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第五章 魔獣使いキーラ & 暗黒巫女アディソン
第10話 暗黒巫女・アディソン
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暗黒巫女・アディソンは吸血杖を手に猛然と僕に襲いかかってくる。
彼女の中位スキルである魔神の吐息を浴びた僕の右腕はすでに形を成さないほどに溶けてしまい、先ほどまで感じていた痛みは消えてすでに感覚も失われていた。
おそらく、ほどなくして完全に溶け落ちてしまうだろう。
アディソンが口から吐き出す魔神の吐息は一度吐き出すと再チャージに時間がかかるようで連発は出来ないけれど、その威力は恐ろしいほどに強力だった。
「あなたをゲームオーバーに追い込んだ後、ジェネットを手に入れるとしましょうか」
そう言って迫り来るアディソンの攻撃を前に僕は必死に足を動かして距離を取る。
や、やばいぞ。
僕は自分が右腕を失って冷静さを欠いていることを強く感じ、懸命に頭の中で念じた。
タリオ。
来い。
僕の左手に戻ってこい。
タリオはすぐに応じてくれて、僕の左手に収まる。
そして僕は再び左手一本でそれを握り、アディソンの猛攻を何とか受け流して耐え忍ぶ。
両腕がないとまともに受け止めるのもキツい。
アディソンの吸血杖による打撃はそれほど圧力が強かった。
「この死に損ない! 脳髄ぶちまけて惨殺死体と化すがいい!」
その粗暴な口ぶりとは裏腹にアディソンの杖による打撃は振り下ろす、なぎ払う、突き出す、振り上げる等の動作にフェイントを交え、コンビネーションで繰り出す非常に多彩なものだった。
それは巫女というより、最前線で敵を屠る剛腕の女戦士のようだ。
そんな彼女の攻撃から必死に逃れながら、僕の胸に不思議な感情が涌き上がってくる。
キーラにしてもアディソンにしても憎らしくてその振る舞いは決して容認することは出来ないけれど、ゲームの一キャラクターとしては非常に優れていて魅力的な存在なんだ。
ちゃんとゲームの枠内で悪役としてその力を発揮すれば、すごくこのゲームを盛り上げてくれるだろうに。
「もったいない」
思わず口をついて出たのはそんな言葉だった。
そして双子をこんなふうに使う黒幕に対して、理不尽さを感じずにはいられなかった。
「アル様!」
その時、ジェネットの声が地下空洞に響き渡る。
アディソンの攻撃に押し込まれて防御に追われる僕はハッとしてアディソンの口の動きに注意を払う。
ジェネットは僕らの戦いを見守りながらアディソンの不穏な気配を感じ取ったのだろう。
来る。
アディソンの魔神の吐息が。
「はあっ!」
僕は嫌な気配を振り払うように蛇たちをけしかけ、アディソンを後退させて距離を取る。
アディソンは後退しながら吸血杖で蛇たちを打ち払った。
そんな彼女の顔に邪悪な笑みが浮かぶ。
「愚か者」
そこで僕は気が付いたんだ。
アディソンの持つ吸血杖の先端についているはずの銀色のドクロがなくなっていることに。
僕は驚いて蛇たちを手元に引き寄せる。
あのドクロは杖から離れて相手に噛みつき、そのライフを吸い取ることが出来る。
僕は以前にその攻撃を受けた時のことを思い返した。
まさか……もう僕の体に?
僕は慌てて自分の体を確かめる。
でもどこにもドクロは見当たらない。
だけど僕は見落としていたんだ。
タリオの柄に引き戻した二匹の蛇のうち、白蛇の頭の上に銀色のドクロが牙を突き立てて乗っかっていたことを。
そ、そうか。
さっき蛇たちを吸血杖で振り払った時に……。
ドクロは口を開けた。
僕はすぐにタリオから白蛇を切り離して遠ざける。
だけど途端に白蛇から離れて宙に浮いたドクロは、その牙で僕に食らいつくのではなく、大きく開いた口から緑色の霧を噴射し始めたんだ。
それは僕に向かって勢いよく吹きつけられ、視界が緑色の霧で閉ざされる。
「うわああああっ!」
僕は左腕で顔をかばうのがやっとだった。
し、しまった。
油断した。
ドクロの口からも魔神の吐息を吐き出せるなんて。
僕は致命的なダメージを覚悟したけれど、それでもゲームオーバーだけは避けようと必死に後退する。
でも……あれ?
そこで僕は奇妙なことに気が付いたんだ。
魔神の吐息の直撃を受けたはずなのに体のどこにも痛みはなく、ライフも減っていない。
そして緑一色だった目の前の光景が徐々に明瞭になっていき、僕はそこでようやく状況を理解した。
「ア、IRリングが……」
そう。
僕の眼前に広がっていた緑色の毒霧は、僕の左手首と一体化しているIRリングにどんどん吸い込まれていたんだ。
途端に黄色かったIRリングの色が同じような緑色に変化する。
さっきはアリアナの氷の涙を吸収して青白い色に変化していたけれど、これってまさか……。
僕の予感は的中した。
ほとんど溶け落ちかけていた氷の右腕が消え、代わりに緑の霧に包まれた腕が現れたんだ。
それは明らかにアディソンの魔神の吐息と同じ力で出来た腕だった。
ま、まただ。
またIRリングが力を吸収して僕の腕に変えたんだ。
「なっ……」
驚きの声を上げたのは僕ではなくアディソンだった。
その顔は少なからぬ驚愕と……わずかな恐怖の色を帯びていた。
「あなたは一体……何なのですか」
「僕は……ただの下級兵士だよ。ただ大切な人を守りたいだけだ」
そう言うと僕は再び現れた右手にタリオを握り替える。
するとやはりタリオの刀身は右腕と同じ緑色に変色した。
そして刀身の周りには緑色の霧がまとわりついている。
それが何の効果を表しているのかは明白だ。
僕はタリオを両手で握り締めると、半ば呆然としているアディソンに挑みかかった。
「くっ! 忌々しい! 忌々しい忌々しい!」
アディソンはヒステリックな声を上げ、吸血杖を振りかざして僕を迎え撃った。
僕は緑色の刀身を振り上げて彼女の吸血杖に打ちかかる。
ガキンと硬質な音が響き、アディソンは僕の攻撃をしっかり受け止めた。
だけど剣と杖がぶつかり合った衝撃で、緑の毒霧に包まれたタリオの刀身から緑色の雫が飛び散ってアディソンの頬にかかる。
すると彼女は苦しげな声を上げた。
「くあっ……」
魔神の吐息同様に猛毒と思われるその緑色の雫は当然のように僕にもかかる。
肌の露出した部分にかかれば痛みを感じ、兵服にかかれば生地が煙を上げて溶ける。
唯一、緑色に染まった右腕だけは何ともないのが救いだけど……こ、これは使う方も危険な諸刃の剣だ。
だけどアディソンが明らかに動揺している今がチャンスだ。
僕は緑の雫を浴びるのもかまわずにタリオを力いっぱい振って、強引にアディソンを押し込んでいく。
「こ、このっ! 生意気なっ!」
アディソンは体のそこかしこに緑色の雫を浴びながら僕の攻撃を受け止めるけれど、そのライフはジリジリと減っていた。
僕は無我夢中で剣を振りながら、それでも考え続けていた。
このまま押し切ればアディソンに勝てるかもしれないけれど、彼女のライフがゼロになってしまえばゲームオーバーとなり、キーラのように凍り付かせて捕らえることは出来ない。
どうすべきかを考えようとするけれど、アディソンの決死の抵抗を前にそんな余裕はなかった。
僕自身も緑の雫を浴びてライフを減らしながら剣を振るう。
戦いは消耗戦の様相を呈していた。
だけどその時、ジェネットが小走りに地下空洞の中を移動していく姿を僕は視界の端に捉えたんだ。
その行動に僕は何かしらの意図を感じ、ジェネットを目で追うことはせずにアディソンへの攻撃に集中する。
アディソンは腹をくくったのか、緑の雫を浴びても怯むことなく僕と打ち合う。
僕はタリオで攻防を繰り広げながら、蛇たちを繰り出すタイミングを計っていた。
凍り付かせて捕らえることが出来ないなら、蛇たちで縛り上げるしかない。
アディソンも体力を失っているせいか、先ほどまでのような攻撃の多彩さは失われ、単調で読みやすい攻撃になりつつあった。
よ、弱ってるんだ。
今なら力で押し切って一気に蛇たちで縛り上げることが出来る。
僕は頭のなかで思い描く青写真を決然と実行しようとした。
だけどその時、アディソンがニヤリと笑ったんだ。
その口が小さく動き、何かを唱えていることに僕はその時になって初めて気付いた。
気付いた時にはもう遅く、僕の足元がグラリと揺れ、地面が陥没した。
僕の足は足首まで地面にはまり込んでしまい、身動きが取れなくなる。
すると足を取られて体勢を崩す僕の足元から強烈な熱がせり上がってきた。
「溶岩噴射」
アディソンは邪悪な笑みを浮かべてそう言ったんだ。
それは彼女の下位スキルである暗黒呪術だった。
ま、まずい……。
僕の足元から燃えたぎる溶岩が噴き出そうとしている。
あ、熱い!
足が焼かれる!
そのあまりの高温に直接この身を焼かれれば、間違いなく即死レベルだ。
僕は自分の迂闊さを呪った。
アディソンの攻撃が急に雑になったのは、精神を暗黒呪術の生成に傾けていたからだ。
溶岩に飲み込まれていこうとする僕を見るアディソンの顔が、嗜虐的な喜びに満ちていく。
だけど……僕はその時に聞いたんだ。
僕の勝利を信じてくれる友の声を。
「アル様! 受け取って下さい!」
僕の前方数十メートルのところまで駆け寄っていたジェネットは、叫び声を上げながら何かを僕に向かって投げたんだ。
まっすぐに飛ぶキラキラと輝く小さなそれに僕は左手を伸ばす。
すると青白い小さな玉のようなそれは、僕の左手にあるIRリングに吸い込まれていった。
その途端に僕の体全体に冷たく凛とした空気が吹き抜けた。
その感覚を僕は覚えている。
こ、これは……アリアナの涙?
一瞬で僕の右腕が緑色から青白い氷の腕へと戻った。
そしてそんな右手に握られたタリオが再び青白い刀身に変化する。
僕は何かを考える間もなく、反射的にそのタリオを足元の地面へと突き立てた。
すると激しい水蒸気が上がり、足元が凍結して固まっていく。
地面の底から感じる熱は消え去り、溶岩の噴出は未然に防ぐことが出来た。
そして間髪入れずに僕は蛇たちに命じる。
「いけっ! 蛇たち!」
「なっ……」
僕を焼き殺せると確信して、喜びに浸っていたアディソンの反応が遅れた。
それはほんの刹那のことだったが、彼女にとっての命取りだったんだ。
蛇たちが猛烈な勢いで吐き出した輝く青白い吐息を全身に浴び、暗黒巫女・アディソンは姉のキーラ同様に全身を凍結させ、氷の彫像と化して沈黙した。
彼女の中位スキルである魔神の吐息を浴びた僕の右腕はすでに形を成さないほどに溶けてしまい、先ほどまで感じていた痛みは消えてすでに感覚も失われていた。
おそらく、ほどなくして完全に溶け落ちてしまうだろう。
アディソンが口から吐き出す魔神の吐息は一度吐き出すと再チャージに時間がかかるようで連発は出来ないけれど、その威力は恐ろしいほどに強力だった。
「あなたをゲームオーバーに追い込んだ後、ジェネットを手に入れるとしましょうか」
そう言って迫り来るアディソンの攻撃を前に僕は必死に足を動かして距離を取る。
や、やばいぞ。
僕は自分が右腕を失って冷静さを欠いていることを強く感じ、懸命に頭の中で念じた。
タリオ。
来い。
僕の左手に戻ってこい。
タリオはすぐに応じてくれて、僕の左手に収まる。
そして僕は再び左手一本でそれを握り、アディソンの猛攻を何とか受け流して耐え忍ぶ。
両腕がないとまともに受け止めるのもキツい。
アディソンの吸血杖による打撃はそれほど圧力が強かった。
「この死に損ない! 脳髄ぶちまけて惨殺死体と化すがいい!」
その粗暴な口ぶりとは裏腹にアディソンの杖による打撃は振り下ろす、なぎ払う、突き出す、振り上げる等の動作にフェイントを交え、コンビネーションで繰り出す非常に多彩なものだった。
それは巫女というより、最前線で敵を屠る剛腕の女戦士のようだ。
そんな彼女の攻撃から必死に逃れながら、僕の胸に不思議な感情が涌き上がってくる。
キーラにしてもアディソンにしても憎らしくてその振る舞いは決して容認することは出来ないけれど、ゲームの一キャラクターとしては非常に優れていて魅力的な存在なんだ。
ちゃんとゲームの枠内で悪役としてその力を発揮すれば、すごくこのゲームを盛り上げてくれるだろうに。
「もったいない」
思わず口をついて出たのはそんな言葉だった。
そして双子をこんなふうに使う黒幕に対して、理不尽さを感じずにはいられなかった。
「アル様!」
その時、ジェネットの声が地下空洞に響き渡る。
アディソンの攻撃に押し込まれて防御に追われる僕はハッとしてアディソンの口の動きに注意を払う。
ジェネットは僕らの戦いを見守りながらアディソンの不穏な気配を感じ取ったのだろう。
来る。
アディソンの魔神の吐息が。
「はあっ!」
僕は嫌な気配を振り払うように蛇たちをけしかけ、アディソンを後退させて距離を取る。
アディソンは後退しながら吸血杖で蛇たちを打ち払った。
そんな彼女の顔に邪悪な笑みが浮かぶ。
「愚か者」
そこで僕は気が付いたんだ。
アディソンの持つ吸血杖の先端についているはずの銀色のドクロがなくなっていることに。
僕は驚いて蛇たちを手元に引き寄せる。
あのドクロは杖から離れて相手に噛みつき、そのライフを吸い取ることが出来る。
僕は以前にその攻撃を受けた時のことを思い返した。
まさか……もう僕の体に?
僕は慌てて自分の体を確かめる。
でもどこにもドクロは見当たらない。
だけど僕は見落としていたんだ。
タリオの柄に引き戻した二匹の蛇のうち、白蛇の頭の上に銀色のドクロが牙を突き立てて乗っかっていたことを。
そ、そうか。
さっき蛇たちを吸血杖で振り払った時に……。
ドクロは口を開けた。
僕はすぐにタリオから白蛇を切り離して遠ざける。
だけど途端に白蛇から離れて宙に浮いたドクロは、その牙で僕に食らいつくのではなく、大きく開いた口から緑色の霧を噴射し始めたんだ。
それは僕に向かって勢いよく吹きつけられ、視界が緑色の霧で閉ざされる。
「うわああああっ!」
僕は左腕で顔をかばうのがやっとだった。
し、しまった。
油断した。
ドクロの口からも魔神の吐息を吐き出せるなんて。
僕は致命的なダメージを覚悟したけれど、それでもゲームオーバーだけは避けようと必死に後退する。
でも……あれ?
そこで僕は奇妙なことに気が付いたんだ。
魔神の吐息の直撃を受けたはずなのに体のどこにも痛みはなく、ライフも減っていない。
そして緑一色だった目の前の光景が徐々に明瞭になっていき、僕はそこでようやく状況を理解した。
「ア、IRリングが……」
そう。
僕の眼前に広がっていた緑色の毒霧は、僕の左手首と一体化しているIRリングにどんどん吸い込まれていたんだ。
途端に黄色かったIRリングの色が同じような緑色に変化する。
さっきはアリアナの氷の涙を吸収して青白い色に変化していたけれど、これってまさか……。
僕の予感は的中した。
ほとんど溶け落ちかけていた氷の右腕が消え、代わりに緑の霧に包まれた腕が現れたんだ。
それは明らかにアディソンの魔神の吐息と同じ力で出来た腕だった。
ま、まただ。
またIRリングが力を吸収して僕の腕に変えたんだ。
「なっ……」
驚きの声を上げたのは僕ではなくアディソンだった。
その顔は少なからぬ驚愕と……わずかな恐怖の色を帯びていた。
「あなたは一体……何なのですか」
「僕は……ただの下級兵士だよ。ただ大切な人を守りたいだけだ」
そう言うと僕は再び現れた右手にタリオを握り替える。
するとやはりタリオの刀身は右腕と同じ緑色に変色した。
そして刀身の周りには緑色の霧がまとわりついている。
それが何の効果を表しているのかは明白だ。
僕はタリオを両手で握り締めると、半ば呆然としているアディソンに挑みかかった。
「くっ! 忌々しい! 忌々しい忌々しい!」
アディソンはヒステリックな声を上げ、吸血杖を振りかざして僕を迎え撃った。
僕は緑色の刀身を振り上げて彼女の吸血杖に打ちかかる。
ガキンと硬質な音が響き、アディソンは僕の攻撃をしっかり受け止めた。
だけど剣と杖がぶつかり合った衝撃で、緑の毒霧に包まれたタリオの刀身から緑色の雫が飛び散ってアディソンの頬にかかる。
すると彼女は苦しげな声を上げた。
「くあっ……」
魔神の吐息同様に猛毒と思われるその緑色の雫は当然のように僕にもかかる。
肌の露出した部分にかかれば痛みを感じ、兵服にかかれば生地が煙を上げて溶ける。
唯一、緑色に染まった右腕だけは何ともないのが救いだけど……こ、これは使う方も危険な諸刃の剣だ。
だけどアディソンが明らかに動揺している今がチャンスだ。
僕は緑の雫を浴びるのもかまわずにタリオを力いっぱい振って、強引にアディソンを押し込んでいく。
「こ、このっ! 生意気なっ!」
アディソンは体のそこかしこに緑色の雫を浴びながら僕の攻撃を受け止めるけれど、そのライフはジリジリと減っていた。
僕は無我夢中で剣を振りながら、それでも考え続けていた。
このまま押し切ればアディソンに勝てるかもしれないけれど、彼女のライフがゼロになってしまえばゲームオーバーとなり、キーラのように凍り付かせて捕らえることは出来ない。
どうすべきかを考えようとするけれど、アディソンの決死の抵抗を前にそんな余裕はなかった。
僕自身も緑の雫を浴びてライフを減らしながら剣を振るう。
戦いは消耗戦の様相を呈していた。
だけどその時、ジェネットが小走りに地下空洞の中を移動していく姿を僕は視界の端に捉えたんだ。
その行動に僕は何かしらの意図を感じ、ジェネットを目で追うことはせずにアディソンへの攻撃に集中する。
アディソンは腹をくくったのか、緑の雫を浴びても怯むことなく僕と打ち合う。
僕はタリオで攻防を繰り広げながら、蛇たちを繰り出すタイミングを計っていた。
凍り付かせて捕らえることが出来ないなら、蛇たちで縛り上げるしかない。
アディソンも体力を失っているせいか、先ほどまでのような攻撃の多彩さは失われ、単調で読みやすい攻撃になりつつあった。
よ、弱ってるんだ。
今なら力で押し切って一気に蛇たちで縛り上げることが出来る。
僕は頭のなかで思い描く青写真を決然と実行しようとした。
だけどその時、アディソンがニヤリと笑ったんだ。
その口が小さく動き、何かを唱えていることに僕はその時になって初めて気付いた。
気付いた時にはもう遅く、僕の足元がグラリと揺れ、地面が陥没した。
僕の足は足首まで地面にはまり込んでしまい、身動きが取れなくなる。
すると足を取られて体勢を崩す僕の足元から強烈な熱がせり上がってきた。
「溶岩噴射」
アディソンは邪悪な笑みを浮かべてそう言ったんだ。
それは彼女の下位スキルである暗黒呪術だった。
ま、まずい……。
僕の足元から燃えたぎる溶岩が噴き出そうとしている。
あ、熱い!
足が焼かれる!
そのあまりの高温に直接この身を焼かれれば、間違いなく即死レベルだ。
僕は自分の迂闊さを呪った。
アディソンの攻撃が急に雑になったのは、精神を暗黒呪術の生成に傾けていたからだ。
溶岩に飲み込まれていこうとする僕を見るアディソンの顔が、嗜虐的な喜びに満ちていく。
だけど……僕はその時に聞いたんだ。
僕の勝利を信じてくれる友の声を。
「アル様! 受け取って下さい!」
僕の前方数十メートルのところまで駆け寄っていたジェネットは、叫び声を上げながら何かを僕に向かって投げたんだ。
まっすぐに飛ぶキラキラと輝く小さなそれに僕は左手を伸ばす。
すると青白い小さな玉のようなそれは、僕の左手にあるIRリングに吸い込まれていった。
その途端に僕の体全体に冷たく凛とした空気が吹き抜けた。
その感覚を僕は覚えている。
こ、これは……アリアナの涙?
一瞬で僕の右腕が緑色から青白い氷の腕へと戻った。
そしてそんな右手に握られたタリオが再び青白い刀身に変化する。
僕は何かを考える間もなく、反射的にそのタリオを足元の地面へと突き立てた。
すると激しい水蒸気が上がり、足元が凍結して固まっていく。
地面の底から感じる熱は消え去り、溶岩の噴出は未然に防ぐことが出来た。
そして間髪入れずに僕は蛇たちに命じる。
「いけっ! 蛇たち!」
「なっ……」
僕を焼き殺せると確信して、喜びに浸っていたアディソンの反応が遅れた。
それはほんの刹那のことだったが、彼女にとっての命取りだったんだ。
蛇たちが猛烈な勢いで吐き出した輝く青白い吐息を全身に浴び、暗黒巫女・アディソンは姉のキーラ同様に全身を凍結させ、氷の彫像と化して沈黙した。
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