蛮族女王の娘《プリンセス》 第3部【王国編】(完結編)

枕崎 純之助

文字の大きさ
56 / 129

第256話 協力

しおりを挟む
「大丈夫? ケガしてない? ごめんなさい。少し考え事をしていたものだから」

 自分とぶつかって倒れたヤブランを気遣きづかうようにショーナはそう言った。
 ヤブランは恐縮して頭を下げる。
 ショーナは黒帯隊ダーク・ベルトの隊長であり、単なる小間使いのヤブランから見ればはるかに身分が上なのだ。

「こちらこそ申し訳ございません。ショーナ様」

 そう言うヤブランの表情がわずかに引きつっていたのでショーナは思わずたずねた。

「どうしたの? 顔色が優れないけれど……どこか体調が悪いのかしら?」

 ヤブランという少女は12歳という若さの割に落ち着いていると以前からショーナは思っていた。
 とてもさとい少女だ、とも。
 あまり余計なことを言わず、周囲の人々をよく観察してうまく立ち回る。

 それでいて大きな野心は無く多くを望まない。
 王国に拾われた流浪るろうの民という自分の立場の弱さをよく分かっているのだ。
 そんな彼女の生き方を見ると、ショーナは何だか物悲しくなる。
 それは恐らくショーナ自身も似たような境遇だからだろう。
 隊長の身分を与えられようと、しょせんは王国のためにその人生をささげなければならない立場なのだ。

「大丈夫です。すみません。ショーナ様。私、仕事の途中なので失礼しますね」

 ヤブランはそう言って笑みを浮かべるともう一度、頭を下げてその場を立ち去ろうとする。
 だが、彼女の作り笑顔にピンときたショーナはヤブランの手を取って彼女を引き留めた。
 ショーナの黒髪術者ダークネスとしての感覚が告げている。
 ヤブランは何か重要なことを知っている、と。
 それが重くて彼女の心には大きな負担がかかっているのだ。

「ヤブラン。少し話をしない? 大事な話を」

 そう言うショーナにヤブランは思わず顔を強張こわばらせるのだった。

☆☆☆☆☆☆

「ヤブラン。少し話をしない? 大事な話を」

 ショーナにそう言われてヤブランは思わず顔を引きつらせた。
 ショーナは黒髪術者ダークネスだ。
 おそらくヤブランのあせりをより敏感に感じ取っているのだろう。
 だが、ここで無理に振り払って逃げれば余計にあやしく思われてしまう。

 ショーナは黒帯隊ダークベルトの隊長。
 王に忠誠をちかった王国軍の一員だ。
 そんな彼女の前であやしい言動を見せれば痛くもない腹を探られることになり、最悪の場合は何らかの罪を着せられてしまうかもしれない。
 そう思ったヤブランは努めて冷静に言った。

「お話ですか? 私などに大事なお話とは何でしょうか?」

 そう言うヤブランの手を取ったままショーナはそれにこたえることなく、ヤブランの手を引いて先ほどジェラルディーンらがいた東屋ガゼボへと向かう。
 そしてそこに置かれた椅子いすに戻るようヤブランにすすめると、ショーナも椅子いすに腰を下ろした。
 ヤブランも仕方なく向かいの椅子いすに座った。
 するとショーナはしばし目を閉じる。

 おそらく黒髪術者ダークネスの力で周囲に人がいないかを探っているのだとヤブランは理解する。
 要するに人に聞かれたら困る話をするのだろう。
 固唾かたずを飲んでショーナの様子を見守るヤブランの前で、ショーナはようやく目を開けた。
 周囲に誰もいないと判断したのだろう。

「最近、毎日エミルと面会をしているらしいわね。誰かに頼まれたの?」

 おそくら衛兵らの間でうわさになっているのだろう。
 ココノエの少女が毎日エミルと面会をし、せっせと差し入れをしていると。
 ショーナはそれを聞いたのだ。
 やはりショーナもエミルのことを探りたいのだと分かり、ヤブランは疑心暗鬼におちいった。

 今、エミルをめぐってはシャクナゲとジェラルディーンの2人が何やら駆け引きをしている。
 ショーナはそのどちらの陣営なのか。
 あるいはまったく別の思惑があってエミルのことを探っているのか。
 それが分からずヤブランは警戒しながら口を開いた。

「誰にも頼まれていません。私が行きたいから面会に行っているんです」
「……そう。まああなたはエミルと年齢も近いし、話し相手としてはおたがいにちょうどいいかもしれないわね。きっとあなたのおかげでエミルも気持ちがなぐさめられているでしょう。ところで……エミルに何か変わったことはない?」

 ショーナの問いにヤブランは表情を変えぬよう努めて答えた。

「特に何も。以前よりも少し元気になっているくらいですかね。あの……どうしてそのようなことを聞かれるのですか?」

 ヤブランはおずおずとそうたずねる。
 するとショーナは少々困ったような表情で言った。

「実はね……身内の恥をさらすような話なのだけれど、うちの部下がシャクナゲ様と秘密裏ひみつりに接触しているようなのよ。で、シャクナゲ様がここのところ天空ろうに出入りしているようだから、その部下に問い詰めようと思ったの。でも問い詰めるにしても事実をきちんと把握はあくしておきたいと思ってね。ヤブラン。何か事情を知っていたら些細ささいなことでもいいから教えてほしいの」
 
 その話にヤブランはおどろいて目を見開いた。
 黒帯隊ダークベルトの隊長であるショーナがそんな部隊の内情を顔見知り程度の小間使いに過ぎない自分に話すとは思わなかったのだ。
 ヤブランはショーナの真意をはかりかねて困惑の表情を浮かべながら言った。

「私などではお力になれないと思いますが……」
「シャクナゲ様が何をしようとしているか……あなたは知っているんじゃない?」

 ショーナの言葉にヤブランは息を飲む。
 そんな彼女の瞳をのぞき込むようにして見つめながら、ショーナは言葉を続けた。

「エミルはこの国にとって切り札の人質よ。彼が心身ともに健康でいることが絶対条件であり、共和国との交渉に向けた大前提なの。シャクナゲ様はそれを知りながらエミルに何かをしようとしているのでは?」 

 その話にも努めて平静でいようとするヤブランにショーナはさらにたたみ掛けた。

「それで万が一エミルに何かあれば、王陛下へいかはともかく王妃おうひ殿下がだまっていないわよ。ジェラルディーン様のこの国での影響力の強さはあなたも知らないわけじゃないでしょう? 王妃おうひ殿下が本気になればシャクナゲ様は糾弾きゅうだんされ、あなたたちココノエの民は立場がまずくなるわ。そして……」

 そう言うとショーナはヤブランの手を握る。

「このままいくとエミルはシャクナゲ様に何をされるか分からないわ」

 ショーナのその言葉にヤブランは心臓をギュッとつかまれたような気がした。
 それは今まさにヤブランが心配していることだからだ。
 ショーナはそこを揺さぶってきているのだとヤブランは理解した。

「……ショーナ様は何をお望みなのですか?」
「今はまだ言えない。ただ一つ言えるのは……ワタシはチェルシー様に幸せになっていただきたいの」
「将軍閣下かっかに? それはどういう……」

 そう言いかけてヤブランはハッとした。
 ショーナの目に先ほどまでは無かった切実な光がにじんでいる。
 ここから先は今はまだ聞くことが出来ないとヤブランは悟った。

 なぜならヤブランがショーナに猜疑さいぎ心を抱いているように、ショーナもまたヤブランを信じ切れていないのだ。
 だがショーナが自分と同じく、現状に危機感を覚えていることは分かった。
 ヤブランはショーナの目を静かに見つめ、本心を口にする。

「私も……エミルには無事でいてほしいです」
「そう。ならば協力し合いましょう。ワタシとあなたの2人だけの秘密の同盟よ」

 そう言うとショーナはつかんだままのヤブランの手をあらためて握り直し、ヤブランもその手を握り返すのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

【リクエスト作品】邪神のしもべ  異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!

石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。 その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。 一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。 幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。 そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。 白い空間に声が流れる。 『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』 話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。 幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。 金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。 そう言い切れるほど美しい存在… 彼女こそが邪神エグソーダス。 災いと不幸をもたらす女神だった。 今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

処理中です...