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第198話 ダニアの戦女神たち
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「うおおおおおおっ!」
押し寄せる多くの漆黒兵士を相手に鬼神のごとき剛腕で剣を振るいながら、ブリジットは気を吐いた。
多勢に無勢が過ぎる。
それでもブリジットはボルドをその背に守り、絶対に敵を寄せ付けなかった。
そんな彼女に対しボルドが出来ることはただ一つだ。
「右手から来る3人。あなたに害意を持っています!」
ボルドがそう叫ぶと、ブリジットは近くの漆黒兵士を強引に押し退け、味方を装って近付いてきた3人の女たちを睨みつけた。
その3人は驚愕の表情でわずかに動けなくなる。
だがそれでも3人は刃物を手にブリジットに襲いかかった。
「いい度胸だな。戦場でアタシの傍に寄ると、巻き添えを食うぞ!」
そう言うとブリジットは鋭く剣を振るって3人を叩きのめした。
すべて剣の腹で打ち倒し、相手を昏倒させ、命までは奪わない。
だがこの戦場で倒れて気を失えば、敵である漆黒兵士に殺される可能性は高い。
彼らは赤毛の女たちの誰が裏切り者かなど分からないし、気にも留めないのだから。
「運が良ければ生き残るだろう。その時に話を聞いてやる」
倒れた女たちにそう言うと、ブリジットは背後のボルドに声をかける。
「なぜ裏切り者が分かるんだ? ボルド」
「今は説明している時間はありません。どうかブリジット。私を信じて下さい」
そう言うボルドにブリジットは声高らかに笑って見せた。
「ハッハッハ。アタシがおまえを信じないわけがないだろう」
そう言うとブリジットは周囲を見回した。
今、2人がいる場所は戦場である宴会場の東側であり、西側ではダニアの一団が周囲を漆黒兵士に取り囲まれながら必死の奮戦を見せていた。
散り散りになって戦っていたダニアの女たちが今はほぼ一ヶ所に固まり、そのために堅い守りで仲間同士を守ることが出来ていた。
それを見るブリジットの口元に笑みが浮かぶ。
「いい傾向だ。あれならしばらく持つ。その間、アタシがこいつらを全員片付けてやる」
ブリジットは周囲を見回すと大きな声を上げる。
「我が同胞の女たちよ! このブリジットの刃の嵐の巻き添えになりたくなくば、決してこちらに近付くな! 己の身を守ることに集中せよ!」
それを聞いた赤毛の女たちは歓声を上げて、遠巻きにブリジットと距離を取る。
(うまい作戦だ。これなら近付いて来るのは裏切り者だけになる)
ブリジットの機転に感心しながらボルドは周囲にすばやく目を配る。
辺りに見える限りの赤毛の女たちからは、先ほどのような嫌な感じは受けない。
おそらく裏切り者は、それほど数は多くないのだろう。
だが、それでもボルドの懸念は消えることはない。
周囲に群がって来る漆黒兵士は倒しても倒してもその数が減らず、ブリジットの孤軍奮闘の状況は変わらない。
いくらブリジットでもこのままでは体力がもたないだろう。
(味方が……ブリジットに加勢してくれる戦力が欲しい)
こうなるとやはり自分が剣を振るうことの出来ない身であることが口惜しい。
そして黒い鎧の兵士たちは異常だった。
どんなに味方がブリジットに斬り殺されようとも、恐れも躊躇いもなくただひたすらブリジットに向かって来る。
そこに感情や意思は感じられず、そんな相手と延々と戦い続けるうちに、ブリジットは徐々に肩で息をし始めた。
そこでボルドは少し離れた場所から黒い殺意が発せられるのを感じた。
そちらを見ると数人の赤毛の女がブリジットに弓矢を向けているのが目に入る。
ちょうどブリジットの背中側であり、前方からくる漆黒兵士との戦いに躍起になっている彼女は気付くのが遅れた。
矢が放たれ、ボルドは思わず声を上げる。
「危ないっ!」
ボルドは両手を広げ、身を呈してブリジットの盾になる。
飛んでくる数本の矢のうちの一本がボルドにまっすぐ向かってきた。
ボルドは歯を食いしばった。
だが……。
「フンッ!」
突如としてボルドの前に飛び出して来た人影が、華麗な剣さばきで矢をへし折った。
それは……駆けつけてきたクローディアだった。
その傍にはアーシュラも控えている。
「レジーナさん!」
「馬鹿ね。ボールドウィン。せっかくブリジットに再会できたのに、すぐ死んでどうするのよ」
矢を放ってきた数名の女たちは空から急降下してきた鷹に襲われ、倒れ込んでいる。
見上げるといつの間にか空には多くの鳥が舞っていた。
東の空から日が昇り始めて夜が明け、鳶隊が夜目の利かない多くの鳥を総動員できるようになったのだ。
鳥たちが急降下しては漆黒兵士の兜を狙う。
恐れも戸惑いもない漆黒兵士らだが、頭上から飛来するものに反応して、それを攻撃しようとする。
そのため地上にいるダニアの女たちに向かう足が止まった。
この好機にダニアの女たちは奮闘する。
西側の一団は十刃長ユーフェミアと十血長オーレリアが先頭に立ち、防御の体勢を解いて攻勢に出始めたのだ。
その2人の周りではベラやソニアといった若き戦士が武器を振り回して奮戦する。
2人によって兜を弾き飛ばされた漆黒兵士らの頭に、ナタリーら弓兵たちの放った矢が次々と突き刺さり、その命を奪っていった。
さらには銀髪姉妹のブライズとベリンダは縦横無尽に駆け回り、漆黒兵士たちを次々と打ち倒していく。
ブライズの指示を受けた黒熊狼らも、彼女たちを助けるように敵の周りを駆け回っては漆黒兵士らに体当たりを仕掛けて押し倒した。
倒れ込んだ漆黒兵士には、ダニアの女たちが群がって数人がかりで首を刎ねて確実に殺していく。
仲間の多くを失いながら、それでもダニアの女たちは勇ましく戦った。
それは自分たちの女王が2人とも無事で、共に戦場にあることを知ったからだ。
絶対的な強さを持つ女王の存在は、ダニアの女たちを戦場で勇気付けてくれた。
そして仲間たちのその様子に、ブリジットもクローディアも勇気付けられたように笑みを浮かべる。
クローディアが剣を頭上に掲げて見せた。
「ブリジット。ワタシについてこられるかしら。先にヘバッたほうが負けよ。それとももう疲れ切ってるからハンデが欲しい?」
「抜かせ。こんなもの朝飯前だ。このまま明日の朝までだって戦ってやるさ」
そう言い合うと2人はまるで競い合うかのように、そして時に守り合うようにして剣を振るい続け、無数の敵を倒していく。
まるで戦の女神のように戦うブリジットとクローディアの姿を眩しげに見つめるボルドの隣にアーシュラが並び立った。
彼女は相変わらずボルドと目を合わさず、それでもわずかに微笑んで言う。
「ボールドウィン。ワタシたちの主は、この命と生涯をかけてでもお仕えするに値する、最高の女王たちですね」
「……はい。私もそう思います」
朝焼けに染まる戦場で彼女たちは勇ましく戦った。
絶対不利の負け戦のはずだった。
皆が息を切らし、それでも敵の姿を追ううちに、やがて戦場には黒い鎧姿の兵士の骸が辺り一面に転がるようになり、まだ大地に立つ敵の姿はいつしか無くなっていた。
多くの仲間が傷つき倒れた。
だが、この場で生き残った者は誰しもがその肌で感じていたのだ。
ブリジットとクローディアが共に並び立ち、本家と分家が互いに手を取り合えば、その戦力は単に倍増されるに留まらない。
分かれていた2つの血筋が2人の女王の元に集えば、ダニアは今よりもっと強くなる。
統一ダニアという夢物語が、確かな手ごたえを持ってこの戦場に描き出されたのだった。
押し寄せる多くの漆黒兵士を相手に鬼神のごとき剛腕で剣を振るいながら、ブリジットは気を吐いた。
多勢に無勢が過ぎる。
それでもブリジットはボルドをその背に守り、絶対に敵を寄せ付けなかった。
そんな彼女に対しボルドが出来ることはただ一つだ。
「右手から来る3人。あなたに害意を持っています!」
ボルドがそう叫ぶと、ブリジットは近くの漆黒兵士を強引に押し退け、味方を装って近付いてきた3人の女たちを睨みつけた。
その3人は驚愕の表情でわずかに動けなくなる。
だがそれでも3人は刃物を手にブリジットに襲いかかった。
「いい度胸だな。戦場でアタシの傍に寄ると、巻き添えを食うぞ!」
そう言うとブリジットは鋭く剣を振るって3人を叩きのめした。
すべて剣の腹で打ち倒し、相手を昏倒させ、命までは奪わない。
だがこの戦場で倒れて気を失えば、敵である漆黒兵士に殺される可能性は高い。
彼らは赤毛の女たちの誰が裏切り者かなど分からないし、気にも留めないのだから。
「運が良ければ生き残るだろう。その時に話を聞いてやる」
倒れた女たちにそう言うと、ブリジットは背後のボルドに声をかける。
「なぜ裏切り者が分かるんだ? ボルド」
「今は説明している時間はありません。どうかブリジット。私を信じて下さい」
そう言うボルドにブリジットは声高らかに笑って見せた。
「ハッハッハ。アタシがおまえを信じないわけがないだろう」
そう言うとブリジットは周囲を見回した。
今、2人がいる場所は戦場である宴会場の東側であり、西側ではダニアの一団が周囲を漆黒兵士に取り囲まれながら必死の奮戦を見せていた。
散り散りになって戦っていたダニアの女たちが今はほぼ一ヶ所に固まり、そのために堅い守りで仲間同士を守ることが出来ていた。
それを見るブリジットの口元に笑みが浮かぶ。
「いい傾向だ。あれならしばらく持つ。その間、アタシがこいつらを全員片付けてやる」
ブリジットは周囲を見回すと大きな声を上げる。
「我が同胞の女たちよ! このブリジットの刃の嵐の巻き添えになりたくなくば、決してこちらに近付くな! 己の身を守ることに集中せよ!」
それを聞いた赤毛の女たちは歓声を上げて、遠巻きにブリジットと距離を取る。
(うまい作戦だ。これなら近付いて来るのは裏切り者だけになる)
ブリジットの機転に感心しながらボルドは周囲にすばやく目を配る。
辺りに見える限りの赤毛の女たちからは、先ほどのような嫌な感じは受けない。
おそらく裏切り者は、それほど数は多くないのだろう。
だが、それでもボルドの懸念は消えることはない。
周囲に群がって来る漆黒兵士は倒しても倒してもその数が減らず、ブリジットの孤軍奮闘の状況は変わらない。
いくらブリジットでもこのままでは体力がもたないだろう。
(味方が……ブリジットに加勢してくれる戦力が欲しい)
こうなるとやはり自分が剣を振るうことの出来ない身であることが口惜しい。
そして黒い鎧の兵士たちは異常だった。
どんなに味方がブリジットに斬り殺されようとも、恐れも躊躇いもなくただひたすらブリジットに向かって来る。
そこに感情や意思は感じられず、そんな相手と延々と戦い続けるうちに、ブリジットは徐々に肩で息をし始めた。
そこでボルドは少し離れた場所から黒い殺意が発せられるのを感じた。
そちらを見ると数人の赤毛の女がブリジットに弓矢を向けているのが目に入る。
ちょうどブリジットの背中側であり、前方からくる漆黒兵士との戦いに躍起になっている彼女は気付くのが遅れた。
矢が放たれ、ボルドは思わず声を上げる。
「危ないっ!」
ボルドは両手を広げ、身を呈してブリジットの盾になる。
飛んでくる数本の矢のうちの一本がボルドにまっすぐ向かってきた。
ボルドは歯を食いしばった。
だが……。
「フンッ!」
突如としてボルドの前に飛び出して来た人影が、華麗な剣さばきで矢をへし折った。
それは……駆けつけてきたクローディアだった。
その傍にはアーシュラも控えている。
「レジーナさん!」
「馬鹿ね。ボールドウィン。せっかくブリジットに再会できたのに、すぐ死んでどうするのよ」
矢を放ってきた数名の女たちは空から急降下してきた鷹に襲われ、倒れ込んでいる。
見上げるといつの間にか空には多くの鳥が舞っていた。
東の空から日が昇り始めて夜が明け、鳶隊が夜目の利かない多くの鳥を総動員できるようになったのだ。
鳥たちが急降下しては漆黒兵士の兜を狙う。
恐れも戸惑いもない漆黒兵士らだが、頭上から飛来するものに反応して、それを攻撃しようとする。
そのため地上にいるダニアの女たちに向かう足が止まった。
この好機にダニアの女たちは奮闘する。
西側の一団は十刃長ユーフェミアと十血長オーレリアが先頭に立ち、防御の体勢を解いて攻勢に出始めたのだ。
その2人の周りではベラやソニアといった若き戦士が武器を振り回して奮戦する。
2人によって兜を弾き飛ばされた漆黒兵士らの頭に、ナタリーら弓兵たちの放った矢が次々と突き刺さり、その命を奪っていった。
さらには銀髪姉妹のブライズとベリンダは縦横無尽に駆け回り、漆黒兵士たちを次々と打ち倒していく。
ブライズの指示を受けた黒熊狼らも、彼女たちを助けるように敵の周りを駆け回っては漆黒兵士らに体当たりを仕掛けて押し倒した。
倒れ込んだ漆黒兵士には、ダニアの女たちが群がって数人がかりで首を刎ねて確実に殺していく。
仲間の多くを失いながら、それでもダニアの女たちは勇ましく戦った。
それは自分たちの女王が2人とも無事で、共に戦場にあることを知ったからだ。
絶対的な強さを持つ女王の存在は、ダニアの女たちを戦場で勇気付けてくれた。
そして仲間たちのその様子に、ブリジットもクローディアも勇気付けられたように笑みを浮かべる。
クローディアが剣を頭上に掲げて見せた。
「ブリジット。ワタシについてこられるかしら。先にヘバッたほうが負けよ。それとももう疲れ切ってるからハンデが欲しい?」
「抜かせ。こんなもの朝飯前だ。このまま明日の朝までだって戦ってやるさ」
そう言い合うと2人はまるで競い合うかのように、そして時に守り合うようにして剣を振るい続け、無数の敵を倒していく。
まるで戦の女神のように戦うブリジットとクローディアの姿を眩しげに見つめるボルドの隣にアーシュラが並び立った。
彼女は相変わらずボルドと目を合わさず、それでもわずかに微笑んで言う。
「ボールドウィン。ワタシたちの主は、この命と生涯をかけてでもお仕えするに値する、最高の女王たちですね」
「……はい。私もそう思います」
朝焼けに染まる戦場で彼女たちは勇ましく戦った。
絶対不利の負け戦のはずだった。
皆が息を切らし、それでも敵の姿を追ううちに、やがて戦場には黒い鎧姿の兵士の骸が辺り一面に転がるようになり、まだ大地に立つ敵の姿はいつしか無くなっていた。
多くの仲間が傷つき倒れた。
だが、この場で生き残った者は誰しもがその肌で感じていたのだ。
ブリジットとクローディアが共に並び立ち、本家と分家が互いに手を取り合えば、その戦力は単に倍増されるに留まらない。
分かれていた2つの血筋が2人の女王の元に集えば、ダニアは今よりもっと強くなる。
統一ダニアという夢物語が、確かな手ごたえを持ってこの戦場に描き出されたのだった。
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