蛮族女王の情夫《ジゴロ》 番外編【金色の愛と銀色の恋】

枕崎 純之助

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第一幕 金色の愛

第8話 女王の茶会(前編)

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 新都をめぐる攻防戦が終わって数ヶ月。
 新都ダニアの街は多少の混乱もありながら、それでも平穏へいおんな時間が流れていた。
 多忙を極める女王たちだが、オーレリアやウィレミナらで構成される評議会・紅刃血盟会が機能し始めていることにより、女王たちにかかる負担は確実に少なくなっている。

 この日、2人の女王は執務しつむから解放され、身近な者たちだけを集めて懇親こんしんのための茶会を開くことになった。
 ブリジットはボルドをともない参加し、クローディアはアーシュラを連れて参加した。
 そしてこの茶会の発起人はクローディアの従姉妹いとこであるベリンダであり、彼女の姉であるブライズも出席していた。

「ボールドウィン。ごきげんよう」

 茶会の席でブリジットを出迎えたクローディアは、そのとなりに立つボルドにもそう言って笑顔を向ける。
 ボルドも彼女に笑顔を返し、丁寧ていねい挨拶あいさつを述べた。
 だがブリジットもクローディアもボルドもわずかに笑顔が固い。
 3者間にどこか緊張感がただよっているのを感じ取ったアーシュラは席から立ち上がると、ブリジットに一礼して声をかけた。

「ブリジット。共和国からのめずらしい茶が入っております。ボールドウィンにそのれ方をお伝えしてもよろしいでしょうか」
「ああ。教えてやってくれ。アーシュラ」

 こころよくそう言うブリジットに再び一礼するとアーシュラはボルドに目を向け、彼を天幕の外に連れ出した。
 そのままとなりの天幕に入ると、そこでは小姓こしょうたちが茶菓子ちゃがしの用意をしている。
 アーシュラはボルドのそでを引っ張り、各種の茶葉の置かれたテーブルの前に並んで立った。
 そして彼にだけ聞こえるような小さなささやき声で言う。

「もう少し自然にクローディアに接していただけませんか」

 彼女の言葉にボルドは思わずギクリとする。
 以前にクローディアからの愛の告白を受けて、それを断ったボルドはその後のクローディアとの接し方に苦労していた。
 クローディアは以前のように親しく声をかけてくれるものの、やはり彼女もボルドもまったく以前と同じようには振る舞えずにいた。
 表面上はにこやかに接してはいても、ボルドは彼女と話す時はどうしても緊張してしまうし、壁のようなものを感じる。
 仕方のないことだと頭では理解しつつ、ボルドにはどうすることも出来ずにいた。

「すみません。出来るだけ普通にと心掛けてはいるのですが……」
「あなたが悪いわけではありません。普通の男女ならばあのようなことがあればギクシャクするのは当然のことでしょう。ですが……」 

 そう言うとアーシュラは茶葉を手に取る。
 そしてボルドに目配めくばせをして手順を覚えるようにうながしながら、適量の茶葉を急須に入れて、お湯を注いでいく。

「このままではクローディアもブリジットもたがいにいたたまれません。ボールドウィン。無理難題を言うようですが、2人の女性から愛された男の責任として、あなたが何とかして下さい」

 それはまさしく無理難題だったが、ボルドは生真面目きまじめな性格だ。
 アーシュラにこう言われて真剣に考えないわけにはいかない。

「ブリジットとクローディアは普段共同の仕事をする際にはごく自然に笑い合えるようになってきました。時が確実にわだかまりを解決してくれているのです。ですが、やはりあなたを交えて3人で同席すると、どうにも空気が固くなる」
「すみません……。クローディアは普段の御様子はいかがですか?」
「かなり元気になっていらっしゃいますよ。ですが……今も時折、人知れず泣いている時があるようです」

 それは主の名誉めいよのためにも言うべきではないかとも思ったアーシュラだが、主を振った男に多少なりとも嫌味を言ってやりたいというある種の復讐ふくしゅう心のようなものが勝った。

「クローディアのことはお気に病まなくても結構。ただ、女王たちのより良き今後の関係性のために力を尽くせるのはボールドウィン。あなたを置いて他にいません。何かあのお2人の心をなごませることを日々お考え下さい」

 アーシュラにそう念押しされ、ボルドは思わず頭の中で必死に思考をこねくり回した。
 そんなボルドの目の前で、アーシュラは別の容器に白い粉末を入れ、そこに牛の乳を注いでいく。
 そしてそれを熱湯の入ったおけひたして温めながら、泡立て器でかき混ぜ始めた。
 するとほどなくして乳が白く泡立ち始める。
 その様子にボルドは思考を止め、ふと目を見開いた。

「それは?」
「共和国原産の脂肪分の高い牛の乳を泡立てたものです。共和国では茶の上にこうしたものを浮かべ、飲むのが流行はやりだとか」

 そう言ってアーシュラが泡立てた乳を茶の上にらすと、不思議ふしぎな波紋を描きながら白く泡立った乳が茶の表面をおおっていく。
 それはまるで水面に浮かぶ白い雲のようであり、思わずボルドはその様子に見入った。
 そこで彼はあることを思い付いて、テーブルの上に何本が置かれている撹拌かくはん用の木串きぐしを手に取るのだった。
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