甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

文字の大きさ
76 / 105
最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター

第3話 牙をむくフランチェスカ

しおりを挟む
「ハァ……ハァ……」

 恋華れんかは追いめられて荒い息をついていた。
 衣服はところどころ切りかれて破れ、その素肌すはだのあちらこちらに切り傷や打ち身のあとが散見される。
 フランチェスカは嬉々ききとして嬌声きょうせいを上げながら恋華れんかの周囲を飛び回り、そのつめで彼女を傷つけていく。

「くっ!」

 恋華れんかはどれだけ傷を負っても決してくっすることなくフランチェスカを捕らえようとするが、徐々じょじょにその動きはにぶくなりつつあった。
 恋華れんかをすぐには殺さないと言ったその言葉の通り、フランチェスカは恋華れんかが傷つき疲労ひろう蓄積ちくせきさせていくその様子を楽しんでいた。

「ほら。どうしたの? 私を絶対にゆるさないんじゃないの?」

 冷笑れいしょうをその顔に浮かべながらフランチェスカは恋華れんかの数メートル先に制止した。
 恋華れんかかたで息をつきながらフランチェスカをにらみつけた。
 そんな恋華れんかをじっと見据みすえてフランチェスカは冷たい声で語りかけた。

「アマタロウがいてくれれば少しはなぐさめになったでしょうけど、残念なことにあのぼうやは今頃あの世でなげいているわよ。あんな女の護衛ごえいなんて引き受けなければ死ぬことはなかったのに、ってね」

 フランチェスカはそう言うと、愉快ゆかいでたまらないといったように笑い声を上げた。
 その声を聞きながら不快感に顔をゆがめる恋華れんかは、フランチェスカの言葉が胸に突きさるのを感じてくちびるんだ。
 甘太郎あまたろう危険きけんな仕事を依頼したのはカントルムに所属する自分である、ということは事実なのだから。
 だが恋華れんかにはどうしてもフランチェスカに反論せずにはいられないことがある。

「彼を危険にさらしたのは私の責任だわ。けどアマタローくんはそんなふうにうらごとを言ったりしない。彼は自分の仕事に誇りと信念を持っていた。覚悟を決めて私の依頼を受けてくれた勇気あるアマタローくんを侮辱ぶじょくするのはゆるさない!」

 恋華れんか甘太郎あまたろうの誇りを守りたくて怒りにふるえながら声を張り上げた。
 そんな彼女を小馬鹿こばかにするようにフランチェスカは鼻を鳴らす。

「フンッ。あなたもずいぶん傲慢ごうまんね。自分のせいでアマタロウが死んだっていうのに。まあ、すぐに後を追わせてあげるから、言いわけならアマタロウにあの世で直接しなさいな」

 恋華れんかはフランチェスカの言葉を無視して身構みがまえた。
 甘太郎あまたろうの生死についてはひとまず考えるのをやめた。
 フランチェスカの言葉を鵜呑うのみにすることは出来ないし、何より恋華れんか自身が甘太郎あまたろうの死を信じることは出来できなかった。
 恋華れんかは信じている。
 甘太郎あまたろうが生きて再び自分の前に姿を現してくれることを。
 窮地きゅうちに追い込まれても決して絶望しない恋華れんかのしぶとさを見たフランチェスカは白けた表情を浮かべて鼻を鳴らした。

「フンッ。そろそろお遊びもきたし、オシマイにしましょうか」

 そう言うとフランチェスカは大きく上昇して恋華れんかを見下ろす格好かっこうになった。

「死ぬ前に言い残すことはあるかしら? 一応聞いてあげるけど」

 さげすみにいろどられた表情でそう言うフランチェスカだったが、恋華れんかは一言も発することなく、指で片方のまぶたの下をばして舌を出し、いわゆる『アッカンベー』をしてみせた。
 それを見たフランチェスカは侮蔑ぶべつの色をその目に浮かべ、冷たく殺気のこもった視線を恋華れんかに向けた。

「そう。じゃあ望み通りその目をくり抜いて殺してあげる」

 そう言うとフランチェスカは二度三度とその場で回り、いきおいをつけて恋華れんかに急降下した。
 海鳥が海面下の小魚をねらうようなスピードで滑空かっくうし、フランチェスカは恋華れんかの命をり取ろうときばいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

処理中です...