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第二幕 銀色の恋
第41話 女王のお見舞い
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イライアスが体調不良で自宅に戻ったという知らせを受けたのは、昼食を食べ終えたクローディアらが茶を飲んでいた時の事だ。
これまでの日程ではイライアスと幾度か昼食を共にすることもあったが、彼自身が多忙で昼食時に不在の日もあった。
今日もそうかと思ったのだが、イライアスの従者である双子姉妹のうちの1人、エミリアが主の体調不良による午後の欠席を伝えに来たのだ。
「突然のことで誠に申し訳ございません。イライアス様は発熱しておりまして今、姉のエミリーが屋敷に連れて帰っております。ご迷惑をおかけいたしましてお詫び申し上げます」
そう言って深々と頭を下げるエミリアにクローディアは優しく言った。
「いいのよ。そういうことなら仕方がないわ。彼にお大事にするよう伝えて」
毎度イライアスに付いて歩く彼女らとの付き合いも1年以上になるが、いまだにクローディアにはどちらがエミリーでどちらがエミリアなのか見分けがつかない。
そんな彼女にエミリアはもう一度頭を下げると去って行った。
その後ろ姿を見送りながらクローディアは晴天の空を見上げる。
(昨日あんなにずぶ濡れになっていたから、風邪でも引いたのね)
クローディアはお茶のカップをテーブルに置くと、小姓らに指示する。
「見舞い用の花と果実を用意して。あとアーシュラの蜂蜜酒も」
蜂蜜酒はクローディアが風邪を引いた時にアーシュラがよく作ってくれる特製のもので、今回も万が一に備えてアーシュラがたっぷりと用意してくれていた。
栄養があり、弱った体には良く効くのだ。
小姓らがそれらの準備のためにそそくさと歩いていくのを見送ると、クローディアは気を取り直してウィレミナに目を向ける。
「さて、じゃあ午後の仕事を済ませましょ。それが終わったら夕方、イライアスのところに見舞いの品を持って行くわ」
そう言うとクローディアは昼下がりの日差しに眩しそうに目を細めて立ち上がるのだった。
☆☆☆☆☆☆
夕刻。
イライアスは熱にうなされながらベッドに横になっていた。
朝から体が少しダルかったが、午前中の応援演説が終わった辺りでひどい倦怠感と寒気を感じたのだ。
昼飯を食べる気にもなれずグッタリしていたところをエミリーとエミリアに見咎められ、休ませてもらうことになったのだった。
「……何をしているんだ俺は」
数時間の眠りからふと目を覚ましてそうぼやくイライアスに、ベッドの脇に控える双子の従者エミリーとエミリアは嘆息した。
「まったくです。昨日ずぶ濡れで帰ってきたせいですよ」
「もう少し自覚を持って下さい。この大事な時期に私的な事情で体調を崩すだなんて」
まるで母親のような口ぶりで小言を言う双子姉妹に、イライアスは何も言い返すことが出来ない。
彼女たちの言う通り、全ては自分の失態だ。
昨日はミアの両親への援助を断られ、自分でも思った以上に落胆していた。
だがそんなことは言い訳にならない。
(情けない……このザマか)
自分は職務としてクローディアの案内人を務めている。
他国の女王であるクローディアを勧誘し、この共和国まで連れて来て、時間的に拘束している責任を果たさねばならないのだ。
そのため職務を放棄するようなことにならぬよう、自身の体調を整える義務がイライアスにはある。
それすらも出来ない自分自身が彼は情けなくて仕方なかった。
「エミリー、エミリア。強めの薬を出してくれ。強制的にでも熱を下げて明日は必ずクローディアに同行する」
意地になっているかのようなその言葉に応えたのは、エミリーでもエミリアでもなかった。
「何を馬鹿なこと言ってるの。病人は病気を治すことが仕事でしょ」
予想もしなかったその声に仰天して思わずイライアスは身を跳ね起こした。
そして視線を巡らせ、部屋の入口近くに置かれたソファーに1人の女性が腰をかけていることに初めて気が付いたのだ。
そこに座っていたのは美しい銀色の長い髪を後ろで一つにまとめたクローディアだった。
「ク、クローディア……なぜここに?」
「なぜってお見舞いに決まってるでしょ。あなたが急に熱出して寝込んでるって聞いたから」
そう言うクローディアの目の前のテーブルには花束と果実の入った籠、そして一本の透明な瓶に入った蜂蜜酒が置かれている。
彼女からの見舞いの品だとイライアスにもすぐに分かった。
「明日も無理しないで寝ていなさい」
「そんなわけには……」
「病み上がりの人に無理に来てもらってもこちらが気を遣うわ。寝てなさい」
有無を言わさぬクローディアの口ぶりに思わずイライアスは閉口した。
女王の圧倒的な威圧感にはエミリーとエミリアも感心したように目を見張る。
クローディアはイライアスから双子へと視線を移して言った。
「風邪を引いた時にはこの蜂蜜酒が効くわよ。彼に適量を飲ませてあげて」
「はい。ありがとうございます。クローディア」
「お心遣い感謝いたします。クローディア」
そう言って頭を下げる双子に笑顔で頷くとクローディアは立ち上がった。
「じゃあワタシは帰るから。イライアス。明日、来たら怒るわよ」
「ああ……ありがとう。明日は休ませてもらうよ」
観念して素直にそう言うイライアスにクローディアはようやく優しげな視線を向けた。
「明日もしっかり演説してみせるから心配しないで」
そう言うとクローディアは部屋を後にした。
彼女が去って行ったのが名残惜しいような気がして、イライアスはしばし彼女が残してくれた見舞いの品を見つめるのだった。
これまでの日程ではイライアスと幾度か昼食を共にすることもあったが、彼自身が多忙で昼食時に不在の日もあった。
今日もそうかと思ったのだが、イライアスの従者である双子姉妹のうちの1人、エミリアが主の体調不良による午後の欠席を伝えに来たのだ。
「突然のことで誠に申し訳ございません。イライアス様は発熱しておりまして今、姉のエミリーが屋敷に連れて帰っております。ご迷惑をおかけいたしましてお詫び申し上げます」
そう言って深々と頭を下げるエミリアにクローディアは優しく言った。
「いいのよ。そういうことなら仕方がないわ。彼にお大事にするよう伝えて」
毎度イライアスに付いて歩く彼女らとの付き合いも1年以上になるが、いまだにクローディアにはどちらがエミリーでどちらがエミリアなのか見分けがつかない。
そんな彼女にエミリアはもう一度頭を下げると去って行った。
その後ろ姿を見送りながらクローディアは晴天の空を見上げる。
(昨日あんなにずぶ濡れになっていたから、風邪でも引いたのね)
クローディアはお茶のカップをテーブルに置くと、小姓らに指示する。
「見舞い用の花と果実を用意して。あとアーシュラの蜂蜜酒も」
蜂蜜酒はクローディアが風邪を引いた時にアーシュラがよく作ってくれる特製のもので、今回も万が一に備えてアーシュラがたっぷりと用意してくれていた。
栄養があり、弱った体には良く効くのだ。
小姓らがそれらの準備のためにそそくさと歩いていくのを見送ると、クローディアは気を取り直してウィレミナに目を向ける。
「さて、じゃあ午後の仕事を済ませましょ。それが終わったら夕方、イライアスのところに見舞いの品を持って行くわ」
そう言うとクローディアは昼下がりの日差しに眩しそうに目を細めて立ち上がるのだった。
☆☆☆☆☆☆
夕刻。
イライアスは熱にうなされながらベッドに横になっていた。
朝から体が少しダルかったが、午前中の応援演説が終わった辺りでひどい倦怠感と寒気を感じたのだ。
昼飯を食べる気にもなれずグッタリしていたところをエミリーとエミリアに見咎められ、休ませてもらうことになったのだった。
「……何をしているんだ俺は」
数時間の眠りからふと目を覚ましてそうぼやくイライアスに、ベッドの脇に控える双子の従者エミリーとエミリアは嘆息した。
「まったくです。昨日ずぶ濡れで帰ってきたせいですよ」
「もう少し自覚を持って下さい。この大事な時期に私的な事情で体調を崩すだなんて」
まるで母親のような口ぶりで小言を言う双子姉妹に、イライアスは何も言い返すことが出来ない。
彼女たちの言う通り、全ては自分の失態だ。
昨日はミアの両親への援助を断られ、自分でも思った以上に落胆していた。
だがそんなことは言い訳にならない。
(情けない……このザマか)
自分は職務としてクローディアの案内人を務めている。
他国の女王であるクローディアを勧誘し、この共和国まで連れて来て、時間的に拘束している責任を果たさねばならないのだ。
そのため職務を放棄するようなことにならぬよう、自身の体調を整える義務がイライアスにはある。
それすらも出来ない自分自身が彼は情けなくて仕方なかった。
「エミリー、エミリア。強めの薬を出してくれ。強制的にでも熱を下げて明日は必ずクローディアに同行する」
意地になっているかのようなその言葉に応えたのは、エミリーでもエミリアでもなかった。
「何を馬鹿なこと言ってるの。病人は病気を治すことが仕事でしょ」
予想もしなかったその声に仰天して思わずイライアスは身を跳ね起こした。
そして視線を巡らせ、部屋の入口近くに置かれたソファーに1人の女性が腰をかけていることに初めて気が付いたのだ。
そこに座っていたのは美しい銀色の長い髪を後ろで一つにまとめたクローディアだった。
「ク、クローディア……なぜここに?」
「なぜってお見舞いに決まってるでしょ。あなたが急に熱出して寝込んでるって聞いたから」
そう言うクローディアの目の前のテーブルには花束と果実の入った籠、そして一本の透明な瓶に入った蜂蜜酒が置かれている。
彼女からの見舞いの品だとイライアスにもすぐに分かった。
「明日も無理しないで寝ていなさい」
「そんなわけには……」
「病み上がりの人に無理に来てもらってもこちらが気を遣うわ。寝てなさい」
有無を言わさぬクローディアの口ぶりに思わずイライアスは閉口した。
女王の圧倒的な威圧感にはエミリーとエミリアも感心したように目を見張る。
クローディアはイライアスから双子へと視線を移して言った。
「風邪を引いた時にはこの蜂蜜酒が効くわよ。彼に適量を飲ませてあげて」
「はい。ありがとうございます。クローディア」
「お心遣い感謝いたします。クローディア」
そう言って頭を下げる双子に笑顔で頷くとクローディアは立ち上がった。
「じゃあワタシは帰るから。イライアス。明日、来たら怒るわよ」
「ああ……ありがとう。明日は休ませてもらうよ」
観念して素直にそう言うイライアスにクローディアはようやく優しげな視線を向けた。
「明日もしっかり演説してみせるから心配しないで」
そう言うとクローディアは部屋を後にした。
彼女が去って行ったのが名残惜しいような気がして、イライアスはしばし彼女が残してくれた見舞いの品を見つめるのだった。
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