92 / 105
最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター
第19話 変異する力
しおりを挟む
『砕け散れっ!』
吼えるようにそう叫ぶフランチェスカの嘴の一撃は、ガラス球体を粉々に破壊し、恋華と甘太郎の最後の拠り所であった足場の床を無残にも打ち砕いた。
これにより投げ出された二人の体は浮遊空間へと散り散りに飛んでいく。
フランチェスカから見たそれはまるで宙を舞う脆弱な羽虫のようであり、フランチェスカは二手に分かれた二人のうち、恋華の方に狙いを定めた。
『まずはカントルムの雌犬を確実に突き殺してやる』
弾き飛ばされたまま慣性で飛んでいく恋華に向かってフランチェスカは滑空していく。
これを見た甘太郎は決死の形相で叫び声を上げた。
「恋華さん! くそっ!」
恋華と離される形で逆方向に飛ばされた甘太郎は必死に恋華の元へ向かおうとするが、この浮遊空間では思うように動くことが出来ない。
恋華とは離される一方で、その距離は10メートル、20メートルと開くばかりだった。
甘太郎は先ほどすぐに恋華に指輪を渡しておかなかったことを深く後悔した。
(あの時さっさと渡しておけば)
そう思った甘太郎は手にした指輪型霊具【スブシディウマ(援軍)】をじっと見つめる。
その効果がどれほどのものかは甘太郎には皆目見当もつかない。
だがこれが今、恋華の指にあれば状況が少しは良い方向に向かうのではないだろうか。
少なくとも恋華は自分の身を守る手段が得られるのではないだろうか。
そう考え、甘太郎は無謀と知りながらそれを恋華に向けて放り投げようと腕を振り上げた。
しかし正確に恋華の元へ投げられずに目測を誤ってしまえば、指輪は闇の彼方へと失われてしまう。
恋華が受け取り損ねても同じことだ。
そうした懸念が頭をよぎり、甘太郎は腕を振り下ろしたところで指輪を握り締めたまま思いとどまった。
「くっ! ダメだ……」
だがそこで甘太郎の思いもよらない現象が起きた。
甘太郎の腕には先ほどから重油のような黒い液体がまとわりついていて、振り下ろした彼の腕からそれが宙へと飛び散ったのだ。
すると飛び散ったはずの液体は急激に収束して一本の縄のように変化した。
「なっ、何だ?」
それは空中でしなる音を立てながら、すでに100メートル近く遠ざかってしまった恋華に向かっていく。
一方、空中に投げ出されていた恋華は成す術なく、自分に向かってくるフランチェスカを悔しげに睨みつけることしか出来なかった。
彼女は先ほどすぐに甘太郎からスブシディウマを受け取っておかなかったことに自責の念を抱いていた。
甘太郎と再会できた喜びや、フランチェスカがその場にいなかったことへの油断から、状況判断を誤ってしまった。
甘太郎に指輪をはめてほしいなどと言っていた自分自身を恨めしく思う。
「こんなんじゃエージェント失格だわ。イクリシア先生にも申し訳ない」
そう言って悔しがる恋華の視線の先では、フランチェスカが鋭い嘴を向けて追ってくるのが見える。
『串刺しにしてやる!』
だが、そこで恋華は遠ざかっていく甘太郎から自分に向かって何かが飛んでくるのを目にして息を飲んだ。
それは黒いロープのような物であり、空中でしなる音を立てながら恋華の腕に絡み付いた。
「きゃっ! なに?」
驚く恋華は自分の腕を見て眉を潜めた。
それはロープではなく、奇妙な黒い液体だったのだ。
液体であるものの、それはしっかりと恋華の腕に絡み付いて外れない。
「何こ……れっ?」
驚く恋華が言葉を発する間もなく、不意に強い力で体を引っ張られる。
フランチェスカが恋華の前方10数メートルに迫る中、黒い液状ロープは恋華を引き寄せてフランチェスカの突進から回避させた。
『なにっ?』
フランチェスカは苛立った声を上げる。
『おのれぇぇぇぇぇぇ!』
目の前で獲物をさらわれた獣のように唸り声を上げながら方向転換をし、フランチェスカは翼を翻して恋華を追っていく。
恋華は自分を引っ張っていくその漆黒の液状ロープの先を見やる。
そこには当然のように甘太郎の姿があった。
「アマタローくん!」
恋華は驚きの声を上げたが、当の甘太郎も驚きを隠せないといった顔を見せている。
漆黒の液状ロープは甘太郎の腕から発生していたためだ。
それがどんな力か恋華には分からないが、それでも彼女を勇気付けるには十分だった。
「アマタローくんが私を助けてくれる。それなら私も……まだ戦える!」
甘太郎の力が新たな作用を生み出している。
そのことに驚きつつ、甘太郎と一緒ならばこの難局を乗り越えられるのではないかという一縷の望みが胸に灯るのを恋華は感じていた。
吼えるようにそう叫ぶフランチェスカの嘴の一撃は、ガラス球体を粉々に破壊し、恋華と甘太郎の最後の拠り所であった足場の床を無残にも打ち砕いた。
これにより投げ出された二人の体は浮遊空間へと散り散りに飛んでいく。
フランチェスカから見たそれはまるで宙を舞う脆弱な羽虫のようであり、フランチェスカは二手に分かれた二人のうち、恋華の方に狙いを定めた。
『まずはカントルムの雌犬を確実に突き殺してやる』
弾き飛ばされたまま慣性で飛んでいく恋華に向かってフランチェスカは滑空していく。
これを見た甘太郎は決死の形相で叫び声を上げた。
「恋華さん! くそっ!」
恋華と離される形で逆方向に飛ばされた甘太郎は必死に恋華の元へ向かおうとするが、この浮遊空間では思うように動くことが出来ない。
恋華とは離される一方で、その距離は10メートル、20メートルと開くばかりだった。
甘太郎は先ほどすぐに恋華に指輪を渡しておかなかったことを深く後悔した。
(あの時さっさと渡しておけば)
そう思った甘太郎は手にした指輪型霊具【スブシディウマ(援軍)】をじっと見つめる。
その効果がどれほどのものかは甘太郎には皆目見当もつかない。
だがこれが今、恋華の指にあれば状況が少しは良い方向に向かうのではないだろうか。
少なくとも恋華は自分の身を守る手段が得られるのではないだろうか。
そう考え、甘太郎は無謀と知りながらそれを恋華に向けて放り投げようと腕を振り上げた。
しかし正確に恋華の元へ投げられずに目測を誤ってしまえば、指輪は闇の彼方へと失われてしまう。
恋華が受け取り損ねても同じことだ。
そうした懸念が頭をよぎり、甘太郎は腕を振り下ろしたところで指輪を握り締めたまま思いとどまった。
「くっ! ダメだ……」
だがそこで甘太郎の思いもよらない現象が起きた。
甘太郎の腕には先ほどから重油のような黒い液体がまとわりついていて、振り下ろした彼の腕からそれが宙へと飛び散ったのだ。
すると飛び散ったはずの液体は急激に収束して一本の縄のように変化した。
「なっ、何だ?」
それは空中でしなる音を立てながら、すでに100メートル近く遠ざかってしまった恋華に向かっていく。
一方、空中に投げ出されていた恋華は成す術なく、自分に向かってくるフランチェスカを悔しげに睨みつけることしか出来なかった。
彼女は先ほどすぐに甘太郎からスブシディウマを受け取っておかなかったことに自責の念を抱いていた。
甘太郎と再会できた喜びや、フランチェスカがその場にいなかったことへの油断から、状況判断を誤ってしまった。
甘太郎に指輪をはめてほしいなどと言っていた自分自身を恨めしく思う。
「こんなんじゃエージェント失格だわ。イクリシア先生にも申し訳ない」
そう言って悔しがる恋華の視線の先では、フランチェスカが鋭い嘴を向けて追ってくるのが見える。
『串刺しにしてやる!』
だが、そこで恋華は遠ざかっていく甘太郎から自分に向かって何かが飛んでくるのを目にして息を飲んだ。
それは黒いロープのような物であり、空中でしなる音を立てながら恋華の腕に絡み付いた。
「きゃっ! なに?」
驚く恋華は自分の腕を見て眉を潜めた。
それはロープではなく、奇妙な黒い液体だったのだ。
液体であるものの、それはしっかりと恋華の腕に絡み付いて外れない。
「何こ……れっ?」
驚く恋華が言葉を発する間もなく、不意に強い力で体を引っ張られる。
フランチェスカが恋華の前方10数メートルに迫る中、黒い液状ロープは恋華を引き寄せてフランチェスカの突進から回避させた。
『なにっ?』
フランチェスカは苛立った声を上げる。
『おのれぇぇぇぇぇぇ!』
目の前で獲物をさらわれた獣のように唸り声を上げながら方向転換をし、フランチェスカは翼を翻して恋華を追っていく。
恋華は自分を引っ張っていくその漆黒の液状ロープの先を見やる。
そこには当然のように甘太郎の姿があった。
「アマタローくん!」
恋華は驚きの声を上げたが、当の甘太郎も驚きを隠せないといった顔を見せている。
漆黒の液状ロープは甘太郎の腕から発生していたためだ。
それがどんな力か恋華には分からないが、それでも彼女を勇気付けるには十分だった。
「アマタローくんが私を助けてくれる。それなら私も……まだ戦える!」
甘太郎の力が新たな作用を生み出している。
そのことに驚きつつ、甘太郎と一緒ならばこの難局を乗り越えられるのではないかという一縷の望みが胸に灯るのを恋華は感じていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる