だって僕はNPCだから 2nd GAME

枕崎 純之助

文字の大きさ
69 / 91
第五章 魔獣使いキーラ & 暗黒巫女アディソン

第9話 魔獣使い・キーラ

しおりを挟む
 双子の姉・魔獣使いのキーラが獣属鞭オヌリスを握り締め、僕に突っ込んでくる。
 その顔は獣じみた怒りに彩られ、獲物を狩ろうとする興奮と殺意に満ちていた。
 僕を叩き潰したくて仕方がないんだろう。

 僕は目の前に積み上げた防壁用の永久凍土パーマ・フロストの上に飛び乗った。
 そしてそこから凍結ステルス・ナイフをキーラに向けて投げつける。
 だけどキーラは全力でこちらに向かって駆けながら、地面をジグザグにステップしたり要所で地面に転がったりしてうまくナイフを避ける。

「マヌケ! おまえのナイフ投げはド素人丸出しなんだよ!」

 そう叫ぶとキーラは獣じみたうなり声を上げながら地面を蹴って僕に接近してくる。
 確かに僕は戦い慣れしていない。
 おそらく百戦錬磨のキーラには僕の投げるナイフの射線が予測しやすく避けやすいんだろう。
 でも僕はそんなことお構いなしにナイフを投げ続ける。
 そしていよいよキーラが数メートル先まで迫ってきたその時、バックステップで永久凍土パーマ・フロストの後方に飛び降りようとした。

「うわっ!」

 だけど後方に飛ぼうとした僕は足がもつれ、思わずバランスを崩して慌てる。
 そしてアタフタとタリオを振りながら永久凍土パーマ・フロストの後ろに背中から落ちてしまったんだ。

「うげっ!」
「ハッハァー! ウスノロが!」

 キーラは一気に永久凍土パーマ・フロストに飛び乗って僕を見下ろした。
 その眼光が爛々らんらんと輝きをたたえる。

「死ねっ!」

 永久凍土パーマ・フロストの上でキーラは獣属鞭オヌリスを振り上げる。
 今だ!
 僕は頭の中で念じた。
 すると立ち並ぶ防壁用の永久凍土パーマ・フロスト隙間すきまから、そこに潜ませておいた白へびが現れ、キーラの背後から青白くキラキラと輝く超低温の吐息を吐き出したんだ。
 キーラはそれを浴びて凍り付……ん?
 そう思った僕の視界からキーラの姿が消えていた。
 そして僕の背後からキーラの声が聞こえたんだ。

「馬鹿が。お見通しだ」
「へっ?」

 僕はすぐに背後を振り返ろうとしたけれど、首にむちが巻きついて締め上げられ、動けなくなった。

「うぐっ……くふっ」

 い、息が出来ない。
 そこで僕は悟った。
 キーラは白へびの氷の吐息を浴びる寸前で大きく跳躍して、素早く僕の後ろに回り込んだのだと。
 そして彼女が放った獣属鞭オヌリスは僕の首に絡みついて締め上げる。

「おまえはマヌケ野郎だが、油断のならないこざかしい奴だからな。アタシを罠にハメようとしたんだろうが……」

 そう言いかけたキーラはハッとして頭上を振り仰いだ。
 すると今まさにキーラの頭上から永久凍土パーマ・フロストが彼女を押しつぶさんと落下してきたところだった。

「くうっ!」

 キーラはたまらずに獣属鞭オヌリスを手放して前方に身を投げ出すように飛ぶ。
 巨大な凍土が地響きをたてて地面に落ち、粉塵ふんじんを巻き上げた。
 それはダイブしたキーラのつま先から数センチのところに落ちていた。
 ギリギリのところで難を逃れたキーラは、地面に倒れ込んだまま唖然として僕を見た。

「こ、この野郎。いつの間に……」

 首に巻きついてたむちを解き捨て、僕はキーラに視線を返す。
 さっき僕は永久凍土パーマ・フロストの上からバランスを崩して落ちるフリをし、その時にタリオを上に向けて振るったんだ。
 そして地下空洞の高い天井付近に永久凍土パーマ・フロストを発生させた。
 だけどそれはキーラを押しつぶそうと思ってのことじゃない。
 それは……。

「うぐっ!」

 キーラが苦悶くもんの声を上げた。
 彼女が寸前で避けた永久凍土パーマ・フロストの陰から黒へびが現れ、青白く輝く超低温の吐息を浴びせかけたんだ。
 途端にキーラの体は足先から凍り付いていく。
 そう。
 僕の本当のねらいはこれだった。

 永久凍土パーマ・フロストを発生させるためにタリオを振るう際に僕は黒へびをその凍土の上に潜ませたんだ。
 すべてはキーラの予測を超えてすきを突くための策略だった。
 
「て、てめえ……」

 キーラは声を絞り出すようにそう言い、凍結によって体が動かなくなる中、それでも爆弾鳥クラッシュ・バードを呼び出そうとした。
 だけど僕のそばに近づいてきた白へびがキーラの頭から凍結ブレスを吐きかけ、そのすさまじい冷気によって爆弾鳥クラッシュ・バードは掻き消えてしまった。
 そしてキーラは恨みがましい目を僕に向けたまま、氷の彫像と化して動かなくなった。
 僕は凍りついたキーラの横にしゃがみ込み、そのステータスを確認する。
 状態を表すウインドウには【Freeze】と機能停止が表示されていて、ライフは残り60%の状態だった。

 や、やった!
 ゲームオーバーにさせずにキーラを無力化できたぞ。
 僕はすぐに残ったアディソンのほうに視線を転じる。
 ジェネットが彼女の相手をしてくれているけれど、やはり不調らしく、アディソンに一方的に押されていた。

 見るとジェネットのステータスは攻撃力や防御力などが軒並のきなみ半分以下になっていて、今もなお低下し続けている。
 明らかに不具合が生じているそんな状態で戦ってくれているジェネットに感謝の念を抱きながら、僕は倒れたまま凍り付いているキーラの周囲を永久凍土パーマ・フロストを用いて大急ぎでおおっていく。
 そうしてアディソンにキーラを連れ去られないよう細工すると、すぐにジェネットの救出に向かった。

「ジェネット! 後退して!」

 僕の言葉にジェネットは素直に下がってくれる。
 本調子ではない自分ではアディソンの相手はこれ以上無理だと、ジェネットは分かっているんだ。
 だけどアディソンはジェネットを追撃し離れようとはしない。
 あれだけ接近していると、僕は凍結ステルス・ナイフや永久凍土パーマ・フロストを放つことも出来ない。
 ジェネットに当たってしまうかもしれないからだ。
 それをねらってのアディソンの行動なんだろう。
 僕はすぐにジェネットの元へと駆けつけていった。

「逃しません! ジェネット。憎き神の下僕しもべたるあなただけはこの手の内に捕らえねば……」

 そう言うアディソンの行く手をはばむように、僕はジェネットと入れ替わりにアディソンの前に出た。
 そのすきにジェネットは後方へと下がっていく。
 僕を見るアディソンの顔が憎悪と嫌悪の極みといったように悪感情に染まる。

「軽薄で迂闊うかつなお姉さまはそちらの手に落ちましたか。まったく。あなたはことごとくワタクシ達の邪魔をしてくれますね。本当に腹立たしい。八つ裂きにしてもなお足りないほどに」

 そう言うとアディソンは鬼のような形相ぎょうそうで僕の脳天をかち割ろう吸血杖ラミアーを大上段から振り下ろす。
 僕はそれをタリオで受け止めた。
 激しい一撃だったけれど、先ほどと違って僕には両腕がある。
 そしてこの距離ならへびたちの吐息で……。
 僕がそう考えた瞬間、アディソンはその口から緑色の毒霧である魔神の吐息サタン・ブレスを噴射した。

「うわっ!」

 僕は慌てて身を屈めたけれど、避け切れずに右腕にそれを浴びてしまう。
 うぐっ!
 氷で出来た右腕にもかかわらず、僕は強い痛みを感じて思わず顔をゆがめる。
 さらに悪いことに氷の右腕は猛毒の霧を浴びて見る見る間に溶け始め、僕はタリオを落としてしまった。

「くっ……」

 すぐさま左手でタリオを拾い上げようとしたけれど、アディソンに素早く腹部を蹴り飛ばされて僕は後方にひっくり返ってしまった。

「ぐふっ……」

 それでも僕は倒れた瞬間に、タリオの柄に巻きついているへびたちに念じてアディソンに攻撃を仕掛けようとしたけれど、それよりも早くアディソンはタリオを遠くに蹴り飛ばしてしまった。 
 そして僕を見下ろすとニヤリと口の端を吊り上げる。

「どうやらその忌々いまいましい氷の腕も万能ではないようですね。それにお姉様の言っていた通り、あなたには戦闘の勘が欠けています。それが致命的なのですよ」

 アディソンはその顔に禍々まがまがしい笑みを浮かべ、僕に襲い掛かってきたんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...