甘×恋クレイジーズ

枕崎 純之助

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最終章 モール・イン・ザ・ダーク・ウォーター

第31話 やがてくる夜明け

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 真夜中のポルタス・レオニス。
 つい十数分前まで国中をさわがせていた大暴動はしおが引くようにすっかり沈静化ちんせいかしていた。
 人々は路上ろじょう軒先のきさきなどさまざまな場所に横たわったまま目を閉じている。
 だが、静寂せいじゃくの中にあっても破壊の爪痕つめあとは深く、大通りにはひっくり返されたまま炎を上げて燃えさかる自動車や、たたき割られたショー・ウインドウのガラスの破片はへんがあちこちに散乱さんらんしていた。

 死傷者の数は決して少なくない。
 市街地の中心部にある超高層ビル、ダーク・タワーの最上階では、フランチェスカの意のままにクラッキング信号をこの国中にき散らしていた中継役の男が身柄みがらを取り押さえられていた。
 取り押さえていたのは隣国りんごく国境こっきょう沿いに待機たいきしていたカントルムの部隊員たちだ。
 その現場で隊員らの陣頭じんとう指揮しきっているらしき若い女性隊長のもとに、一人の若い兵士が報告に訪れた。

「隊長。地下道で容疑者フランチェスカが宿主やどぬしとしていた人間の女が倒れていたのを保護ほごいたしました」
「そうか。手はず通り連行しろ」
「それからエージェントのレンカ・アズサガワとその護衛ごえいのアマタロウ・シスイも同じ場所で保護ほごいたしました」

 その報告を受けた女性隊長はきびしい表情の中にもほのかなみを見せた。

「見事生き残ったか。新人。うれしい限りだ」

 そう言うと女性隊長は二人の応急処置と医療施設しせつへの移送を部下にめいじた。
 指示に敬礼してその場を去る部下の背を見ながら、隊長は背筋せすじをピシッとばし、手にしたケータイを耳に当てる。

「ミカエリス女史。予定通り、中継役の1級感染者を取り押さえました。暴動は沈静化ちんせいしています。はい。フランチェスカの抜けがらを保護しました。移送作業に移ります。恋華れんかとアマタロウも無事です。ええ。では予定時刻までに撤収てっしゅうを完了し、事後はこちらの当局に引きぎます。では」

 そう言うと女は電話を切って周囲にいる兵士らに声高に告げた。

すみやかに撤収てっしゅうするぞ!」
 
 まだ混乱こんらん余韻よいんが残る常夏とこなつの楽園を異国の兵士らは次々と後にした。
 たった一日にして大きな動乱の起きたこの国が元の姿を取りもどすには少々の時間が必要とされるだろうが、それでも夜が明ければ温かな太陽が再びこの都市国家を照らすだろう。
 人のいとなみを見守るかのように。
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