36 / 101
第35話 ただの女と男として
しおりを挟む
黄泉送りの伽が始まった。
亡き母の眠る隣で、ブリジットはボルドを抱き寄せる。
そして艶やかに潤んだ目でボルドを見つめた。
そしてボルドの手を取ると、それを自分の頬にあてがう。
ボルドはわずかに驚きの表情を浮かべた。
「ブリジット……よろしいのですか?」
「ボルド。堅苦しいのはやめだ。これからは寝室にアタシと2人でいる時は、その手でアタシの肌に触れてくれ」
そう言うとブリジットはわずかに頬を赤らめる。
「……それがアタシの望みだ。おまえはアタシに触れたくないか?」
そう言ったブリジットの顔には今までボルドが見たことがないような臆病な色が滲む。
ボルドは知った。
彼女も怖いのだと。
途端にボルドの口は恐れを振り切り言葉を発する。
「……触れたいです。あなたに触れてみたい」
「ならば何も臆することはあるまい。ボルド。アタシは触れ合いたいのだ。おまえと……ただ1人の女と男として」
そう言うとブリジットはボルドの唇に自分の唇を重ね合わせた。
互いに吸い合うような口づけをかわし、その勢いで2人はベッドに倒れ込む。
局部に塗り込んだ媚薬の効果が出ていることもあるが、ボルドの心身から先ほどまでの緊張は抜け落ち、ブリジットの美しい素肌を前にして彼は極度の興奮状態にあった。
ボルドは無我夢中でブリジットの素肌を撫で、その乳房に唇を這わせる。
そして初めて彼は自分からブリジットの湿った温もりの中へと潜り込んでいった。
繰り返される摩擦の中で、これまでに感じたことのない男の本能がボルドの体の芯をビリビリと刺激して顔を覗かせる。
今までは抱かれるばかりだった。
我が身をブリジットに捧げ、彼女の劣情を全身で受け止めた。
それがボルドにとっての幸せになっていた。
だが今は、それとは明らかに異なる獣じみた欲望が、気を抜くと彼の身の内を支配しようとする。
このまま本能のまま力の限り彼女にのしかかりたくなる衝動に駆られる。
それでもボルドは目の前のブリジットを大切に想う心を失わず、必死に力の加減をした。
だが、ブリジットはそんなボルドを鼓舞するように言う。
「もっとだ。ボルド。もっと来い。遠慮などするな。おまえが多少力を入れたくらいでは、アタシの体はビクともしないぞ」
「ライラ……」
彼女の真の名を呼び、ボルドは自分の限界まで己の欲望をぶつけ、ブリジットはそんなボルドにしがみついて体を震わせる。
そして2人は各々に大きく息をついて絶頂の頂きで共に果てた。
「はぁ……はぁ……」
荒い息をつきながら、ブリジットとボルドはしばしそのままベッドに身を横たえる。
いつもの数倍の疲労を感じながらもボルドは深い幸福感に包まれてブリジットを見つめた。
ブリジットは頬を赤く上気させ、ゆっくりと息を整えてボルトを見つめる。
「ボルド。1つ頼みがある」
「命令……ではないのですか?」
そう言うボルトの頬を指で軽くつつきながらブリジットはわずかに笑みを浮かべ、しかしすぐに神妙な面持ちで言う。
「命令ではない。頼みだ。母に……その黒髪を触れさせてあげてはくれまいか」
ブリジットの言葉にボルドはわずかに目を見開くが、すぐに柔和な笑みを浮かべた。
「……喜んで」
そう言うとボルドは身を起こしてベッドから降り、先代の棺のすぐ横に膝立ちになる。
ブリジットも同様に彼の横に座ると、棺の中の冷たくなった母の手を取る。
そしてその手をボルドの黒髪に触れさせた。
かつて先代ブリジットがこよなく愛した情夫バイロンと同じ黒髪だ。
そしてブリジットは亡き母に優しく語りかけた。
「母上。後のことは何もご心配なさらず、どうか父上とお幸せにお過ごし下さい」
そう言うブリジットの目には涙が滲む。
そんな彼女をボルドはそっと抱きしめた。
ブリジットは彼の抱擁を受けて安心したように目を閉じる。
その頬をひとすじの涙が伝い落ちた。
黄泉送りの伽はこうして幕を閉じた。
女王と情夫の立場である2人はこの夜、亡き母の前でただの女と男として愛し合ったのだった。
亡き母の眠る隣で、ブリジットはボルドを抱き寄せる。
そして艶やかに潤んだ目でボルドを見つめた。
そしてボルドの手を取ると、それを自分の頬にあてがう。
ボルドはわずかに驚きの表情を浮かべた。
「ブリジット……よろしいのですか?」
「ボルド。堅苦しいのはやめだ。これからは寝室にアタシと2人でいる時は、その手でアタシの肌に触れてくれ」
そう言うとブリジットはわずかに頬を赤らめる。
「……それがアタシの望みだ。おまえはアタシに触れたくないか?」
そう言ったブリジットの顔には今までボルドが見たことがないような臆病な色が滲む。
ボルドは知った。
彼女も怖いのだと。
途端にボルドの口は恐れを振り切り言葉を発する。
「……触れたいです。あなたに触れてみたい」
「ならば何も臆することはあるまい。ボルド。アタシは触れ合いたいのだ。おまえと……ただ1人の女と男として」
そう言うとブリジットはボルドの唇に自分の唇を重ね合わせた。
互いに吸い合うような口づけをかわし、その勢いで2人はベッドに倒れ込む。
局部に塗り込んだ媚薬の効果が出ていることもあるが、ボルドの心身から先ほどまでの緊張は抜け落ち、ブリジットの美しい素肌を前にして彼は極度の興奮状態にあった。
ボルドは無我夢中でブリジットの素肌を撫で、その乳房に唇を這わせる。
そして初めて彼は自分からブリジットの湿った温もりの中へと潜り込んでいった。
繰り返される摩擦の中で、これまでに感じたことのない男の本能がボルドの体の芯をビリビリと刺激して顔を覗かせる。
今までは抱かれるばかりだった。
我が身をブリジットに捧げ、彼女の劣情を全身で受け止めた。
それがボルドにとっての幸せになっていた。
だが今は、それとは明らかに異なる獣じみた欲望が、気を抜くと彼の身の内を支配しようとする。
このまま本能のまま力の限り彼女にのしかかりたくなる衝動に駆られる。
それでもボルドは目の前のブリジットを大切に想う心を失わず、必死に力の加減をした。
だが、ブリジットはそんなボルドを鼓舞するように言う。
「もっとだ。ボルド。もっと来い。遠慮などするな。おまえが多少力を入れたくらいでは、アタシの体はビクともしないぞ」
「ライラ……」
彼女の真の名を呼び、ボルドは自分の限界まで己の欲望をぶつけ、ブリジットはそんなボルドにしがみついて体を震わせる。
そして2人は各々に大きく息をついて絶頂の頂きで共に果てた。
「はぁ……はぁ……」
荒い息をつきながら、ブリジットとボルドはしばしそのままベッドに身を横たえる。
いつもの数倍の疲労を感じながらもボルドは深い幸福感に包まれてブリジットを見つめた。
ブリジットは頬を赤く上気させ、ゆっくりと息を整えてボルトを見つめる。
「ボルド。1つ頼みがある」
「命令……ではないのですか?」
そう言うボルトの頬を指で軽くつつきながらブリジットはわずかに笑みを浮かべ、しかしすぐに神妙な面持ちで言う。
「命令ではない。頼みだ。母に……その黒髪を触れさせてあげてはくれまいか」
ブリジットの言葉にボルドはわずかに目を見開くが、すぐに柔和な笑みを浮かべた。
「……喜んで」
そう言うとボルドは身を起こしてベッドから降り、先代の棺のすぐ横に膝立ちになる。
ブリジットも同様に彼の横に座ると、棺の中の冷たくなった母の手を取る。
そしてその手をボルドの黒髪に触れさせた。
かつて先代ブリジットがこよなく愛した情夫バイロンと同じ黒髪だ。
そしてブリジットは亡き母に優しく語りかけた。
「母上。後のことは何もご心配なさらず、どうか父上とお幸せにお過ごし下さい」
そう言うブリジットの目には涙が滲む。
そんな彼女をボルドはそっと抱きしめた。
ブリジットは彼の抱擁を受けて安心したように目を閉じる。
その頬をひとすじの涙が伝い落ちた。
黄泉送りの伽はこうして幕を閉じた。
女王と情夫の立場である2人はこの夜、亡き母の前でただの女と男として愛し合ったのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
17
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる