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第一章 魔道拳士アリアナ
第9話 無垢なるヒナ鳥
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ミランダとジェネットが不在の間、魔道拳士アリアナと過ごした不思議な1日が終わったその翌日。
アリアナが見事に優勝を果たした武術大会【P‐1クライマックス】の中継が終わってから数時間が経過したところで、洞窟に来訪者を告げる警報が鳴り響いた。
宿直室でミランダの帰りを待っていた僕はふと顔を上げる。
「あれっ? ミランダもう帰ってきたのかな」
そう言った僕はすぐにそれがミランダではないことに気が付いた。
この洞窟の主であるミランダは即時帰還モードを利用して世界のどこからでも一瞬で闇の玉座に戻ってこられる。
わざわざ洞窟の入口から入ってくるような必要はない。
ってことはお客さんかな?
そう思って僕が宿直室の扉から外に出ると、すぐ目の前に一人の少女の姿があった。
僕は驚きに両目を見開き、青色の道着を身につけたその少女の姿を見つめた。
「ア、アリアナ……」
そう。
いつの間にか宿直室の前に立っていたのはアリアナだったんだ。
彼女は僕と向き合うとペコリと頭を下げる。
その頭上にはNPCであることを示す赤い三角形のマークが浮かんでいた。
アリアナは本人の希望通り、NPCの中でもライバルNPCになれたみたいだ。
「こんにちは。アル君。私、アリアナです。私のこと知ってますか?」
彼女はどこかぎこちない口調でそう言うと無表情のまま僕をじっと見つめた。
無表情と言っても冷たいとか無感情とかいう類の表情ではなくて、生まれたての雛鳥が親鳥を見つめるような無垢な表情だった。
「う、うん。もちろんだよ。それよりアリアナ。もう遊びに来てくれたんだね」
遊びに来るとは言ってたけど今日の今日とは。
彼女の行動原理にそんなにこの闇の洞窟が印象深く残されていたんだろうか。
「自然と足がここに向きました。アル君。私はこれから何をすればいいですか?」
な、何をすればいいかって…うむぅ。
これは困った。
PCからNPCになった人を初めて見たから、僕も何をどうすればいいか分からないぞ。
「ま、まず、その敬語はやめようよ」
とりあえず僕はアリアナのよそよそしい話し方が気になったので、そう言ってみた。
「敬語をやめたほうがいいですか?」
「そうだね。昨日僕と話していた口調で喋れる?」
僕がそう言うとアリアナは少し考え込むようにうつむいた。
どうしたんだろう……。
「ア、アリアナ?」
「記憶領域を探っています。アル君の希望に一番適した話法を構築中です」
お、おおぅ。
何だか人工知能っぽい話し方だ。
僕にも人工知能が搭載されてるけど、彼女のほうがよっぽどそれっぽいぞ。
え?
そもそも僕のほうがNPCらしくないんだって?
だ、誰がエセNPCだ!
「アル君。これでいい?」
お、それそれ。
ちょっとだけ以前のアリアナっぽくなったぞ。
アリアナの口調を聞いて僕は少しホッとしたけれど、彼女の表情が相変わらず無表情のままなのが気になった。
「そ、そうだね。あとは表情かな。言葉と表情をリンクさせてみて。僕みたいに」
そう言うと僕は笑顔を見せた。
そんな僕を見つめながらアリアナは素直に頷く。
「表情……分かった。表情パターンも調整するよ」
そう言うとアリアナは再び考え込んだ。
今の彼女はまだプログラムを安定させるために色々と準備が必要な段階なんだな。
「アル君。これでいい?」
眉根を寄せてすごく怒ったような顔でアリアナはそう言う。
い、いや、表情が間違ってますよ。
な、何だか僕が怒られてるみたいだぞ。
「そ、その顔は違うかな」
「そう? 難しいね」
そんなやり取りを幾度か重ね、ようやく口調や表情などのコミュニケーションは多少ぎこちないながらもかなり改善された。
それでも完全に元のアリアナと同じようにはいかないけどね。
アリアナがこの先、NPCとして成長していくためには多くの時間や多くの経験、そして多くの人々と触れ合う必要があるだろう。
そこで僕はあることを思いついた。
「今は留守にしてるんだけど、僕には君の他に2人の友達がいるんだ。ちょっと色々と強烈な2人だけど、同じNPCだしアリアナにとってもいい話し相手になると思うよ」
ミランダはともかく、ジェネットだったらアリアナの相談相手になってくれるんじゃないだろうか。
僕はそんなことを期待しながら、3人の女の子たちが楽しげに談笑する様子を思い浮かべてみた。
それはとても幸せな光景で、僕はそんなまだ見ぬ未来を想像するだけで楽しくなってしまう。
アリアナはそんな僕の顔を見て朗らかな笑顔で言った。
「アル君のニヤニヤしてる顔って、すごく気持ち悪いね」
ぐうっ。
ひまわりのような笑顔で激辛な毒舌。
どうやらPC時代の失言癖は今も健在みたいだね。
「も、もう少し言葉と表情を合わせる練習が必要だね。まあそのうち……」
僕がそう言いかけたその時だった。
この闇の洞窟内に再びけたたましい警報音が鳴り響いた。
こ、今度は誰だ?
予期せぬ来訪者の訪れに僕は思わず首を傾げた。
「あれ? お客さんかな。ミランダがメンテナンス中だから今はここに来ても何もないのに」
今、洞窟に入ってくる人には必ず、ミランダ不在の通知が告げられるはずだ。
ほどなくして洞窟の最深部であるこの広場に、2人の人物が現れた。
それは浅黒い肌をした2人の少女だった。
アリアナが見事に優勝を果たした武術大会【P‐1クライマックス】の中継が終わってから数時間が経過したところで、洞窟に来訪者を告げる警報が鳴り響いた。
宿直室でミランダの帰りを待っていた僕はふと顔を上げる。
「あれっ? ミランダもう帰ってきたのかな」
そう言った僕はすぐにそれがミランダではないことに気が付いた。
この洞窟の主であるミランダは即時帰還モードを利用して世界のどこからでも一瞬で闇の玉座に戻ってこられる。
わざわざ洞窟の入口から入ってくるような必要はない。
ってことはお客さんかな?
そう思って僕が宿直室の扉から外に出ると、すぐ目の前に一人の少女の姿があった。
僕は驚きに両目を見開き、青色の道着を身につけたその少女の姿を見つめた。
「ア、アリアナ……」
そう。
いつの間にか宿直室の前に立っていたのはアリアナだったんだ。
彼女は僕と向き合うとペコリと頭を下げる。
その頭上にはNPCであることを示す赤い三角形のマークが浮かんでいた。
アリアナは本人の希望通り、NPCの中でもライバルNPCになれたみたいだ。
「こんにちは。アル君。私、アリアナです。私のこと知ってますか?」
彼女はどこかぎこちない口調でそう言うと無表情のまま僕をじっと見つめた。
無表情と言っても冷たいとか無感情とかいう類の表情ではなくて、生まれたての雛鳥が親鳥を見つめるような無垢な表情だった。
「う、うん。もちろんだよ。それよりアリアナ。もう遊びに来てくれたんだね」
遊びに来るとは言ってたけど今日の今日とは。
彼女の行動原理にそんなにこの闇の洞窟が印象深く残されていたんだろうか。
「自然と足がここに向きました。アル君。私はこれから何をすればいいですか?」
な、何をすればいいかって…うむぅ。
これは困った。
PCからNPCになった人を初めて見たから、僕も何をどうすればいいか分からないぞ。
「ま、まず、その敬語はやめようよ」
とりあえず僕はアリアナのよそよそしい話し方が気になったので、そう言ってみた。
「敬語をやめたほうがいいですか?」
「そうだね。昨日僕と話していた口調で喋れる?」
僕がそう言うとアリアナは少し考え込むようにうつむいた。
どうしたんだろう……。
「ア、アリアナ?」
「記憶領域を探っています。アル君の希望に一番適した話法を構築中です」
お、おおぅ。
何だか人工知能っぽい話し方だ。
僕にも人工知能が搭載されてるけど、彼女のほうがよっぽどそれっぽいぞ。
え?
そもそも僕のほうがNPCらしくないんだって?
だ、誰がエセNPCだ!
「アル君。これでいい?」
お、それそれ。
ちょっとだけ以前のアリアナっぽくなったぞ。
アリアナの口調を聞いて僕は少しホッとしたけれど、彼女の表情が相変わらず無表情のままなのが気になった。
「そ、そうだね。あとは表情かな。言葉と表情をリンクさせてみて。僕みたいに」
そう言うと僕は笑顔を見せた。
そんな僕を見つめながらアリアナは素直に頷く。
「表情……分かった。表情パターンも調整するよ」
そう言うとアリアナは再び考え込んだ。
今の彼女はまだプログラムを安定させるために色々と準備が必要な段階なんだな。
「アル君。これでいい?」
眉根を寄せてすごく怒ったような顔でアリアナはそう言う。
い、いや、表情が間違ってますよ。
な、何だか僕が怒られてるみたいだぞ。
「そ、その顔は違うかな」
「そう? 難しいね」
そんなやり取りを幾度か重ね、ようやく口調や表情などのコミュニケーションは多少ぎこちないながらもかなり改善された。
それでも完全に元のアリアナと同じようにはいかないけどね。
アリアナがこの先、NPCとして成長していくためには多くの時間や多くの経験、そして多くの人々と触れ合う必要があるだろう。
そこで僕はあることを思いついた。
「今は留守にしてるんだけど、僕には君の他に2人の友達がいるんだ。ちょっと色々と強烈な2人だけど、同じNPCだしアリアナにとってもいい話し相手になると思うよ」
ミランダはともかく、ジェネットだったらアリアナの相談相手になってくれるんじゃないだろうか。
僕はそんなことを期待しながら、3人の女の子たちが楽しげに談笑する様子を思い浮かべてみた。
それはとても幸せな光景で、僕はそんなまだ見ぬ未来を想像するだけで楽しくなってしまう。
アリアナはそんな僕の顔を見て朗らかな笑顔で言った。
「アル君のニヤニヤしてる顔って、すごく気持ち悪いね」
ぐうっ。
ひまわりのような笑顔で激辛な毒舌。
どうやらPC時代の失言癖は今も健在みたいだね。
「も、もう少し言葉と表情を合わせる練習が必要だね。まあそのうち……」
僕がそう言いかけたその時だった。
この闇の洞窟内に再びけたたましい警報音が鳴り響いた。
こ、今度は誰だ?
予期せぬ来訪者の訪れに僕は思わず首を傾げた。
「あれ? お客さんかな。ミランダがメンテナンス中だから今はここに来ても何もないのに」
今、洞窟に入ってくる人には必ず、ミランダ不在の通知が告げられるはずだ。
ほどなくして洞窟の最深部であるこの広場に、2人の人物が現れた。
それは浅黒い肌をした2人の少女だった。
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