だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

文字の大きさ
57 / 91
第四章 下級兵士アルフレッド

第13話 囚われの魔道拳士

しおりを挟む
 地底の牢獄で魔獣使いキーラは獣属鞭オヌリスを握り締めたまま、とらわれのアリアナを言葉で責め立てる。

「あの下級兵士の体内に隠れたウイルスを発動させれば、あいつは狂気に陥り、ゲームのルールを逸脱した凶行に及ぶだろう。そうすれば危険分子としてあいつは運営本部に処分される。おそらく運営本部の決断は早いぜ? なにしろただの下級兵士だからな。ミランダのようなボスと違って、ためらいなくスバッと消去するだろうよ」

 えっ……?
 僕にウイルス?
 そんなことは……そ、そうか。
 キーラはうそをついてアリアナをだましているんだ。

 アリアナは僕がウイルスにおかされていると思ってしまっている。
 彼女は知らないんだ。
 懺悔主党ザンゲストのメンバーであるトラブルシューターの少女アビーがくれたワクチン・プログラムによって守られている僕はウイルスに感染することはない、ということを。
 それをアリアナに伝えられたら、彼女はもうあんなに苦しまなくて済むはずだ。
 僕は何とか彼女にそれを伝えなければ、という強い思いに駆られて体を必死に動かそうとする。

「もし……もしアル君に手出しをしたら私、あなたたちの行ってきた不正行為を全て暴露してやるから! 共犯者としてどんな罰を受ける覚悟もあるわ!」

 アリアナはくちびるや肩をワナワナと震わせてそう言い放った。
 それは生来気弱な彼女の精一杯の叫びだった。
 だけどキーラはこれを一笑に付す。

「ハッハッハ。ここから二度と出られない奴がどうやって密告チクるんだよ。ここはこのゲームに存在しないはずの場所だ。アタシとアディソンしか訪れることはない。おまえはずっとここでアタシらに飼われていくんだ。でも心配しなくていいぞ。代わりにコピーのアリアナがアタシらの従順な下僕としてこのゲームで活躍してくれるからよ」

 コピー?
 コピーってどういうこと?
 キーラは得意げな顔で言葉を続ける。

「そんな怖い顔すんなアリアナ。アタシらが責任もっておまえを人気者に仕立て上げてやるからよ。おまえがチマチマそのまま地味にプレイするよりもよほど人気が出るぜ? なんつってもアタシらプロデュースの天才だからな」

 軽口をたたくキーラに対し、アリアナはくちびるを噛みしめると勇気を振り絞るように拳を握りしめた。

「NPCのオリジナルをここに残してコピーを作成し、そのコピーをウイルスで支配して自分たちの都合のいいように操る。そんな行為、絶対許されない。あなたたちの勧誘を受けてNPC化を申し込んでくれたプレイヤーたちに対する重大な裏切りよ!」

 キーラを責め立てるアリアナの言葉が僕の頭の中でグルグルと回る。
 そんな……ということは双子は契約書のすり替えだけじゃなく、NPCのすり替えもしてたってこと?
 そんなこと可能なのか?

「誰にも分かりゃしねえよ。そのくらいの事前準備はしてある。万が一、運営本部の監査が入った時のためにこうしてオリジナルであるおまえや外の連中を残してあるんだ。コピーの方を監査されるとウイルスを検知されちまうからな。監査の時はおまえらオリジナルから監査専用のコピーをもう一体作り出す。そのコピーを監査させれば万事OK。これですべてはやみの中だ。分かったか? アリアナ。おまえに出来ることなんてもう何もないんだ。無力な己をせいぜい呪いな」

 そう言うとキーラは高笑いを響かせる。
 やっぱりそういうことなのか。
 ここにいる本当のアリアナの他にもう一人のアリアナが用意されていて、そちらが双子の操り人形として動いている。
 クッ。
 双子の用意周到さは相変わらずだ。
 アリアナは悔しそうにキーラをにらみつけたまま何も言えずにいる。

 僕は彼女の悔しさが手に取るように分かり、思わず身震いした。
 彼女の怒りや悲しみ、悔しさが自分のことのように感じられて仕方がない。
 その時、僕は気が付いた。
 ようやく体のしびれが治まってきて、動けるようになってきたことに。
 どうやらキーラに刺された毒はそれほど成分が強いわけではないようだった。

「さあ。アリアナ。そろそろ出撃準備だ。舞台は整ったぜ。ミランダの猛攻でプレイヤーは全滅の危機にひんしている。そこへおまえが颯爽さっそうと現れるんだ。なあに、心配すんな。他のNPCたちをうまく使ってお前が確実にミランダを倒せるようコントロールしてやるから。んじゃ、地上で待機しているコピーの方におまえのメイン・コントロールを移すぞ」

 そう言うとキーラは自分のメイン・システムからアリアナのそれへとアクセスする。
 途端にアリアナが激しく苦しみ出した。

「うううううっ! あああああっ!」

 アリアナはよほど苦しいのか、耐え切れずに身をよじって叫び声を上げる。
 両手両足と腰を太い鎖でガッチリ固定されている彼女は苦しさから逃れようと激しく暴れ、そのたびに鎖がガチャガチャとけたたましい音を立てる。
 それは何か特殊な鎖のようで、力の強いアリアナがいくら逃れようとしても決して断ち切れない。
 そしてあまりにも激しく暴れるため、鎖にこすれてアリアナの手足は赤く腫れ上がり、血がにじみ始めた。

「毎度毎度暴れるんじゃねえよ。面倒くせえな。抵抗するから苦しむんだって何度も言ってんだろ。外の連中みたいにあっさり体を明け渡せば、苦しまずに済むのに馬鹿な奴め」

 キーラはあざけるようにそう言うと、獣属鞭オヌリスを振るってアリアナの足腰を幾度も打った。
 ああっ!
 アリアナの体が傷だらけで道着がボロボロなのはこのせいだ。
 こんなことが今まで何回もあったんだ。
 こんな苦しみに襲われながらアリアナは決して心までは屈服しない。
 だからこそ彼女はこんなにも傷ついてしまった……くっ!

 僕は凄惨せいさんなその様子を見ていられなくて思わず立ち上がる。
 やめろ……もうやめてくれ!
 だけどキーラは苦しみもだえるアリアナを目の前に、薄笑みを浮かべたまま平然と作業を続けている。
 僕は怒りが沸点を振り切るのを感じ、我を忘れてキーラに飛びかかった。

「もうやめろ! アリアナを放せ!」

 そう叫ぶと僕はキーラの足首に思い切り噛みついた。

「イッテェッ! な、何だこのイタチ!」

 キーラは怒りの声を上げて作業の手を止め、足首を激しく振って僕を振り払う。
 僕は地面に投げ出されたけれど、すぐに立ち上がる。
 そんな僕を見下ろすキーラの目に驚きの色が浮かんでいた。
 僕が動けるようになったことに驚いているんだ。
 そう思ったけれど、彼女の驚きの原因はそうじゃなかった。

「おまえ……今、『もうやめろ。アリアナを放せ』と言ったな?」

 えっ?
 ど、どうしてフェレット状態の僕の言葉を……ハッ!
 キーラは魔獣使いだから動物の言葉が分かる……うぐっ!
 考える間もなくキーラは素早く手を伸ばして僕の体を再び握り締める。
 
 そしてキーラは僕をすぐ間近で品定めするようにジロジロとすがめた。
 彼女の鋭い眼光が恐ろしくて僕は思わずすくみ上がる。
 ただでさえキーラは怖いのに、フェレットになっている今の僕は本能的に魔獣使いを恐れている。

「イタチは人の名前程度なら繰り返し聞けば覚えちまうことはあるが、さっきのおまえみたいに話したりはしねえ。まるで人間のようにな。おまえ……ただのイタチじゃねえな? 何者だっ!」

 そう言うとキーラは両目をカッと見開いて僕をじっと見つめた。
 彼女の銀色に輝く目が急激にオレンジ色の光を放つ。
 こ、これは魔獣を操るキーラのスキル……そう思った途端、僕の体の奥からムズムズとした欲求が湧き上がる。
 それは今まで感じたことのない欲求だった。

 僕の本能がキーラを主人と認め、従属したがっている。
 それは抗いがたい甘美な誘惑に感じられた。
 これが自分より上位の存在に従う動物の本能……くっ!
 ダメだダメだ!
 僕は首をブルブルと激しく振って必死にこの欲求に耐える。
 そんな僕の様子を見て、キーラは目を細めた。

「動物がアタシのスキル・従属の目ドミネーションに抗えるはずがねえ。やっぱりてめえ、イタチじゃねえな……ん? おまえ、脚が一本ねえじゃねえか。それにこいつは……」
 
 そう言うとキーラは僕の首にかけられた真っ黒なIRリングに手をかけた。
 彼女の目に怪しげな光が宿る。
 や、やばい。
 バレる。
 キーラはおそらくここまでの僕の様子を監視していただろうから、僕が右腕を失っていることや左腕に装備していたIRリングのことも、それが黒く変色したことも気が付いているはずだ。
 
「おまえ……」
 
 キーラがそう言いかけたその時だった。
 僕は心臓が一度、ドクンと大きく跳ね上がるような感覚を覚えて息を止めた。
 すると体中がゾワゾワとして全身の毛が逆立つように感じられ、これまで巨大に見えていたキーラの姿がどんどん小さくなっていく。
 そして僕は自分の手足が人間のそれに戻っていくのを目の当たりにした。
 そう。
 フェレットの姿になっていた僕は、何の前触れもなく唐突に人の姿に戻ってしまったんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...