だって僕はNPCだから 3rd GAME

枕崎 純之助

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最終章 決戦! 天樹の塔

第5話 聖女の裁き

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「ジェネット!」

 アリアナと合流できた僕とブレイディがすぐにジェネットの元へと戻ると、そこでは武器を持たずに丸腰のジェネットと、せ身の悪魔マットが10メートルほどの距離をはさんで対峙していた。
 それは僕がジェネットの元を離れた十数分前と変わらぬ構図だった。
 だけど、直立不動のままマットを見据えるジェネットとは対照的に、マットは肩で息をしている。
 どちらが優勢かは一目瞭然いちもくりょうぜんだった。

「アル様。お早いお帰りですね。無事にアリアナと合流できたようで何よりです」

 ジェネットは僕に背を向けてマットの動きを注視したままそう言った。
 そんなジェネットに加勢しようとアリアナが歩み寄る。

「ジェネット。手伝うよ」
「いえ。ここは私が1人で。長く牢屋の中に座っておりましたので、ここで体を温めておきたいのです。今後の戦いのためにもね。皆さんはそこで見ていらして下さい」

 ジェネットが静かにそう言ってアリアナを制止すると、マットが怒りに顔をゆがめた。

「……ナメやがって。今後があると思うのか? 貴様はここでくたばるんだよ!」

 そう言うとマットは4本のナイフを同時に投げつける。
 それをジェネットは首や胸の前で全て難なくつかみ取ってしまった。
 急所ばかりをねらわれながら、ジェネットはことごとくマットのナイフを受け止めたんだ。

 そして彼女はそのナイフを右側の壁に投げた。
 4本のナイフは壁に突き立つ。
 見るとその壁には何本ものナイフが突き立っていた。
 それは左端から右端へと正確に10本ずつ並び、それがすでに8段目に差し掛かっていた。
 あ、あれをジェネットは全部受け止めて、あそこの壁に突き立てたのか。

「ずいぶんとたくさんのナイフをお持ちですね。ご自慢のコレクションを出し尽くしたら、その後はどうなさるのですか?」

 冷然としたその物言いからも、ジェネットが静かな怒りをつのらせているのが分かる。
 ああして壁にナイフを整然と突き立てているのも、相手を寄せ付けない彼女の強い意思を誇示して敵を精神的に追い詰めるためだろう。
 だけどマットからしたらこれ以上の屈辱くつじょくはないはずだ。
 そのせ身の体をブルブルと震わせ、マットは一本のナイフを取り出した。

「なるほど。大したタマだな。さすがうわさに名高い聖女ジェネットだ。その実力は認めよう。だが、そうやって俺をコケにするなら、己の見込み違いを後悔することになるぞ」

 そう言うとマットはいきなり持っていたナイフで自分の胸を切り裂いたんだ。
 途端にその胸から鮮血が噴き出す。

「な、何を……」

 マットの突然の奇行に僕はうめくように声を漏らした。
 さすがのジェネットも顔色を変えている。
 だけどマットは苦しげな表情ながら笑みを浮かべ、自分の血で赤く濡れたナイフを見つめた。
 そしてそれをほとんどノーモーションで鋭く投げつけたんだ。
 だけど……。

「えっ?」

 血をき散らして飛んだそのナイフはジェネットのはるか頭上に向かい、天井に血の跡を残して当たると床に落ちた。
 ま、まるで的外れだ。
 舞い散る鮮血だけがジェネットの頭上に細かく降り注いだ。
 その様子を見たマットが痛みに顔をしかめながらも、その目をギラギラとさせて言う。

「俺の血を浴びたな。聖女ジェネット。その血痕こそが呪いの証だ。存分に刃の雨を楽しむがいい。呪血刃雨ブラッド・ブレード・レイン

 マットがそう言った途端に、どこからかカタカタという小刻みな振動音が聞こえてきた。
 な、何だ?

「か、壁のナイフが……」

 いち早くそれに気が付いたアリアナが驚愕きょうがくの声を漏らした。
 先ほどジェネットが壁に整然と突き立てたナイフが一斉に揺れ出したかと思うと、次々と壁から抜けて宙を舞った。
 そしてその向かう先はジェネットだ。
 まるで磁石に吸い寄せられるくぎのごとく、数多くのナイフがジェネット目がけて飛んでいく。

「くっ!」

 ジェネットは身をひるがえしてこれを避け、避け切れないナイフは手刀で叩き落としていく。
 だけどマットは追い打ちをかけるように次々とナイフを投げつけ、その仕上げとばかりに必殺のスキルを発動した。

千本針サウザンド・ニードル

 マットの全身の毛が逆立ち、それが黒い針となって四方八方に射出される。
 あ、あれは裏天界でヴィクトリアを襲った技だ。
 マットの体中から撃ち出された黒い針は薄気味悪い緑色の液体に濡れた毒針だった。

 そしてその毒針は空中を旋回してジェネットに向かっていく。 
 そうか……マットの血を浴びたことでジェネットは彼のナイフや毒針に自動的にねらわれる標的となってしまったんだ。
 それがマットのスキルなんだろう。
 ジェネットが避けたナイフや手刀で叩き落としたナイフも、再び宙に舞い上がって彼女をねらう。
 そうしたナイフと毒針とが上下左右360度の全方位からジェネットにねらいを定めた。
 あ、あれじゃあ避け切れない。

「これで終わりだ。あっけない幕切れだな。聖女殿」
「ジェネット!」

 僕がたまらずにそう声を発したのがまるで引き金となってしまったかのように、ジェネットを囲むナイフと毒針が一斉に彼女に向かって吸い寄せられるかのごとく飛ぶ。
 ジェ、ジェネットが串刺しにされる!
 僕が拳を握りしめたその時、いきなり天井からまばゆい光が差したんだ。

「えっ?」

 その光はジェネットの体を包み込むように降り注いだ。
 するとジェネットを今まさに突き刺そうとしていたナイフと毒針が全て空中で静止したんだ。

「な、なにっ?」

 戸惑いの表情を浮かべたマットの顔が、すぐに戦慄せんりつの色に染まる。
 それもそのはずで、ジェネットを取り囲んで串刺しにしようとしていたナイフと毒針がジリジリと後方に押し出されているんだ。
 そしてジェネットを取り巻く刃の包囲網が広がっていくと、僕らにも一体何が起きているのか理解できるようになった。
 ジェネットの周囲には無数の光の矢が展開されていて、それがナイフや毒針を押し返していたんだ。

断罪の矢パニッシュメントだ!」

 それはジェネットの上位スキルであり、天から呼び寄せた光の矢を無数に操り、敵を攻撃する強力な神聖魔法だった。
 それをジェネットは防御に使ったんだ。

「あなたのお望み通りにならなくて残念でしたね」

 ジェネットはそう言うと右手を頭上にまっすぐかかげた。
 すると光の矢は押し返していたナイフや毒針をすべて粉砕してしまう。
 こうなればこの魔法はそのまま攻撃に使えるんだ。
 ジェネットが頭上にかかげた手をマットに向けて振り下ろすと、光の矢は次々と動き出し、マットの周囲をぐるりと取り囲んだ。
 形勢逆転だ!

「串刺しになるのはあなたのほうでしたね。アル様の受けた痛みを思い知りなさい」

 ジェネットの声と共に断罪の矢パニッシュメントが一斉にマットを指し貫いた。
 それはまさに聖女の裁きによって断罪される悪魔の図だった。

「がぁっ……」

 マットは全身を全方位から貫かれ、ほとんど声も出せないまま息絶えた。
 ライフ0。
 ゲームオーバーだ。
 ジェネットは武器も持たずにマットを圧倒する強さを見せたんだ。

「アル様。恨みは晴らしましたよ」

 ジェネットはマットが光の粒子と化して消えていくのを見届けると、僕を振り返って微笑みながらそう言った。
 ま、まあちょっとばかりやり過ぎな気がしないでもないけど。
 ちょうどその時、天井から壁を伝って2匹のヤモリが姿を現した。
 それは武器庫でジェネットの徴悪杖アストレアとアリアナの極氷手甲ボルソルンを取り戻してきたアビーとエマさんだった。

『ごめんねぇ。ジェネット。武器のお届けが一足遅くてぇ』

 ヤモリ姿なのに声は色っぽいエマさんがそう言うけれど、ジェネットはそんなエマさんとアビーを手のひらに乗せて微笑んだ。

「問題ありませんよ。とはいえ、この先は武器が必要になりますので大変助かりました。2人とも。ありがとうございます」

 それからジェネットは皆を見回して言う。

「この先は3人ずつに分かれましょう」
「戦闘員と非戦闘員だね」

 即座に応じるブレイディにジェネットはうなづいた。

「アル様、アリアナ、私の3人で中央広場に向かいます」
「なら残りのワタシら3人はどこかに隠れていよう。万が一、堕天使だてんしらに捕まって人質にでもされたりしたら、君達の足手まといになるからね。それはゴメンだ」

 話はまとまった。
 僕らは3人ずつのチームになって再び別行動をとることになった。
 ブレイディたちヤモリ3人組を見送ると、残った僕ら3人は顔を見合わせる。

「中央広場ではスキルが使えない。だから2人とも注意して」

 僕がそう言うとアリアナは装備した手甲・極氷手甲ボルソルンをさすりながら心配そうにジェネットを見る。

「私は元々接近戦キャラだから影響は少ないけれど……」
「心配には及びませんよ。アリアナ。私と同じ魔法攻撃タイプのミランダとて厳しい条件下で今まさに戦い続けているのです。私も戦えます」

 アリアナやヴィクトリアほどじゃないけれど、ミランダやジェネットも接近戦で強さを見せる。
 堕天使だてんしたちを相手にしても簡単にやられたりはしないだろう。
 僕らはもう一度気を引き締めると地図で中央広場までの道のりを再確認した。
 さっきは鳥の姿で移動したけれど、今度はこのままの姿で堂々と乗り込むんだ。

「よし。中央広場まで一気にいくよっ!」

 アリアナはそう言うと両手の手甲をガチッと打ち鳴らし、天樹の外周通路を先頭切って走り出す。
 僕とジェネットもその後について駆け出した。
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