だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

文字の大きさ
56 / 91
第四章 下級兵士アルフレッド

第12話 アリアナの真意

しおりを挟む
 アリアナが捕らえられている地の底の牢獄に魔獣使いキーラが姿を現した。
 フェレットの姿になっている僕を右手でつかみながら、キーラは眉を潜める。

「何だこのイタチ。どこから入り込みやがった?」

 そう言ってキーラはじっと僕をにらみつける。
 その視線が恐ろしくて僕は思わず目をそらした。
 するとキーラの背後、この小さな部屋の後方に、緑色に輝く魔法陣が出現しているのが僕の視界に入ってくる。
 確かあれは双子が以前にミランダを地底湖に引きずり込むのに使った不思議な魔法陣だ。
 あれを使ってここに急に現れたのか。
 キーラはさして興味のなさそうな表情で僕を見ていたけど、すぐに視線をアリアナに向ける。

「ようアリアナ。いよいよ弱り果ててこんなケモノに身の上相談か? Aランクの魔道拳士様も落ちぶれたもんだな。しかしおまえも馬鹿な奴だ。もう少し従順にしていればアタシもそこまで痛めつけることもなかったんだがな」

 そう言うとキーラは意地の悪い笑みを浮かべ、拘束されているアリアナの腕についた傷を左手の指で強く押す。

「うううっ!」

 アリアナは苦痛に顔をゆがめながらも、歯を食いしばって必死に痛みに耐えている。
 くっ!
 僕はアリアナをこんなところに閉じ込めてひどい目にあわせるキーラに対して強い怒りを抑えられなかった。
 怒りでブルブルと体を振るわせる僕だったけれど、キーラは右手でつかんだままの僕を握りつぶさんばかりに締め上げる。
 
「おとなしくしてろ。チビが」
 
 そう言うとキーラは僕の体に爪を立てた。
 痛っ!
 ブスリと背中に爪の先が食い込む痛みと共に、体がしびれるような感覚に襲われて僕は動けなくなった。
 どうやら爪に何らかの毒物が仕込まれているらしい。
 キ、キーラは魔獣使いだから、動物の扱いなんてお手のものなんだ。

「こんな奴が迷い込んでくるなんて、どこかにあなでも開いてんのか。フンッ」

 キーラは僕がぐったりと動かなくなるのを見ると、つまらなさそうに鼻を鳴らして僕を放り捨てた。
 うぐっ。
 僕は地面に落下して力なくその場に横たわる。

 アリアナは心配そうに僕を見下ろすと、キッと鋭い目でキーラをにらみつけた。
 当のキーラはそんなアリアナの様子を見てニヤリと笑うと、大仰に肩をすくめて見せる。

「こんなケモノの心配をしている場合か? もうすぐおまえの出番だぞアリアナ。砂漠のオアシスに出撃だ。大活躍してもらわないとなぁ。ククク」

 キーラは愉快そうにのどを鳴らして笑い、対照的にアリアナは嫌悪感をむき出しにする。

「あそこに出て行くのは私じゃない。あなたたちが作り上げた私のまがい物よ」
「バーカ。そんなことはどうでもいいんだよ。他人から見りゃ分かりゃしねえんだからな。水着姿でケツ振って男どもを引き寄せ、病気でプレイ出来なくなったっていう不幸話で世間の同情を集める。それがアリアナさ」
「違う! 私はそんなんじゃない!」
「いいや。それが世間から見たおまえだ。ここでキーキーわめいてるおまえのことなんか誰も知りゃあしねえ。ここにいるおまえはもうこのゲームの中には存在してねえんだよ。あきらめな」

 ……え?
 な、何の話だ?
 まがい物?
 僕は昨晩、聖岩山せいがんざんで見た双子クラスタのニュースを思い返した。
 あの時、水着姿で双子クラスタの宣伝に出演していたアリアナはまるで別人のようだった。
 あのアリアナは今、目の前にいる彼女とは違うってこと?

 僕は先ほどの広間につながれた多くのNPCたちが、今ミランダと戦っているNPCたちと同じ人物たちであることを思い返した。
 それは要するにまったく同じ姿のNPCが2体いるということになる。
 ということはアリアナもここにいるアリアナとは別の彼女がいるってことなのか?

 戸惑う僕をよそにキーラは指をパチリと鳴らす。
 すると薄暗い地下の岩壁にモニターが現れ、ミランダの戦いの様子が映し出された。
 戦いの場は先ほどまでの中央広場からオアシスの湖岸へと移っている。
 イベントの開始からすでに2時間近くが経過していて、正午のイベント終了まで残すところ1時間ほどとなっていた。
 生き残っているプレイヤーは8人、それに対してNPCはまだ30人が生き残っている。

 ミランダはまだまだ元気に暴れ回っていたけど、すでに全回復アイテムを2つ使い切り、残りは1つだけとなっていた。
 生き残っているレベルの高いプレイヤーやいまだ数多く残っているNPCたちによってミランダは確実に疲弊しつつあるんだ。
 そんな戦いの様子を見ながらキーラは自分のメイン・システムを操作していた。

「うちの所属メンバーも10人以上やられちまったか。ってことは大広間の連中も意識が戻り始めるな。ま、これだけ残りゃ上出来だ。アディソンの奴もよくやってるぜ」

 壁の向こうの大広間にいる人たちの意識が戻り始める?
 どういうことだ?
 僕の頭の中をグルグルと疑問が回り出す。
 そんな僕の目の前でアリアナはくちびるを噛み締めると、顔を上げてキーラに訴えかけた。

奴隷どれい扱いは私だけで十分でしょ。大広間にいる人たちは解放してあげて」
「馬鹿言うな。連中はこれからが仕事の本番なんだよ。残り1時間。満を持しておまえを投入しても、他の高レベルプレイヤーたちに先を越されたら意味ねえだろ」

 キーラはモニターを指差し、言葉を続ける。

「生き残っている8人のプレイヤーたちは全員、レベル50超えの猛者もさどもだ。そうそう簡単にはくたばってくれねえだろうよ。アリアナ。おまえがミランダを倒して目立つために奴らは邪魔だ。そのためにアディソンが苦労してNPCどもを操作してプレイヤーたちの動きを封じ込めてるんだろうが。その辺りをよく考えてから物を言いな」

 NPCたちをアディソンが操っている。
 キーラがそう言ったのを聞いた僕だけど、驚きはそれほどではなかった。
 それよりも、やはりそうだったかという思いのほうが強い。

 でもミランダとの戦いに参戦しているのはサポートNPCたちで、彼らは皆、自分の考えで動く。
 誰かが操るなんてことは普通ならば出来ないことだ。
 ということは十中八九、NPCたちは双子のウイルスに感染しているだろう。
 それを暗黒巫女みこのアディソンが操っている。
 それはジェネットが危惧きぐしていたことだ。

 ミランダと戦闘中のNPCたちの動きが妙だと言ったジェネットの懸念はやはり的を得ていたんだ。
 な、何とかしてこの状況をジェネットに知らせなきゃいけないのに、さっきキーラの爪に刺された影響で僕はしびれて動けない。
 幸いなことにキーラは僕をただのフェレットと認識していて、こちらにまったく注意を払っていなかった。
 な、何とか体を動かせれば……。
 そう思って体を動かそうとするけれど、どうしても力が入らない。
 僕の視線の先ではアリアナが懸命に声を上げている。

「私は……あなたたちの小細工なしでもミランダに正々堂々勝ってみせる。だから他の人を巻き込むのはやめて!」

 だけどアリアナの必死の訴えをあざ笑い、キーラは口の端を吊り上げた。

「相変わらず甘いこと言ってんなオマエは。正々堂々勝ってみせる? 馬鹿か。アタシらのやってることはビジネスだ。最高の演出で確実に勝利を手にする必要があるんだよ。勝敗すらコントロールしてこそ意味がある。おっと八百長とか言うなよ? クソみたいなプライドを掲げてお遊びしてる奴らとアタシらは違う。そしておまえはアタシらにとっての歯車の一部だ。きっちりやることやれや」
 
 そう言うとキーラは獣属鞭オヌリスを取り出して地面をビシッと打つ。

「おまえ。自分の立場が分かってんのか? アタシらは今からでもあのアルフレッドとかいう小僧をこのゲームから消してやれるんだ。それを忘れたわけじゃあるまい?」

 へっ?
 ぼ、僕?
 いきなり自分の名前が出てきたことに僕は驚きを禁じ得なかった。

「ア、アル君には手を出さない約束よ。だから私はあなた達の不正契約も甘んじて受けたんだから」
「そうだったなぁ。おまえはただ一人のお友達を守るために自分を売ったんだ」

 ……な、何だって?

「だがなアリアナ。アタシらの契約書すり替え行為を知りながら運営本部に申し出なかった時点で、おまえも共犯者なんだよ。お友達の下級兵士のためを思っての行動が高くついたな? ハッハッハ!」

 そ、そんな……そんな……。
 僕は知った。
 アリアナは僕のために、僕を助けようと思って自分を犠牲にしたんだ。
 入りたくない双子のクラスタに加入したのは、そのためだったんだ。
 そして僕を守るために行ったそうした行為の果てに、今の傷つき憔悴しょうすいしきった彼女の姿がある。
 その事実に、胸が張り裂けそうなほどの痛みが僕の全身を震わせた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...