甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

文字の大きさ
68 / 105
第三章 トロピカル・カタストロフィー

第23話 銀髪の修道女

しおりを挟む
 動乱のポルタス・レオニス。
 神父に別れをげた甘太郎あまたろうは地下道を懸命けんめいに走り続けていた。
 あと数百メートルも進めば、全ての地下通路につながる地下街ちかがいのメインコートに出るはずだった。
 そこまで行けば恋華れんかとも会えるはず。
 甘太郎あまたろうはそう考えた。
 だが、甘太郎あまたろうは前方に見える曲がり角の手前十数メートルのところで不意に足を止める。
 行く先の曲がり角から突如とつじょとして一人の人物が現れたためだ。
 ゆるやかなウェーブのかかった銀髪を背中にらした浅黒いはだの女性がそこに立っていた。

「あ、あんたは……」

 そう言いかけて甘太郎あまたろうはじっとその女性を見つめ、静かに息を飲んだ。
 女は修道女しゅうどうじょの服装をしており、甘太郎あまたろうにニコリと微笑ほほえみかけて口を開いた。

「お急ぎのようね。でもこの先は行き止まりよ」

 現地人らしき外見とは裏腹に、彼女の口から発せられたそれはよどみのない日本語だった。
 甘太郎あまたろうはつい先ほどマッケイガン神父から聞いた銀髪の修道女しゅうどうじょの話を思い返した。
 その女がマッケイガン神父をおそった危険人物であるということ。
 そしておそらくブレイン・クラッキング現象をき起こした張本人であるということ。
 今、目の前にいるのは十中八九、その危険人物にして黒幕くろまくの女であることをさとり、甘太郎あまたろうは身を固くした。

(この女か……)

 女の目の焦点しょうてんは合っており、正気を失っている様子は見えない。
 少なくとも感染者ではないようだった。
 
(ということは、やっぱりこの女が本丸の主犯か)

 緊張感きんちょうかんで全身の毛が逆立さかだつような感覚を覚えながらも、甘太郎あまたろうつとめて冷静な口調で修道女しゅうどうじょに話しかけた。

「とうとうお出ましか。悪の親玉ってのは暗黒のとうの頂上で待ち受けてるもんじゃないのか?」

 甘太郎あまたろうがそう言うと女は目を細めて妖艶ようえんみを浮かべる。

「私、行動派なの。相手が上がって来るのを待ってるだけなんてつまらないわ。下までお出迎でむかえに行って、直接この手でたたつぶしてあげたいわ。特にあなたのことは」

 そう言うと女は優雅な仕草で一歩前に出て、警戒けいかいする甘太郎あまたろうに語りかけた。

不思議ふしぎな力を持っているのね。それ、どこで手に入れたのかしら? 酒々井しすい甘太郎あまたろうくん」

 薄笑うすえみを浮かべてそう言う修道女しゅうどうじょの言葉に甘太郎あまたろうは不快感を覚える。
 女の声が、自分の奥底まで見透みすかそうとするかのようなその視線が、甘太郎あまたろうを無意識のうちにおびえさせていた。
 それでも甘太郎あまたろうはそのおびえを顔に出さないようにして軽口をたたいた。

「それは秘密ひみつだ。あんたも秘密ひみつにしていることがあるだろ? たとえば人様ののうに土足でズカズカと入り込む図々ずうずうしい女だってこととかな。そんなばち当たりな格好かっこうをして神様におこられるぞ」

 甘太郎あまたろうはそう言うと、女が何かを返答する前に素早すばやく両手でいんを組む。
 即座に修道女しゅうどうじょの足元に直径2メートルほどの闇穴やみあなが開き、女はあない込まれていった。
 そして甘太郎あまたろう制御せいぎょにより、修道女しゅうどうじょは首の辺りで固定され、例によってゆかから頭だけを出した状態となる。
 甘太郎あまたろうはしゃがみ込むとするどい視線を投げかけて女をとがめる。

「ダメだぜ。お姉さん。あんたのやってることは最悪の犯罪行為だ。つみつぐなってもらうぞ」

 だが、女は表情ひとつ変えずにすずしい顔で口を開いた。

不細工ぶさいく闇穴やみあなね。しかも手でいんを組まないといけないなんてスマートじゃないわ」

 女の言葉に目を見開いた甘太郎あまたろうの足元に、突如とつじょとして漆黒しっこくあなが出現する。

「うおっ?」

 急に足場が消えてしまい、甘太郎あまたろうおどろきの声を上げながらあなの中にい込まれていく。
 そしてつい今しがた甘太郎あまたろう修道女しゅうどうじょをそうしたように、彼自身が首から上だけを残してゆかに固定されてしまった。
 代わりに修道女しゅうどうじょを固定していた闇穴やみあなが術者である甘太郎あまたろうの意思とは無関係に開いていき、修道女しゅうどうじょの体は全てゆかの上に露出ろしゅつして解放される。

「なっ……?」

 身動きをふうじ込まれた甘太郎あまたろうは、愕然がくぜんとして女を見上げる。

「立場が逆転したわね」

 修道女しゅうどうじょはしっかりと地に足をつけて立つと、甘太郎あまたろうを見下ろして余裕の表情でそう言った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...