だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

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第一章 魔道拳士アリアナ

第8話 アリアナの夢

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「よぉぉぉぉし! いけぇぇぇぇぇ!」

 僕は興奮して無意識のうちに声を上げていた。
 今、僕はやみ洞窟どうくつの最深部にある自分の住居で、目の前の空間に浮かぶモニターを見つめて手に汗を握っていた。
 僕が食い入るように見つめるその画面ではプレイヤーたちが出場する武術大会【P‐1クライマックス】の決勝戦が中継されている。
 出場しているのはもちろん魔道拳士アリアナだ。

 僕と別れた彼女は翌日の大会に出場し、破竹の勢いで予選から決勝まで勝ち上がった。
 そして決勝戦でもアリアナはその強さを存分に発揮し、鬼気迫る勢いで対戦相手である長身女戦士を圧倒していた。
 そして数分間に及んだ戦いは、アリアナが得意の氷結拳フリーズ・ナックルを繰り出して女戦士の屈強な肉体をよろいごと打ち砕いたところでアリアナのKO勝利となったんだ。

「やったぁぁ! アリアナの優勝だ!」

 僕は部屋でたった1人、興奮のあまり立ち上がってモニターに拍手喝采はくしゅかっさいを送る。
 アリアナは宣言通り武術大会に出場して激闘を全てKO勝ちで優勝したんだ。
 すごい。
 すごいよ!
 興奮してひとしきり喜ぶと、ふと僕の胸にしんみりとした思いが広がった。
 これでアリアナは自分の目的を果たし、彼女にとっての最後のプレイを終えた。
 嬉しいけど寂しい。
 そんな気持ちを胸に僕は画面に映るアリアナにお祝いの言葉を贈った。

「良かったね。おめでとう。アリアナ」

 そう言って僕は椅子いすに腰かけると、感慨にふけるように彼女の最後の雄姿を見つめたんだ。
 僕のメインシステムにあるメッセージボックスに、あるメッセージが届いたのはそれから30分くらいしてからのことだった。
 僕はその差出人の名前を見てハッと息を飲んだ。

【Dear Alfred  / From Ariana】

「アリアナからのメッセージだ……」

 そのメッセージにはこう書かれていた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 アル君。
 おかげさまで大会に優勝することができました。
 とりあえずこれで思い残すことはないかな。
 そんなこと言うとアル君はまた寂しそうな顔をするんだろうね。
 そんなアル君に伝えておきたいことがあります。
 実は私がこの大会で優勝したかったのは思い出作りっていうのもあるんだけど他にも目的があったんだ。
 NPC化システムって知ってる?
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 僕はそこまでメッセージを読むと顔を上げた。

「NPC化システムって確か……」

 NPC化システム。
 その名の通り、プレイヤーが操作するPC(プレイヤー・キャラクター)をNPCに変換するシステムだった。
 たとえばプレイヤーがそれまで使っていたキャラクターとは別のキャラを使いたくなってキャラチェンジをすることがあるんだけど、それまで鍛え上げたキャラを使わなくなってお蔵入りにしてしまうのがもったいないので、それだったらNPCに変えてゲーム内に残そうという最近始まったばかりの新たな試みだった。
 
 ここのところ、その宣伝をゲーム内でちょくちょく見かける。
 今も『P‐1クライマックス』が終わった後のCMで、NPC化システムについての宣伝が画面上に流れていた。
 その画面を見つめながら僕はアリアナのメッセージの続きに目を通していく。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 このシステムって私にはうってつけだと思うんだ。
 自分でプレイ出来なくなってもアリアナをここに残すことが出来るし。
 生きた証……なんて言うと重い話になっちゃうけど。
 でもこの先もNPCとしてアリアナがこのゲームに存在し続けるって思うだけで、今の私にはとても幸せに感じられることだから。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 僕はその先も続くアリアナのメッセージを夢中になって読み続けた。
 一言にNPCって言っても色々な種類がある。
 僕みたいにライフゲージのない一般NPCやミランダのようなボスNPC、そしてジェネットのようにプレイヤーの競争相手となるライバルNPCだったり、あの憎らしいリードのようにプレイヤーの手助けをするサポートNPCもある。
 その他にはプレイヤーの敵であるエネミーNPCなど、その種類は多岐に渡るんだ。
 アリアナのメッセージによれば彼女が希望しているのはジェネットと同じライバルNPCだった。

 ライバルNPCになるためには強さが求められる。
 なるほど、そういうことか。
 僕はメインシステムからNPC化のメニューを呼び出して詳細を確認した。
 するとやはりライバルNPCになるためには『Aランク+大会優勝経験』という条件が必須だった。
 だからアリアナはそこにこだわったんだ。
 
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 NPC化後のキャラクターはPC時代の行動原理に強く影響されるみたいだから、ライバルNPCになった後、アリアナは多分アル君のところに遊びに行くと思う。
 そしたら仲良くしてあげてね。
 これからもアル君が友達としてアリアナを見守ってくれたら嬉しいです。
 それじゃあ……そろそろお別れだね。
 短い間だったけど、色々とありがとね。
 私もがんばるから、アル君もがんばって。
 元気で。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 アリアナのメッセージは最後にそう締めくくられていた。

「アリアナ……」

 彼女が去っていくことの寂しさが僕の胸をチクリと刺した。
 僕は少しの間、アリアナのメッセージを見つめていたけど、ハッと我に返ると大急ぎで彼女に返すメッセージを入力していく。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 NPC化後のアリアナのことは僕に任せて。
 何も心配しなくていいからね。
 手術うまくいくよう祈ってるから。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 簡潔にそう入力してメッセージを送ったけど、アリアナはすでにログアウトしてしまっているようで、メッセージが未到達であるという通知が僕の元へ戻ってきただけだった。

「間に合わなかったか……」

 僕は少しだけ落胆したけど、でもアリアナは最後の日に自分の願いを成就じょうじゅさせたんだと思うと、嬉しさで胸が温かくなった。
 そしてその最後の日に自分が少しでも彼女の力になれたことがちょっぴり誇らしかった。
 いつかNPC化したアリアナと出会うことがあったら、もしもそのとき彼女が友達を必要としていたら、僕は彼女の力になろうと心に誓ったんだ。
 だけど、そのいつかというのが自分で思ったよりもずっと早く訪れることをこの時の僕はまだ知らない。

 それからわずか数時間後。
 僕は再びアリアナと顔を合わせることになるんだ。
 NPCとなった彼女と。
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