蛮族女王の娘《プリンセス》 第3部【王国編】(完結編)

枕崎 純之助

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第223話 若者たちの決起

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「ダメだ。エリカとハリエット、それにオリアーナ。おまえたちの外出は認められていない」

 赤毛の衛兵は名簿めいぼを見ながら3人の顔を確認し、厳しい顔つきでそう言った。
 ダニアの都の西門。
 エリカとハリエット、オリアーナは街の外に出ようとして門を守る衛兵らに止められたのだ。
 エリカが声を上げる。

「何でですか? アタシたちもプリシラ様の捜索そうさくに向かいます!」
捜索そうさく隊はすでに組織されて出発している。今さらの参加は認められない。それにオリアーナはプリシラ様の失踪に加担した疑いが晴れていない。これ以上ゴネるようなら3人まとめて拘束こうそくするぞ」

 そう言って槍を向けてくる2人の女戦士らに、3人はくちびるんだ。 
 たった1人で旅立ったプリシラを追いかけるために外に出ようとしたが、すでに議会からエリカたちの外出禁止令が発せられているようだった。 
 そうでなくとも今は非常事態なのだ。
 ダニアは共和国の同盟国として王国との戦乱に備えて戦力を整えておかねばならない。
 兵力の勝手な流出は許可されないのも当然だろう。

「プリシラ様を追うなら彼女を良く知るアタシたちがいるほがいいです!」
「アタシたちならプリシラ様を説得して連れ戻せるかもしれません!」

 必死に食い下がるエリカとハリエットだが、30代くらいの中堅戦士である衛兵の女たちは頑としてこれを認めない。

だまれ! いい加減にしろ小娘どもが! ダメだと言ったらダメだ!」

 その様子に、それまでだまっていたオリアーナは我慢できずに衛兵らに詰め寄ろうとした。
 だがその時だった。

「お待ち下さい!」

 後方から声が響く。
 3人が振り返ると、そこにはエステルが立っていた。
 その手には書状が握られている。

「ここにウィレミナ議長からの命令書があります。彼女たちには捜索そうさく隊への追加招集が命じられております」
「エステル!」

 おどろいたハリエットが目をいて声を上げた。
 エリカも同様の表情でエステルに歩み寄る。 

「ちょっと。何やってるのよエステル。首を突っ込まない方がいいって」

 だがエステルはそれを無視し、書状を衛兵に渡した。
 いぶかしげにその書状の中身に目を通す衛兵に、エステルは落ち着いた声でその内容を告げた。

「エリカ、ハリエット、オリアーナ。そしてエステルの4名。プリシラ様の捜索そうさく任務に加わります」

 そう言うとエステルは物言いたげなエリカたちを引っ張る様にして門の外に向かう。 
 だが、そこで衛兵が彼女たちを呼び止めた。

「待て」

 その声にエステルら4人はギクリとする。
 エステルは表情を顔に出さぬよう、努めて冷静な面持おももちで振り返った。

「……何か?」
「いや。確かにこれはウィレミナ議長からの命令書のようだが、つい先ほども議長からの命令書を受け取ったばかりなのだ」
「えっ?」

 エステルは思わず心臓が跳ね上がり、表情を失う。
 命令書はウィレミナからの打診書を基にエステルが偽造ぎぞうして作ったものだ。
 公文書偽造ぎぞうで重罪覚悟の蛮行ばんこうだと自分でも思った。 
 そうとは知らずに衛兵は先ほど受け取ったという別の命令書をふところから取り出す。

「妙だな……外出禁止令が出されたばかりなのだが……」

 そう言ってまゆをひそめる衛兵にエステルが顔を引きつらせたその時だった。
 ヒューッと甲高い音が頭上から聞こえて来たのだ。
 見上げると頭上から一本の燃え盛る矢が落下してくるのが見える。

「火矢? いや鏑矢かぶらやか……」 

 ヒューッと音を立てるそれは西門に突き立った瞬間、何かが割れるような音を立てたかと思うと、ボワッと大きく炎を広げて激しく燃え盛った。

「うわっ!」

 衛兵らが思わず声を上げる。
 どうやら火矢の中ほどに陶器製の油壺あぶらつぼが取り付けてあるようで、それが門にぶつかった衝撃で割れて中から飛び出した油に引火したようだ。

「な、何だ? 敵襲か?」

 火矢は次々と打ち込まれる。
 そのすべてに油壺あぶらつぼが取り付けてあり、そこかしこで引火して激しい炎を上げた。
 西門は石造りだが、その周囲は炎に包まれていく。
 衛兵は書状を放り捨てると、仲間たちと共にあわてて消火活動に取り掛かった。

「水だ! 消火しろ!」

 唐突な事態にエステルらは呆然ぼうぜんと立ち尽くすが、オリアーナがエリカとハリエットの手を取って駆け出した。
 消火活動に追われる衛兵らをなかば弾き飛ばす様にしてオリアーナは開いたままの西門を突破する。
 その様子にエステルは愕然がくぜんと声をらした。
 
「そ、そんな強行突破のようなことを……」 

 そううめくエステルの手をふいに誰かが取った。
 おどろいて目を見張ると、エステルの手を握ったのはいつの間にかそこにいたネルだった。 

「……ネル?」
「ボサッとしてんじゃねえ。行くぞ。ガリ勉女」
「えっ? ちょ、ちょっと!」

 ネルはエステルの手を引っ張って、炎に巻かれている西門の下をくぐり抜けていく。
 それを見咎みとがめて行く手をはばもうとする衛兵が1人立ちはだかったが、ネルはその衛兵を平然と蹴り飛ばして駆け抜けた。

「誰にも邪魔させねえ! アタシはアタシの道を行く!」

 快活にそう叫ぶとネルはエステルを引っ張って西門から都の外へと駆け出していった。 

 ☆☆☆☆☆☆

 ダニアの都はすでに2キロほど後方に遠ざかっていた。
 街を飛び出してきた5人の赤毛の女たちは必死に走り続けて息を切らしながら後方を振り返る。
 すでに火は消し止められたようで、ダニアの都は夜のやみの中に静かにたたずんでいた。
 突然の西門の火災騒ぎに皆が顔を強張こわばらせる中、1人だけニヤニヤと笑みを浮かべているのはネルだ。

「もう鎮火ちんかされたみたいだな」

 そんな様子のネルにエリカは青ざめた顔で声をしぼり出した。

「ネ、ネル。あんた、まさかさっきの火矢って……」

 エリカたちが衛兵らと押し問答をしていた西門に火矢が降り注ぎ、西門周辺を派手に焼いてくれたおかげで衛兵らが混乱する中、彼女たちは脱出に成功したのだ。
 そんなとんでもないことをしでかす弓の使い手は1人しか思い当たらない。
 エリカの言葉にネルは口のはしり上げて笑った。

「アタシのおかげだろ? 感謝しろよな」

 得意げにそう言うネルに他の女たちはさすがにあきれて顔をしかめる。
 中でもエステルは泡を食ってネルに詰め寄った。

「な……何を考えているんですか! 放火は重罪ですよ!」
「別に本格的に燃やしたわけじゃねえだろ。あんなボヤ程度ならすぐに消えるさ。西門は石造りだしな」
「そういう問題ですか!」

 なおも詰め寄ろうとするエステルだが、ネルはニヤリとして1枚の紙を取り出した。
 それを見たエステルはハッと青ざめる。

「そ、それは……」
「さっき西門のところで拾ったんだ。放火も重罪だろうが、公文書偽造ぎぞうも相当なもんだと思うぜ? エステル。おまえ、ウィレミナ議長の名をかたってこいつを捏造ねつぞうしたな?」
「ぐっ……」

 ネルの言葉にエリカたちもハッとした。
 先ほど西門で押し問答をしているエリカたちの前に現れたエステルは、ウィレミナ議長からの命令書という書状を衛兵に渡して自分たちの外出を許可させようとした。
 しかし少し冷静になって考えてみればウィレミナがそんな命令書を出すのは妙だと分かる。

「恐れ入ったぜ。ガリ勉女じゃなくて捏造ねつぞう女だったとはな。おっと。責めてるわけじゃねえぞ。めてるんだよ。大したもんだってな」

 そう言うとネルは愉快そうに高笑いを響かせた。
 エステルはあわててネルの手から書状を取り返そうとしたが、ネルは書状をビリビリに破り捨ててしまった。

「ああっ!」
「証拠はちゃんと隠滅いんめつしとかねえとなぁ。まあ重罪人同士、仲良くしようぜ」

 細かい紙片となって夜風に消えていく書状を唖然あぜんとした顔で見送るエステルをよそに、ハリエットが胡散臭うさんくさそうにネルに目を向けた。

「ネル。あんた、どういう風の吹き回しよ。友情ごっことか言って馬鹿にしていたくせに一緒にプリシラを助けに行こうって言うの?」
「フンッ。弓兵隊の仕事なんかより、そっちのほうが面白そうだと思ったから行くだけさ」

 あっけらかんとそう言うネルにハリエットはあきれてエリカと顔を見合わせるが、それに構わずにネルは声を上げる。

「ほれ。サッサと行かねえと、追手に捕まるぞ。鼻息荒く飛び出して来たのに、すぐ捕まって連れ戻されるとかダサ過ぎるからな。急げよ。あと捏造ねつぞう女はご自慢の頭脳でアタシらをちゃんとエスコートしろよ。まずは足を調達だ。歩いて行くには王国は遠過ぎるからな」

 ネルは口もなめらかに先頭を進んでいく。
 そんな調子の彼女に皆はあきれながらも、その後に付いて行くのだった。
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