だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

文字の大きさ
39 / 91
第三章 光の聖女ジェネット

第11話 誤作動と副作用

しおりを挟む
 逃げる。
 逃げる。
 暗闇の中をひたすらに逃げる。
 背後から追って来る部族の男たちに時おり斬りつけられながら僕は懸命に走った。
 
 だけど視力を奪われた状態での逃走はをより一層疲弊させ、それは長くは続かなかった。
 足をもつれさせながら必死で逃げる僕だったけれど、木の根っこのような固いものに足を引っかけて地面に転がってしまった。

「あうっ!」

 背中を地面に打ちつけた痛みで息がつまりそうになる。
 だけどここで大の字になってしまえば後はもう部族の男たちに斬り刻まれるだけだ。
 そう思った僕は全ての苦痛を無視してすぐに立ち上がる。
 だけどそこでタリオを握っていた右の二の腕を刃物で斬りつけられてしまった。

「うぎっ!」

 その衝撃と鋭い痛みに僕は思わずタリオを手放してしまい、そこに体当たりを食らって後方に倒れ込んだ。

「くはあっ!」

 
 も、もうダメか。
 走り続けて息は上がり、興奮状態で頭も働かない。
 そして目の前は真っ暗で何も見えない。
 僕はいよいよ観念した。
 ここまでか。

 その時、ふいにガチャリという音がして、僕の左腕に装備していたIRリングが外れたんだ。
 その途端だった。
 真っ暗闇だった視界が開け、星の見え始めた夜空と松明たいまつの明かりに照らし出される山の岩肌や部族の男たちの姿が目に飛び込んできた。
 や、やっと目が見えるようになった。
 でも……。

 僕のライフゲージはオレンジ色に染まっていた。
 危険水域である残り10%を切ったという証拠だった。
 そして仰向けで地面に横たわる僕はダメージがひどいため起き上がることが出来ない。
 そんな僕を見下ろすようにして部族の男らが仁王立ちしている。
 ト、トドメを刺される……。
 僕は最後に自分ができるわずかな抵抗として倒れたままズリズリと後方に下がった。
 そんなことは無駄だと分かっていても、少しでも山頂に近付きたくて。

 ふと見上げると、いつの間にか辺りにはもやが漂っていた。
 僕は疲れと痛みで思考の鈍った頭で茫然と考えた。
 だいぶ標高の高いところまで来たから、雲の中に入っちゃったみたいだ。
 この場所で僕はゲームオーバーを迎えるのか。
 ここが限界なんだなぁ。
 僕は悔しさにくちびるを噛み締めた。

 だけどその時……僕は異変に気が付いた。
 部族の男たちは先ほど僕を見下ろす位置に立ったまま、一歩も動こうとしない。
 なたを振り下ろせば僕にすぐトドメをさせる距離にいるのに、それをしようとしないんだ。
 な、何で……。

 すると聞いた事のないジングルが鳴り響き、僕のステータス値に記されていた聖域のおきての合否判定が【適合】から【合格】へと変化したんだ。
 途端に部族の男たちがきびすを返し、山道を下って帰っていく。
 僕は狐につままれたように呆気あっけに取られ、周囲にただようもやを見回した。
 先ほどまで緑豊かだった周辺の景色は再び殺風景な岩肌へと変わり、辺り一体は薄い雲に覆われていた。

 もしかして……僕、彼らの縄張りから抜け出せたのか?
 それを示すように、ちょうど部族の男たちが先ほど立っていたところで木々が途切れていた。
 そうか。
 中腹が終わったんだ。
 そう悟った途端に僕は全身がまるで鉛のように重く感じられて、大の字で仰向けに横たわったまま動けなくなってしまった。
 体のあちこちが痛い。
 だけど僕は生き残った。

 それから僕はしばらく呆然としていたけど、とにかく起き上がるとアイテム・ストックから取り出した回復ドリンクを服用した。
 ライフが少し回復して危険水域を脱するのを確認すると、僕はかたわらに落ちているIRリングを拾い上げた。

「どうして勝手に外れたのかな」

 先ほど桃色と黒の点滅状態から黒く変色してしまったIRリング。
 手にしたそれをマジマジと見つめていると、ふいに僕のメイン・システムに【IRリングをお使いのお客様へ】という警告メッセージが飛び込んできた。

【本製品のご使用時にお客様の装備アイテムとの組み合わせが原因で誤作動が起きる事例が発生しております。このままご使用なされますと、視覚機能障害などの副作用によりキャラクター・プログラムに影響を及ぼす恐れがございます。現在、修復方法の確認を行っておりますので、当面の間、本製品のご使用はお控え下さい】

 そういった警告内容だった。
 装備との組み合わせ?
 タリオとIRリングの組み合わせが良くないってことなのかな。
 確かにさっきのへびたちの動きを見る限り、タリオとIRリングが互いに何らかの影響を与え合っているということが感じられる。

 警告内容にはその他にもIRリングが変色したり点滅したりするのは不具合のシグナルだということが記されていた。
 さっきの点滅現象はそういうことだったのか。
 せっかくミランダにもらったリングだけど、しばらくは使えないな。
 そのことを残念に思いながら僕は身を起こし、近くの地面に突き立っているタリオを拾い上げた。
 すると再び目の前が真っ暗になった。

「はい?」
 
 な、何で?
 何でまた?
 二度目の暗転ということもあって、さっきよりは落ち着いていられるけど、僕は再びその場に立ち尽くした。
 そこで気が付いたんだけど、僕の左腕にはいつの間にかIRリングが再び装着されていた。
 ま、まさか……。
 僕はある予想に基づいてタリオの装備を解除した。

 僕の予想は当たっていた。
 タリオの装備を解除すると、またもや目が見えるようになったんだ。
 そしてタリオと同時にIRリングの装備も解除された。
 もしかして……タリオとIRリングは何らかの原因で結びついてしまったんだろうか。
 だとすると困ったぞ。

「このままじゃ今後タリオが使えない」

 タリオを装備すればIRリングも同時に装備され、そして誤作動によって僕の視力は奪われる。
 そうなれば戦いどころじゃない。
 僕はもう戦うことが出来ないのか?
 いや……今は先のことを気にするのはやめよう。
 とにかくジェネットやアビーに追いつかないと。
 
 不安を抱える僕だったけれど、気を取り直して山頂までの道のりを見据えた。
 山道には一定間隔で松明たいまつが焚かれていて夜道を照らし出している。
 そこで僕は数メートル先の岩肌に大きなモニターが設置されているのを見た。
 大自然の中にいきなり文明の利器が置かれている不自然さを感じながら、僕はモニターに近付いてそこに映し出されている画像を見つめる。

 そのモニターにはこの聖岩山せいがんざんにおける試練をくぐり抜けた者の氏名が写真付きで記されていて、僕の名前が一番最後に表示された。
 どうやらそれは合格してここを通過した人たちの名前が記されているようだった。

「通過者名簿か。僕の名前が載るなんて信じられないな」

 モニター上の通過者名簿に確かに記載された自分の名前を見ながら、僕は誇らしい気持ちになった。
 僕の名前のひとつ手前にアビーとジェネットの名前が記されている。
 2人も無事にここを抜けられたんだ。
 良かった。
 今頃2人とも山頂に到着してるかな。
 その後も過去にさかのぼって通過者の氏名と写真がエンドロールのように流れていく。
 その指名の羅列を見つめるうちに、僕はふと一人の名前に目を留めた。

「……ん?」

 そこに記されていた名前。
 それは【アリアナ】だった。
 氏名の横に映っている画像は、確かにあの魔道拳士アリアナのものだ。

「アリアナ……この場所に来てたんだ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...