10 / 91
第一章 魔道拳士アリアナ
第9話 無垢なるヒナ鳥
しおりを挟む
ミランダとジェネットが不在の間、魔道拳士アリアナと過ごした不思議な1日が終わったその翌日。
アリアナが見事に優勝を果たした武術大会【P‐1クライマックス】の中継が終わってから数時間が経過したところで、洞窟に来訪者を告げる警報が鳴り響いた。
宿直室でミランダの帰りを待っていた僕はふと顔を上げる。
「あれっ? ミランダもう帰ってきたのかな」
そう言った僕はすぐにそれがミランダではないことに気が付いた。
この洞窟の主であるミランダは即時帰還モードを利用して世界のどこからでも一瞬で闇の玉座に戻ってこられる。
わざわざ洞窟の入口から入ってくるような必要はない。
ってことはお客さんかな?
そう思って僕が宿直室の扉から外に出ると、すぐ目の前に一人の少女の姿があった。
僕は驚きに両目を見開き、青色の道着を身につけたその少女の姿を見つめた。
「ア、アリアナ……」
そう。
いつの間にか宿直室の前に立っていたのはアリアナだったんだ。
彼女は僕と向き合うとペコリと頭を下げる。
その頭上にはNPCであることを示す赤い三角形のマークが浮かんでいた。
アリアナは本人の希望通り、NPCの中でもライバルNPCになれたみたいだ。
「こんにちは。アル君。私、アリアナです。私のこと知ってますか?」
彼女はどこかぎこちない口調でそう言うと無表情のまま僕をじっと見つめた。
無表情と言っても冷たいとか無感情とかいう類の表情ではなくて、生まれたての雛鳥が親鳥を見つめるような無垢な表情だった。
「う、うん。もちろんだよ。それよりアリアナ。もう遊びに来てくれたんだね」
遊びに来るとは言ってたけど今日の今日とは。
彼女の行動原理にそんなにこの闇の洞窟が印象深く残されていたんだろうか。
「自然と足がここに向きました。アル君。私はこれから何をすればいいですか?」
な、何をすればいいかって…うむぅ。
これは困った。
PCからNPCになった人を初めて見たから、僕も何をどうすればいいか分からないぞ。
「ま、まず、その敬語はやめようよ」
とりあえず僕はアリアナのよそよそしい話し方が気になったので、そう言ってみた。
「敬語をやめたほうがいいですか?」
「そうだね。昨日僕と話していた口調で喋れる?」
僕がそう言うとアリアナは少し考え込むようにうつむいた。
どうしたんだろう……。
「ア、アリアナ?」
「記憶領域を探っています。アル君の希望に一番適した話法を構築中です」
お、おおぅ。
何だか人工知能っぽい話し方だ。
僕にも人工知能が搭載されてるけど、彼女のほうがよっぽどそれっぽいぞ。
え?
そもそも僕のほうがNPCらしくないんだって?
だ、誰がエセNPCだ!
「アル君。これでいい?」
お、それそれ。
ちょっとだけ以前のアリアナっぽくなったぞ。
アリアナの口調を聞いて僕は少しホッとしたけれど、彼女の表情が相変わらず無表情のままなのが気になった。
「そ、そうだね。あとは表情かな。言葉と表情をリンクさせてみて。僕みたいに」
そう言うと僕は笑顔を見せた。
そんな僕を見つめながらアリアナは素直に頷く。
「表情……分かった。表情パターンも調整するよ」
そう言うとアリアナは再び考え込んだ。
今の彼女はまだプログラムを安定させるために色々と準備が必要な段階なんだな。
「アル君。これでいい?」
眉根を寄せてすごく怒ったような顔でアリアナはそう言う。
い、いや、表情が間違ってますよ。
な、何だか僕が怒られてるみたいだぞ。
「そ、その顔は違うかな」
「そう? 難しいね」
そんなやり取りを幾度か重ね、ようやく口調や表情などのコミュニケーションは多少ぎこちないながらもかなり改善された。
それでも完全に元のアリアナと同じようにはいかないけどね。
アリアナがこの先、NPCとして成長していくためには多くの時間や多くの経験、そして多くの人々と触れ合う必要があるだろう。
そこで僕はあることを思いついた。
「今は留守にしてるんだけど、僕には君の他に2人の友達がいるんだ。ちょっと色々と強烈な2人だけど、同じNPCだしアリアナにとってもいい話し相手になると思うよ」
ミランダはともかく、ジェネットだったらアリアナの相談相手になってくれるんじゃないだろうか。
僕はそんなことを期待しながら、3人の女の子たちが楽しげに談笑する様子を思い浮かべてみた。
それはとても幸せな光景で、僕はそんなまだ見ぬ未来を想像するだけで楽しくなってしまう。
アリアナはそんな僕の顔を見て朗らかな笑顔で言った。
「アル君のニヤニヤしてる顔って、すごく気持ち悪いね」
ぐうっ。
ひまわりのような笑顔で激辛な毒舌。
どうやらPC時代の失言癖は今も健在みたいだね。
「も、もう少し言葉と表情を合わせる練習が必要だね。まあそのうち……」
僕がそう言いかけたその時だった。
この闇の洞窟内に再びけたたましい警報音が鳴り響いた。
こ、今度は誰だ?
予期せぬ来訪者の訪れに僕は思わず首を傾げた。
「あれ? お客さんかな。ミランダがメンテナンス中だから今はここに来ても何もないのに」
今、洞窟に入ってくる人には必ず、ミランダ不在の通知が告げられるはずだ。
ほどなくして洞窟の最深部であるこの広場に、2人の人物が現れた。
それは浅黒い肌をした2人の少女だった。
アリアナが見事に優勝を果たした武術大会【P‐1クライマックス】の中継が終わってから数時間が経過したところで、洞窟に来訪者を告げる警報が鳴り響いた。
宿直室でミランダの帰りを待っていた僕はふと顔を上げる。
「あれっ? ミランダもう帰ってきたのかな」
そう言った僕はすぐにそれがミランダではないことに気が付いた。
この洞窟の主であるミランダは即時帰還モードを利用して世界のどこからでも一瞬で闇の玉座に戻ってこられる。
わざわざ洞窟の入口から入ってくるような必要はない。
ってことはお客さんかな?
そう思って僕が宿直室の扉から外に出ると、すぐ目の前に一人の少女の姿があった。
僕は驚きに両目を見開き、青色の道着を身につけたその少女の姿を見つめた。
「ア、アリアナ……」
そう。
いつの間にか宿直室の前に立っていたのはアリアナだったんだ。
彼女は僕と向き合うとペコリと頭を下げる。
その頭上にはNPCであることを示す赤い三角形のマークが浮かんでいた。
アリアナは本人の希望通り、NPCの中でもライバルNPCになれたみたいだ。
「こんにちは。アル君。私、アリアナです。私のこと知ってますか?」
彼女はどこかぎこちない口調でそう言うと無表情のまま僕をじっと見つめた。
無表情と言っても冷たいとか無感情とかいう類の表情ではなくて、生まれたての雛鳥が親鳥を見つめるような無垢な表情だった。
「う、うん。もちろんだよ。それよりアリアナ。もう遊びに来てくれたんだね」
遊びに来るとは言ってたけど今日の今日とは。
彼女の行動原理にそんなにこの闇の洞窟が印象深く残されていたんだろうか。
「自然と足がここに向きました。アル君。私はこれから何をすればいいですか?」
な、何をすればいいかって…うむぅ。
これは困った。
PCからNPCになった人を初めて見たから、僕も何をどうすればいいか分からないぞ。
「ま、まず、その敬語はやめようよ」
とりあえず僕はアリアナのよそよそしい話し方が気になったので、そう言ってみた。
「敬語をやめたほうがいいですか?」
「そうだね。昨日僕と話していた口調で喋れる?」
僕がそう言うとアリアナは少し考え込むようにうつむいた。
どうしたんだろう……。
「ア、アリアナ?」
「記憶領域を探っています。アル君の希望に一番適した話法を構築中です」
お、おおぅ。
何だか人工知能っぽい話し方だ。
僕にも人工知能が搭載されてるけど、彼女のほうがよっぽどそれっぽいぞ。
え?
そもそも僕のほうがNPCらしくないんだって?
だ、誰がエセNPCだ!
「アル君。これでいい?」
お、それそれ。
ちょっとだけ以前のアリアナっぽくなったぞ。
アリアナの口調を聞いて僕は少しホッとしたけれど、彼女の表情が相変わらず無表情のままなのが気になった。
「そ、そうだね。あとは表情かな。言葉と表情をリンクさせてみて。僕みたいに」
そう言うと僕は笑顔を見せた。
そんな僕を見つめながらアリアナは素直に頷く。
「表情……分かった。表情パターンも調整するよ」
そう言うとアリアナは再び考え込んだ。
今の彼女はまだプログラムを安定させるために色々と準備が必要な段階なんだな。
「アル君。これでいい?」
眉根を寄せてすごく怒ったような顔でアリアナはそう言う。
い、いや、表情が間違ってますよ。
な、何だか僕が怒られてるみたいだぞ。
「そ、その顔は違うかな」
「そう? 難しいね」
そんなやり取りを幾度か重ね、ようやく口調や表情などのコミュニケーションは多少ぎこちないながらもかなり改善された。
それでも完全に元のアリアナと同じようにはいかないけどね。
アリアナがこの先、NPCとして成長していくためには多くの時間や多くの経験、そして多くの人々と触れ合う必要があるだろう。
そこで僕はあることを思いついた。
「今は留守にしてるんだけど、僕には君の他に2人の友達がいるんだ。ちょっと色々と強烈な2人だけど、同じNPCだしアリアナにとってもいい話し相手になると思うよ」
ミランダはともかく、ジェネットだったらアリアナの相談相手になってくれるんじゃないだろうか。
僕はそんなことを期待しながら、3人の女の子たちが楽しげに談笑する様子を思い浮かべてみた。
それはとても幸せな光景で、僕はそんなまだ見ぬ未来を想像するだけで楽しくなってしまう。
アリアナはそんな僕の顔を見て朗らかな笑顔で言った。
「アル君のニヤニヤしてる顔って、すごく気持ち悪いね」
ぐうっ。
ひまわりのような笑顔で激辛な毒舌。
どうやらPC時代の失言癖は今も健在みたいだね。
「も、もう少し言葉と表情を合わせる練習が必要だね。まあそのうち……」
僕がそう言いかけたその時だった。
この闇の洞窟内に再びけたたましい警報音が鳴り響いた。
こ、今度は誰だ?
予期せぬ来訪者の訪れに僕は思わず首を傾げた。
「あれ? お客さんかな。ミランダがメンテナンス中だから今はここに来ても何もないのに」
今、洞窟に入ってくる人には必ず、ミランダ不在の通知が告げられるはずだ。
ほどなくして洞窟の最深部であるこの広場に、2人の人物が現れた。
それは浅黒い肌をした2人の少女だった。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる