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最終章 決戦! 天樹の塔
第14話 絶望的な戦力差
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「清光霧」
宙を舞いながらジェネットが放つ神聖魔法がキャメロンを襲う。
だけどキャメロンは素早く宙を旋回してこれを見事に回避していた。
僕の頭上では2人の空中戦が繰り広げられている。
今一番元気なジェネットが奮闘してくれているけれど、さすがの彼女でもキャメロンを相手に劣勢を強いられていた。
長くはもたないぞ。
ジェネットが戦っている間、僕は倒れているヴィクトリアの元へと駆け寄った。
キャメロンと戦う4人の中でも、ヴィクトリアが一番重傷だった。
急激なライフ低下によるショック状態で彼女は気を失ってしまっていて、目を覚ましそうもない。
僕はアイテム・ストックから回復ドリンクを取り出した。
その間にも傷ついたアリアナとノアは所有している回復ドリンクを自ら使おうとしていた。
だけどスキルが使えるようになった今も、相変わらず回復システムは復旧していないようで、回復ドリンクは用を成さなかった。
ヴィクトリアに回復をドリンクを投与してみたけれど、大幅に減った彼女のライフはまるで回復しない。
「くそっ。まだ駄目なのか」
アリアナとノアに視線を送るけれど、彼女たちも無念そうに首を横に振る。
やっぱりダメか。
僕はとにかくヴィクトリアの目を覚まそうと彼女に呼び掛けるけれど、そこでキャメロンの攻撃を受けたジェネットが上空から僕のすぐ傍に落下してきて床に叩きつけられた。
「うぐっ……」
「ジェネット!」
僕が駆け寄ると、ジェネットは痛みに顔をしかめながら頭上を見据えた。
中央広場の吹き抜けに浮かぶキャメロンが僕らを見下ろしている。
「そんなものか? 聖女ジェネット。もっと本気になってもらわないと困るな。時間稼ぎなど無駄だ。俺を殺すつもりでかかってこい」
くそっ!
キャメロンの反則的な強さに僕は絶望的な気持ちになりながらジェネットに手を貸した。
「ジェネット! 大丈夫?」
「だ、大丈夫です。ですが……このままでは全滅は必至。何か手を打たなければ……」
ジェネットは痛みを堪えて立ち上がりながらそう言う。
ミランダとヴィクトリアを欠き、残された僕らでキャメロンに立ち向かわなきゃならない。
熱波を浴びて苦しげなアリアナ、そして水責めによって手痛いダメージを負ったノアが僕の元へ集う。
「ア、アル君。何かいい手はない?」
アリアナは困り果てた顔でそう言う。
変幻自在に姿を変えるキャメロンを相手にどう戦えばいいのか、この場にいる全員が困惑していた。
「みんなの力を合わせて何か手が打てれば……」
そうだ。
この中でジェネット、アリアナ、ノアの特性を一番よく知っているのは僕だ。
このメンバーで打てる手を考えないといけない。
僕が眉根を寄せて思案する中、ノアが頭上のキャメロンを睨み付けながら言った。
「せめて奴がほんの少しの間でも固形の姿になっているのであれば、ノアの竜牙槍砲で粉々に打ち砕いてくれるのだが」
ノアの上位スキル・竜牙槍砲。
蛇竜槍を支点にドリル状に回転したノアが突進して敵を貫く大技だ。
彼女とヴィクトリアとの対戦時に僕もこの目で見ている。
確かに破壊力抜群の大技だけど、キャメロンのように自在に液体化できる相手には暖簾に腕押しで不発に終わってしまう恐れが大きい。
キャメロンの強制変換を一時的にでも使えなくさせる方法はないのか。
そう考えながら僕は心配そうにこちらを見ているアリアナと目が合った。
……そうだ。
僕は思いついたことを声を低めて3人に伝えた。
今やれるのはこれしかない。
「作戦会議は終わったか? あまり退屈させるなよ。そろそろ貴様らも全滅が近いな」
頭上で僕らの様子を見下ろしていたキャメロンがそう言って翼を大きく広げた。
「アリアナは防御に徹して。ノアはとにかく呼吸を整えておいて」
そう言うと僕はEガトリングを取り出して射撃態勢に入る。
そして隣に立つジェネットに声をかけた。
彼女は矢面に立って戦わなければならない。
一番苦労する役割を担ってもらうことになる。
「ジェネット。一番大変な役をさせちゃうけど……」
「それは一番信頼して下さってるってことですものね。腕が鳴ります」
そう言ってジェネットはこんな状況にもかかわらず、おどけて見せた。
そんな彼女の気遣いに僕は感謝の意を込めて頷いた。
そしてEガトリングを起動して頭上のキャメロンに向けた射撃を開始する。
同時にジェネットは懲悪杖を手に飛び立ち、キャメロンに向かっていく。
あらかじめジェネットはこの銃の除外リストに登録済みだから、誤射してしまう心配はない。
キャメロンは光弾を避けながら、空中で作り出した杖を振り回してジェネットと打ち合う。
その間に僕の背後ではアリアナが次々と永久凍土を作り出して広場の中に一定間隔で配置していく。
もしまたキャメロンから高熱の溶岩流を浴びせられそうになったら、咄嗟に凍土を盾にして身を守れるように。
そのためにアリアナは惜しみなく魔力を盛大に使い、ところ狭しと凍土を配置する。
その凍土の裏側にノアは身を潜めて休息を取っていた。
僕も凍土の陰から陰へと渡り歩きながら射撃を続ける。
撃つたびにひどい頭痛に苛まれるけれど、苦しいのは僕だけじゃない。
頭上ではキャメロンの猛攻を前にジェネットが辛い戦いを強いられている。
僕は宙を舞うキャメロンの動きを見ながら銃口でその姿を追うけれど、当てるのは至難の業だった。
だけど撃ち続けることで彼の気を引き付ける牽制にはなるはずだ。
背後からはアリアナが巨大な凍土の塊を発生させてそれが床に落ちるズシンズシンという音が続いていたけれど、ふいにその音が鳴り止んだ。
それが合図だった。
僕はEガトリングをキャメロンに向けて撃ちながら、一度だけ狙いを外して天井に向け数個の光弾を放つ。
僕の合図を受けたジェネットが魔力を集中させて必殺の神聖魔法を唱えた。
「断罪の矢!」
天井から無数に降り注ぐ光の矢はジェネットの意思によって完全に制御されている。
それはキャメロンを取り囲むようにして次々と襲いかかった。
「なるほど。すさまじい技だが、俺には無意味だと分からんか?」
キャメロンの体はその輪郭を保ったまま再び液体化する。
だけどそれを見越していたジェネットは神聖魔法の複合技を見せた。
「清光霧!」
懲悪杖の先端から光輝く霧が再び放出される。
ジェネットは断罪の矢を操りながら清光霧を放出してキャメロンを攻め立てた。
光の矢では液体に対して効果が見込めないけれど、あの光の霧は別みたいだ。
それが液体の体に浸透しかけると、それを嫌ったのかキャメロンが実体に戻る。
「チッ! 小賢しい!」
実体化したキャメロンは断罪の矢によって腕や足を切り裂かれるのも構わず、一気に間合いを詰めてジェネットに襲いかかった。
ジェネットは応戦の構えを取るけれど、空中で組みつかれて懲悪杖を落としてしまう。
2人は取っ組み合いのような状況になりながら落下してくる。
「ジェネット!」
声を上げた僕はそこで背後から迫る強烈な冷気を感じた。
振り返ると、アリアナは腰を落として両手を広げている。
そしてその体は強烈な冷気に包まれて青白く輝きを放っていた。
準備は万端だ。
先ほどから永久凍土を使い続けたアリアナの魔力はゼロになっている。
それは彼女が特殊スキルを発動させる条件を満たしたということだった。
氷の魔道拳士アリアナの最後の切り札。
それは想像を絶する極寒の嵐だった。
その恐るべき威力を知っている僕は大きな声を張り上げた。
「ジェネット!」
僕の声に応じ、ジェネットは空中で懸命に体の位置を入れ替え、キャメロンの顔に手の平を向けた。
するといつもは懲悪杖の宝玉から放出される清光霧が彼女の手の平から噴射され、キャメロンの顔に噴きつけられた。
「チィッ!」
思わず顔を背けるキャメロンをジェネットは思い切り蹴り飛ばした。
組みついていた2人の体が離れ、その距離が開いていく。
それを見たアリアナが体中にため込んでいた凍気を一気に解放した。
「乱気流雪嵐!」
左右に広げていた両手を前に突き出した途端、猛烈な雪と氷の突風が放出された。
それは全てを凍てつかせる極寒の乱気流となってキャメロンを襲う。
キャメロンは咄嗟に再び高熱の溶岩流と化したけれど、猛吹雪はそんなキャメロンをも飲み込んで凍りつかせてしまった。
今だ!
凍り付いたキャメロンの頭上にはドリル状に高速回転するノアの姿が見える。
「竜牙槍砲!」
弾丸のように高速で飛翔するノアの大技が炸裂する。
回転する蛇竜槍の切っ先が凍結したキャメロンの体に触れた途端、耳をつんざくような甲高い音が響き渡った。
だけどそれも一瞬のことで、キャメロンの体はあっという間に粉々に砕け散ったんだ。
「や、やった……やったぁ!」
作戦通りに決まり、僕は思わず握りしめた拳を振り上げてそう叫んだ。
だけど……。
「えっ?」
僕は目を見張った。
粉々になった氷の破片が落下せずに空中でピタリと止まったんだ。
するとその氷の破片はあらぬ方向に向かって一斉に飛んだ。
「なっ……」
それは空中で静止していたジェネットを襲ったんだ。
不意を突かれたジェネットは咄嗟に断罪の矢を呼び寄せようとしたけれど間に合わなかった。
「きゃあっ!」
「ジェネット!」
ジェネットは凶器と化した氷の破片に次々と襲われて身体中を負傷してしまい、そのまま落下して床に激突した。
ま、まずいぞ。
かなりのダメージでジェネットは動けなくなっている。
僕はすぐにジェネットに駆け寄ろうとしたけれど、彼女を襲った氷の破片が今度は僕に向かって降り注ぐ。
「うわっ……」
そんな僕を咄嗟に背後から引っ張って永久凍土の陰に投げ込んだのはアリアナだった。
だけどそのせいでアリアナが身代わりになって氷の破片を浴びてしまった。
「うああっ……」
アリアナは必死に左右の手甲で顔と首を守ったけれど、氷の破片は彼女の腕や足、そしてお腹に突き刺さった。
「くっ……」
苦悶の声を漏らしたアリアナは、そのまま前のめりにガックリと倒れた。
「アリアナ!」
僕はアリアナを助けようと凍土の壁から身を乗り出したけれど、倒れているアリアナの傍の床に突き立っていた氷の破片がまるで意思を持っているかのように再び動き出して僕に向かってくる。
思わず怯んで足を止める僕を背中から誰かが抱え込み、そのまま宙へと浮かび上がった。
迫り来る氷の破片から僕を救ってくれたのは竜牙槍砲を終えて戻ってきたノアだった。
「ノア!」
「あの氷そのものがキャメロンなのであろうな。粉々に砕いてもなお倒せぬとは……」
背後から僕を抱えながらノアがそう呟いた。
彼女の言葉が示す通り、砕け散った氷が再び1ヶ所に集まり、キャメロンの姿形を象っていく。
そしてほどなくしてキャメロンは元の堕天使の姿に戻った。
「作戦は失敗に終わったのだな。打つ手なしか」
ノアの言葉が虚しく耳に響く中、僕は空中から眼下を見下ろした。
そこにはヴィクトリア、ジェネット、アリアナの3人が倒れたまま動かない。
完敗だった。
これ以上ないメンバーで挑んだにも関わらず、キャメロンの強大な力を前に僕らは何も出来なかった。
宙を舞いながらジェネットが放つ神聖魔法がキャメロンを襲う。
だけどキャメロンは素早く宙を旋回してこれを見事に回避していた。
僕の頭上では2人の空中戦が繰り広げられている。
今一番元気なジェネットが奮闘してくれているけれど、さすがの彼女でもキャメロンを相手に劣勢を強いられていた。
長くはもたないぞ。
ジェネットが戦っている間、僕は倒れているヴィクトリアの元へと駆け寄った。
キャメロンと戦う4人の中でも、ヴィクトリアが一番重傷だった。
急激なライフ低下によるショック状態で彼女は気を失ってしまっていて、目を覚ましそうもない。
僕はアイテム・ストックから回復ドリンクを取り出した。
その間にも傷ついたアリアナとノアは所有している回復ドリンクを自ら使おうとしていた。
だけどスキルが使えるようになった今も、相変わらず回復システムは復旧していないようで、回復ドリンクは用を成さなかった。
ヴィクトリアに回復をドリンクを投与してみたけれど、大幅に減った彼女のライフはまるで回復しない。
「くそっ。まだ駄目なのか」
アリアナとノアに視線を送るけれど、彼女たちも無念そうに首を横に振る。
やっぱりダメか。
僕はとにかくヴィクトリアの目を覚まそうと彼女に呼び掛けるけれど、そこでキャメロンの攻撃を受けたジェネットが上空から僕のすぐ傍に落下してきて床に叩きつけられた。
「うぐっ……」
「ジェネット!」
僕が駆け寄ると、ジェネットは痛みに顔をしかめながら頭上を見据えた。
中央広場の吹き抜けに浮かぶキャメロンが僕らを見下ろしている。
「そんなものか? 聖女ジェネット。もっと本気になってもらわないと困るな。時間稼ぎなど無駄だ。俺を殺すつもりでかかってこい」
くそっ!
キャメロンの反則的な強さに僕は絶望的な気持ちになりながらジェネットに手を貸した。
「ジェネット! 大丈夫?」
「だ、大丈夫です。ですが……このままでは全滅は必至。何か手を打たなければ……」
ジェネットは痛みを堪えて立ち上がりながらそう言う。
ミランダとヴィクトリアを欠き、残された僕らでキャメロンに立ち向かわなきゃならない。
熱波を浴びて苦しげなアリアナ、そして水責めによって手痛いダメージを負ったノアが僕の元へ集う。
「ア、アル君。何かいい手はない?」
アリアナは困り果てた顔でそう言う。
変幻自在に姿を変えるキャメロンを相手にどう戦えばいいのか、この場にいる全員が困惑していた。
「みんなの力を合わせて何か手が打てれば……」
そうだ。
この中でジェネット、アリアナ、ノアの特性を一番よく知っているのは僕だ。
このメンバーで打てる手を考えないといけない。
僕が眉根を寄せて思案する中、ノアが頭上のキャメロンを睨み付けながら言った。
「せめて奴がほんの少しの間でも固形の姿になっているのであれば、ノアの竜牙槍砲で粉々に打ち砕いてくれるのだが」
ノアの上位スキル・竜牙槍砲。
蛇竜槍を支点にドリル状に回転したノアが突進して敵を貫く大技だ。
彼女とヴィクトリアとの対戦時に僕もこの目で見ている。
確かに破壊力抜群の大技だけど、キャメロンのように自在に液体化できる相手には暖簾に腕押しで不発に終わってしまう恐れが大きい。
キャメロンの強制変換を一時的にでも使えなくさせる方法はないのか。
そう考えながら僕は心配そうにこちらを見ているアリアナと目が合った。
……そうだ。
僕は思いついたことを声を低めて3人に伝えた。
今やれるのはこれしかない。
「作戦会議は終わったか? あまり退屈させるなよ。そろそろ貴様らも全滅が近いな」
頭上で僕らの様子を見下ろしていたキャメロンがそう言って翼を大きく広げた。
「アリアナは防御に徹して。ノアはとにかく呼吸を整えておいて」
そう言うと僕はEガトリングを取り出して射撃態勢に入る。
そして隣に立つジェネットに声をかけた。
彼女は矢面に立って戦わなければならない。
一番苦労する役割を担ってもらうことになる。
「ジェネット。一番大変な役をさせちゃうけど……」
「それは一番信頼して下さってるってことですものね。腕が鳴ります」
そう言ってジェネットはこんな状況にもかかわらず、おどけて見せた。
そんな彼女の気遣いに僕は感謝の意を込めて頷いた。
そしてEガトリングを起動して頭上のキャメロンに向けた射撃を開始する。
同時にジェネットは懲悪杖を手に飛び立ち、キャメロンに向かっていく。
あらかじめジェネットはこの銃の除外リストに登録済みだから、誤射してしまう心配はない。
キャメロンは光弾を避けながら、空中で作り出した杖を振り回してジェネットと打ち合う。
その間に僕の背後ではアリアナが次々と永久凍土を作り出して広場の中に一定間隔で配置していく。
もしまたキャメロンから高熱の溶岩流を浴びせられそうになったら、咄嗟に凍土を盾にして身を守れるように。
そのためにアリアナは惜しみなく魔力を盛大に使い、ところ狭しと凍土を配置する。
その凍土の裏側にノアは身を潜めて休息を取っていた。
僕も凍土の陰から陰へと渡り歩きながら射撃を続ける。
撃つたびにひどい頭痛に苛まれるけれど、苦しいのは僕だけじゃない。
頭上ではキャメロンの猛攻を前にジェネットが辛い戦いを強いられている。
僕は宙を舞うキャメロンの動きを見ながら銃口でその姿を追うけれど、当てるのは至難の業だった。
だけど撃ち続けることで彼の気を引き付ける牽制にはなるはずだ。
背後からはアリアナが巨大な凍土の塊を発生させてそれが床に落ちるズシンズシンという音が続いていたけれど、ふいにその音が鳴り止んだ。
それが合図だった。
僕はEガトリングをキャメロンに向けて撃ちながら、一度だけ狙いを外して天井に向け数個の光弾を放つ。
僕の合図を受けたジェネットが魔力を集中させて必殺の神聖魔法を唱えた。
「断罪の矢!」
天井から無数に降り注ぐ光の矢はジェネットの意思によって完全に制御されている。
それはキャメロンを取り囲むようにして次々と襲いかかった。
「なるほど。すさまじい技だが、俺には無意味だと分からんか?」
キャメロンの体はその輪郭を保ったまま再び液体化する。
だけどそれを見越していたジェネットは神聖魔法の複合技を見せた。
「清光霧!」
懲悪杖の先端から光輝く霧が再び放出される。
ジェネットは断罪の矢を操りながら清光霧を放出してキャメロンを攻め立てた。
光の矢では液体に対して効果が見込めないけれど、あの光の霧は別みたいだ。
それが液体の体に浸透しかけると、それを嫌ったのかキャメロンが実体に戻る。
「チッ! 小賢しい!」
実体化したキャメロンは断罪の矢によって腕や足を切り裂かれるのも構わず、一気に間合いを詰めてジェネットに襲いかかった。
ジェネットは応戦の構えを取るけれど、空中で組みつかれて懲悪杖を落としてしまう。
2人は取っ組み合いのような状況になりながら落下してくる。
「ジェネット!」
声を上げた僕はそこで背後から迫る強烈な冷気を感じた。
振り返ると、アリアナは腰を落として両手を広げている。
そしてその体は強烈な冷気に包まれて青白く輝きを放っていた。
準備は万端だ。
先ほどから永久凍土を使い続けたアリアナの魔力はゼロになっている。
それは彼女が特殊スキルを発動させる条件を満たしたということだった。
氷の魔道拳士アリアナの最後の切り札。
それは想像を絶する極寒の嵐だった。
その恐るべき威力を知っている僕は大きな声を張り上げた。
「ジェネット!」
僕の声に応じ、ジェネットは空中で懸命に体の位置を入れ替え、キャメロンの顔に手の平を向けた。
するといつもは懲悪杖の宝玉から放出される清光霧が彼女の手の平から噴射され、キャメロンの顔に噴きつけられた。
「チィッ!」
思わず顔を背けるキャメロンをジェネットは思い切り蹴り飛ばした。
組みついていた2人の体が離れ、その距離が開いていく。
それを見たアリアナが体中にため込んでいた凍気を一気に解放した。
「乱気流雪嵐!」
左右に広げていた両手を前に突き出した途端、猛烈な雪と氷の突風が放出された。
それは全てを凍てつかせる極寒の乱気流となってキャメロンを襲う。
キャメロンは咄嗟に再び高熱の溶岩流と化したけれど、猛吹雪はそんなキャメロンをも飲み込んで凍りつかせてしまった。
今だ!
凍り付いたキャメロンの頭上にはドリル状に高速回転するノアの姿が見える。
「竜牙槍砲!」
弾丸のように高速で飛翔するノアの大技が炸裂する。
回転する蛇竜槍の切っ先が凍結したキャメロンの体に触れた途端、耳をつんざくような甲高い音が響き渡った。
だけどそれも一瞬のことで、キャメロンの体はあっという間に粉々に砕け散ったんだ。
「や、やった……やったぁ!」
作戦通りに決まり、僕は思わず握りしめた拳を振り上げてそう叫んだ。
だけど……。
「えっ?」
僕は目を見張った。
粉々になった氷の破片が落下せずに空中でピタリと止まったんだ。
するとその氷の破片はあらぬ方向に向かって一斉に飛んだ。
「なっ……」
それは空中で静止していたジェネットを襲ったんだ。
不意を突かれたジェネットは咄嗟に断罪の矢を呼び寄せようとしたけれど間に合わなかった。
「きゃあっ!」
「ジェネット!」
ジェネットは凶器と化した氷の破片に次々と襲われて身体中を負傷してしまい、そのまま落下して床に激突した。
ま、まずいぞ。
かなりのダメージでジェネットは動けなくなっている。
僕はすぐにジェネットに駆け寄ろうとしたけれど、彼女を襲った氷の破片が今度は僕に向かって降り注ぐ。
「うわっ……」
そんな僕を咄嗟に背後から引っ張って永久凍土の陰に投げ込んだのはアリアナだった。
だけどそのせいでアリアナが身代わりになって氷の破片を浴びてしまった。
「うああっ……」
アリアナは必死に左右の手甲で顔と首を守ったけれど、氷の破片は彼女の腕や足、そしてお腹に突き刺さった。
「くっ……」
苦悶の声を漏らしたアリアナは、そのまま前のめりにガックリと倒れた。
「アリアナ!」
僕はアリアナを助けようと凍土の壁から身を乗り出したけれど、倒れているアリアナの傍の床に突き立っていた氷の破片がまるで意思を持っているかのように再び動き出して僕に向かってくる。
思わず怯んで足を止める僕を背中から誰かが抱え込み、そのまま宙へと浮かび上がった。
迫り来る氷の破片から僕を救ってくれたのは竜牙槍砲を終えて戻ってきたノアだった。
「ノア!」
「あの氷そのものがキャメロンなのであろうな。粉々に砕いてもなお倒せぬとは……」
背後から僕を抱えながらノアがそう呟いた。
彼女の言葉が示す通り、砕け散った氷が再び1ヶ所に集まり、キャメロンの姿形を象っていく。
そしてほどなくしてキャメロンは元の堕天使の姿に戻った。
「作戦は失敗に終わったのだな。打つ手なしか」
ノアの言葉が虚しく耳に響く中、僕は空中から眼下を見下ろした。
そこにはヴィクトリア、ジェネット、アリアナの3人が倒れたまま動かない。
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