甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

文字の大きさ
上 下
69 / 105
第三章 トロピカル・カタストロフィー

第24話 追いつめられた恋華

しおりを挟む
 恋華れんかは重い足にむちを打って必死に走った。
 すでにアンブレラ・シューターも失い、大幅おおはばに力を失っていた恋華れんかだったが、幸いにしてあれ以来、感染者と出会うことはなかった。
 正直なところ、今この時に再度多くの感染者たちと渡り合うのは体力的に厳しいと言わざるを得ない。
 そうした懸念けねんむねかかえたまま進む恋華れんかだったが、ついに目的とする場所にたどり着こうとしていた。
 地図によればもう一つ角を曲がれば地下街ちかがいのメインコートに出られる。
 
「もうすぐメインコートだわ。アマタローくん。無事でいて」

 すべての地下道とつながっているそこならば甘太郎あまたろうとめぐり合える。
 そのはずだった。
 だが、曲がり角を曲がった時、目の前に広がる予想外の光景に恋華れんかは思わず立ちくしてしまった。
 本来ならばメインコートに通じているはずのそこには、め切られた重い鉄のとびらが道をはばみ、それ以上の進行をゆるさない。

「そ、そんな……」

 あわててとびらけ寄り、ドアノブをひねってみるが、押しても引いてもとびらはビクともしない。

うそでしょ。ここまで来て!」

 恋華れんか苛立いらだちもあらわに鉄製のとびらを拳でたたくが、ゴンとにぶい音がむなしくひびいて消えただけだった。
 恋華れんかは力を失ってその場にひざを着く。

「アマタローくん。どこにいるの」

 わずかな間とは言え、一人で必死に感染者と戦い、薄暗うすぐらい地下道を走り抜けてきた。
 甘太郎あまたろうそばにいてくれることが、どんなに自分を勇気付けてくれていたのか、今の恋華れんかには痛いほどよく分かる。
 何もそれは彼が護衛ごえいとして最適な闇穴やみあな穿うがつ能力を持っているからだけではない。
 その人柄ひとがらや心の強さが恋華れんかを支えてくれていたからだった。
 甘太郎あまたろうの笑顔を見て、その声を聞き、彼の優しさにれてただ安心したかった。

「アマタローくん……会いたいよ」

 恋華れんかは力なくそう言葉をらすと、その場にへたり込んでしまった。
 その時だった。
 かたく閉ざされていたとびらが向こう側から開錠かいじょうされ、音を立ててゆっくりと開いていく。

「……!」

 恋華れんかおどろいてそちらに目を向けると、開かれたとびらの向こう側にいたのは警官隊だった。
 人数は5人。
 一瞬、救いの手が差し伸べられたのかと思った。
 だがすぐにそうではないことを恋華れんかさとった。
 警官隊は全員が手にした拳銃けんじゅう銃口じゅうこう恋華れんかに向けていた。
 彼らの目は一様に狂気きょうきまり、血走っている。

「あっ……」

 絶望的な状況に青ざめる恋華れんかが立ち上がる間もなく、目の前で銃口じゅうこうが次々と火をく。
 十数秒に渡って地下道に銃声じゅうせいが鳴りひびき、やがてそれは途絶とだえて再び静寂せいじゃくが訪れた。
しおりを挟む

処理中です...