15 / 101
第14話 助けを呼ぶ声
しおりを挟む
プリシラがガックリと項垂れるのを見たエミルは、恐怖で震え出した。
あの強くて気丈な姉が、団長から奇妙な液体の臭いを嗅がされた途端に、力を失ってしまったのだ。
姉のそんな姿を見るのは初めてだったので、エミルは大きな衝撃を受けた。
「姉様! 姉様!」
口を布で覆われた状態でエミルは必死に姉に呼びかけるが、プリシラは苦しげに呻くばかりで体に力も入らない様子だ。
そんな彼女の様子を見た団長は安堵の表情を浮かべた。
「さすがにこいつは効くみたいだな。さて、ゆっくりと話をしようじゃねえか」
そう言うと団長はプリシラに近付き、彼女の美しい金髪の一房に手を触れる。
「ほう。良く手入れされた髪だ。こりゃいい」
そう言う団長の顔がいやらしく歪むのを見たエミルは、怒りと恐怖で息が苦しくなるのを感じて必死に祈る。
(姉様が……母様……父様……姉様を助けて……誰か……誰か助けて)
エミルは爪が手の平に食い込むほど強く拳を握りしめ、必死の祈りを繰り返すのだった。
☆☆☆☆☆☆
「国の北部は戦火に見舞われているってのに、この街は呑気なものだな」
大通りに繰り出すアリアドの街の人々の賑やかな様子を見ながら、ジャスティーナは呆れたようにそう言った。
酒場で喉を潤した彼女は相棒のジュードと共に宿屋街に向かっていた。
今夜の寝床を確保するためだ。
そんな彼女の隣を歩きながら、ジュードは別の感想を持っていた。
「そうでもないさ。今この街には不安が渦巻いている。だけど自分達の日常が壊れることを人は簡単に受け入れられないからな。だから皆それに抗うようにいつも通りに振る舞っているんだ」
黒髪術者のジュードは人々の不安をその肌でひしひしと感じ取っていた。
祖国が他国から武力進攻を受けている。
今は遠く離れた北部地方の話だが、それがいつこの中央部のアリアドに波及してくるか分からない。
そうした不安は街に住む誰の胸にもあった。
「いつこの街にも戦火が及んでもおかしくない。明日の朝には街を発つべきだ。おまえのお仲間とやらはそれまでに見つかりそうかい?」
「そうだな……」
ジャスティーナに言葉を返そうとしたところでジュードはふいに立ち止まり、口を閉ざした。
急に両足首を誰かの手に掴まれたような気がしたのだ。
もちろん足元を見ても誰の手もかけられていない。
だが、ジュードはそこから一歩も動けなくなった。
そして彼の耳に何者かの声が飛び込んでくる。
(誰か……誰か助けて)
それは聞く者の胸を締め付けるような、苦しくて悲しい切なる祈りだった。
ジュードのただならぬ様子にジャスティーナは眉を潜める。
「どうした?」
「……聞こえて来た。助けを求める声だ」
その声の主が誰かは分からない。
だがジュードが明確に分かっていることは、その相手が自分と同じ黒髪術者であるということだ。
そしてその声がどこから自分を呼ぶのか、強烈なその感情の波によってジュードには手に取るように分かった。
「ジャスティーナ……こっちだ」
ジュードは弾かれたように人の波をかき分けて走り出し、ジャスティーナはその後を追う。
2人は夜の街を街外れに向けて駆け抜けるのだった。
あの強くて気丈な姉が、団長から奇妙な液体の臭いを嗅がされた途端に、力を失ってしまったのだ。
姉のそんな姿を見るのは初めてだったので、エミルは大きな衝撃を受けた。
「姉様! 姉様!」
口を布で覆われた状態でエミルは必死に姉に呼びかけるが、プリシラは苦しげに呻くばかりで体に力も入らない様子だ。
そんな彼女の様子を見た団長は安堵の表情を浮かべた。
「さすがにこいつは効くみたいだな。さて、ゆっくりと話をしようじゃねえか」
そう言うと団長はプリシラに近付き、彼女の美しい金髪の一房に手を触れる。
「ほう。良く手入れされた髪だ。こりゃいい」
そう言う団長の顔がいやらしく歪むのを見たエミルは、怒りと恐怖で息が苦しくなるのを感じて必死に祈る。
(姉様が……母様……父様……姉様を助けて……誰か……誰か助けて)
エミルは爪が手の平に食い込むほど強く拳を握りしめ、必死の祈りを繰り返すのだった。
☆☆☆☆☆☆
「国の北部は戦火に見舞われているってのに、この街は呑気なものだな」
大通りに繰り出すアリアドの街の人々の賑やかな様子を見ながら、ジャスティーナは呆れたようにそう言った。
酒場で喉を潤した彼女は相棒のジュードと共に宿屋街に向かっていた。
今夜の寝床を確保するためだ。
そんな彼女の隣を歩きながら、ジュードは別の感想を持っていた。
「そうでもないさ。今この街には不安が渦巻いている。だけど自分達の日常が壊れることを人は簡単に受け入れられないからな。だから皆それに抗うようにいつも通りに振る舞っているんだ」
黒髪術者のジュードは人々の不安をその肌でひしひしと感じ取っていた。
祖国が他国から武力進攻を受けている。
今は遠く離れた北部地方の話だが、それがいつこの中央部のアリアドに波及してくるか分からない。
そうした不安は街に住む誰の胸にもあった。
「いつこの街にも戦火が及んでもおかしくない。明日の朝には街を発つべきだ。おまえのお仲間とやらはそれまでに見つかりそうかい?」
「そうだな……」
ジャスティーナに言葉を返そうとしたところでジュードはふいに立ち止まり、口を閉ざした。
急に両足首を誰かの手に掴まれたような気がしたのだ。
もちろん足元を見ても誰の手もかけられていない。
だが、ジュードはそこから一歩も動けなくなった。
そして彼の耳に何者かの声が飛び込んでくる。
(誰か……誰か助けて)
それは聞く者の胸を締め付けるような、苦しくて悲しい切なる祈りだった。
ジュードのただならぬ様子にジャスティーナは眉を潜める。
「どうした?」
「……聞こえて来た。助けを求める声だ」
その声の主が誰かは分からない。
だがジュードが明確に分かっていることは、その相手が自分と同じ黒髪術者であるということだ。
そしてその声がどこから自分を呼ぶのか、強烈なその感情の波によってジュードには手に取るように分かった。
「ジャスティーナ……こっちだ」
ジュードは弾かれたように人の波をかき分けて走り出し、ジャスティーナはその後を追う。
2人は夜の街を街外れに向けて駆け抜けるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる