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第二章 クレイジー・パーティー・イン・ホスピタル
第6話 脳外科医・氷上恭一
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夜が白々と明け始めた。
新宮総合病院。
本日の夜間勤務を終えた脳外科医の氷上恭一はタクシーに乗ると、都内の高級ホテルへと向かった。
そこは彼が一ヶ月の研修期間の間、定宿にしているホテルだった。
いつものようにまっすぐ部屋に戻り、丸テーブルの上に置かれたノートパソコンを開くとテレビ電話を起動する。
「本日も勤務ご苦労さま。ドクター」
画面の中に東南アジア系の浅黒い肌を持つ若い修道女の姿が映る。
「ボス。ごきげんよう。今日も仕込みは上々ですよ」
そう言うと氷上はスーツを脱いでそれをハンガーにかけ、丸テーブルの前のソファーに腰を下ろした。
氷上のその言葉に画面の中の女は満足そうに頷いた。
「結構なことね。そろそろ病院という箱を使った実験に移行してもらうわ」
彼女の話に氷上の眼鏡の奥に覗く目が光る。
「生贄が用意された、ということですか?」
そう言う氷上に女は咽の奥を鳴らして笑った。
「ええ。それも極上のやつがね。ところで計画の進み具だけど、被検体はどの程度集まっているかしら?」
そう問う女に氷上は上機嫌で答えた。
「今日までで300人を越えましたよ。研修と称して外来患者や入院患者の多くと接触できるのは大きな利点ですね。直接触れることさえできれば確実にクラッキングできますから」
彼の報告に女はニヤリと笑みを浮かべた。
「安心したわ。ドクター。病院での実験の成果も楽しみにしているわよ」
女の言葉に氷上は至福の笑みをその顔にたたえて頷いた。
「了解です。楽しい祭になりそうですね」
悦に浸る氷上とは対照的に女は整然と告げた。
「生贄はカントルムからやってくる梓川恋華という女のエージェントよ。どうやらあのイクリシア・ミカエリスの弟子らしいわ」
その言葉を聞くと氷上の目が鋭い光を帯びる。
それは獲物を狩る捕食者の眼光を思わせた。
「ほう」
「梓川恋華はブレイン・クラッキングを防御することの出来る稀有な脳の持ち主なのよ」
「何ですって?」
氷上の顔が輝きを増す。
それは医師の顔というよりも、もはや猟奇的な殺人鬼の顔だった。
「捕らえたらドクターの好きにしていいわ。その女の脳はさぞかし研究のし甲斐があるでしょうね」
そう言ってニヤリと笑う女に、氷上は思わずこみ上げてくる愉悦の笑いを必死にかみ殺した。
「ボスは本当に私を焚きつけるのがお上手だ。面白い。良い結果をお見せしますよ。それでエージェントは何人ですか?」
「梓川恋華ただ一人。でも護衛らしき若い男が一人いるわ。妙な力を持った少年よ」
女の言葉に氷上はわずかに眉を潜める。
「たった二人? それはどういう……」
氷上はもっと多くの人数が派遣されて来るものと思っていたため、あまりにも少ないその人員に訝しげな様子を隠そうとしない。
氷上のそんな様子に女はすました顔で理由を話す。
「何かの間違いでも、こちらがナメられているわけでもないわ。たった一人で来るように私が仕向けた、ということ。前に話したでしょ? あちらの重鎮の中に話が通じるお友達がいるって」
女の話に氷上は納得の笑みを浮かべた。
「なるほど。敵方の幹部と通じているんでしたね」
「相手の頭を押さえるのは、情勢を可能な限りコントロールするための常套手段だから」
女の言葉に氷上は頷いた。
「ところでその護衛の男。実験の妨げになりそうですか?」
「いや……」
そう言うと女はその目に冷徹な光を走らせた。
新宮総合病院。
本日の夜間勤務を終えた脳外科医の氷上恭一はタクシーに乗ると、都内の高級ホテルへと向かった。
そこは彼が一ヶ月の研修期間の間、定宿にしているホテルだった。
いつものようにまっすぐ部屋に戻り、丸テーブルの上に置かれたノートパソコンを開くとテレビ電話を起動する。
「本日も勤務ご苦労さま。ドクター」
画面の中に東南アジア系の浅黒い肌を持つ若い修道女の姿が映る。
「ボス。ごきげんよう。今日も仕込みは上々ですよ」
そう言うと氷上はスーツを脱いでそれをハンガーにかけ、丸テーブルの前のソファーに腰を下ろした。
氷上のその言葉に画面の中の女は満足そうに頷いた。
「結構なことね。そろそろ病院という箱を使った実験に移行してもらうわ」
彼女の話に氷上の眼鏡の奥に覗く目が光る。
「生贄が用意された、ということですか?」
そう言う氷上に女は咽の奥を鳴らして笑った。
「ええ。それも極上のやつがね。ところで計画の進み具だけど、被検体はどの程度集まっているかしら?」
そう問う女に氷上は上機嫌で答えた。
「今日までで300人を越えましたよ。研修と称して外来患者や入院患者の多くと接触できるのは大きな利点ですね。直接触れることさえできれば確実にクラッキングできますから」
彼の報告に女はニヤリと笑みを浮かべた。
「安心したわ。ドクター。病院での実験の成果も楽しみにしているわよ」
女の言葉に氷上は至福の笑みをその顔にたたえて頷いた。
「了解です。楽しい祭になりそうですね」
悦に浸る氷上とは対照的に女は整然と告げた。
「生贄はカントルムからやってくる梓川恋華という女のエージェントよ。どうやらあのイクリシア・ミカエリスの弟子らしいわ」
その言葉を聞くと氷上の目が鋭い光を帯びる。
それは獲物を狩る捕食者の眼光を思わせた。
「ほう」
「梓川恋華はブレイン・クラッキングを防御することの出来る稀有な脳の持ち主なのよ」
「何ですって?」
氷上の顔が輝きを増す。
それは医師の顔というよりも、もはや猟奇的な殺人鬼の顔だった。
「捕らえたらドクターの好きにしていいわ。その女の脳はさぞかし研究のし甲斐があるでしょうね」
そう言ってニヤリと笑う女に、氷上は思わずこみ上げてくる愉悦の笑いを必死にかみ殺した。
「ボスは本当に私を焚きつけるのがお上手だ。面白い。良い結果をお見せしますよ。それでエージェントは何人ですか?」
「梓川恋華ただ一人。でも護衛らしき若い男が一人いるわ。妙な力を持った少年よ」
女の言葉に氷上はわずかに眉を潜める。
「たった二人? それはどういう……」
氷上はもっと多くの人数が派遣されて来るものと思っていたため、あまりにも少ないその人員に訝しげな様子を隠そうとしない。
氷上のそんな様子に女はすました顔で理由を話す。
「何かの間違いでも、こちらがナメられているわけでもないわ。たった一人で来るように私が仕向けた、ということ。前に話したでしょ? あちらの重鎮の中に話が通じるお友達がいるって」
女の話に氷上は納得の笑みを浮かべた。
「なるほど。敵方の幹部と通じているんでしたね」
「相手の頭を押さえるのは、情勢を可能な限りコントロールするための常套手段だから」
女の言葉に氷上は頷いた。
「ところでその護衛の男。実験の妨げになりそうですか?」
「いや……」
そう言うと女はその目に冷徹な光を走らせた。
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