だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

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第二章 闇の魔女ミランダ

第14話 再配置 そして……

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 ふと目を覚ますとそこは僕の宿直室だった。
 僕はベッドに横たわった状態で再起動される。
 ミランダ敗北後に再配置される僕のいつもの初期配置だった。
 もうミランダも戻ってるはずだ。
 僕はすぐに身を起こすと部屋を出た。

 やみの魔女ミランダと魔道拳士アリアナの戦いはアリアナの勝利で幕を閉じた。
 だけどアリアナは勝利の喜びを微塵みじんも感じさせず、うれいに満ちた顔をしていたんだ。
 僕は去り際に見た彼女の涙と彼女が口にした「ごめんね」という言葉を思い返していた。
 その時のアリアナの顔が胸に焼き付いて離れない。

「僕は……アリアナに何かをしてあげられるのかな」
 
 ポツリとそうつぶやきながら僕は重い足取りで洞窟どうくつの中を進む。
 この中はいつものようにひんやりとして静寂せいじゃくに包まれていた。
 さっきまで慣れない熱気と喧騒けんそうに満ちた街の中にいた僕は、この静けさが心地よく感じられた。
 そんな中、僕が足早に向かう先はやみ祭壇さいだんだ。
 僕の宿直室からは目と鼻の先にあるその場所にミランダはいた。
 再配置された彼女はやみの玉座に鎮座ちんざしていて、そんな彼女の姿を見て僕は立ち止まった。
 ミランダの表情をうかがわないと。

 負けず嫌いの彼女は敗北後、たいてい不機嫌になっている。
 そういう時、僕の打つ手は2つだ。
 1つは彼女をそっとしておいて怒りの熱が冷めるのを待つ消極策。
 もう1つはあえて話しかけて彼女のストレスを発散させる積極策。
 積極策のほうがミランダの怒りが早く解消されて長引かずに済むんだけど、その場合は僕が八つ当たりの集中砲火を浴びてはちの巣にされる。
 これを僕はケース・バイ・ケースで使い分けるんだ。
 さて、今回は……。
 そんなことを考えながら僕はおずおずとミランダに声をかけた。

「ミランダ。お疲れさま。残念だったね。でも次はきっと勝てる……ミランダ?」

 僕は言葉の途中で声を失った。
 なぜならミランダは玉座に座って前を見つめていたんだけど、まばたきすらせずに動きを止めていたからだ。
 声も出さずに微動だにしないその様子はまるで静止画のようだった。

「ミランダ? どうしたの? ねえ。ミランダ!」

 僕がいくら声をかけても彼女は指先ひとつ動かさず、無反応だった。
 僕はたまらず彼女に駆け寄り、その姿をマジマジと近くから見つめる。
 そして息を飲むと思い切って彼女の手を取った。

「ミランダ……」

 彼女の手はひどく冷たかった。
 そして僕が触れても彼女は何の反応も見せない。
 ど、どうなってるんだ?
 バグ?
 フリーズ?
 僕はあせって自分のメイン・システムから彼女のシステムにアクセスを試みた。
 ミランダの今の状態を知るためには、彼女のステータスを見る必要がある。
 だけど……

「ア、アクセスできない?」

 ミランダのメイン・システムにアクセスしようとしても相手のシステムを確認できないというエラー・メッセージが表示され、ミランダの状態を確認することは叶わない。
 ど、どうしたらいいんだ?
 僕は苦し紛れに自分のアイテム・ストックから回復アイテムやら何やらをを取り出して、それらをミランダに投与してみた。
 だけど【すでにライフは100%です】というメッセージが表示され、受け付けない。
 その他の解毒剤の類も同様だった。
 僕は成す術なく立ち尽くした。

「こんなんじゃダメだ……。こうなったら神様に聞いてみるしかない」

 そう思って僕がメインシステムを操作しようとしたその時、ふいに背後から人の足音が聞こえてきて、僕はあせる気持ちを押さえつけながら振り返った。
 こ、こんな時にプレイヤーかな。

「あ、あの、すみません。今は取り込み中……」

 そう言いかけて僕は思わず息を飲んだ。
 僕の前に現れたのは4人の男たちだった。
 彼らは2人の役人と2人の兵士だったんだけど、4人とも腕に【運営】と記された腕章をはめている。
 う、運営の使者?
 だから来訪者の訪れを告げる警報が鳴らなかったのか。
 4人のうち先頭に立つ役人がいかめしい表情で用件を告げた。

「魔女ミランダと連絡が取れないので直接出向いた」
「ミランダに何か御用でしょうか。今、ご覧の通りトラブルで……」

 そう言う僕の肩を兵士の1人がつかみ、グイッと脇にどける。
 うわっ!
 よろける僕に構わず役人たちは恐る恐るミランダの前に歩み出た。
 玉座に座ったまま動かないミランダをまじまじと見つめ、役人たちは顔を見合わせる。
 そして役人の1人が振り返って僕を見た。

「貴様がやみの魔女の見張り役を務める下級兵士だな?」
「は、はい。そうですけど何かあったんですか?」

 僕の問いに役人は渋面でうなづいた。

「昨日のミランダの外出について問題視する声が運営から上がっている」
「えっ? でも外出の許可は運営本部からもらってますけど……」

 僕の反論に役人は少しムッとした表情を見せた。

「ボスであるミランダが指定日以外の日に気楽に外出することの是非は運営本部内でも議論されていた。結果として外出を許可する運びとなったが、それでも運営本部が諸手もろてを上げて賛成しているわけではない。根強い反対派もいるということを忘れるな。そもそもミランダについては運営本部の一部の者による恣意しい的な運用が多く見られるとの声も上がっているのだ」
「……どういうことですか?」

 役人の言葉が何を意味するのか飲み込めず僕が思わずそう聞き返すと、役人は怒りに声を荒げた。

「運営の一部の職権乱用による依怙贔屓えこひいきがまかり通っているのではないかと言っているんだ!」

 運営の一部……それは間違いなく、神様とその派閥の人たちのことだろう。
 確かに神様はこのゲームの顧問役として強い影響力を持っていて、そのことが僕やミランダに有利に働いていると見られているのかもしれない。
 僕ら自身は神様と接触する機会はほとんどないけれど、いつも僕らのそばにいるジェネットは神様の直属の部下だから、なおのことだろう。
 役人はさらにヒートアップしてまくしたてる。

「出張襲撃イベントを控えた都市に前日に乗り込み、そこでトラブルを起こすなど言語道断。あまつさえミランダは今このありさまで明日の出張も危ぶまれているではないか。このままでは明日のイベントは中止になる。その責任は誰が負うのだ?」

 僕はぐうの音も出なかった。
 この人の言う通りだ。
 確かに運営本部の許可を取って外出したわけだけど、トラブルに巻き込まれる恐れがある以上、僕らの行為は軽率な行動だったと言われても仕方のないことだ。
 役人は苛立いらだちもあらわに咳払せきばらいをすると僕をにらみつけた。

「ミランダに課せられた出張襲撃イベントの開始時刻は午前9時。それまでにイベント会場である砂漠都市ジェルスレイムに到着していなければ懲罰はまぬがれん。とはいえミランダはすでに動作不能のようだな。明日のイベントは参加不可能とみなし、その身柄は運営本部が預かる」
「ええっ? どうしてですか?」
「メンテナンスの必要があるからだ。明日のイベントは別のボスを代替参戦させるよう運営本部に通達しておこう。その場合、ミランダには重いペナルティーを科すことになるぞ」

 そ、そんな……。

「捕らえろ!」

 役人の声に応じて2人の兵士がミランダを捕縛しようと迫ってくる。

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 僕は慌ててミランダの前に出ると兵士らを食い止めようと立ちふさがる。
 兵士たちは構わずに僕につかみかかり、僕らはもみ合いになった。
 必死に兵士たちの兵服をつかんで抵抗する僕だけど、2人の兵士は力づくで僕を引きがそうとする。

 くっ。
 ダメだ。
 このまま今の状態のミランダを連れて行かせるわけにはいかない。
 歯を食いしばって懸命に抵抗する僕だけど、2人がかりの兵士たちを僕ひとりで抑えるのはとても無理だった。

「邪魔だ!」

 兵士の一人がそう言うと僕にのしかかるように体重を預けてくる。
 僕は耐え切れずに地面に倒れ込んでしまった。

「あぐぅ!」

 そのまま兵士は全体重を乗せて僕の上に乗っかった。
 そのすきにもう一人の兵士がミランダの元へ向かう。

「ま、待って下さい!」

 僕はその兵士の足をつかもうとして懸命に腕を伸ばそうとするけど、その手をすり抜けて兵士はミランダの前に立った。
 も、もうダメだ!
 僕は悔しさで拳を地面に打ちつける。
 その時だった。

「お待ちなさい」

 りんとした声が洞窟どうくつ内に響き渡る。
 美しく鳴り響くそれは僕が聞き慣れた声だった。
 切迫した状況に置かれた僕は思わずその声に心からの安堵あんどを覚えて大きく息をつき、頭を傾けて声のした方に目を向ける。
 役人たちの後方に白い法衣に身を包んだ清らかな女性の姿があった。

「アル様。ただいま戻りました」

 そこには立っていたのは聖女ジェネットだった。
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