だって僕はNPCだから 3rd GAME

枕崎 純之助

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最終章 決戦! 天樹の塔

第15話 奪われていく力

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 打つ手なし。
 成すすべなし。
 そんな言葉が頭の中で無情に繰り返される。
 敗色濃厚の戦場に残された僕とノアは憎き仇敵をにらみつけることしか出来ずにいた。
 堕天使だてんしキャメロン。
 すきを見せない彼を相手に、これ以上どう立ち回ればいいんだ。

「さて。いよいよ佳境だな。バッドエンドはすぐそこだ。アルフレッド」

 キャメロンはそう言うと指をパチリと鳴らした。
 すると天井から何かがストンと降りて来て、吹き抜けの中にぶら下がる。
 それは銀色の鎖で吊り下げられた十字架であり、そこには……ミランダがはりつけにされていた。

「ミ、ミランダ……」

 僕は心臓が跳ね上がるのを感じずにはいられなかった。
 表世界に戻って来たと同時に姿を消してしまったミランダが、あんな形でまた現れるなんて……。
 彼女は気を失っているようでグッタリとうなだれたままピクリとも動かない。
 僕は反射的に声を上げていた。

「キャメロン! ミランダを今すぐ放せ!」

 僕の怒声にもキャメロンは冷笑を浮かべたまま、芝居がかった仕草で首を横に振る。

「断る。言ったろう? こいつは俺のえさだと。こいつだけじゃない」

 そう言うとキャメロンが鋭く口笛を吹いた。
 その途端に天井からいくつもの鎖が伸びてきた。
 その鎖は床まで伸びて来て……倒れているジェネットやアリアナ、ヴィクトリアの体に巻き付くと、彼女たちを空中へと巻き上げていく。
 な、何を……一体何をするつもりなんだ!
 
「やめろ! キャメロン!」
「嫌だね」

 平然とそう言うキャメロンが再び指を鳴らすと、巻き上げられていく3人とは逆に天井から3つの十字架が降りてくる。
 そして鎖に巻き上げられたジェネットたちは次々とその十字架にくくりつけられてしまう。
 あっという間に3人の少女たちは十字架にはりつけにされてしまった。

「さあアルフレッド。楽しいショーの始まりだ」

 空中ではりつけされたに4人の傍に浮かぶキャメロンはそう言うと、僕を見下ろしてゆがんだ笑みを浮かべた。
 僕は焦燥感に駆られて声を張り上げる。

「何をするつもりなんだ。皆を放せ!」
「そうあせるなよ。貴様の大事な姫君たちを俺がいい声で鳴かせてやる。喜べ」

 嗜虐しぎゃく的な笑みで口元から牙をのぞかせながらキャメロンはヴィクトリアの前に移動する。
 十字架にはりつけにされたままヴィクトリアはぐったりと気を失っていた。
 そんな彼女の前でキャメロンは右手を自分の目の前に掲げる。

情報編集ゲノム・エディット

 そう言った途端、キャメロンの右手の周りに奇妙な黒い帯がいくつも現れて、彼の手首の周辺をぐるぐると回り始めた。
 な、何だ?
 僕が唖然として見つめる中、キャメロンはその右手をいきなりヴィクトリアのお腹に押し当てた。
 するとヴィクトリアのお腹に黒い穴が発生し、キャメロンの右手はその穴を通して彼女のお腹の中にズズズと入り込んでいく。

 あ、あれはさっき小魔女リトルウィッチにやったのと同じ行為だ。
 途端に気を失っていたヴィクトリアがビクンと動き、上半身を跳ね上げるように反らした。
 その口から苦痛の叫び声が発せられる。

「うぐあああああっ!」

 ヴィクトリアの表情が見たこともないほどの苦悶くもんゆがんでいる。
 キャメロンはそれにも構うことなく、まるでヴィクトリアのお腹の中を探るかのように右手をグリグリと動かした。
 その度にヴィクトリアはもだえ苦しみながら声を漏らす。
 そんな彼女にキャメロンはあざけりの視線を向けた。

「まったく色気のない叫び声だな。興ががれる」
「や、やめろ! キャメロン! 今すぐにやめるんだ!」
「黙れアルフレッド。そしてこの女を見ろ」

 そう言うとキャメロンは右手をヴィクトリアのお腹から抜き、左手で彼女の赤く燃えるような髪をつかんだ。
 そこで僕は目をしばたかせたんだ。

「えっ……」

 ヴィクトリアの髪の毛の色が見る見るうちに白く変色していく。
 いや、髪だけじゃない。
 彼女の褐色かっしょくの肌やよろいの色すらも真っ白になっていく。
 まるで色をつける前の下書きの絵のように。

「この女の中のプログラムを強制的に編集して、キャラクター・カラーを無効化したんだ。この意味が分かるか? アルフレッド」

 きょ、強制的に編集?
 僕はその言葉に戦慄せんりつを覚えて立ち尽くした。

「俺のこの情報編集ゲノム・エディットがあれば、この女の姿形を自由に変えられるだけじゃなく、各種のステータス値も自在に編集可能だ。きたえ上げられたこの女をレベル1の最下級まで戻すことも出来るぞ」
「そ、そんな……」

 そんな無茶苦茶な話ってあるか?
 一キャラクターであるキャメロンにそんな権限が与えられていいはずがない。

「何ならこのゴツい女を貴様好みの容姿に変えてやってもいいぞ。こんなむさ苦しいデカ女は貴様も嫌だろうからな。ククク」
「ふ、ふざけるなっ!」

 ヴィクトリアを侮辱ぶじょくするキャメロンの言葉に僕はカッとなって声を荒げた。
 だけどキャメロンは涼しい顔で右手に握った何かを僕に見せつける。

「まあ、俺にとって重要なのはそんな能力よりもこいつを手に入れられることだ」

 キャメロンが右手に持つそれは、指でつまめるほどの小さな基盤のようなものだった。
 
「これは感情プログラムの疑似ぎじ体だ。こいつは俺達NPCの感情を表現するために仕込まれている。俺が今、情報編集ゲノム・ディットによってヴィクトリアの体から切り離して取り出した」
「ど、どうしてそんなものを……」

 プログラムを抜かれたヴィクトリアは感情を失ってしまったように無表情になっていた。
 くっ……。
 キャメロンはその基盤をしげしげとながめながら言う。

「やはり俺がにらんだ通りだな。アルフレッド。さっきの話の続きだ。ここにいる女たちの感情プログラムはおまえの影響を受けて変質している」

 さっき裏天樹でキャメロンは確かに言っていた。
 僕に感化されてミランダやジェネット達も変わり始めていると。

「この変質した感情プログラムが動かぬ証拠だ。そしてこのプログラムが働くことで感情の動きによってそのキャラクターの能力が大きく変わる。おまえがそうであるようにな。俺が欲するのは、まさにこの力だ」

 そう言うとキャメロンは今度はいきなりジェネットの隣ではりつけにされているアリアナのお腹に右手を差し込んだ。

「きゃあああああっ!」

 ヴィクトリアと同様に気を失っていたアリアナが悲鳴を上げる。
 それを受けてキャメロンは高笑いを響かせた。

「ハッハッハ! こっちはなかなかいい声で鳴くじゃないか。これは痛めつけ甲斐がいがある」

 そう言うとキャメロンはアリアナの反応を楽しむように彼女の体内をまさぐり、アリアナは苦痛で狂ったように叫ぶ。
 僕はもう我慢できず、Eガトリングをフルスロットルで放射した。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」

 だけどキャメロンはアリアナのお腹から基盤を取り出すと、十字架に吊り下げられた4人の背後に回り、彼女たちを盾にして難を逃れる。
 あらかじめ除外リストに登録されているミランダたちの手前で光弾は消えてしまった。
 そしてそれからすぐに……今度は僕の体に異変が起きた。
 激しい頭痛がスッと引いたかと思うと、今まで感じたことのない脱力感に全身がさいなまれ、僕は思わずひざから崩れ落ちそうになった。

「くっ……」

 何とか踏みとどまったけれど、異変はそれだけで終わらなかった。
 Eガトリングによる射撃が唐突に止まってしまったんだ。
 そしていくら【Prompt】ボタンに指をかけても、それ以上光弾が射出されることはなかった。
 ど、どうして……。

「ようやく機が熟したか。この時を待っていた」

 キャメロンはそう言うとはりつけの4人の元を離れ、こちらに降下してくる。
 僕は歯を食いしばってEガトリングを構えるけれど、腕や指にまるで力が入らず、とうとう銃を落としてしまった。
 こ、こんな時に僕の体はどうして動いてくれないんだ。
 そんな僕を見ながらキャメロンは満足げに目を細めている。

「無駄だ。貴様はツケを払う時が来たんだよ」
「ツケ?」
「そうだ。その銃があって色々と助かっただろう? そろそろ使用料を払ってもらわないとなぁ」

 そう言うとキャメロンは降下速度を上げて一気に近付いてきた。
 そこでノアが再び僕を抱えて後方に飛んで逃げてくれる。
 だけどキャメロンは僕らを追って来ることはなく、床に落ちているEガトリングを拾い上げた。
 そして彼がそれを操作し始めると、Eガトリングは元の形態であるEライフルへと戻ったんだ。

「まさかこの銃の形態を変えてしまうとは思わなかったが、貴様に貸し与えたこの銃には、ある細工さいくをしておいたんだよ」

 そう言うとキャメロンは引き金の後ろにある銃の持ち手、銃床から何かを取り出した。
 僕はそれを見て息を飲む。
 キャメロンがEライフルから取り出したのは、ヴィクトリアやアリアナの体内から取り出したものと同じ小さな基盤だった。

「そ、それは……」
「これは貴様の感情エネルギーをたっぷり吸った疑似ぎじ体だ」

 ぼ、僕の感情エネルギーを吸った?

「貴様がこの銃に感情を込める度にそのエネルギーがここに蓄積されていったんだ。先ほど言った通り、貴様は感情の波によって能力が著しく変化する。その燃料となるのがコイツだ。細工さいくってのはこれのことさ」

 キャメロンは基盤をしげしげと見つめて得意げに言った。

「こいつは貴様の感情エネルギーを吸う際に、逆に貴様の体内の感情プログラムを枯渇させるマルウェアを放っていたんだ。貴様はこの銃を撃つほどに頭痛や脱力感に襲われただろう?」

 マルウェア。
 悪意のある不正なプログラムのことだ。
 そんなものが僕の体の中に……くっ。
 僕はそのことに気付かずにキャメロンに感謝し、この銃を使い続けていたのか。
 とんだマヌケだった。

「ハッハッハ! 信じた者に裏切られる気分はどうだ? いい顔をしているぞ。アルフレッド」

 そう言うとキャメロンはヴィクトリアとアリアナから取り出した基盤と、Eライフルから取り出した基盤の3つを自分の胸に押し当てる。
 するとさっきのヴィクトリアやアリアナと同様にキャメロンの胸に穴が開き、3つの基盤が彼の体内へと吸い込まれていく。
 そしてキャメロンはゆっくりと息を吸い込みながら両手の拳を力強く握った。

「フゥゥゥゥウッ! これだ……俺が求めていたのは」
 
 そう言うとキャメロンは先ほどの黒い鉄球を取り出し、それを思い切り投げつけてきた。
 僕は思わず身をすくめたけれど、鉄球の速度が速過ぎて、気付いた時には僕の背後の壁が崩れる音がした。
 僕を抱えてくれているノアも反応できないほどの速さだった。

 僕は呆然と目を見開き、キャメロンを見つめることしか出来ない。
 彼の力が先ほどまでより一層強くなっているのは明らかだった。
 キャメロンには何をどうしても勝てない。
 本能的にそう察して声を失う僕らを見上げ、キャメロンは大きく翼を広げた。

「さあ。俺の計画も最後の仕上げだ。まずはその邪魔な竜人娘を排除するとしようか」

 そう言うとキャメロンは僕らに向かって舞い上がった。
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