蛮族女王の情夫《ジゴロ》 番外編【金色の愛と銀色の恋】

枕崎 純之助

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第一幕 金色の愛

第6話 女王の逢引《デート》

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 すっかり日の暮れた後の平原を1頭の馬が駆け抜けていく。
 ブリジットとボルドをその背に乗せた馬は、新都の東門を出て1キロほど先にある小高い丘を目指していた。
 満天の星空を頭上に見上げるボルドは、ブリジットの腰につかまりながら、思わず感嘆かんたんの声を上げる。

「すごいですね……」
「ああ。見事な星空だ」

 日中はまだ夏の暑さの名残りを感じさせる秋の初めだが、夜のこの時間になるとさすがに肌寒い。
 そんな夜に2人は連れ立って出かけたのだ。
 小姓こしょうらは護衛を付けるように進言したが、ブリジットはそれを拒否した。
 ボルドと2人きりで星空の下へ駆け出したかったからだ。
 ブリジットは馬に揺られながら再び頭上を見上げる。

「晴れて良かったな。ボルドの言った通りだ」

 ボルドには黒髪術者ダークネスとしての能力があり、数日後の天気くらいならば言い当てることが出来る。
 そして……。

「はい。せっかくの流星群の日ですからね」

 この日は秋の流星群が降り注ぐ夜だった。
 こよみの上でもこの日がそうなのだが、ボルドは今年の流星群が例年以上に大規模になることを黒髪術者ダークネスとしての力で感じ取っていた。
 それを聞いたブリジットは彼と2人きりで流星群を見たいと思い、夜の外出を決めたのだった。

「もうすぐ着くぞ」

 馬が丘を登り始め、ほどなくして頂上にたどり着く。
 ボルドはすぐに馬から降りると、背負っていたふくろの中身を取り出し、それを手早く広げていく。
 芝生しばふの上に上等な厚手の布地をいていき、その上にひざにかける毛布などを置いた。
 その間、ブリジットは馬を近くの木につなぐと、くらに取り付けていたふくろから少々の菓子かし類と、温かなお茶の入った竹筒を取り出した。

 そうして準備が整うと、2人は身を寄せ合って敷物しきものの上に腰を下ろす。
 そしてかりのために持ってきた角灯の火を吹き消した。
 すると途端とたんに周囲が暗闇くらやみに包まれ、目が慣れないために視界が悪くなる。
 だがすぐに暗順応で目が慣れて来ると、雄大な星空が今にも頭上からのしかかって来るかのように思えてボルドは圧倒された。
 そしてその口から自然とつぶやきがれる。

「私が奴隷どれいだった頃……夜に見上げる星空は綺麗きれいでしたが、それを綺麗きれいだと感じられる心が私にはありませんでした。でも今は違います。ブリジットがこうしてとなりにいて下さるから、この星空を綺麗きれいだと思える心を持てるのです」
「ボルド……そうだな。アタシも同じだ。今まで星空なんていくらでも見てきたはずだが、今日こうしておまえと見る星空に勝る美しさは今まで感じたことが無い」

 2人は静かに見つめ合うと軽い口づけを交わした。
 すぐ間近からブリジットにつやっぽい目を向けられ、ボルドは思わず照れながら視線を落として菓子かしふくろをそそくさと開いた。
 中からは夕方に小姓こしょうたちと一緒に焼いたばかりの焼き菓子がしの良い香りがだたよって来る。
 だがブリジットはボルドのあごを指でつかむと、自分の方を向かせた。

菓子かしよりも甘いものがあるだろう?」

 そう言うとブリジットは先ほどと同様に短い接吻キスをボルドと交わす。
 ボルドは困ったようにほほを赤らめた。
 
「……ブリジット。せっかく焼いたのですから食べて下さい」
「もう一度接吻キスしてくれたら食べるぞ。ボルド」
「……約束ですよ?」

 ブリジットとボルドは再び軽い口づけを交わす。
 だがブリジットは意地悪そうに目を細めて笑いながら言う。

「今のではダメだな。もっと深くて濃いものじゃないと」
「約束しましたのに……」
「しないなら菓子かしは食べないぞ」
「い、いたしますよ」

 ボルドはほほを真っ赤に染めて再びブリジットのくちびるに自らのくちびるを重ねた。
 軽い接吻キスが徐々に深く濃いものへと変わっていく。
 次第に2人は菓子かしのことも星空のことも忘れて夢中にたがいの唇をむさぼった。
 その時……2人の視界のはしまばゆまたたきがひらめく。

「あっ……」

 2人はくちびるを離して同時に空を見上げた。
 するとそこには無数の流れ星が空から舞い落ち来ていた。
 2人は息をするのも忘れてその光景に目を見開く。


「始まったな」
「す、すごい……」
「ああ……ここまでとは」

 空から降り注ぐ無数の流星群は、この世界に舞い落ちる人々の夢の欠片かけらのようだった。
 いにしえの時代からこの光景を見て来た人々は、同じように感動を覚えたのだろうか?
 ボルドとブリジットは2人で見たこの光景を生涯しょうがい忘れることはないだろうと思うのだった。
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