だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

文字の大きさ
29 / 91
第三章 光の聖女ジェネット

第1話 聖女の帰還

しおりを挟む
「アル様。ただいま戻りました」

 聖女ジェネットがやみ洞窟どうくつに帰ってきた。
 動作停止中のミランダを連行しようとする役人たちと僕がもみ合う混乱の中、舞い戻ったジェネットのその姿に、僕だけじゃなく役人や兵士たちもつかの間、動きを止めて見入っていた。
 ジェネットの清らかなその姿は、さながら騒乱を収めるべく地上に舞い降りた女神のようだった。

「ジェネット!」

 思わずそう叫び声を上げる僕に笑顔を向け、ジェネットはつかつかと歩み寄ってくる。
 そして役人の目の前に立つと静かに問いかけた。

「お役人様。運営本部のお達しは明日の刻限までにミランダが砂漠都市ジェルスレイムでの務めを果たすこと。そうおっしゃいましたね?」
「う、うむ。それはそうだが……」

 ジェネットの毅然きぜんとした物言いとまっすぐに相手の目の奥を見つめる眼差まなざしに圧倒されたのか、役人はわずかにひるんで口ごもる。
 ジェネットはあくまでも落ち着いた口調でさらに話を続けた。

「であれば、期限までお待ちいただくのが筋かと。いかがでしょうか」

 そう言うジェネットに役人は戸惑いの表情を浮かべて言葉を返す。

「し、しかしミランダはこの状態だ。明日まで待つことに意味があるとは思えんがね」
「刻限を待つこと自体に意味があるのでは? そうすれば運営本部は大義をもってミランダを処分できますでしょう? 今、強引にミランダを連れて行くよりも遥かにあなた方に利があると思いますよ」

 ジェネットがそうたたみかけると、役人はいよいよ反論の言葉を見つけられずに悔しげにうなった。

「うぬぅ……。よかろう。そこまで言うのであれば明日まで待つとしようか。さしたる意味を持つとは思えんが、我らの大義のためだ。ただし刻限を1分1秒でも遅れるようなことがあれば、その時はミランダを容赦なく処分する。ゆめゆめ忘れぬよう。いいな!」

 苦々しげな表情でそう告げる役人にジェネットは穏やかな笑顔のまま一礼した。
 役人はもう1人の同僚と2人の兵士に目配せをするときびすを返した。
 僕を押さえつけていた兵士も忌々いまいましいといった顔で僕を放り出すと、役人の後について立ち去って行った。
 こうして当面の危機は去った。

「……ふぅ」

 僕は息をついて身を起こすと、ジェネットに目を向けた。

「ありがとうジェネット。おかげで助かったよ」
「どういたしまして。おケガはないですか?」

 そう言うとジェネットは座り込んでいる僕に手を差し伸べてくれた。
 僕は彼女の手を取り、立ち上がった。

「うん。大丈夫。用事はもう済んだの?」
「ええ。すみません。留守にしてしまいまして。おかげさまで懺悔主党ザンゲストのオフ会も楽しめましたし、私のメンテナンスも滞りなく完了いたしました」

 そう言うとジェネットは背後を振り返り、玉座に座ったまま動かないミランダを見つめながら言った。

「どうやら砂漠都市でひと悶着あったようですね。アル様から送られた緊急事態発生のメッセージを見て知りました」
「うん。そうなんだ。心配かけてごめんね」

 僕がそう言ってうなだれると、ジェネットはなぐさめるように僕の肩をポンポンと叩いてくれた。

「いいえ。こちらこそ大事な時に不在にしてすみませんでした。アル様からいただいた砂漠都市への出発前のメッセージと緊急事態のメッセージ。どちらも先ほどメンテナンスを終えた時に拝見いたしまして。すぐにミランダの戦闘も中継で観戦しました」
「ちゅ、中継? あれってジェルスレイム以外でも流れてたのか」

 驚いてそう言う僕にジェネットはうなづいた。

「はい。どうやらあらかじめゲーム内の全世界ネットで流す手筈てはずだったようですよ。あまりにも手際が良く、演出も見事なものでしたから」

 確かにミランダとアリアナの戦闘を映したあの中継はカメラワークも見栄え良く、エンターテインメントとして素晴らしい出来映できばえだった。
 とても急造で用意したものとは考えにくく、双子が全てを計画済みだったことが窺える。
 僕が映像を見ながら閉口していると、ジェネットがやみの玉座に座したまま動かずにいるミランダを見ながらたずねてきた。

「ミランダに一体何が起きたのですか?」
「分からない。あの戦いに負けてここに戻ってきた途端、ミランダが動かなくなっちゃったんだ」

 僕はそう言うとやみの玉座の前からどいて、ミランダの様子をジェネットに見せた。

「再配置されたばかりだと思うんだけど、この通り、声をかけても反応してくれなくて。彼女のメイン・システムにもアクセス出来ないんだよ」

 僕がそう言うとジェネットはやみの玉座に近付いてきてそこに座るミランダの様子をマジマジと見つめた。
 ジェネットはやみの玉座の前にしゃがみ込むと、座したまま動かないミランダのほほにそっと触れた。
 そして自らのメイン・システムを起動し、さっき僕がやったようにミランダのメイン・システムにアクセスを試みる。

「確かにアクセス出来ませんね。では……」

 そう言うとジェネットはさらにコマンドを入力し、運営本部の管理者のみが扱うことの出来る管理者ページを自分のメイン・システムで起動した。
 これは神様の直属の部下たるジェネットならではの権限だ。

「現在のミランダの起動状況を確認します」

 そう言うとジェネットは再度ミランダへのアクセスを敢行した。

「それでミランダにアクセス出来るの?」
「彼女に働きかけることが出来るわけではありませんが、こうして現状を知ることは可能です」

 そう言うジェネットのシステム・ウインドウにミランダの状態を表す数々のログが羅列されていく。
 ほう。
 なるほど……まったく分からない。
 そんな僕をよそにジェネットはウンウンとうなづきながら思い至ったことを口にした。

「なるほど。動作が停止しているのではなく、ビジー状態のようですね。ミランダの体内で何らかのシステムが今も稼働中なのですが、どうやら処理が追いつかないようです」
「じゃ、じゃあその処理が終わればミランダは元に戻るのかな」

 思わずそうたずねる僕にジェネットは静かに首を振る。

「残念ながら私も専門外なので、それ以上のことは分かりません。ですがこうしたことに専門的な知識を持つ人材を知っていますので、その専門家を呼びましょう」
「専門家?」
「ええ。今回のようなトラブルの解決を専門にした少女がいるんです。懺悔主党ザンゲストには様々な人材がそろっているので、きっとお役に立てると思いますよ」

 どうやら彼女のクラスタから人を派遣してくれるみたいだ。
 ジェネットはすぐにその専門家の人に連絡をつけてくれた。
 よかった。
 僕ひとりじゃどうにもならない状況だったけど、ジェネットが来てくれたおかげで光明が見えてきたぞ。
 安堵あんどの息をつく僕を見て笑顔を浮かべながらジェネットは言った。

「彼女は30分ほどでこちらに到着できるようなので、それまで待ちましょう。その間に色々とお聞きしたいこともありますし」
「そうだね。僕もジェネットに話さないとならないことが色々あるから。とりあえず中に入ろうか」

 そう言ってうなづき合い、それから僕らは宿直室で色々なことを話し合うことにしたんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...