する。
「待って下さい。アリアナ。その扉は恐らく物理的な攻撃では開けられません。アビーが持っていた解読コードの中から適切なものを……」
ジェネットがそう言いかけたその時、いきなり扉が内側から開かれて、中から数人の堕天使が飛び出してきたんだ。
「クソッ! 奴ら化け物か。もっと人数を呼んでこい!」
そう悪態をつきながら皆一様に血を流して負傷していた彼らは僕らと鉢合《はちあ》わせになり、お互いに一瞬だけ動きが止まる。
いち早く動いたのはジェネットとアリアナだった。
2人は堕天使らを押し返すように蹴散らすと、そのまま中央広場の中へとなだれ込んでいく。
呆気に取られていた僕も2人に続いて中央広場の中へと駆け込んだ。
そこは広場を一望できる下から3階層目の回廊だった。
僕は欄干に手をかけて下を覗き込む。
僕が一番最初に目を留めたのは、黒衣を翻して華麗に宙を舞うミランダの姿だ。
スキルの使えない今の彼女だけど、多くの堕天使たちを相手に堂々たる戦いぶりを見せていた。
彼女の元気な姿に僕は反射的に声を上げる。
「ミランダァァァ!」
僕の声に彼女も僕ら3人が駆けつけたことに気付いたみたいだ。
ミランダは周囲にまとわりついてくる堕天使たちを次々と黒鎖杖で叩き落としながら、こちらに手を上げて合図をしてくれた。
よかった。
大丈夫そうだ。
ホッと胸を撫で下ろす僕は広場の中に目を向ける。
広場の床の上ではヴィクトリアとノアがそれぞれ斧と槍を振るって元気に戦っている。
2人は互いをカバーし合うように周囲の堕天使を退けていた。
周囲が全部敵という状況もあって結果的にそう見えているだけかもしれないけれど、ヴィクトリアとノアは少し前まで険悪な仲だったとは思えない連携を見せている。
暴れ回る彼女たち3人に堕天使らは手を焼き、数的絶対有利にありながら攻めあぐねていた。
さっき外に飛び出してきた堕天使らは、ミランダたち3人の手ごわさにたまらなくなり、救援を呼びに行こうとしたのか。
それほどミランダたちは数的不利をものともしない活躍を見せている。
そしてそこにジェネットとアリアナがすぐさま加勢に入った。
2人は欄干を飛び越えていき、ジェネットは法力で空中を上昇してミランダの援護に向かい、アリアナは床に着地してヴィクトリアたちの手助けに向かう。
それを見て僕は何だか心が温まるような気持ちになった。
個性もバラバラだし、かつてはライバル同士だった彼女たち5人だけど、今この瞬間は同じゲームからやってきた同郷の仲間なんだ。
その5人の少女たちが集結し、この難局を乗り越えようとしている。
そのことを僕はとても誇らしく感じた。
彼女らは敵を次々と葬り去っていく。
僕とジェネットとアリアナが駆けつけた時点で数十人は残っていた堕天使の数は、2人の加勢によって見る見るうちに減っていく。
堕天使らの増援は今のところない。
おそらく外から攻め込んでいる悪魔ゾーランの部隊と交戦する人員を確保しなけれならないため、これ以上の人員をこっちに割けないんだろう。
これなら堕天使をこの中央広場から一掃するのもそう遠くはない。
堕天使らはミランダたちの相手をするのに必死で、回廊の上にいる僕にまで気が回らないようだった。
それでも僕は万が一に備えてEガトリングを取り出す。
まだこの銃を使う力が僕に残されているか分からないけれど、それでも僕が頼れるのはこれしかないから。
僕は自分の背後で開いたままの扉から堕天使の増援部隊が現れた時のために迎撃の準備をした。
そしてこの開かれた扉はこの中央広場からの重要な脱出経路でもある。
ここを確保するのが今の僕の仕事だ。
僕は再び閉まらないよう自分の背中を扉に押し当てて押さえた。
優勢に転じつつあるこの状況下でも油断をしないよう気を引き締めていたつもりだったんだ。
だけどその時。
「……えっ?」
僕の目の前に音もなく1人の女性が姿を現した。
それはあまりにも唐突な出来事だった。
その女性は何の前触れもなく床の中からまるで見えないエレベーターに乗ってきたかのようにスッと現れてこう言った。
「よくぞいらして下さいましたね」
「あ、あなたは……」
それはこの天樹の塔の最高責任者であり、天使たちを束ねる至高の存在、天使長イザベラさんだった。
最初に会った時と変わらず、彼女は柔和な微笑を浮かべ、その凛とした佇まいには威厳を感じさせる。
だけどキャメロンはゲームオーバーになる前に言っていた。
堕天使たちを使った誘拐事件の黒幕はイザベラさんだと。
にわかには信じられないその疑惑を知る僕は、ハッと我に返り彼女に問いかけた。
「あの、どうしてここに? 執務室にミシェルさんたちと立て篭もっていたんじゃ……」
そう言いかけた僕の右手をイザベラさんがいきなり掴んだ。
「私の部屋にいらして」
柔らかな笑みを浮かべたままそう言うと、彼女は再び床の中に沈み込んでいく。
手を掴まれたままの僕は一緒に引きずり込まれそうになった。
「ちょ、ちょっと……」
僕は足を踏ん張って必死に抵抗するけれど、次第に僕の足自体も床の中へと沈み込んでいく。
な、何だこれ?
僕はとにかく掴まれた手を振りほどこうとするけれど、イザベラさんの力が強すぎてとても無理だ。
や、やばい!
「ちょ、ちょっと。イザベラさん! やめて下さい!」
懸命に声を上げる僕だけど、イザベラさんは微笑を浮かべたままそれには答えず、僕をグイグイと床の中に引っ張る。
僕はどんどん床の中に沈み込んでいき、もう腰まで埋まってしまった。
思わず左手からこぼれ落ちたEガトリングも床の中へと消えていく。
こ、この床はまるで底なし沼だ。
そんな僕の異変に最初に気付いたのはミランダだった。
「アルッ!」
中央広場の吹き抜けの中を舞いながら堕天使たちと戦っていたミランダは、堕天使たちを振り切って僕のいる回廊まで一直線に飛んできた。
そしてすでに肩まで床の中に沈み込んでいる僕の左手を掴んでくれた。
「ミランダ!」
「アルを放しなさい! この厚化粧女!」
僕を懸命に引っ張り上げようとしてくれるミランダだけど、抵抗むなしくすぐに僕らは2人とも床の中へと引きずり込まれた。
床の中は柔らかい液体のようで、不思議と呼吸は出来るけれど目の前が真っ暗になる。
だけどそれもほんの一瞬のことだった。
「ようこそ。私の部屋へ」
気付くと僕とミランダは床の上に倒れていた。
イザベラさんの声にハッとしてすぐに僕らは起き上がり、周囲の様子を見回す。
そこはほんの少し前までいた回廊ではなく、広いフロアの中心部だった。
そしてすぐに僕らは気が付いた。
「ここは……中央広場?」
「ええ。そのようね」
そう。
僕らが立つそこは構造も景色も中央広場と寸分違わぬ場所だった。
だけどそこには戦闘中の堕天使やジェネットたちの姿はなく、あれだけ渦巻いていた戦いの喧騒も聞こえない静寂の世界だった。
今ここにいるのは僕とミランダ、そして僕らの頭上高くに浮かんでいるイザベラさんだけだ。
それにしても……。
「裏天界みたいだ……」
そう。
無機質で虚ろで寂しげな感じ。
肌に感じるこの独特の雰囲気が、僕が遥か上空で訪れたあの裏天界によく似ている。
空中から降下してきて僕らの前方に降り立ったイザベラさんが優雅な笑みを浮かべて言う。
「その通り。ここは裏天樹と言うべき場所です。このお部屋にお招きするのは特別なお客様だけですのよ」
裏天樹……そういうことか。
表の世界とは似て非なる隔絶された世界。
イザベラさんは僕らをそこに引き込んだんだ。
一体、何のために……?
僕の隣ではミランダがイザベラさんに鋭い眼光を向けていた。
「本性を表したのか、それとも天使長様ご乱心なのか知らないけど、ちょうどアンタに会いに行くところだったから渡りに船だわ。イザベラ! なぜアルに手を出したの?」
敵を威嚇する虎のように吠えるミランダに、イザベラさんは目を細めて鷹揚に両手を広げながら答えた。
「アルフレッド様を連れ込めば、必ずあなたが助けに来ると思ったからですよ。ミランダ」
「! ……へぇ。私が狙いだったっていうの? 上等じゃない」
思わぬイザベラさんの返答にミランダはわずかに驚きを見せたけれど、すぐその顔に好戦的な笑みを浮かべる。
そんなミランダをじっと見据えるイザベラさんはフッと目を閉じて静かに語った。
「私はずっと渇いておりました。天使長としての務めを果たす日々は私にとって大変誇らしい物であると同時に、窮屈な暮らしでもありましたから」
「フンッ。愚痴る相手を間違ってるんじゃないの。天使長様の憂鬱なんて聞きたくもないわね。一体何に渇いていたというのよ」
「闘争です」
と、闘争?
穏やかな雰囲気のイザベラさんの口から告げられた意外な言葉に僕は眉を潜める。
だけどミランダは僕とは違い、その答えにも驚かなかった。
「どうせそんなことだろうと思ったわ」
「さすがミランダ。気付いていたのですね」
「模擬戦の時のアンタは必死に牙を隠すケモノのようだったからね」
そ、そうだったのか。
ミランダの言葉にイザベラさんは顔を伏せて静かに口を開く。
「やはりあなたです。魔女ミランダ。私の目に狂いはありませんでした。この虚ろな私の渇きを潤してくれるのはあなたが一番適任だと思いました。先日の模擬戦以来、私はあなたのことを……」
そこで言葉を切ったイザベラさんは顔を上げると、慈愛に満ちた笑みを浮かべて言った。
「殺したくて殺したくてたまらないのです」
気合い十分のアリアナが外周通路を走りながら声を上げて拳を振るう。
行く手を阻もうとする堕天使が次々と蹴散らされて壁、床、天井に叩きつけられていった。
後続を走る僕とジェネットはほとんど出番がないほどだ。
ローザを倒した時もすごかったけれど、今日はアリアナが絶好調だぞ。
おかげで僕らはあまり時間をかけずに中央広場に到達することが出来た。
そしてアリアナは氷結拳で中央広場へ続く扉をぶち破ろうとした。
そんな彼女をジェネットが制止する。
「待って下さい。アリアナ。その扉は恐らく物理的な攻撃では開けられません。アビーが持っていた解読コードの中から適切なものを……」
ジェネットがそう言いかけたその時、いきなり扉が内側から開かれて、中から数人の堕天使が飛び出してきたんだ。
「クソッ! 奴ら化け物か。もっと人数を呼んでこい!」
そう悪態をつきながら皆一様に血を流して負傷していた彼らは僕らと鉢合《はちあ》わせになり、お互いに一瞬だけ動きが止まる。
いち早く動いたのはジェネットとアリアナだった。
2人は堕天使らを押し返すように蹴散らすと、そのまま中央広場の中へとなだれ込んでいく。
呆気に取られていた僕も2人に続いて中央広場の中へと駆け込んだ。
そこは広場を一望できる下から3階層目の回廊だった。
僕は欄干に手をかけて下を覗き込む。
僕が一番最初に目を留めたのは、黒衣を翻して華麗に宙を舞うミランダの姿だ。
スキルの使えない今の彼女だけど、多くの堕天使たちを相手に堂々たる戦いぶりを見せていた。
彼女の元気な姿に僕は反射的に声を上げる。
「ミランダァァァ!」
僕の声に彼女も僕ら3人が駆けつけたことに気付いたみたいだ。
ミランダは周囲にまとわりついてくる堕天使たちを次々と黒鎖杖で叩き落としながら、こちらに手を上げて合図をしてくれた。
よかった。
大丈夫そうだ。
ホッと胸を撫で下ろす僕は広場の中に目を向ける。
広場の床の上ではヴィクトリアとノアがそれぞれ斧と槍を振るって元気に戦っている。
2人は互いをカバーし合うように周囲の堕天使を退けていた。
周囲が全部敵という状況もあって結果的にそう見えているだけかもしれないけれど、ヴィクトリアとノアは少し前まで険悪な仲だったとは思えない連携を見せている。
暴れ回る彼女たち3人に堕天使らは手を焼き、数的絶対有利にありながら攻めあぐねていた。
さっき外に飛び出してきた堕天使らは、ミランダたち3人の手ごわさにたまらなくなり、救援を呼びに行こうとしたのか。
それほどミランダたちは数的不利をものともしない活躍を見せている。
そしてそこにジェネットとアリアナがすぐさま加勢に入った。
2人は欄干を飛び越えていき、ジェネットは法力で空中を上昇してミランダの援護に向かい、アリアナは床に着地してヴィクトリアたちの手助けに向かう。
それを見て僕は何だか心が温まるような気持ちになった。
個性もバラバラだし、かつてはライバル同士だった彼女たち5人だけど、今この瞬間は同じゲームからやってきた同郷の仲間なんだ。
その5人の少女たちが集結し、この難局を乗り越えようとしている。
そのことを僕はとても誇らしく感じた。
彼女らは敵を次々と葬り去っていく。
僕とジェネットとアリアナが駆けつけた時点で数十人は残っていた堕天使の数は、2人の加勢によって見る見るうちに減っていく。
堕天使らの増援は今のところない。
おそらく外から攻め込んでいる悪魔ゾーランの部隊と交戦する人員を確保しなけれならないため、これ以上の人員をこっちに割けないんだろう。
これなら堕天使をこの中央広場から一掃するのもそう遠くはない。
堕天使らはミランダたちの相手をするのに必死で、回廊の上にいる僕にまで気が回らないようだった。
それでも僕は万が一に備えてEガトリングを取り出す。
まだこの銃を使う力が僕に残されているか分からないけれど、それでも僕が頼れるのはこれしかないから。
僕は自分の背後で開いたままの扉から堕天使の増援部隊が現れた時のために迎撃の準備をした。
そしてこの開かれた扉はこの中央広場からの重要な脱出経路でもある。
ここを確保するのが今の僕の仕事だ。
僕は再び閉まらないよう自分の背中を扉に押し当てて押さえた。
優勢に転じつつあるこの状況下でも油断をしないよう気を引き締めていたつもりだったんだ。
だけどその時。
「……えっ?」
僕の目の前に音もなく1人の女性が姿を現した。
それはあまりにも唐突な出来事だった。
その女性は何の前触れもなく床の中からまるで見えないエレベーターに乗ってきたかのようにスッと現れてこう言った。
「よくぞいらして下さいましたね」
「あ、あなたは……」
それはこの天樹の塔の最高責任者であり、天使たちを束ねる至高の存在、天使長イザベラさんだった。
最初に会った時と変わらず、彼女は柔和な微笑を浮かべ、その凛とした佇まいには威厳を感じさせる。
だけどキャメロンはゲームオーバーになる前に言っていた。
堕天使たちを使った誘拐事件の黒幕はイザベラさんだと。
にわかには信じられないその疑惑を知る僕は、ハッと我に返り彼女に問いかけた。
「あの、どうしてここに? 執務室にミシェルさんたちと立て篭もっていたんじゃ……」
そう言いかけた僕の右手をイザベラさんがいきなり掴んだ。
「私の部屋にいらして」
柔らかな笑みを浮かべたままそう言うと、彼女は再び床の中に沈み込んでいく。
手を掴まれたままの僕は一緒に引きずり込まれそうになった。
「ちょ、ちょっと……」
僕は足を踏ん張って必死に抵抗するけれど、次第に僕の足自体も床の中へと沈み込んでいく。
な、何だこれ?
僕はとにかく掴まれた手を振りほどこうとするけれど、イザベラさんの力が強すぎてとても無理だ。
や、やばい!
「ちょ、ちょっと。イザベラさん! やめて下さい!」
懸命に声を上げる僕だけど、イザベラさんは微笑を浮かべたままそれには答えず、僕をグイグイと床の中に引っ張る。
僕はどんどん床の中に沈み込んでいき、もう腰まで埋まってしまった。
思わず左手からこぼれ落ちたEガトリングも床の中へと消えていく。
こ、この床はまるで底なし沼だ。
そんな僕の異変に最初に気付いたのはミランダだった。
「アルッ!」
中央広場の吹き抜けの中を舞いながら堕天使たちと戦っていたミランダは、堕天使たちを振り切って僕のいる回廊まで一直線に飛んできた。
そしてすでに肩まで床の中に沈み込んでいる僕の左手を掴んでくれた。
「ミランダ!」
「アルを放しなさい! この厚化粧女!」
僕を懸命に引っ張り上げようとしてくれるミランダだけど、抵抗むなしくすぐに僕らは2人とも床の中へと引きずり込まれた。
床の中は柔らかい液体のようで、不思議と呼吸は出来るけれど目の前が真っ暗になる。
だけどそれもほんの一瞬のことだった。
「ようこそ。私の部屋へ」
気付くと僕とミランダは床の上に倒れていた。
イザベラさんの声にハッとしてすぐに僕らは起き上がり、周囲の様子を見回す。
そこはほんの少し前までいた回廊ではなく、広いフロアの中心部だった。
そしてすぐに僕らは気が付いた。
「ここは……中央広場?」
「ええ。そのようね」
そう。
僕らが立つそこは構造も景色も中央広場と寸分違わぬ場所だった。
だけどそこには戦闘中の堕天使やジェネットたちの姿はなく、あれだけ渦巻いていた戦いの喧騒も聞こえない静寂の世界だった。
今ここにいるのは僕とミランダ、そして僕らの頭上高くに浮かんでいるイザベラさんだけだ。
それにしても……。
「裏天界みたいだ……」
そう。
無機質で虚ろで寂しげな感じ。
肌に感じるこの独特の雰囲気が、僕が遥か上空で訪れたあの裏天界によく似ている。
空中から降下してきて僕らの前方に降り立ったイザベラさんが優雅な笑みを浮かべて言う。
「その通り。ここは裏天樹と言うべき場所です。このお部屋にお招きするのは特別なお客様だけですのよ」
裏天樹……そういうことか。
表の世界とは似て非なる隔絶された世界。
イザベラさんは僕らをそこに引き込んだんだ。
一体、何のために……?
僕の隣ではミランダがイザベラさんに鋭い眼光を向けていた。
「本性を表したのか、それとも天使長様ご乱心なのか知らないけど、ちょうどアンタに会いに行くところだったから渡りに船だわ。イザベラ! なぜアルに手を出したの?」
敵を威嚇する虎のように吠えるミランダに、イザベラさんは目を細めて鷹揚に両手を広げながら答えた。
「アルフレッド様を連れ込めば、必ずあなたが助けに来ると思ったからですよ。ミランダ」
「! ……へぇ。私が狙いだったっていうの? 上等じゃない」
思わぬイザベラさんの返答にミランダはわずかに驚きを見せたけれど、すぐその顔に好戦的な笑みを浮かべる。
そんなミランダをじっと見据えるイザベラさんはフッと目を閉じて静かに語った。
「私はずっと渇いておりました。天使長としての務めを果たす日々は私にとって大変誇らしい物であると同時に、窮屈な暮らしでもありましたから」
「フンッ。愚痴る相手を間違ってるんじゃないの。天使長様の憂鬱なんて聞きたくもないわね。一体何に渇いていたというのよ」
「闘争です」
と、闘争?
穏やかな雰囲気のイザベラさんの口から告げられた意外な言葉に僕は眉を潜める。
だけどミランダは僕とは違い、その答えにも驚かなかった。
「どうせそんなことだろうと思ったわ」
「さすがミランダ。気付いていたのですね」
「模擬戦の時のアンタは必死に牙を隠すケモノのようだったからね」
そ、そうだったのか。
ミランダの言葉にイザベラさんは顔を伏せて静かに口を開く。
「やはりあなたです。魔女ミランダ。私の目に狂いはありませんでした。この虚ろな私の渇きを潤してくれるのはあなたが一番適任だと思いました。先日の模擬戦以来、私はあなたのことを……」
そこで言葉を切ったイザベラさんは顔を上げると、慈愛に満ちた笑みを浮かべて言った。
「殺したくて殺したくてたまらないのです」
0
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした
暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。
役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。
だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。
倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。
やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。
一方、病の裏で糸を引いていたのは………。
“無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜
水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。
魔王乱立の時代。
王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。
だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。
にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。
抗議はしない。
訂正もしない。
ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。
――それが、誰にとっての不合格なのか。
まだ、誰も気づいていない。
欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる