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第四章 下級兵士アルフレッド
第8話 マッド・サイエンティスト・ガール
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砂漠都市ジェルスレイムの裏通りに面した古びた喫茶店は、先ほどから変わらず満席だった。
多くのお客さんが店内各所に設置されたモニターに見入り、そこに映し出される魔女ミランダの襲撃イベント観戦に興じている。
僕がジェネットから送られてきた記録映像を見終わった頃、トレイに飲み物を乗せて僕のすぐ前を歩くウエイトレスさんがふいに声を上げた。
「きゃっ!」
どうやら何かにつまづいたらしく、僕が顔を上げると、彼女の持つトレイから銅器に入った飲み物が飛び出して宙を舞う。
そして黄金色に輝く液体が見事に僕の頭と顔にかかった。
うはあっ!
冷たい!
麦芽の香りと苦味と炭酸。
さ、砂漠ビールだ。
目が痛い!
炭酸がしみる!
「お、お客様! 申し訳ございません! すぐにお召し物を乾かしますのでこちらへ!」
砂漠ビールがしみて目を開けられずにいる僕の耳に、焦ったウエイトレスさんの声が響く。
僕は目を閉じたまま首を横に振った。
「い、いや。タオルをもらえれば自分で拭けますから……」
「いけません。お召し物にニオイが染み付いてしまいますから!」
そう言うとウエイトレスさんは僕の手を取って店のバックヤードに強引に引っ張っていこうとする。
きょ、今日はやけに女の人に手を引っ張られる日だな。
これはモテ期か?
なんて馬鹿なことを考えている僕はバックヤードに連れていかれ、その壁際に置かれた椅子に座らされた。
「そちらで少々お待ちください」
そう言ってウエイトレスさんは身を翻し、タオルを取りに行く。
その間、僕は自分の兵服の裾で目元を拭い、ようやく痛みも落ち着いてきて目が開けられるようになった。
するとすぐにバックヤードの奥にある裏手からの搬入口が開いて、大きなダンボール箱が運び込まれてきたんだ。
体格のいい搬入業者のオジサンが台車に乗せて運び込んできたそれは、1メートルほどの長さを持つダンボール箱だった。
そして無愛想なオジサンは僕をジロリと見つめると、僕の座る椅子の横にそのダンボール箱を置いた。
「頼まれた荷物。ここに置いておくぞ」
「えっ? いや僕、お店の人じゃ……」
オジサンはそう言う僕の声など聞かず、受け取りのサインも求めずにサッサと搬入口から出て行ってしまった。
取り残された僕はポカンとしつつ、すぐ隣に置かれたダンボール箱を見つめた。
それにしても大きな箱だな。
箱には『業務用食器洗い機』と記されている。
見れば見るほどにその箱は大きく感じられ……ん?
何だか実際にダンボールが大きくなっているような気がするぞ。
どんどんダンボール箱が巨大化していく!
何なんだ?
そこで僕は周囲の光景を見て気が付いたんだ。
ダンボール箱が大きくなってるんじゃない。
僕が小さくなってるんだ!
「ど、どうなってるの?」
「フッフッフ。薬液の効果が出てきたわね。砂漠ビールに混ぜても香りも風味も変わらないんだからワタシって天才」
そう言って僕の前に姿を見せたのは、先ほどのウエイトレスさんだった。
彼女の顔からさっきまでの愛想の良さは消え、そこには狂気をはらんだ笑みが浮かんでいた。
彼女は着ていた店の制服から、いつの間にか医者のような白衣姿に着替えている。
「ど、どういうことですか? あなたは一体……」
僕が唖然としてそう言うと、ウエイトレスさんはその顔に不敵な笑みを浮かべる。
さっきまでウエイトレスさんだった彼女は、今やすっかり科学者のような装いに変わっていた。
そして彼女は縁の尖った真っ赤なフレームのメガネを取り出してスチャッとかけた。
そのメガネのレンズにフワッと蛍光ピンク色で文字が浮かび上がる。
【懺悔主党/会員No.109/ブレイディ】
か、彼女も懺悔主党のメンバーなのか。
というかさっきのエマさんといい、口頭で名乗らないのは懺悔主党の流儀なんだろうか。
ブレイディは僕を見下ろすと、何やら満足げな笑みを浮かべて近寄ってくる。
ぼ、僕が小さくなっているせいで、その様子は巨人のようだった。
「おまえがアルフレッド・シュヴァルトシュタインだな。我が愛しの実験体よ。ワタシの信奉する科学のためにその身を捧げる覚悟は出来ているようだな」
僕は確かにアルフレッドですが、実験体でもなければ科学のためにこの身を捧げる覚悟もありません。
というか何なんだこの子は。
さっきまでウエイトレスやってた同じ少女とは思えないほど、口調も態度もガラリと変わっている。
まるでマッド・サイエンティストだ。
そう思った僕は言葉を発しようとしたけれど、口からうまく言葉が出て来ない。
あ、あれっ?
どうなってるんだ?
僕が目を白黒させているとブレイディはニンマリとした表情で白衣のポケットから手鏡を取り出し、それを僕に向けた。
「無駄だ。ちょうど今、変異は完了した。今の君は人の言葉を理解することは出来ても話すことは出来ない」
そう言う彼女がこちらに向けてくる鏡の中には茶色い小動物の姿がある。
僕が驚いて身じろぎすると、鏡の中の小動物も同じように動いた。
こ、これ僕?
嘘でしょ。
唖然として鏡の中の自分とブレイディを交互に見つめる僕に彼女はあやしげな笑みを浮かべて言う。
「フェレットだよ。君はフェレットになったんだ。なかなか愛らしい姿じゃないか」
お、おおう……。
フェレットになったのか僕は。
じゃなくて、なぜこんなことを!
と言いたいのに言葉を話せない。
「ワタシの開発した小動物に変身する薬だよ。さっきそれを砂漠ビールに混ぜて君にひっかけたんだ。成果は上々。長い年月と多大な労力と莫大な費用をかけた甲斐があったな」
何というムダ!
ムダ科学!
とにかく僕をすぐ元に戻して下さい。
という抗議をするために僕は前足で床をタンタンとせわしなく叩いた。
タンタン(早くっ)!
タンタンタン(元に戻してっ)!
「おお~。喜んでいるな。アルフェレットくん。よしよし。そんなに嬉しいか。そうだ。動画を撮ってあげよう」
つ、伝わらねぇぇぇ!
喜んでないから!
動画いいから!
誰がアルフェレットだ!
ブレイディに動画撮影されながら僕が途方に暮れていると、僕の隣に置かれているダンボール箱がビクッと動いたような気がした。
んん?
何だ?
僕は顔を上げてそのダンボール箱を注視する。
するとほどなくしてダンボール箱がガタガタと動き出したんだ。
ヒェッ!
な、なに?
僕は驚いて椅子の上からずり落ちてしまったけれど、体が身軽になっているおかげでうまいこと着地できた。
そして僕が眉を潜めて見上げる先で、ついにダンボール箱の上蓋が開き、中から1人の女性が姿を現したんだ。
僕はその女性の姿に思わず息を飲んだ。
「これはなかなか苦行でしたね。体を思う存分に伸ばせないというのは思いのほか辛いものです」
そう言って箱の中から軽快に跳躍し、空中で華麗に一回転して僕の目の前に降り立ったのは他でもなく光の聖女ジェネットだった。
多くのお客さんが店内各所に設置されたモニターに見入り、そこに映し出される魔女ミランダの襲撃イベント観戦に興じている。
僕がジェネットから送られてきた記録映像を見終わった頃、トレイに飲み物を乗せて僕のすぐ前を歩くウエイトレスさんがふいに声を上げた。
「きゃっ!」
どうやら何かにつまづいたらしく、僕が顔を上げると、彼女の持つトレイから銅器に入った飲み物が飛び出して宙を舞う。
そして黄金色に輝く液体が見事に僕の頭と顔にかかった。
うはあっ!
冷たい!
麦芽の香りと苦味と炭酸。
さ、砂漠ビールだ。
目が痛い!
炭酸がしみる!
「お、お客様! 申し訳ございません! すぐにお召し物を乾かしますのでこちらへ!」
砂漠ビールがしみて目を開けられずにいる僕の耳に、焦ったウエイトレスさんの声が響く。
僕は目を閉じたまま首を横に振った。
「い、いや。タオルをもらえれば自分で拭けますから……」
「いけません。お召し物にニオイが染み付いてしまいますから!」
そう言うとウエイトレスさんは僕の手を取って店のバックヤードに強引に引っ張っていこうとする。
きょ、今日はやけに女の人に手を引っ張られる日だな。
これはモテ期か?
なんて馬鹿なことを考えている僕はバックヤードに連れていかれ、その壁際に置かれた椅子に座らされた。
「そちらで少々お待ちください」
そう言ってウエイトレスさんは身を翻し、タオルを取りに行く。
その間、僕は自分の兵服の裾で目元を拭い、ようやく痛みも落ち着いてきて目が開けられるようになった。
するとすぐにバックヤードの奥にある裏手からの搬入口が開いて、大きなダンボール箱が運び込まれてきたんだ。
体格のいい搬入業者のオジサンが台車に乗せて運び込んできたそれは、1メートルほどの長さを持つダンボール箱だった。
そして無愛想なオジサンは僕をジロリと見つめると、僕の座る椅子の横にそのダンボール箱を置いた。
「頼まれた荷物。ここに置いておくぞ」
「えっ? いや僕、お店の人じゃ……」
オジサンはそう言う僕の声など聞かず、受け取りのサインも求めずにサッサと搬入口から出て行ってしまった。
取り残された僕はポカンとしつつ、すぐ隣に置かれたダンボール箱を見つめた。
それにしても大きな箱だな。
箱には『業務用食器洗い機』と記されている。
見れば見るほどにその箱は大きく感じられ……ん?
何だか実際にダンボールが大きくなっているような気がするぞ。
どんどんダンボール箱が巨大化していく!
何なんだ?
そこで僕は周囲の光景を見て気が付いたんだ。
ダンボール箱が大きくなってるんじゃない。
僕が小さくなってるんだ!
「ど、どうなってるの?」
「フッフッフ。薬液の効果が出てきたわね。砂漠ビールに混ぜても香りも風味も変わらないんだからワタシって天才」
そう言って僕の前に姿を見せたのは、先ほどのウエイトレスさんだった。
彼女の顔からさっきまでの愛想の良さは消え、そこには狂気をはらんだ笑みが浮かんでいた。
彼女は着ていた店の制服から、いつの間にか医者のような白衣姿に着替えている。
「ど、どういうことですか? あなたは一体……」
僕が唖然としてそう言うと、ウエイトレスさんはその顔に不敵な笑みを浮かべる。
さっきまでウエイトレスさんだった彼女は、今やすっかり科学者のような装いに変わっていた。
そして彼女は縁の尖った真っ赤なフレームのメガネを取り出してスチャッとかけた。
そのメガネのレンズにフワッと蛍光ピンク色で文字が浮かび上がる。
【懺悔主党/会員No.109/ブレイディ】
か、彼女も懺悔主党のメンバーなのか。
というかさっきのエマさんといい、口頭で名乗らないのは懺悔主党の流儀なんだろうか。
ブレイディは僕を見下ろすと、何やら満足げな笑みを浮かべて近寄ってくる。
ぼ、僕が小さくなっているせいで、その様子は巨人のようだった。
「おまえがアルフレッド・シュヴァルトシュタインだな。我が愛しの実験体よ。ワタシの信奉する科学のためにその身を捧げる覚悟は出来ているようだな」
僕は確かにアルフレッドですが、実験体でもなければ科学のためにこの身を捧げる覚悟もありません。
というか何なんだこの子は。
さっきまでウエイトレスやってた同じ少女とは思えないほど、口調も態度もガラリと変わっている。
まるでマッド・サイエンティストだ。
そう思った僕は言葉を発しようとしたけれど、口からうまく言葉が出て来ない。
あ、あれっ?
どうなってるんだ?
僕が目を白黒させているとブレイディはニンマリとした表情で白衣のポケットから手鏡を取り出し、それを僕に向けた。
「無駄だ。ちょうど今、変異は完了した。今の君は人の言葉を理解することは出来ても話すことは出来ない」
そう言う彼女がこちらに向けてくる鏡の中には茶色い小動物の姿がある。
僕が驚いて身じろぎすると、鏡の中の小動物も同じように動いた。
こ、これ僕?
嘘でしょ。
唖然として鏡の中の自分とブレイディを交互に見つめる僕に彼女はあやしげな笑みを浮かべて言う。
「フェレットだよ。君はフェレットになったんだ。なかなか愛らしい姿じゃないか」
お、おおう……。
フェレットになったのか僕は。
じゃなくて、なぜこんなことを!
と言いたいのに言葉を話せない。
「ワタシの開発した小動物に変身する薬だよ。さっきそれを砂漠ビールに混ぜて君にひっかけたんだ。成果は上々。長い年月と多大な労力と莫大な費用をかけた甲斐があったな」
何というムダ!
ムダ科学!
とにかく僕をすぐ元に戻して下さい。
という抗議をするために僕は前足で床をタンタンとせわしなく叩いた。
タンタン(早くっ)!
タンタンタン(元に戻してっ)!
「おお~。喜んでいるな。アルフェレットくん。よしよし。そんなに嬉しいか。そうだ。動画を撮ってあげよう」
つ、伝わらねぇぇぇ!
喜んでないから!
動画いいから!
誰がアルフェレットだ!
ブレイディに動画撮影されながら僕が途方に暮れていると、僕の隣に置かれているダンボール箱がビクッと動いたような気がした。
んん?
何だ?
僕は顔を上げてそのダンボール箱を注視する。
するとほどなくしてダンボール箱がガタガタと動き出したんだ。
ヒェッ!
な、なに?
僕は驚いて椅子の上からずり落ちてしまったけれど、体が身軽になっているおかげでうまいこと着地できた。
そして僕が眉を潜めて見上げる先で、ついにダンボール箱の上蓋が開き、中から1人の女性が姿を現したんだ。
僕はその女性の姿に思わず息を飲んだ。
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