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第278話 因縁の再戦
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暗闇の中に着地する。
穴に飛び込んだジャスティーナは、そのまま身を低くして周囲の気配を探った。
思った通り、そこにオニユリの姿はない。
この穴に落ちた後、上から狙われることを恐れて移動したのだろう。
ここはモグラの穴だ。
ジャスティーナとジュードはモグラの先導でここを通り、王都に潜入しようとしていた。
しかしこの付近に差し掛かったところでジュードが不意に言ったのだ。
プリシラが近くで危機に陥っていると。
すぐさま2人は予定を変更し、モグラの男に伝えて城壁の手前で地上に出たのだ。
そこでオニユリと戦うプリシラを見ると、ジャスティーナは短剣を壁に突き立てて驚異的な身体能力で城壁の上によじ登った。
そしてジュードはモグラの先導で穴の中を通って、オニユリの背後に位置する穴の出口から顔を出したのだった。
(さて、ようやく復讐の時が来たね)
ジャスティーナは側頭部の傷跡に手を触れた。
オニユリの銃弾を浴びた傷は側頭部にクッキリと残っている。
触れるとまだわずかな痛みを感じるが、その痛みが思い出させてくれるのだ。
自分があのオニユリにやられた時のことを。
そして彼女の心は燃えるのだ。
今度は勝つと。
ダニアの女は負けっ放しでは終われない。
穴の中は暗かったがジャスティーナは闇に目を慣らし、四つん這いのまま進む。
頭を高くして歩いていると頭に銃弾を浴びる恐れがあるからだ。
モグラの穴の地下道は地面がしっかりと踏み固められているため、足跡は残りにくい。
だがここにオニユリが落ちた後、移動したであろうわずかな痕跡が残されている。
ニオイだ。
オニユリとの対戦経験でジャスティーナはすでに知っていた。
発砲した後、その主にまとわりつくようにして残る煙のニオイを。
この通路にはそのニオイが鮮明に残されていた。
土のニオイばかりの地下道でその異質なニオイは明らかに目立っている。
(あの女……近くに潜んでいる)
オニユリにとってこの穴は未知の空間だ。
奥に行き過ぎて迷うことを危惧し、必ず落ちた穴から誰かしらに助けを求めるだろう。
恐らく今も暗闇の中に身を潜めて、様子を窺っているはずだ。
(こういう時、ジュードのように力があれば楽なんだけどね)
そう内心で呟きながら、ジャスティーナは穴の中の空気の流れを感じる。
王都まで辿り着く長い道のりのうちに、かすかな風向きの変化でその先に分かれ道があることを彼女は感じ取れるようになっていた。
空気の流れを感じ取る肌感覚が練り上げられたのだ。
ジャスティーナは大きく息を吸い込むと、腹の底から声を出した。
「オニユリィィィィ! 今からこのジャスティーナが殺しに行くぞ! 震えながら待ちな!」
静かな地下道の中にジャスティーナの声が響き渡り、まるで闇に吸収されるかのように消えていく。
そしてジャスティーナはその場で身動きせずに耳を欹てた。
暗闇に慣れてきた目を凝らす。
次の瞬間、耳をつんざくような銃声が鳴り響き、暗闇の中にパッと火花が散った。
(あの女……誘ってやがる。いい度胸じゃないか)
ジャスティーナの大声に対してオニユリは発砲で返してきた。
弾が1発無駄になるだけではなく、自身の居場所を相手に知らせる不必要な挑発行為だった。
だがそれは「返り討ちにしてやるからかかってこい」というオニユリの意思表示だ。
ジャスティーナは一気に戦意が昂ぶるのを感じた。
1対1での決闘。
彼女の身に流れるダニアの血が滾らぬわけがない。
ジャスティーナは四つん這いのままゆっくり進む。
彼女にとっての優位性は先ほど通ってきたこの穴の地形を覚えているということだ。
ジャスティーナの頭の中にはオニユリをどこで仕留めるか、すでにその絵図が描かれていた。
☆☆☆☆☆☆
オニユリは暗闇の壁際に座り込み、拳銃に弾丸を装填した。
暗闇に目が慣れてきている。
何者かによって穴に引きずり込まれたオニユリは、5メートルほど下の地面に落下した。
彼女の運動能力の高さによって咄嗟に受け身を取ることが出来たが、わずかに足を捻ってしまっている。
(何なの? この穴は!)
オニユリは怒りと共に危機感を覚えていた。
つい先ほどジャスティーナの大声が響き渡ってきた。
彼女が自分を殺しに来る。
(上等じゃない。やれるものならやってみなさい)
この地下道にオニユリを引き込んだということは、おそらくジャスティーナらはここの地形などを知っているはずだ。
一方のオニユリはこの穴の事をまったく知らない。
これは大きく不利だった。
そして地下道の奥へ入ってしまえば元の場所に戻れずに迷ってしまう恐れがある。
落ちた穴に戻り、そこで王国兵の救助を待つしかない。
そのためには邪魔なジャスティーナを排除する必要があった。
(あの筋肉女……今度こそ確実に始末してやるわ)
オニユリは目を閉じると殺意を込めて前方の空間に拳銃を撃ち放った。
反響音が鳴り響く。
自分の位置を相手側に知らせる愚行だが、オニユリはジャスティーナをおびき寄せて必ず殺すという決意を胸に、目を開けて移動し始めるのだった。
☆☆☆☆☆☆
(この先の道は広間に出る。先ほどの私の声と銃声を聞いてモグラたちが逃げてくれていればいいが……)
ジャスティーナは姿勢を低くしたまま獣のように四つ足で移動していく。
頭を高くして歩けば、オニユリが闇雲に銃撃をしてきた際に命中してしまう恐れが高まるからだ。
移動に時間がかかるがジャスティーナは用心を怠らなかった。
目指すのは地下道の途中に作られた広間だ。
オニユリと戦うならば狭い通路ではなく、ある程度広い場所の方がいい。
この近くにモグラたちが休憩場として使う広間がある。
先ほどここに来る途中に通った時には広間は無人だった。
しかし広間には獣脂の蝋燭の置かれた燭台がいくつも用意されており、火打石を使えばすぐに火を灯すことが出来る。
そこにオニユリを誘い込みたい。
おそらくオニユリもジャスティーナと同じように思っているだろう。
相手にとっても戦うためには広い空間と明るい視界は必要だ。
ジャスティーナは獣のように鼻をひくつかせて、硝煙のニオイを追う。
やがて……前方にわずかな明かりが見えた。
広間だ。
広間から漏れ出れる明かりが通路の先をわずかに照らし出している。
そしてジャスティーナは見た。
人影がその灯かりにわずかに閃くのを。
ジャスティーナは息を飲む。
モグラの話によれば休憩室に留まるのはほんの1時間程度だという。
そして彼らは休憩室から出る際は必ず蝋燭を消していく。
明かりがついているということは、そこに誰かがいるということだった。
(モグラか……オニユリか……)
後者であることを祈り、ジャスティーナは気が急くのを覚える。
そして周囲の気配を探りながら広間へと向かった。
途中から硝煙のニオイと獣脂の蝋燭のニオイが混じって分からなくなってしまった。
そして広間に入る手前の壁に背をつけたジャスティーナは腰帯から抜いた短剣を2本握る。
オニユリを至近距離から攻撃するのに最適の武器だ。
広間の中からは物音は聞こえないが、人の気配がする。
明かりに人影が揺れていた。
ジャスティーナは静かに息を吸い込むと止める。
そして勢いよく転がりながら広間に進入した。
そこにいた人物に向けてジャスティーナは短剣を投げつけようとし……止める。
そこにいたのは休憩中のモグラの男だった。
この王都までジャスティーナらを案内してくれた初老のモグラだ。
彼は今にも自分に短剣を投げつけようとしているジャスティーナを驚いた顔で見つめている。
ジャスティーナはわずかに息を吐いて彼に詫びた。
「……すまない。敵かと思ったんだ。許してくれ」
「敵? 敵とは何者だ? なぜここにそのような者がいる?」
そう尋ねるモグラ以外に広間に人の姿は無い。
初老のモグラは一仕事終えたばかりで、疲れた顔でここで休んでいたのだ。
彼の問いにジャスティーナは正直に話をした。
「悪いな。あんたたちの穴に白い鼠を引き込んじまった。すぐにここから避難を……」
そう言いかけたジャスティーナはハッとして踵を返す。
途端に彼女の肩が銃弾を浴びて激しく血を撒き散らした。
「ぐうっ!」
顔をしかめて呻き声を漏らすジャスティーナの視線の先には、広間の入口に飛び込んで来たオニユリの姿があるのだった。
穴に飛び込んだジャスティーナは、そのまま身を低くして周囲の気配を探った。
思った通り、そこにオニユリの姿はない。
この穴に落ちた後、上から狙われることを恐れて移動したのだろう。
ここはモグラの穴だ。
ジャスティーナとジュードはモグラの先導でここを通り、王都に潜入しようとしていた。
しかしこの付近に差し掛かったところでジュードが不意に言ったのだ。
プリシラが近くで危機に陥っていると。
すぐさま2人は予定を変更し、モグラの男に伝えて城壁の手前で地上に出たのだ。
そこでオニユリと戦うプリシラを見ると、ジャスティーナは短剣を壁に突き立てて驚異的な身体能力で城壁の上によじ登った。
そしてジュードはモグラの先導で穴の中を通って、オニユリの背後に位置する穴の出口から顔を出したのだった。
(さて、ようやく復讐の時が来たね)
ジャスティーナは側頭部の傷跡に手を触れた。
オニユリの銃弾を浴びた傷は側頭部にクッキリと残っている。
触れるとまだわずかな痛みを感じるが、その痛みが思い出させてくれるのだ。
自分があのオニユリにやられた時のことを。
そして彼女の心は燃えるのだ。
今度は勝つと。
ダニアの女は負けっ放しでは終われない。
穴の中は暗かったがジャスティーナは闇に目を慣らし、四つん這いのまま進む。
頭を高くして歩いていると頭に銃弾を浴びる恐れがあるからだ。
モグラの穴の地下道は地面がしっかりと踏み固められているため、足跡は残りにくい。
だがここにオニユリが落ちた後、移動したであろうわずかな痕跡が残されている。
ニオイだ。
オニユリとの対戦経験でジャスティーナはすでに知っていた。
発砲した後、その主にまとわりつくようにして残る煙のニオイを。
この通路にはそのニオイが鮮明に残されていた。
土のニオイばかりの地下道でその異質なニオイは明らかに目立っている。
(あの女……近くに潜んでいる)
オニユリにとってこの穴は未知の空間だ。
奥に行き過ぎて迷うことを危惧し、必ず落ちた穴から誰かしらに助けを求めるだろう。
恐らく今も暗闇の中に身を潜めて、様子を窺っているはずだ。
(こういう時、ジュードのように力があれば楽なんだけどね)
そう内心で呟きながら、ジャスティーナは穴の中の空気の流れを感じる。
王都まで辿り着く長い道のりのうちに、かすかな風向きの変化でその先に分かれ道があることを彼女は感じ取れるようになっていた。
空気の流れを感じ取る肌感覚が練り上げられたのだ。
ジャスティーナは大きく息を吸い込むと、腹の底から声を出した。
「オニユリィィィィ! 今からこのジャスティーナが殺しに行くぞ! 震えながら待ちな!」
静かな地下道の中にジャスティーナの声が響き渡り、まるで闇に吸収されるかのように消えていく。
そしてジャスティーナはその場で身動きせずに耳を欹てた。
暗闇に慣れてきた目を凝らす。
次の瞬間、耳をつんざくような銃声が鳴り響き、暗闇の中にパッと火花が散った。
(あの女……誘ってやがる。いい度胸じゃないか)
ジャスティーナの大声に対してオニユリは発砲で返してきた。
弾が1発無駄になるだけではなく、自身の居場所を相手に知らせる不必要な挑発行為だった。
だがそれは「返り討ちにしてやるからかかってこい」というオニユリの意思表示だ。
ジャスティーナは一気に戦意が昂ぶるのを感じた。
1対1での決闘。
彼女の身に流れるダニアの血が滾らぬわけがない。
ジャスティーナは四つん這いのままゆっくり進む。
彼女にとっての優位性は先ほど通ってきたこの穴の地形を覚えているということだ。
ジャスティーナの頭の中にはオニユリをどこで仕留めるか、すでにその絵図が描かれていた。
☆☆☆☆☆☆
オニユリは暗闇の壁際に座り込み、拳銃に弾丸を装填した。
暗闇に目が慣れてきている。
何者かによって穴に引きずり込まれたオニユリは、5メートルほど下の地面に落下した。
彼女の運動能力の高さによって咄嗟に受け身を取ることが出来たが、わずかに足を捻ってしまっている。
(何なの? この穴は!)
オニユリは怒りと共に危機感を覚えていた。
つい先ほどジャスティーナの大声が響き渡ってきた。
彼女が自分を殺しに来る。
(上等じゃない。やれるものならやってみなさい)
この地下道にオニユリを引き込んだということは、おそらくジャスティーナらはここの地形などを知っているはずだ。
一方のオニユリはこの穴の事をまったく知らない。
これは大きく不利だった。
そして地下道の奥へ入ってしまえば元の場所に戻れずに迷ってしまう恐れがある。
落ちた穴に戻り、そこで王国兵の救助を待つしかない。
そのためには邪魔なジャスティーナを排除する必要があった。
(あの筋肉女……今度こそ確実に始末してやるわ)
オニユリは目を閉じると殺意を込めて前方の空間に拳銃を撃ち放った。
反響音が鳴り響く。
自分の位置を相手側に知らせる愚行だが、オニユリはジャスティーナをおびき寄せて必ず殺すという決意を胸に、目を開けて移動し始めるのだった。
☆☆☆☆☆☆
(この先の道は広間に出る。先ほどの私の声と銃声を聞いてモグラたちが逃げてくれていればいいが……)
ジャスティーナは姿勢を低くしたまま獣のように四つ足で移動していく。
頭を高くして歩けば、オニユリが闇雲に銃撃をしてきた際に命中してしまう恐れが高まるからだ。
移動に時間がかかるがジャスティーナは用心を怠らなかった。
目指すのは地下道の途中に作られた広間だ。
オニユリと戦うならば狭い通路ではなく、ある程度広い場所の方がいい。
この近くにモグラたちが休憩場として使う広間がある。
先ほどここに来る途中に通った時には広間は無人だった。
しかし広間には獣脂の蝋燭の置かれた燭台がいくつも用意されており、火打石を使えばすぐに火を灯すことが出来る。
そこにオニユリを誘い込みたい。
おそらくオニユリもジャスティーナと同じように思っているだろう。
相手にとっても戦うためには広い空間と明るい視界は必要だ。
ジャスティーナは獣のように鼻をひくつかせて、硝煙のニオイを追う。
やがて……前方にわずかな明かりが見えた。
広間だ。
広間から漏れ出れる明かりが通路の先をわずかに照らし出している。
そしてジャスティーナは見た。
人影がその灯かりにわずかに閃くのを。
ジャスティーナは息を飲む。
モグラの話によれば休憩室に留まるのはほんの1時間程度だという。
そして彼らは休憩室から出る際は必ず蝋燭を消していく。
明かりがついているということは、そこに誰かがいるということだった。
(モグラか……オニユリか……)
後者であることを祈り、ジャスティーナは気が急くのを覚える。
そして周囲の気配を探りながら広間へと向かった。
途中から硝煙のニオイと獣脂の蝋燭のニオイが混じって分からなくなってしまった。
そして広間に入る手前の壁に背をつけたジャスティーナは腰帯から抜いた短剣を2本握る。
オニユリを至近距離から攻撃するのに最適の武器だ。
広間の中からは物音は聞こえないが、人の気配がする。
明かりに人影が揺れていた。
ジャスティーナは静かに息を吸い込むと止める。
そして勢いよく転がりながら広間に進入した。
そこにいた人物に向けてジャスティーナは短剣を投げつけようとし……止める。
そこにいたのは休憩中のモグラの男だった。
この王都までジャスティーナらを案内してくれた初老のモグラだ。
彼は今にも自分に短剣を投げつけようとしているジャスティーナを驚いた顔で見つめている。
ジャスティーナはわずかに息を吐いて彼に詫びた。
「……すまない。敵かと思ったんだ。許してくれ」
「敵? 敵とは何者だ? なぜここにそのような者がいる?」
そう尋ねるモグラ以外に広間に人の姿は無い。
初老のモグラは一仕事終えたばかりで、疲れた顔でここで休んでいたのだ。
彼の問いにジャスティーナは正直に話をした。
「悪いな。あんたたちの穴に白い鼠を引き込んじまった。すぐにここから避難を……」
そう言いかけたジャスティーナはハッとして踵を返す。
途端に彼女の肩が銃弾を浴びて激しく血を撒き散らした。
「ぐうっ!」
顔をしかめて呻き声を漏らすジャスティーナの視線の先には、広間の入口に飛び込んで来たオニユリの姿があるのだった。
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