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第三章 トロピカル・カタストロフィー
第19話 恋華の奮闘
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恋華の正確な射撃が感染者男らを打ち倒していく。
カントルムで修行を始めてから3年間、一日も欠かさず日に1000発の射撃訓練を行ってきた恋華にとって、狙った的をペイント弾で射抜くのは造作もないことだった。
だが、それでも前後から押し寄せる男らを全て打ち倒すのは至難の業だった。
すでにその場にいる半数近くの男らを打ち倒した恋華だったが、空になったアンブレラ・シューターに補充液をすばやく充填し、再度構えるときにはすでに先頭の男が彼女の目の前に迫っていた。
男は金属の棒を恋華の脇腹目がけて横薙ぎに振る。
恋華はそれよりも早く床に転がると、下から男をペイント弾で撃ち抜く。
床に転がったまま恋華は次々と男たちを打ち抜いていくが、残ったあと3名のうちの一人が恋華に向かってダイブした。
恋華は床を転がってその勢いで跳ね起きるものの、起き上がったところを近くで待ち受けていた男に両腕をとられて羽交い絞めにされてしまう。
「くっ! 放しなさい!」
必死に身動きを取ろうとするが男の力は強く、恋華は逃れることが出来ない。
先ほどダイブしてきた男は立ち上がり、羽交い締めにされたままの恋華の腹に向かって金属の棒の先を突き出した。
「このぉ!」
だが、寸前で恋華は足を振り上げて、靴のつま先でその棒を払いのける。
そしてその勢いのまま金属棒を突き出した男の頭を靴のつま先で蹴りつけると、爪先から青いペイントが染み出して男の頭に炸裂し、男は沈黙した。
万が一に備えて爪先に仕込んでおいたペイントが役に立った。
両腕を羽交い絞めにされたままの恋華だが、その手にはしっかりとアンブレラ・シューターが握られている。
そして彼女が折り畳み傘の柄についているワンタッチボダンを指で押すと、傘の柄が伸びて、閉じたままの傘が一気に満開となる。
さらに満開となった勢いで傘からは青い霧が色濃く発生して、恋華を羽交い絞めにしていた男はその霧を吸い込んだ途端、力を失って両膝をついた。
ようやく男の腕から解放された恋華だったが、彼女の目の前で残った最後の一人が金属の棒を振り降ろしてきた。
恋華は必死にそれを後ろにのけぞるようにして避けたが、手に持っていたアンブレラ・シューターは金属の棒にはじき飛ばされて地面に叩きつけられ、へし折れて使い物にならなくなった。
「しまった!」
恋華は思わず声を上げる。
男は返す刀で金属の棒を恋華に向けて振り払う。
恋華は再びそれをのけぞって避けるが、足がもつれて床に尻餅をついてしまった。
男はほとんどのしかからんばかりに恋華に向かってくる。
「これでも食らいなさい!」
そう叫ぶと恋華は倒れこんだまま足を大きく突き上げる。
先ほど爪先からペイントを射出したのとは反対の足で男の頭を目がけて蹴り上げた。
だが男は首を横に傾けてこれを避け、恋華の左足を掴む。
そしてもう片方の手で右足を掴むと恋華を持ち上げて地面に叩きつけようとした。
だが、恋華は叩きつけられる寸前、腹筋運動の要領で体をくの字に曲げ、視線が男のそれと並ぶくらいまで頭を持ち上げると、両手を目一杯伸ばして男のこめかみを両側から掴んだ。
左右の手の指にはめられた指輪型霊具が光を放ち、最後の一人がついに力を失って倒れ込む。
「痛っ!」
恋華も一緒に倒れ込み、背中を打ちつけて苦痛の声を上げる。
彼女の周りには20余名の男たちが倒れたまま意識を失っていた。
「ハァ、ハァ……ま、負けないわよ」
息も絶え絶えになりながら恋華は必死に身を起こした。
これだけの数の男たちと戦いを繰り広げてよく生き延びたと自分でも思う。
だが、恋華は必死だった。
両親を治療するため。
そして亡き妹の仇を取るため。
かつてそうした理由のためにエージェントとなった恋華だったが、この仕事を始めてみてブレイン・クラッキングの本当の脅威をまざまざと見せ付けられた。
今でも自分と同じ境遇の人間が生み出され続けており、このまま放っておけば、これからもそうした不幸を背負う人間がますます増えていく。
これは人類に対する脅威だと、恋華は深い実感を伴って認識していた。
この脅威を必ず止めなければならない。
もし力及ばずここで命を落とすことになったとしても、カントルムには優秀な人間がたくさんいる。
自分が行ってきたことが礎となり、必ず自分の意志を継ぐ者が現れてくれるはず。
恋華はそうした覚悟を胸に立ち上がった。
体は疲労困憊の上、1級感染者を多数修正した影響で脳も疲れて重い。
それでも恋華の目には意志を貫こうとする者の鋭い眼光が宿っていた。
カントルムで修行を始めてから3年間、一日も欠かさず日に1000発の射撃訓練を行ってきた恋華にとって、狙った的をペイント弾で射抜くのは造作もないことだった。
だが、それでも前後から押し寄せる男らを全て打ち倒すのは至難の業だった。
すでにその場にいる半数近くの男らを打ち倒した恋華だったが、空になったアンブレラ・シューターに補充液をすばやく充填し、再度構えるときにはすでに先頭の男が彼女の目の前に迫っていた。
男は金属の棒を恋華の脇腹目がけて横薙ぎに振る。
恋華はそれよりも早く床に転がると、下から男をペイント弾で撃ち抜く。
床に転がったまま恋華は次々と男たちを打ち抜いていくが、残ったあと3名のうちの一人が恋華に向かってダイブした。
恋華は床を転がってその勢いで跳ね起きるものの、起き上がったところを近くで待ち受けていた男に両腕をとられて羽交い絞めにされてしまう。
「くっ! 放しなさい!」
必死に身動きを取ろうとするが男の力は強く、恋華は逃れることが出来ない。
先ほどダイブしてきた男は立ち上がり、羽交い締めにされたままの恋華の腹に向かって金属の棒の先を突き出した。
「このぉ!」
だが、寸前で恋華は足を振り上げて、靴のつま先でその棒を払いのける。
そしてその勢いのまま金属棒を突き出した男の頭を靴のつま先で蹴りつけると、爪先から青いペイントが染み出して男の頭に炸裂し、男は沈黙した。
万が一に備えて爪先に仕込んでおいたペイントが役に立った。
両腕を羽交い絞めにされたままの恋華だが、その手にはしっかりとアンブレラ・シューターが握られている。
そして彼女が折り畳み傘の柄についているワンタッチボダンを指で押すと、傘の柄が伸びて、閉じたままの傘が一気に満開となる。
さらに満開となった勢いで傘からは青い霧が色濃く発生して、恋華を羽交い絞めにしていた男はその霧を吸い込んだ途端、力を失って両膝をついた。
ようやく男の腕から解放された恋華だったが、彼女の目の前で残った最後の一人が金属の棒を振り降ろしてきた。
恋華は必死にそれを後ろにのけぞるようにして避けたが、手に持っていたアンブレラ・シューターは金属の棒にはじき飛ばされて地面に叩きつけられ、へし折れて使い物にならなくなった。
「しまった!」
恋華は思わず声を上げる。
男は返す刀で金属の棒を恋華に向けて振り払う。
恋華は再びそれをのけぞって避けるが、足がもつれて床に尻餅をついてしまった。
男はほとんどのしかからんばかりに恋華に向かってくる。
「これでも食らいなさい!」
そう叫ぶと恋華は倒れこんだまま足を大きく突き上げる。
先ほど爪先からペイントを射出したのとは反対の足で男の頭を目がけて蹴り上げた。
だが男は首を横に傾けてこれを避け、恋華の左足を掴む。
そしてもう片方の手で右足を掴むと恋華を持ち上げて地面に叩きつけようとした。
だが、恋華は叩きつけられる寸前、腹筋運動の要領で体をくの字に曲げ、視線が男のそれと並ぶくらいまで頭を持ち上げると、両手を目一杯伸ばして男のこめかみを両側から掴んだ。
左右の手の指にはめられた指輪型霊具が光を放ち、最後の一人がついに力を失って倒れ込む。
「痛っ!」
恋華も一緒に倒れ込み、背中を打ちつけて苦痛の声を上げる。
彼女の周りには20余名の男たちが倒れたまま意識を失っていた。
「ハァ、ハァ……ま、負けないわよ」
息も絶え絶えになりながら恋華は必死に身を起こした。
これだけの数の男たちと戦いを繰り広げてよく生き延びたと自分でも思う。
だが、恋華は必死だった。
両親を治療するため。
そして亡き妹の仇を取るため。
かつてそうした理由のためにエージェントとなった恋華だったが、この仕事を始めてみてブレイン・クラッキングの本当の脅威をまざまざと見せ付けられた。
今でも自分と同じ境遇の人間が生み出され続けており、このまま放っておけば、これからもそうした不幸を背負う人間がますます増えていく。
これは人類に対する脅威だと、恋華は深い実感を伴って認識していた。
この脅威を必ず止めなければならない。
もし力及ばずここで命を落とすことになったとしても、カントルムには優秀な人間がたくさんいる。
自分が行ってきたことが礎となり、必ず自分の意志を継ぐ者が現れてくれるはず。
恋華はそうした覚悟を胸に立ち上がった。
体は疲労困憊の上、1級感染者を多数修正した影響で脳も疲れて重い。
それでも恋華の目には意志を貫こうとする者の鋭い眼光が宿っていた。
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