甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター

第24話 研ぎすまされた殺意

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 フランチェスカは深く息をい込むと、再びそのくちばしを大きく開く。
 だが、そこからき出されたのは先ほどまでのような衝撃波しょうげきはではなく、黒くにごったきりだった。
 それが高濃度のうど魔気まきであることは明白であり、魔気まき寄りの気質を持つ甘太郎あまたろうはともかく正反対の神気じんき寄りの気質を持つ恋華れんかびればひとたまりもなかった。

 しかし甘太郎あまたろうは冷静に指で印を組む。
 彼らの前方には闇穴やみあながいくつも開き、それが次々と連なってまるで闇穴やみあなかべと化す。
 闇穴やみあなの向こう側は何もない青空だった。
 フランチェスカのき出した魔気まきはその青空の中にい込まれて消える。
 自らの攻撃があっさりと回避かいひされたことにも大した反応を見せずに、フランチェスカは冷静な口調で言った。

『なるほど。先ほど高熱で焼き殺されずに済んだのはその力か。大した応用力だ』

 つい今しがた、フランチェスカの燃えさかつめつかまれた金属球の中で高熱にさらされた二人だったが、甘太郎あまたろうは金属球の内側に闇穴やみあなを作り、熱を遮断しゃだんすることに成功した。
 外界から隔絶かくぜつされた世界の中で、二人は身の安全を保ったのだ。

『だが、どこまで防ぎきれるかな』

 フランチェスカは接近戦をけて距離きょりを十分に取り、二人の周囲をグルグルと回り始めた。
 時に不規則ふきそくな円を描いたり急な方向転換をこころみて、遠めから幾度いくどとなく魔気まききりを二人にびせかける。
 甘太郎あまたろうはこれを闇穴やみあなかべでことごとく防いだが、防戦一方の戦いをいられていた。

「フランチェスカが近づいて来ない。何とか接近しないと」

 恋華れんかあせりの表情でそう言うが、甘太郎あまたろう恋華れんかを落ち着かせるようにそのかたに手を置いた。

「接近できないならこっちも飛び道具を出せばいい」

 そう言う甘太郎あまたろう恋華れんかは見上げた。
 恋華れんかの体からは今も時折ときおり、火花が舞い散っている。
 それは元々【メディクス(医者)】と【スクルタートル(調査官)】が備えていた「ブレイン・クラッキングの被害者からクラッキング・プログラムを抜き去るための修正プログラム」を【スブシディウマ(援軍)】が増幅ぞうふくさせているためだった。
 放電現象のように見えるそれは恋華れんかと寄りっている甘太郎あまたろうにも伝染でんせんしていたが、彼にはまるで影響えいきょうはない。
 そのことを見て取ると甘太郎あまたろう恋華れんかに耳打ちをした。
 恋華れんかおどろいた顔を見せ、反対だと首を横にったが甘太郎あまたろうはそれをせいして自分の考えを口にした。

「さっきまでの様子を見る限り、たぶん物質化した物の体積とか質量によるんだと思う。小さな物だったら影響えいきょうは少ないはず」
 甘太郎あまたろうがそう言うと恋華れんか渋々しぶしぶうなづいた。
 そうしている間にもフランチェスカのき出す黒いきりは二人をおそい、甘太郎あまたろうは印を組んで闇穴やみあなのシールドでこれを防ぎ続けている。

「やるぞ! 恋華れんかさん! このままじゃこっちが持たない」

 そう言う甘太郎あまたろうにしがみついたまま、恋華れんかは力を集中させた。
 すると恋華れんかの体からするどい火花が発せられ、それが甘太郎あまたろう伝染でんせんする。
 それを見計みはからって甘太郎あまたろうは親指と人差し指でOKサインのように円を作る。
 そして念じた。

(黒い弾丸だんがん恋華れんかさんの力を乗っけてフランチェスカをねらえ)

 その途端とたんだった。
 スパンという音とともに彼の指から発せられた黒い弾丸だんがんがフランチェスカに向かって目にも止まらぬスピードで飛ぶ。
 弾丸だんがんにまとわりつく緑と赤と青の光がおびとなって浮遊空間の中に軌跡きせきを描く。
 そしてそれはちゅうを舞うフランチェスカの翼を見事につらぬいて、その羽に小さなあな穿うがった。

『ぐうっ!』

 翼に強い痛みを感じ、フランチェスカの動きが止まる。
 翼の一部が火花で焼かれ、色が抜けたかのように真っ白い斑点はんてんが浮かび上がる。

『おのれぇ!』

 フランチェスカの反応に弾丸だんがんの効果のほどを知った甘太郎あまたろうは、立て続けに弾丸だんがんを射出した。

「いける! いけいけぇ!」

 巨体をほこるフランチェスカから見れば、それはあまりにも小さすぎる物体であり、完全にけることはかなわない。
 甘太郎あまたろう弾丸だんがんは彼が目測で直接ねらいをつけているわけではなく、彼のイメージに従ってフランチェスカを追尾ついびしている。

『調子に乗るな!』

 回避かいひ困難こんなんだとさとったフランチェスカは、弾丸だんがんのいくつかをその翼にびながら、それでも攻撃に転じた。
 口から衝撃波しょうげきはと黒いきり交互こうごき出して甘太郎あまたろうに攻撃のすきあたえない。

「くそっ! 攻撃は最大の防御ぼうぎょってやつかよ」

 甘太郎あまたろう闇穴やみあなのシールドでこれを防ぐのに手一杯で、弾丸だんがんを撃ち出すことが出来ない。
 さらにフランチェスカは攻撃の手をゆるめずに甘太郎あまたろうらと徐々じょじょ距離きょりめていく。
 甘太郎あまたろうはフランチェスカが発するまされた殺気をはだでヒシヒシと感じていた。
 それは先ほどまでのように怒りにまかせ、なりふりかまわずといった感じではない。
 肉をらせて骨をつ。
 そんな覚悟のようなものを感じさせ、それを甘太郎あまたろうきわめて不気味ぶきみに感じていた。

(やばい。このままだと相当やばいことになる)

 このままこの場所にとどまり続ければ、フランチェスカの殺意に飲み込まれて殺されてしまう。
 そんないやな予感をおさえ切れずに甘太郎あまたろうはチラリととなりにいる恋華れんかを見た。
 彼女も同じ事を感じているようで、その顔は危機感で青ざめている。
 甘太郎あまたろうくちびるめた。

(せめてフランチェスカのように自由に移動できたなら……)

 恋華れんかかかえたまま泳ぐことも出来なくはないが、フランチェスカの移動速度に比べたらはるかにおとる。
 とてもフランチェスカから逃げ切れるとは思えない。
 甘太郎あまたろうはフランチェスカの放つ衝撃波しょうげきはと黒いきり闇穴やみあなのシールドで防ぎながら、自分たちに向かってくるその巨鳥の姿を見つめた。
 先ほど甘太郎あまたろう魔気まきあふれる両腕で浮遊空間を移動したように、フランチェスカの翼からは魔気まきあふれている。
 今や甘太郎あまたろう弾丸だんがんびて傷ついたその翼だったが、今も悠然ゆうぜんと羽ばたいてフランチェスカの巨体を運んでいる。

「あんな翼があれば……」

 思わず口かられた自分自身のつぶやきを聞き、甘太郎あまたろうはハッとした。
 そして恋華れんかの顔を見つめる。
 彼女は心配そうに甘太郎あまたろうの顔を見つめ返し、そこに彼の決意を見て取った。
 甘太郎あまたろうの体は今や胸元まで真っ黒にまっていて、そのことが恋華れんかの不安をあおり、彼女の脳裏のうりいやな予感を走らせた。

「アマタローくん……まさか」

 恋華れんか甘太郎あまたろうの胸元にすがりつき、彼の意思を問いただそうとした時にはすでにおそかった。
 彼の体の黒炭化は胸元から首までせり上がり、その対価として彼の背中には一対いっついの翼が生えそろっていた。
 それは美しく、しなやかな漆黒しっこくの翼だった。
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