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第四章 下級兵士アルフレッド
第4話 ヘタレ男の意地
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たとえわずか数秒の間のことだとしても、死を待つ気分ってのは本当に生きた心地がしないものだ。
僕は左のふくらはぎと背中を苛む痛みを覚えながら、自分の体が小刻みに震えているのを感じていた。
雷蜂の毒針を浴びてしまった。
それも致命傷になり得る二度目の毒針だ。
もちろん僕はNPCだからゲームオーバーの先に待つのは死ではなく、闇の洞窟への再配置だ。
だけどそれは僕の背後で横たわるミランダにとっては死に近しい重大な結果をもたらしてしまう。
そのことが分かってるからこそ、僕は怖かった。
「僕は……倒れるわけにはいかない」
そしてすぐに審判は下される。
運命の女神は……僕を今すぐ突き放すことはしなかった。
僕のライフゲージはダメージを受けて減少しただけで済んだんだ。
二度目の毒針だったけれど幸いにして即死は免れた。
それでもホッとしているヒマはない。
激痛で体中がビリビリするけれど、他の雷蜂たちに囲まれているこの状況が僕を死に物狂いにさせた。
ミランダを……ミランダを守るんだ!
刺された左のふくらはぎと背中が麻痺してきて、体がうまく動かなくなってきた僕は、雑な動作でそれでも必死にタリオを振るう。
一匹を切り捨てることが出来たけど、別の二匹が僕の手首を狙って尻の毒針をむき出しにする。
やばい!
だけど白と黒の蛇がその雷蜂に噛み付いて眠りに落とす。
ついに雷蜂はあと二匹を残すのみとなった。
だけど……。
「ハァ……ハァ……」
うぅ……呼吸が苦しい。
雷蜂に二度も刺されてしまいながら即死しなかった僕は運がいいのかもしれないけれど、その代償は大きかった。
心臓の鼓動が早まり、呼吸がしにくくなって息苦しさと眩暈に襲われる。
刺された足と背中の痛みが激痛から鈍痛へと変わり、それによって体中の感覚が鈍るだけでなく、意識が朦朧としてきてしまった。
目はかすみ、足がフラフラして立っているのも辛い。
ライフゲージはまだ半分ほど残っているものの、もう指先をわずかに動かすことすら億劫に感じられるほどに全身が麻痺してしまっている。
もし今、この場に座り込んでしまえば、もう二度と立ち上がれないだろう。
残った二匹の雷蜂は僕の頭上で羽音を響かせ、今にも襲い掛かってこようとしていた。
そして僕のすぐ傍らにはミランダが倒れている。
ここまで彼女が刺されずに済んだことが不幸中の幸いだった。
だけど時刻はもう8時50分を回り、刻限の9時までもうわずかな時間しか残されていない。
無情にも過ぎ去っていく時間を前に僕の胸の中にわずかに残った戦意がしぼんでいく。
もう無理だ。
今からじゃ走って向かっても、とても間に合わない。
ジェルスレイムはもう目前なのに。
ぼやけた意識の中で、このまま意識が遠のくのに身を任せて気を失ってしまった方が楽だという思いが胸に広がっていく。
すると体が楽な方を求めて自然と力が抜けていく。
やっぱり僕はこの程度なんだ。
必死にやってもこんなものなんだ。
……がんばったけどダメだった。
がんばったけれど……。
そんなことを思う僕は視界の隅に倒れているミランダの姿を捉えた。
僕が茫然としている間に、雷蜂たちは僕の頭を飛び越えて、背後に倒れているミランダを標的にしていたんだ。
二匹の雷蜂がミランダの体に向かって急降下していくのを見た瞬間、僕の体が反射的に動いた。
「……う、うわあああああああっ!」
僕は動かない左腕を無理やりに動かして、タリオで一匹を叩き切った。
だけどもう一匹は間に合わずにミランダの体に向けて針を突き刺そうとする。
僕の意思を反映した白と黒の蛇たちも雷蜂を狙って目一杯に体を伸ばすけれど、それすらも届かなかった。
やられた!
そう思ったその時だった。
横たわっているミランダの体の周りから砂を通り抜けて無数の真っ黒な手が現れる。
そしてミランダを刺そうとしていた雷蜂は黒い手に絡め捕られてあっという間に捻り潰された。
茫然とした意識の中、僕は砂漠の幻でも見ているんじゃないかと我が目を疑ったけれど、その無数の黒い手は間違いなくミランダの新中位スキル・亡者の手だった。
ついに全ての雷蜂を退け、危機を脱したことを理解した僕は、横たわったままのミランダに歩み寄ろうとした。
だけど一歩を踏み出した途端に視界が歪み、強い眩暈に襲われて僕はそのまま意識を失ってしまった。
☆ ☆ ☆
「……うぅ」
気が付くと僕は空中を浮遊していた。
ワケが分からず、うまく動かない体で身じろぎしようとすると、頭上からピシャリと声がかかる。
「コラッ。動くんじゃないわよ。落ちても知らないからね」
それはよく聞き慣れた、だけど久しぶりに聞くような少女の声だった。
上を向かなくても分かる。
その声の主は……。
「ミ……ミランダ。良かった。目が覚めたんだね」
そう。
僕の襟首を掴んで空中に浮かんでいたのは、ようやく眠りから覚めた闇の魔女ミランダだった。
アビーが処置してくれたワクチン・プログラムが効いて、自身のプログラムの再構築を終えたミランダは復活を果たしたんだ。
僕は体の痛みも忘れるような感動を覚えて、思わず言葉に詰まってしまう。
「ミランダ……僕、僕……」
「言いたいことは色々あるけど、今はお喋りしている時間はないわよ」
彼女はそう言うと僕の体をヒョイッと入れ替えて、僕を背中に背負ってくれた。
「ミ、ミランダ?」
「ありがたく思いなさい。よく頑張った家来への特別サービスなんだから。ジェルスレイムまで全力で飛ばすから、落ちないようにしっかりつかまってるのよ」
そう言うとミランダは砂漠の空を風切って飛び始めたんだ。
砂の都ジェルスレイムの上空にたどり着くのにそう時間はかからなかった。
「アル。着いたわよ。8時58分。間に合ったわね」
そう言うミランダに抱きかかえられながら僕が下を見下ろすと、目もくらむような高さだったけれど、そこにはオアシスを中心とした街並みが広がっている。
空から見下ろすと一見して分かりにくいけれど、そこは確かに砂漠都市ジェルスレイムだった。
苦労の果てに僕らはこの場所にたどり着くことが出来たんだ。
期限までに目的を果たすことが出来た安堵で、僕は肩の荷が下りて全身の力が抜けるのを感じた。
「よかった……」
「アル。私がここにいられるのって、あんたとかジェネットのおかげなんでしょ」
そう言うミランダの声はいつものように強気な口調だったけれど、わずかに神妙な雰囲気を含んでいた。
僕は背負われているから、前を向いたままのミランダの顔はよく見えないけれど、今の彼女の表情は何となく想像がついた。
「ミランダ……もう一人。大事な仲間がいるよ。今は会えないけれど。その子のおかげで僕も命拾いしたんだ」
「……そう。そういうの後で全部聞かせてもらうわ」
「うん。今はとにかく君らしく派手に暴れてよ。それが皆が一番望んでることだから。僕もね」
僕がそう言うとミランダは鼻息も荒く自信に満ち溢れた声を上げる。
「フンッ。言われなくてもやってやるわよ。この魔女の恐ろしさを砂漠の奴らに刻みつけてやるんだから!」
そう言うとミランダは僕を放り投げた。
はっ?
えっ?
「え? ちょっ、えええええっ?」
「地上に降りたらちゃんと回復すんのよ。あんたのアイテムストックに色々入れておいたから」
そう言うミランダがどんどん遠ざかっていく。
そりゃそうだ。
空中に放り投げられた僕はどんどん落ちていくんだから。
「ちょ、ちょっとミランダ! ち、地上に降りたらって……」
こんな高いところから落ちたら無事ではすみませんよ。
地上があっという間に迫ってきて、僕は悲鳴を上げながら街の入り口のすぐ外にある砂地へと落下していく。
「ひょええええっ!」
激突する!
そう思った瞬間だった。
砂地から無数の黒い手が伸びてきて、僕を優しく受けて止めてくれたんだ。
「カ、亡者の手……」
僕はそれがミランダの新スキルである亡者の手だとすぐに分かった。
おかげて僕は地面への激突を免れたんだ。
上を見上げるとミランダがニヤリと意地の悪い笑みを浮かべていた。
「まったくミランダは……」
そう言う僕の顔は多分ニヤニヤしていたんだろうね。
ミランダが自らの参上を声高に告げる名乗りの声が砂の都に響き渡り、闇の魔女による襲撃が開始される中、亡者の手のひとつが僕の頬を軽くつねり上げていたんだ。
僕は左のふくらはぎと背中を苛む痛みを覚えながら、自分の体が小刻みに震えているのを感じていた。
雷蜂の毒針を浴びてしまった。
それも致命傷になり得る二度目の毒針だ。
もちろん僕はNPCだからゲームオーバーの先に待つのは死ではなく、闇の洞窟への再配置だ。
だけどそれは僕の背後で横たわるミランダにとっては死に近しい重大な結果をもたらしてしまう。
そのことが分かってるからこそ、僕は怖かった。
「僕は……倒れるわけにはいかない」
そしてすぐに審判は下される。
運命の女神は……僕を今すぐ突き放すことはしなかった。
僕のライフゲージはダメージを受けて減少しただけで済んだんだ。
二度目の毒針だったけれど幸いにして即死は免れた。
それでもホッとしているヒマはない。
激痛で体中がビリビリするけれど、他の雷蜂たちに囲まれているこの状況が僕を死に物狂いにさせた。
ミランダを……ミランダを守るんだ!
刺された左のふくらはぎと背中が麻痺してきて、体がうまく動かなくなってきた僕は、雑な動作でそれでも必死にタリオを振るう。
一匹を切り捨てることが出来たけど、別の二匹が僕の手首を狙って尻の毒針をむき出しにする。
やばい!
だけど白と黒の蛇がその雷蜂に噛み付いて眠りに落とす。
ついに雷蜂はあと二匹を残すのみとなった。
だけど……。
「ハァ……ハァ……」
うぅ……呼吸が苦しい。
雷蜂に二度も刺されてしまいながら即死しなかった僕は運がいいのかもしれないけれど、その代償は大きかった。
心臓の鼓動が早まり、呼吸がしにくくなって息苦しさと眩暈に襲われる。
刺された足と背中の痛みが激痛から鈍痛へと変わり、それによって体中の感覚が鈍るだけでなく、意識が朦朧としてきてしまった。
目はかすみ、足がフラフラして立っているのも辛い。
ライフゲージはまだ半分ほど残っているものの、もう指先をわずかに動かすことすら億劫に感じられるほどに全身が麻痺してしまっている。
もし今、この場に座り込んでしまえば、もう二度と立ち上がれないだろう。
残った二匹の雷蜂は僕の頭上で羽音を響かせ、今にも襲い掛かってこようとしていた。
そして僕のすぐ傍らにはミランダが倒れている。
ここまで彼女が刺されずに済んだことが不幸中の幸いだった。
だけど時刻はもう8時50分を回り、刻限の9時までもうわずかな時間しか残されていない。
無情にも過ぎ去っていく時間を前に僕の胸の中にわずかに残った戦意がしぼんでいく。
もう無理だ。
今からじゃ走って向かっても、とても間に合わない。
ジェルスレイムはもう目前なのに。
ぼやけた意識の中で、このまま意識が遠のくのに身を任せて気を失ってしまった方が楽だという思いが胸に広がっていく。
すると体が楽な方を求めて自然と力が抜けていく。
やっぱり僕はこの程度なんだ。
必死にやってもこんなものなんだ。
……がんばったけどダメだった。
がんばったけれど……。
そんなことを思う僕は視界の隅に倒れているミランダの姿を捉えた。
僕が茫然としている間に、雷蜂たちは僕の頭を飛び越えて、背後に倒れているミランダを標的にしていたんだ。
二匹の雷蜂がミランダの体に向かって急降下していくのを見た瞬間、僕の体が反射的に動いた。
「……う、うわあああああああっ!」
僕は動かない左腕を無理やりに動かして、タリオで一匹を叩き切った。
だけどもう一匹は間に合わずにミランダの体に向けて針を突き刺そうとする。
僕の意思を反映した白と黒の蛇たちも雷蜂を狙って目一杯に体を伸ばすけれど、それすらも届かなかった。
やられた!
そう思ったその時だった。
横たわっているミランダの体の周りから砂を通り抜けて無数の真っ黒な手が現れる。
そしてミランダを刺そうとしていた雷蜂は黒い手に絡め捕られてあっという間に捻り潰された。
茫然とした意識の中、僕は砂漠の幻でも見ているんじゃないかと我が目を疑ったけれど、その無数の黒い手は間違いなくミランダの新中位スキル・亡者の手だった。
ついに全ての雷蜂を退け、危機を脱したことを理解した僕は、横たわったままのミランダに歩み寄ろうとした。
だけど一歩を踏み出した途端に視界が歪み、強い眩暈に襲われて僕はそのまま意識を失ってしまった。
☆ ☆ ☆
「……うぅ」
気が付くと僕は空中を浮遊していた。
ワケが分からず、うまく動かない体で身じろぎしようとすると、頭上からピシャリと声がかかる。
「コラッ。動くんじゃないわよ。落ちても知らないからね」
それはよく聞き慣れた、だけど久しぶりに聞くような少女の声だった。
上を向かなくても分かる。
その声の主は……。
「ミ……ミランダ。良かった。目が覚めたんだね」
そう。
僕の襟首を掴んで空中に浮かんでいたのは、ようやく眠りから覚めた闇の魔女ミランダだった。
アビーが処置してくれたワクチン・プログラムが効いて、自身のプログラムの再構築を終えたミランダは復活を果たしたんだ。
僕は体の痛みも忘れるような感動を覚えて、思わず言葉に詰まってしまう。
「ミランダ……僕、僕……」
「言いたいことは色々あるけど、今はお喋りしている時間はないわよ」
彼女はそう言うと僕の体をヒョイッと入れ替えて、僕を背中に背負ってくれた。
「ミ、ミランダ?」
「ありがたく思いなさい。よく頑張った家来への特別サービスなんだから。ジェルスレイムまで全力で飛ばすから、落ちないようにしっかりつかまってるのよ」
そう言うとミランダは砂漠の空を風切って飛び始めたんだ。
砂の都ジェルスレイムの上空にたどり着くのにそう時間はかからなかった。
「アル。着いたわよ。8時58分。間に合ったわね」
そう言うミランダに抱きかかえられながら僕が下を見下ろすと、目もくらむような高さだったけれど、そこにはオアシスを中心とした街並みが広がっている。
空から見下ろすと一見して分かりにくいけれど、そこは確かに砂漠都市ジェルスレイムだった。
苦労の果てに僕らはこの場所にたどり着くことが出来たんだ。
期限までに目的を果たすことが出来た安堵で、僕は肩の荷が下りて全身の力が抜けるのを感じた。
「よかった……」
「アル。私がここにいられるのって、あんたとかジェネットのおかげなんでしょ」
そう言うミランダの声はいつものように強気な口調だったけれど、わずかに神妙な雰囲気を含んでいた。
僕は背負われているから、前を向いたままのミランダの顔はよく見えないけれど、今の彼女の表情は何となく想像がついた。
「ミランダ……もう一人。大事な仲間がいるよ。今は会えないけれど。その子のおかげで僕も命拾いしたんだ」
「……そう。そういうの後で全部聞かせてもらうわ」
「うん。今はとにかく君らしく派手に暴れてよ。それが皆が一番望んでることだから。僕もね」
僕がそう言うとミランダは鼻息も荒く自信に満ち溢れた声を上げる。
「フンッ。言われなくてもやってやるわよ。この魔女の恐ろしさを砂漠の奴らに刻みつけてやるんだから!」
そう言うとミランダは僕を放り投げた。
はっ?
えっ?
「え? ちょっ、えええええっ?」
「地上に降りたらちゃんと回復すんのよ。あんたのアイテムストックに色々入れておいたから」
そう言うミランダがどんどん遠ざかっていく。
そりゃそうだ。
空中に放り投げられた僕はどんどん落ちていくんだから。
「ちょ、ちょっとミランダ! ち、地上に降りたらって……」
こんな高いところから落ちたら無事ではすみませんよ。
地上があっという間に迫ってきて、僕は悲鳴を上げながら街の入り口のすぐ外にある砂地へと落下していく。
「ひょええええっ!」
激突する!
そう思った瞬間だった。
砂地から無数の黒い手が伸びてきて、僕を優しく受けて止めてくれたんだ。
「カ、亡者の手……」
僕はそれがミランダの新スキルである亡者の手だとすぐに分かった。
おかげて僕は地面への激突を免れたんだ。
上を見上げるとミランダがニヤリと意地の悪い笑みを浮かべていた。
「まったくミランダは……」
そう言う僕の顔は多分ニヤニヤしていたんだろうね。
ミランダが自らの参上を声高に告げる名乗りの声が砂の都に響き渡り、闇の魔女による襲撃が開始される中、亡者の手のひとつが僕の頬を軽くつねり上げていたんだ。
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