【フリー台本】夜明けに咲く言の葉-短編小説集

きなこ

文字の大きさ
46 / 47
悲恋

最期の時間

しおりを挟む
春の朝、柔らかな光が窓から差し込む
静かな部屋に、ただ風の音だけが響いている
彼女は、いつものように彼のそばに座っていた
手を握ると、冷たい手のひらが少しずつ温かくなっていくのを感じる。けれど、それが彼の最後のぬくもりだとは思わなかった。

病室の中、日々が流れていく中で、彼は言葉を少なくしていった
声を出すことすらつらくなり、目を閉じる時間が増えていった。それでも、彼女はそばを離れなかった。

無言で手を握り、目を合わせ、ただ一緒に時間を過ごした。
何も言わなくても、彼の存在を感じることで、心が通じ合っている気がした。

そして、ある夜、月の光が窓から静かに差し込んだ時
彼はゆっくりと目を開け、彼女を見つめた。
その目に、言葉では伝えられないほどの感謝と愛が溢れていた。

「ありがとう。」彼の唇がかすかに動く。

その言葉に、彼女の目から涙がこぼれた。けれど、それは悲しみの涙ではなく、満ち足りた涙だった。
彼と過ごした時間が、どれほど大切なものであったかを感じていたから。

夜が深まり、静寂が訪れると、彼の呼吸がいつの間にか止まり、部屋には静けさだけが残った。彼女はその瞬間を、ただ静かに見守った。
最後の瞬間が訪れたことを、彼女は悟ったけれど、その心の中で、彼は決して消えていくことはないと感じていた。

彼の手をもう一度握りしめて、彼女は穏やかに微笑んだ。言葉にできないほどの感謝と愛を、ただ彼の存在に送るように。そして、彼女は思った。あの人は、いつまでも彼女の中に生き続けていると。

時が流れ、春の花がまた咲き始めるころ。彼女はひとり、静かな場所に立って、そっと空を仰いだ。その瞬間、風が軽やかに吹き、まるで彼の声が耳元でささやくような気がした。

「ありがとう。」

その声が、永遠に彼女の心に響き渡り、彼の温もりを、今も感じていることを、彼女は確かに知っていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

片思い台本作品集(二人用声劇台本)

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
今まで投稿した事のある一人用の声劇台本を二人用に書き直してみました。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。タイトル変更も禁止です。 ※こちらの作品は男女入れ替えNGとなりますのでご注意ください。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...