甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター

第13話 破壊の悪魔

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 フランチェスカは久々に自分本来の体を使う感覚にまだ慣れずにいた。
 あふれ出る力の制御せいぎょが難しい。
 そう感じるのはフランチェスカがもう長いこと人の肉体を仮宿かりやどとしてごし続けてきたためだった。

 数年前に貿易士ぼうえきしである銀髪の修道女しゅうどうじょの肉体を悪魔きの要領で乗っ取って我が物とした際も、フランチェスカはそれ以前に乗っ取った人間の体を使役しえきしていた。
 彼女はまるで自動車を定期的に乗りえるように人の体を渡り歩いてきたのだ。
 別次元で生まれたおのれの本来の姿では人の世界に存在することが出来ない。
 そうまでして彼女が人の世に執着しゅうちゃくしてきたのは彼女にとって人間の世界は居心地いごこちが良かったからだった。

 人間は欲深く、傲慢ごうまんでありながら臆病おくびょうだった。
 そんな人間たちの中にじってらし、彼らを利用してもてあそびながら時代から時代を生き続ける。
 それはフランチェスカにとって何よりも心地ここち良い生き方だった。
 自分に敵対しようとする無謀むぼうな人間たちをることに夢中になっているフランチェスカは今、自身が本来持っている破壊するための力と破壊への衝動しょうどうられている。
 自分の体を持てあまし気味ではあるものの、それでも目の前の獲物えものにトドメをそうとしていた。

『焼き殺してくれる』

 そう言うとフランチェスカは燃えたぎるつめ恋華れんか鷲掴わしづかみにしようとした。
 だが、今まさにえぐり取ろうとしていた恋華れんかの命は、スルリとフランチェスカの手をのがれた。

『なにっ?』

 フランチェスカは苛立いらだった声を上げる。
 恋華れんかの体はフランチェスカのつめに捕まる前に、ゆかに現れた黒いあなの中にい込まれて消えた。

『またアマタロウか。性懲しょうこりもなく邪魔じゃまをしおって』

 フランチェスカはそう言うと背後を振り返る。
 そこにはくずれ落ちる店の中でフランチェスカをにらみつけて立つ少年甘太郎あまたろうの姿があった。

「そのお姉さんは殺させない」

 そう言う少年甘太郎あまたろうの頭上から瓦礫がれきが落下してくるが、それらは少年甘太郎あまたろうの姿をすり抜けてゆかたたきつけられる。

『やはり実体のない魔気まきの集合体か。忌々いまいましい。忌々いまいましいぞ!』

 フランチェスカは怒りのままに声を上げて、暴れくるう。
 店のかべ天井てんじょうも完全にくずれ去り、商店は瓦礫がれきの山とした。
 すると少年甘太郎あまたろうの姿がゆらゆらとたよりない陽炎かげろうのようにれる。
 店が破壊されたことで、彼はくやしげな、そして苦しげな表情をかべていた。
 フランチェスカはそんな少年甘太郎あまたろうの様子を見て、銀色の目を光らせた。

『……ほう。もしやとは思うが……』

 フランチェスカは少年甘太郎あまたろうの店があった場所の両どなりの建物も次々と破壊する。
 くちばし外壁がいへきに大あなを開け、つめで柱を焼き切り、崩落ほうらくする建物をその翼でき飛ばす。

「やめろ! この街を……僕の街を壊すな!」

 少年甘太郎あまたろうは激情にられるように大声を張り上げるが、それはフランチェスカの嘲笑ちょうしょうさそうにぎなかった。
 フランチェスカはその力を存分に振るい、小さな店舗てんぽくずれ落ちるのに数十秒とかからなかった。
 そしてフランチェスカは再び少年甘太郎あまたろうの様子を見て確信を得た。

『なるほど。そういうことか』

 少年甘太郎あまたろうは先ほどよりもさらに弱々しく、その存在はうすくなっている。

『この奇妙きみょうな商店街そのものが貴様ということか』

 そう言うとフランチェスカは大きな笑い声を立てながら翼をはためかせ上昇した。
 商店街は半径100メートルほどの広さがあることを知ると、フランチェスカは降下と上昇をり返して建物を次々と破壊し始めた。

「僕の街が……チクチョウ! チクショウ!」

 成すすべなくこれを見つめる少年甘太郎あまたろうは苦しげに顔をゆがめ、徐々じょじょにその姿は希薄きはくになっていく。
 り返すノイズが彼の体を波立なみだたせる。
 壊れたテレビを見ているかのように、少年甘太郎あまたろうの姿は不安定になっていった。
 その間もフランチェスカの破壊行動はとどまることを知らず、建物を打ち壊し、街灯がいとうをなぎ倒し、アーケードの屋根を炎のつめで燃え上がらせる。
 十数分に渡ってえ間なく轟音ごうおんは鳴りひびき、ことごとく破壊された商店街は、ほぼ瓦礫がれきの山と化してしまった。
 そしてその時には少年甘太郎あまたろうの姿は、わずかに輪郭りんかくを残すだけとなり、ほとんど消えかけていた。
 その様子を見た怪鳥かいちょうフランチェスカは満足げに銀色の目を細めた。

『もはやその忌々いまいましい力を発揮はっきできまい? 貴様には何も守れはしないのだ。この虚像きょぞうのような街も、梓川あずさがわ恋華れんかも』

 そう言うとフランチェスカはほとんど消えかけた少年甘太郎あまたろうに向かって、破滅はめつ羽音はおとひびかせながらゆっくりと降下していった。
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