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最終章 決戦! 天樹の塔
第13話 表世界で
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ふと気が付くとそこは再び中央広場だった。
床に倒れていた僕は身を起こして周囲を見回す。
僕はさっき床に沈みこんだその場所とほぼ同じところに自分がいることを理解した。
だけどミランダとイザベラさんの姿がどこにもない。
そしてさっきまでと違うのは広場の中にはジェネット、アリアナ、ヴィクトリア、ノアの4人の姿があることだった。
お、表世界に戻ってきたんだ。
「み、みんな……」
「アル様!」
たまたま一番僕の近くにいたジェネットが駆け寄って来てくれる。
中央広場の中にあれほど溢れ返っていた堕天使の姿はなかった。
どうやら彼女たちが全員倒してくれたみたいだ。
ジェネットは座り込んでいる僕の手を取って、起こしてくれた。
「アル様。今まで一体どちらに……」
そう言いかけたジェネットがいきなり背後を振り返り、懲悪杖を振り上げる。
ゴキンという硬くて重い音とともに弾かれた何かが、近くの壁に当たってさらに大きな音を立てた。
飛来してきたそれは……拳大の黒い鉄球だった。
僕は状況を悟り、思わず緊張で身を固くする。
頭上から高速で投げられた鉄球をジェネットがギリギリのところで弾き飛ばしたんだ。
彼女は厳然たる表情で頭上を見上げている。
その視線の先では、さっき僕らをこっちの世界に引き戻した堕天使キャメロンが空中に浮かんでいた。
彼は手の中から茶色い豆粒のような物をつまみ上げると、それを黒い鉄球に変化させる。
また強制変換でプログラムを書き換えて物質を別の物へと変換したんだ。
あ、あれを投げつけてきたのか。
危ないところだった。
「よく回避したな。聖女ジェネット」
キャメロンは余裕の表情を浮かべて僕らを見下ろしている。
ジェネットはそんな彼を見上げて呟いた。
「あ、あれは……キャメロン?」
すぐにアリアナとヴィクトリア、それからノアが集まって来てくれる。
みんなの無事な姿に僕はひとまず安堵した。
僕らは頭上のキャメロンに注意を向けたまま、言葉を交わし合う。
「アル君! 無事でよかったぁ」
「どこ行ってたんだよ。アルフレッド。堕天使どもは全員アタシらが片付けたぞ」
「心配かけてごめんね。実は……」
僕はミランダと共に天使長のイザベラさんによって裏天樹に引き込まれてからのことを手短に話した。
ミランダがイザベラさんを2回倒して3つ目の命が発動する時に、あのキャメロンがイザベラさんの体から出てきたということ、そしてキャメロンがイザベラさんと魔王ドレイクとの間に生まれた堕天使であるということを。
アリアナとヴィクトリアはその話をイマイチ理解できずに怪訝ば表情を浮かべていたけれど、ジェネットは深く頷いてキャメロンを睨みつける。
「なるほど。紳士的な商人の姿は仮初。今のあの姿こそが本性というわけですか」
ノアだけはその話に興味なさそうに周囲を見回しながら言った。
「ところでアルフレッド。あの高慢ちきな魔女の姿がないが? やられよったのか?」
「いや、さっきまで一緒にいたんだけど、僕にも分からないんだ。彼女はかなりダメージを負って、その上動けなくなってしまっていたから心配なんだけど……」
言葉を交わし合う僕らを見下ろしていたキャメロンがそこで両手をパンパンと打ち鳴らした。
途端にシステム・ウインドウが開かれる。
【本フィールドのスキル使用規制を全面解除】
あ、あれは……イザベラさんと同じことがキャメロンにも出来るのか。
だけどこれで皆、自慢のスキルが使えるようになった。
唐突な規制解除を訝しむジェネット達に向かってキャメロンは声を上げる。
「さて、再会の挨拶は終わったか? あらためて自己紹介しようか。俺はキャメロン。この姿でまみえるのは初めてだったな。さっそくだが貴様ら4人には俺の遊び相手になってもらおう」
そう言うとキャメロンは次々と鉄球を投げつけた。
超高速で飛来するそれをアリアナはギリギリのところで避け、ノアは体の鱗でいなし、ヴィクトリアは嵐刃戦斧で叩き落とす。
三者三様の対応を見たキャメロンが口から長い舌を覗かせて笑う。
「いいぞ。魔女ミランダが大して相手にならなかったんでな。貴様らはガッカリさせないでくれよ。4人全員なら俺とそこそこやり合えるかもしれんな。全員でかかってこい」
それを聞いて激昂したのはヴィクトリアだった。
「てめえ。ナメてんじゃねえぞ! アタシがタイマンでぶっ潰してやる。降りて来い!」
「わざわざ勝てる確率を落として1対1にこだわるか。不合理だな。くだらんプライドをへし折ってやろう」
そう言うとキャメロンは降下してきて床の上でヴィクトリアと対峙した。
「武器は斧か。ならば俺も同じ条件にしよう」
そう言うとキャメロンは持っていた鉄球を強制変換で一本の黒い斧に変えた。
そうして対峙する2人に僕は思わず声を上げる。
「ヴィクトリア! いくら君でも1対1では無茶だ!」
そう言う僕だけどヴィクトリアはキャメロンを睨みつけたまま、今にも飛びかかろうとしていた。
思わず足を踏み出そうとする僕をジェネットが脇から制止し、そっと耳打ちをする。
「アル様。彼女が危なくなったら私たちが加勢に入ります。逆にキャメロンが隙を見せたらその時は遠慮なく私達全員でかかって一気に取り押さえますから。今は我慢です」
「ジェネット……」
心配する僕の目の前でキャメロンとヴィクトリアが激突する。
猛然と突進し、その勢いで嵐刃戦斧をぶつけるヴィクトリアに、キャメロンも斧でぶつかっていく。
物凄い音を響かせて斧の打ち合いが始まった。
あんな勢いで斧を振るったら、腕の骨が砕けてしまうんじゃないかと思うほどの衝撃にも揺るがず、ヴィクトリアは猛然と斧を打ち下ろす。
キャメロンも真っ向から引かずに応戦した。
2人の打ち合いはまったく互角のまま1分以上にも渡って続く。
巨大な岩同士がぶつかるような轟音と衝撃が続き、それが空気を伝わってビリビリとお腹に響くほどだ。
だけど……恐るべきはキャメロンだった。
両者は互角なように見えるけれど、ヴィクトリアが両手で斧を振るうのに対して、キャメロンは片手でそれに応戦していたんだ。
しかも高身長のヴィクトリアにまったく打ち負けていないどころか、背丈の低いキャメロンが徐々に押し始めている。
歯を食いしばるヴィクトリアとは対照的にキャメロンは笑みを浮かべたままだ。
「くっ!」
「どうした! そんなものか!」
そう言って斧を振るうキャメロンに徐々に押し込まれ、ヴィクトリアがついに1歩2歩と後退する。
そ、そんな……あのヴィクトリアが接近戦で劣勢に立たされ始めた。
僕が信じられない思いでその様子を見つめる中、キャメロンの鋭い一撃によってついにヴィクトリアの嵐刃戦斧が弾かれてその手からこぼれ落ちてしまった。
重量のある嵐刃戦斧はガツンという音を立てて床に突き立つ。
や、やばいっ!
だけどヴィクトリアは百戦錬磨の動きで体を捻ると、腰帯から素早く抜いた羽蛇斧をキャメロンに投げつけた。
キャメロンは当然のようにこれを斧で弾くけれど、その一瞬の隙をヴィクトリアが突いた。
床に突き立った嵐刃戦斧を拾い上げて即座に、得意の大技を発動させる。
「くたばっちまえ! 嵐刃大旋風!」
重量自慢の大斧・嵐刃戦斧を、腕力と念力を組み合わせて超高速で振り回す彼女の上位スキルだ。
その刃の嵐に巻き込まれたら、決して助からない必殺の一撃だった。
だけどキャメロンはカッと両目を見開くと、その刃の嵐の中に自ら飛び込んだ。
その途端、彼の体がパンッと弾けたんだ。
僕は我が目を疑った。
刃の嵐に巻き込まれたキャメロンの体はまるで水風船が破裂したみたいに、液状化して弾け飛んだ。
そしてヴィクトリアはその液体を全身に浴びてしまう。
それでも彼女の放つ嵐刃大旋風は止まらない。
はず……なんだけど。
「な、何だこれ! く、くそっ……」
液状化したキャメロンは粘り気を帯びていて、ヴィクトリアが動けば動くほどのその粘り気が増していくように思えた。
やがてヴィクトリアの腕、足、体、髪そして嵐刃戦斧に絡みついた粘液が、ついに彼女の動きを完全に止めてしまう。
「うぐぐ……」
必死に体を動かそうとするけれど、ヴィクトリアは完全に身動きが取れなくなってしまっていた。
強力な弾力性を持つその粘液はいくら腕力のある彼女が引っ張ってもちぎれない。
それどころか粘液はヴィクトリアの首や顔にもまとわりつき、その鼻と口を塞いだ上に首に絡みついて気道を締め上げる。
ついにヴィクトリアが嵐刃戦斧をその手から落とし、その場にガックリと膝をついてしまった。
こ、これ以上は危険だ。
様子を見ていたジェネット、アリアナ、ノアの3人が反射的に飛び込んでいき、ヴィクトリアの加勢に入った。
「清光霧」
ジェネットが振りかざした懲悪杖の宝玉から光輝く霧が噴出してヴィクトリアに絡み付いたキャメロンに降り注ぐ。
それを嫌ったのか、途端にキャメロンは元の姿に戻ってヴィクトリアを放り出した。
ヴィクトリアは力なくその場に崩れ落ちて無防備になるけれど、キャメロンに狙い打ちにされる前にアリアナが猛然と氷の魔法を放った。
「氷刃槍!」
彼女の両手から放出される鋭く尖った氷のつぶてが次々とキャメロンを襲う。
彼はすぐに身を翻して空中に飛び上がるけれど、アリアナは追撃の氷刃槍を放った。
「フン。お遊びのような技だな」
そう鼻で笑ったキャメロンの体が突然、炎の塊に変わった。
いや……それは炎というよりも高熱でドロドロに溶けた溶岩流だった。
アリアナの放った氷のつぶては、高熱流体と化したキャメロンの体に当たると一瞬で蒸発してしまう。
逆にキャメロンがブンッと腕を振るうと超高温の溶岩流が宙に舞い、アリアナの頭上に降り注いだ。
あ、危ないっ!
「ひええっ!」
アリアナは慌てて床を転がって直撃は避けるけれど、高熱で床に降り注いだ溶岩流が発する熱波を浴びて激しく咳き込んだ。
「ゴホッゴホッ! し、死ぬ~!」
あ、あれはマズイ。
暑さに弱いアリアナはあの熱波を浴びるだけでライフが削られてしまう。
ましてや溶岩流なんかの直撃を受けたらほぼ即死だろう。
「次から次へと姿を変えて小賢しい奴よ」
そう言って宙を素早く飛ぶノアは、その口から光のブレスを放った。
それは溶岩流となっていたキャメロンの体に直撃し、燃え盛る炎ごと吹き消してしまう。
や、やった!
そう喜んだのも束の間、キャメロンは再び姿を変えていた。
「み、水?」
キャメロンの体は今度は透明の液体で形作られている。
キャメロンはそのまま空中で弾け飛ぶと、豪雨のような勢いでノアの頭上に降り注ぎ、その鱗を濡らした。
「これが何だと言うのだ……ん?」
怪訝な顔をするノアだけど、次の瞬間、空中に散布された水のしぶきが一気にノアの元へ寄り集まった。
そして再び水の塊となったキャメロンの中にノアの体がスッポリ閉じ込められてしまう。
「ゴボッ……」
ノアは口から空気の泡を吐き出して懸命にもがくけれど、水の中に閉じ込められてしまって逃げられない。
やばい!
あのままじゃ窒息する!
しかも水の塊と化しているキャメロンは体の中の水流を自在に操っているみたいで、ノアの顔の周りの水が目まぐるしく流れていた。
そのせいでノアは鼻や口から大量の空気を吐き出してしまい、見る見るうちに顔色が悪くなり、その動きも鈍くなった。
たった7しかないライフがどんどん減っていく。
やられる!
そう思ったその時、頭上から飛来した光の矢が次々と水の塊の中に飛び込んでいき、ノアの体に次々と命中する。
それはジェネットの放った断罪の矢だった。
光の矢がノアの鱗に次々と当たり、その体を水の中から一気に押し出した。
「プハアッ! ゴホッ! ゴホゴホッ!」
ようやく水の塊の中から飛び出したノアは地面に転がって激しくむせる。
彼女の残りのライフは2まで減ってしまっていた。
よほど苦しかったんだ。
僕は愕然として広場の中を見つめた。
ヴィクトリアは倒れたまま動かず、アリアナは床に膝をついて苦しげに顔をしかめている。
ノアは寝ころんだまま荒い呼吸で喘ぎ、ジェネットは唇を噛みしめている。
キャメロンは空中で再び元の姿に戻り、そんな彼女たちを見下ろして高笑いを響かせた。
「ハッハッハ! そんな調子で大丈夫か? こんなのはまだまだ序の口だぞ」
あ、あの4人がここまで苦戦するなんて……。
僕は目の前で繰り広げられる信じ難い光景に唇を震わせるほかなかった。
床に倒れていた僕は身を起こして周囲を見回す。
僕はさっき床に沈みこんだその場所とほぼ同じところに自分がいることを理解した。
だけどミランダとイザベラさんの姿がどこにもない。
そしてさっきまでと違うのは広場の中にはジェネット、アリアナ、ヴィクトリア、ノアの4人の姿があることだった。
お、表世界に戻ってきたんだ。
「み、みんな……」
「アル様!」
たまたま一番僕の近くにいたジェネットが駆け寄って来てくれる。
中央広場の中にあれほど溢れ返っていた堕天使の姿はなかった。
どうやら彼女たちが全員倒してくれたみたいだ。
ジェネットは座り込んでいる僕の手を取って、起こしてくれた。
「アル様。今まで一体どちらに……」
そう言いかけたジェネットがいきなり背後を振り返り、懲悪杖を振り上げる。
ゴキンという硬くて重い音とともに弾かれた何かが、近くの壁に当たってさらに大きな音を立てた。
飛来してきたそれは……拳大の黒い鉄球だった。
僕は状況を悟り、思わず緊張で身を固くする。
頭上から高速で投げられた鉄球をジェネットがギリギリのところで弾き飛ばしたんだ。
彼女は厳然たる表情で頭上を見上げている。
その視線の先では、さっき僕らをこっちの世界に引き戻した堕天使キャメロンが空中に浮かんでいた。
彼は手の中から茶色い豆粒のような物をつまみ上げると、それを黒い鉄球に変化させる。
また強制変換でプログラムを書き換えて物質を別の物へと変換したんだ。
あ、あれを投げつけてきたのか。
危ないところだった。
「よく回避したな。聖女ジェネット」
キャメロンは余裕の表情を浮かべて僕らを見下ろしている。
ジェネットはそんな彼を見上げて呟いた。
「あ、あれは……キャメロン?」
すぐにアリアナとヴィクトリア、それからノアが集まって来てくれる。
みんなの無事な姿に僕はひとまず安堵した。
僕らは頭上のキャメロンに注意を向けたまま、言葉を交わし合う。
「アル君! 無事でよかったぁ」
「どこ行ってたんだよ。アルフレッド。堕天使どもは全員アタシらが片付けたぞ」
「心配かけてごめんね。実は……」
僕はミランダと共に天使長のイザベラさんによって裏天樹に引き込まれてからのことを手短に話した。
ミランダがイザベラさんを2回倒して3つ目の命が発動する時に、あのキャメロンがイザベラさんの体から出てきたということ、そしてキャメロンがイザベラさんと魔王ドレイクとの間に生まれた堕天使であるということを。
アリアナとヴィクトリアはその話をイマイチ理解できずに怪訝ば表情を浮かべていたけれど、ジェネットは深く頷いてキャメロンを睨みつける。
「なるほど。紳士的な商人の姿は仮初。今のあの姿こそが本性というわけですか」
ノアだけはその話に興味なさそうに周囲を見回しながら言った。
「ところでアルフレッド。あの高慢ちきな魔女の姿がないが? やられよったのか?」
「いや、さっきまで一緒にいたんだけど、僕にも分からないんだ。彼女はかなりダメージを負って、その上動けなくなってしまっていたから心配なんだけど……」
言葉を交わし合う僕らを見下ろしていたキャメロンがそこで両手をパンパンと打ち鳴らした。
途端にシステム・ウインドウが開かれる。
【本フィールドのスキル使用規制を全面解除】
あ、あれは……イザベラさんと同じことがキャメロンにも出来るのか。
だけどこれで皆、自慢のスキルが使えるようになった。
唐突な規制解除を訝しむジェネット達に向かってキャメロンは声を上げる。
「さて、再会の挨拶は終わったか? あらためて自己紹介しようか。俺はキャメロン。この姿でまみえるのは初めてだったな。さっそくだが貴様ら4人には俺の遊び相手になってもらおう」
そう言うとキャメロンは次々と鉄球を投げつけた。
超高速で飛来するそれをアリアナはギリギリのところで避け、ノアは体の鱗でいなし、ヴィクトリアは嵐刃戦斧で叩き落とす。
三者三様の対応を見たキャメロンが口から長い舌を覗かせて笑う。
「いいぞ。魔女ミランダが大して相手にならなかったんでな。貴様らはガッカリさせないでくれよ。4人全員なら俺とそこそこやり合えるかもしれんな。全員でかかってこい」
それを聞いて激昂したのはヴィクトリアだった。
「てめえ。ナメてんじゃねえぞ! アタシがタイマンでぶっ潰してやる。降りて来い!」
「わざわざ勝てる確率を落として1対1にこだわるか。不合理だな。くだらんプライドをへし折ってやろう」
そう言うとキャメロンは降下してきて床の上でヴィクトリアと対峙した。
「武器は斧か。ならば俺も同じ条件にしよう」
そう言うとキャメロンは持っていた鉄球を強制変換で一本の黒い斧に変えた。
そうして対峙する2人に僕は思わず声を上げる。
「ヴィクトリア! いくら君でも1対1では無茶だ!」
そう言う僕だけどヴィクトリアはキャメロンを睨みつけたまま、今にも飛びかかろうとしていた。
思わず足を踏み出そうとする僕をジェネットが脇から制止し、そっと耳打ちをする。
「アル様。彼女が危なくなったら私たちが加勢に入ります。逆にキャメロンが隙を見せたらその時は遠慮なく私達全員でかかって一気に取り押さえますから。今は我慢です」
「ジェネット……」
心配する僕の目の前でキャメロンとヴィクトリアが激突する。
猛然と突進し、その勢いで嵐刃戦斧をぶつけるヴィクトリアに、キャメロンも斧でぶつかっていく。
物凄い音を響かせて斧の打ち合いが始まった。
あんな勢いで斧を振るったら、腕の骨が砕けてしまうんじゃないかと思うほどの衝撃にも揺るがず、ヴィクトリアは猛然と斧を打ち下ろす。
キャメロンも真っ向から引かずに応戦した。
2人の打ち合いはまったく互角のまま1分以上にも渡って続く。
巨大な岩同士がぶつかるような轟音と衝撃が続き、それが空気を伝わってビリビリとお腹に響くほどだ。
だけど……恐るべきはキャメロンだった。
両者は互角なように見えるけれど、ヴィクトリアが両手で斧を振るうのに対して、キャメロンは片手でそれに応戦していたんだ。
しかも高身長のヴィクトリアにまったく打ち負けていないどころか、背丈の低いキャメロンが徐々に押し始めている。
歯を食いしばるヴィクトリアとは対照的にキャメロンは笑みを浮かべたままだ。
「くっ!」
「どうした! そんなものか!」
そう言って斧を振るうキャメロンに徐々に押し込まれ、ヴィクトリアがついに1歩2歩と後退する。
そ、そんな……あのヴィクトリアが接近戦で劣勢に立たされ始めた。
僕が信じられない思いでその様子を見つめる中、キャメロンの鋭い一撃によってついにヴィクトリアの嵐刃戦斧が弾かれてその手からこぼれ落ちてしまった。
重量のある嵐刃戦斧はガツンという音を立てて床に突き立つ。
や、やばいっ!
だけどヴィクトリアは百戦錬磨の動きで体を捻ると、腰帯から素早く抜いた羽蛇斧をキャメロンに投げつけた。
キャメロンは当然のようにこれを斧で弾くけれど、その一瞬の隙をヴィクトリアが突いた。
床に突き立った嵐刃戦斧を拾い上げて即座に、得意の大技を発動させる。
「くたばっちまえ! 嵐刃大旋風!」
重量自慢の大斧・嵐刃戦斧を、腕力と念力を組み合わせて超高速で振り回す彼女の上位スキルだ。
その刃の嵐に巻き込まれたら、決して助からない必殺の一撃だった。
だけどキャメロンはカッと両目を見開くと、その刃の嵐の中に自ら飛び込んだ。
その途端、彼の体がパンッと弾けたんだ。
僕は我が目を疑った。
刃の嵐に巻き込まれたキャメロンの体はまるで水風船が破裂したみたいに、液状化して弾け飛んだ。
そしてヴィクトリアはその液体を全身に浴びてしまう。
それでも彼女の放つ嵐刃大旋風は止まらない。
はず……なんだけど。
「な、何だこれ! く、くそっ……」
液状化したキャメロンは粘り気を帯びていて、ヴィクトリアが動けば動くほどのその粘り気が増していくように思えた。
やがてヴィクトリアの腕、足、体、髪そして嵐刃戦斧に絡みついた粘液が、ついに彼女の動きを完全に止めてしまう。
「うぐぐ……」
必死に体を動かそうとするけれど、ヴィクトリアは完全に身動きが取れなくなってしまっていた。
強力な弾力性を持つその粘液はいくら腕力のある彼女が引っ張ってもちぎれない。
それどころか粘液はヴィクトリアの首や顔にもまとわりつき、その鼻と口を塞いだ上に首に絡みついて気道を締め上げる。
ついにヴィクトリアが嵐刃戦斧をその手から落とし、その場にガックリと膝をついてしまった。
こ、これ以上は危険だ。
様子を見ていたジェネット、アリアナ、ノアの3人が反射的に飛び込んでいき、ヴィクトリアの加勢に入った。
「清光霧」
ジェネットが振りかざした懲悪杖の宝玉から光輝く霧が噴出してヴィクトリアに絡み付いたキャメロンに降り注ぐ。
それを嫌ったのか、途端にキャメロンは元の姿に戻ってヴィクトリアを放り出した。
ヴィクトリアは力なくその場に崩れ落ちて無防備になるけれど、キャメロンに狙い打ちにされる前にアリアナが猛然と氷の魔法を放った。
「氷刃槍!」
彼女の両手から放出される鋭く尖った氷のつぶてが次々とキャメロンを襲う。
彼はすぐに身を翻して空中に飛び上がるけれど、アリアナは追撃の氷刃槍を放った。
「フン。お遊びのような技だな」
そう鼻で笑ったキャメロンの体が突然、炎の塊に変わった。
いや……それは炎というよりも高熱でドロドロに溶けた溶岩流だった。
アリアナの放った氷のつぶては、高熱流体と化したキャメロンの体に当たると一瞬で蒸発してしまう。
逆にキャメロンがブンッと腕を振るうと超高温の溶岩流が宙に舞い、アリアナの頭上に降り注いだ。
あ、危ないっ!
「ひええっ!」
アリアナは慌てて床を転がって直撃は避けるけれど、高熱で床に降り注いだ溶岩流が発する熱波を浴びて激しく咳き込んだ。
「ゴホッゴホッ! し、死ぬ~!」
あ、あれはマズイ。
暑さに弱いアリアナはあの熱波を浴びるだけでライフが削られてしまう。
ましてや溶岩流なんかの直撃を受けたらほぼ即死だろう。
「次から次へと姿を変えて小賢しい奴よ」
そう言って宙を素早く飛ぶノアは、その口から光のブレスを放った。
それは溶岩流となっていたキャメロンの体に直撃し、燃え盛る炎ごと吹き消してしまう。
や、やった!
そう喜んだのも束の間、キャメロンは再び姿を変えていた。
「み、水?」
キャメロンの体は今度は透明の液体で形作られている。
キャメロンはそのまま空中で弾け飛ぶと、豪雨のような勢いでノアの頭上に降り注ぎ、その鱗を濡らした。
「これが何だと言うのだ……ん?」
怪訝な顔をするノアだけど、次の瞬間、空中に散布された水のしぶきが一気にノアの元へ寄り集まった。
そして再び水の塊となったキャメロンの中にノアの体がスッポリ閉じ込められてしまう。
「ゴボッ……」
ノアは口から空気の泡を吐き出して懸命にもがくけれど、水の中に閉じ込められてしまって逃げられない。
やばい!
あのままじゃ窒息する!
しかも水の塊と化しているキャメロンは体の中の水流を自在に操っているみたいで、ノアの顔の周りの水が目まぐるしく流れていた。
そのせいでノアは鼻や口から大量の空気を吐き出してしまい、見る見るうちに顔色が悪くなり、その動きも鈍くなった。
たった7しかないライフがどんどん減っていく。
やられる!
そう思ったその時、頭上から飛来した光の矢が次々と水の塊の中に飛び込んでいき、ノアの体に次々と命中する。
それはジェネットの放った断罪の矢だった。
光の矢がノアの鱗に次々と当たり、その体を水の中から一気に押し出した。
「プハアッ! ゴホッ! ゴホゴホッ!」
ようやく水の塊の中から飛び出したノアは地面に転がって激しくむせる。
彼女の残りのライフは2まで減ってしまっていた。
よほど苦しかったんだ。
僕は愕然として広場の中を見つめた。
ヴィクトリアは倒れたまま動かず、アリアナは床に膝をついて苦しげに顔をしかめている。
ノアは寝ころんだまま荒い呼吸で喘ぎ、ジェネットは唇を噛みしめている。
キャメロンは空中で再び元の姿に戻り、そんな彼女たちを見下ろして高笑いを響かせた。
「ハッハッハ! そんな調子で大丈夫か? こんなのはまだまだ序の口だぞ」
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抗議はしない。
訂正もしない。
ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。
――それが、誰にとっての不合格なのか。
まだ、誰も気づいていない。
欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。
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