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2章 城壁都市アドラーブル
13話 大人の階段を登るらしい
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ゾボッーー!
いきなり水中に落ちた。オーガが倒れた衝撃で、女隊長さんと俺は一緒に崖を落ちていった。岩山の向こうは崖、その下には川。高さ五~六メートルの河原も無く切り立った崖のすぐ下に勢いのある流れの川だった。
深みに落ちたので助かったのか、冷たすぎる水温で目が覚めたのか、俺は下流へ流されつつも水面に顔を出す。
必死で息継ぎをしながらシルビアさんを捜す。
いない!
俺は着の身着のままだがシルビアさんは軽鎧を着てたはず。泳げるのか?
息継ぎもそこそこに潜って当たりを捜す。ええい、リュックが邪魔だ。息が持たずに水面に顔を出そうとするといきなり後ろから流れてきたものがぶつかってくる。
わっと思って溺れそうになるが、それが何とシルビアさんだった。
とにかく考えるのは後、俺はシルビアさんの身体を掴み水面へ。
顎に片手を当てて上向きにホールドし、横泳ぎで河岸へ泳ぎつこうとするが……お、重い!全力で泳がなければ浮力を維持できない。邪魔だと思ったリュックがフロートの代わりになっている。水中で鎧を脱がす訳にもいかず、出来るだけ水面にシルビアさんの顔が出るようにして河岸へ泳いだ。が、氷河の流れでえぐられたのか地殻の裂け目なのかわからないが、川は切り立った崖の間を蛇行しながら流れている。
ようやく河原があるところを見つけ必死で泳ぎつく。
何とかシルビアさんを引っ張り上げ河原に大の字に倒れる。
キツかったあ……とか言ってる場合ではない。慌ててシルビアさんのそばまで行き声を掛ける。
水から引き上げたままの姿。銀髪がべっとり体に張り付いてる。
「シルビアさん! 大丈夫ですか! シルビアさん!」
返事がない、ただのしか……などと言ってる場合じゃない。
息をしていない。どうする? どうする!
こういう時は反応を確認する。揺すって声を掛ける。
「ダイジョーブですかあーー」
……反応はない。
脈は? 耳の下の頸動脈で調べるんだろうけどやったことない。仕方ないので手首で調べる。ある! 脈はある。 でも弱い、消えそうだ。
救急車を呼ぶ……無理。
誰かAEDを……ってそんなものあるわけない。せっかく大学で講習を受けたのになんの役にも立たないって当たり前か。
やっぱりあれなのか、あれしかないのか。
次は気道の確保。
俺はシルビアさんの横へ座り、首の下に手をいれて持ち上げ気道を確保する。
呼吸はしていない。
そして……ややぽっちゃりとした唇へ、甘い……じゃなくてえ! 人工呼吸だ!
おもむろに口を付けて、ままま、まうすつうまうす。
ゆっくり息を吹き込む…ふふふふふふふ、笑ってるんじゃない、緊張のしすぎでガタガタ体が震えてまともに息が吹き込めない。歯がガチガチ当たる。何をやってるんだ俺は!
必死で空気を送り込む。肺に届いてるのか?胃は膨らんでいない。それを何度も繰り返す。
ええい次は胸骨圧迫だ。
確か人工呼吸はこの二つを繰り返したはず。
む、胸をあっぱくう?
しかしシルビアさんの胸は軽鎧で固められてる。鎧の外し方なんてわからない。
どうしたら!!
「そうだ」
俺はシルビアさんの身体にまたがり肋骨の下、軽鎧の胸当ての切れ目に両手を当て、えいっと力をいれて突き上げる。何回か繰り返すと、ゴフッっとシルビアさんが、水を吐いた。
高校一年の体育の時間は柔道だった。クラスの柔道部のやつが面白がって絞め技を使った。被害にあったクラスメートが落ちた。(気絶した)
もちろん俺じゃない。その時はもういじめられっ子じゃなかったので。
慌てた柔道部がこの方法でクラスメートの息を吹き返えらせた。喝を入れたんだそうな。柔道の練習中に寝技で落ちた奴にいちいちマウストゥマウスなんてしない。気持ち悪いだろう男同志で。あ、女性の柔道部もいるのか、などと考えている場合ではない。
ゲホゲホッ、なおも水を吐くシルビアさん。
大丈夫ですか?と水が逆流しないようにうつ伏せにして背中を叩く。
呼吸が戻ったシルビアさんがいきなり剣を俺に向かって振り抜く。
「わっ!」
俺は慌てて後ろへ飛ぶ。
危なかったあ!
「きさま! 何をする気だ! え? お前は……は! オーガはどうした? 部下は?
うっ……」
シルビアさんは立ち上がろうとしてうずくまる。
「落ち着いてくださいシルビアさん。大丈夫ですか? どこか怪我してませんか?」
「ここは……どこだ?」
やっと今の状態がわかったのか、ゆっくり周りを見ながらシルビアさんが俺に問いかけ た。
それにしても剣を落とさなかったのはすごいなあとよく見たら、ツバのところに紐が通してありそれを輪っかにして手首にはめている。手抜き紐だ。時代小説で読んだことがある。武士の鏡というか用心深いというか……。
剣先がこっちを向いたまま……睨んでる……あれ? ひょっとして俺疑われてる? 意識が戻ったら俺が覆いかぶさって身体をつかんでひっくり返して……あかん!。
「違います違います! 周りを見て、この切羽詰まった状況を確認してください」
俺はもう必死で状況を説明した。まあ、マウスツゥマウスのことは飛ばしたけど……
「オーガはみんなで倒したと……思います。オーガが倒れる衝撃で俺とシルビアさんは岩山から崖に飛び出して川に落ちました。何とかここに泳ぎ着いて……」
「泳ぐ……そうか、またお前に助けられたのか」
「イヤイヤ、必死で二人で泳ぎ着いてそのあと気絶して……」
「気を使うな。私は泳げない。お前がいなければ鎧と剣を身につけたまま川に落ちて生きていられる訳がない。それにしても……トーマは回復魔法まで使えるのか」
「はあ? 違います違います。魔法じゃないです。人工呼吸じゃなくて水を吐き出させただけで……」
「とにかく落ちたことは部下は知っているんだな。だったら救援がくる。むやみに動かん方がいいだろう。うっ……」
「……って動いてどうするんですか!」
立ち上がろうとしたシルビアさんが痛みに固まる。
「はは、どっちみち動けんみたいだ」
河原の乾いたところまでシルビアさんに肩を貸す。ただその先は数メートルの切り立った崖。川が運んできた砂利が大きく蛇行したこの場所に堆積して河原になったのだろう。しばらくここで助けを待つしかない。
剣は落としたが未だにリュックを背負っている俺。リュックの中身は、携帯食糧、薬、毛布など。もう少し時間がかかっていたら、リュックが水を吸いその重さで溺れていただろう。
二人ともガタガタ震えている。雪解け水かと思うほど冷たい川だった。大昔に氷河が流れてできた川なのかもしれない。
「火を起こさなければ……でも俺火を起す魔法知りません。シルビアさんはつかえますか?」
「私は不器用で水系統の魔法しか使えん。でも……魔法で起こさなきゃいけないのか? 火打石で起こしちゃいけないのか?」
「そんな都合よく火打ち石が転がってるはずないですし……あったとしても水に使って使いものにならないし……ああ、ライター持ってれば……って俺タバコ吸わないし」
シルビアさんは俺の話を無視して、リュックの底から油紙に包まれた火打ち石を出して俺の目の前でプルプルと振る。
河原に落ちている流木や、崖から垂れ下がる蔦が落ちて乾燥したやつとかを集めて火を起こす。
リュックは雨にも対応した撥水性の生地でできた優れもの。しかし密封性はないので中はかなり水浸しになっている。大量の黒パンは水でふやけてる。チーズみたいな携帯食は固形なので濡れても食べることができる。水浸しになった干し肉は干し肉と言えるのか?
毛布は固く巻いて入れてたので表面は濡れているが中の方は被害を受けていない。
焚き火の周りで毛布を乾かしながらシルビアさんと寄り添っている俺。
「やはり寒いな、もうすぐ日が落ちる。焚き火もあまり持ちそうにないか。トーマ、今のうちに服を脱いで乾かそう」
ふ、ふくをぬぐう?
シルビアさんは軽鎧を外した。胸当ての所は簡単に外れるのか。鎧を外し下に着ている布製シャツに鎖が編み込んでるインナーを脱ごうとしてまたうずくまるシルビアさん。
「ダメだ、あばらをやっているらしい。一人では……トーマ、ぬ、脱がしてくれ」
ぬ、ぬがすう?? 俺がシルビアさんの服を脱がす……
「何をしている、お前も服を脱いで乾かすんだ。体温が落ちると死ぬこともあるんだぞ。そ、その間、二人で、だ、抱き合っていれば……何を言わせるんだ、察しろ! 私もはずかしいんだぞ」
真っ赤になってうつむく可愛い女の子がそこにいた。誰これ?
見知らぬ男女が雪山で遭難してようやく無人の山小屋にたどり着いた時、裸になって身体を温め合うという。命がかかってるんだ。仕方ないんだ。察しました察しました。
俺は自分を納得させひょっとしてこの異世界で一気に大人の階段を登ってしまうのかと思いながらシルビアさんの服を脱がそうとした。
「隊長ーー!」
「どこですか隊長ーー!」
ガクッ!
大人の階段は登れなかった……。
兵士たちは崖の上から俺がシルビアさんを確保したのを見ていたらしい。すぐに川沿いに捜索隊を出し、河原でいる二人を見つけ、なんとあのなんちゃって宮廷魔導師のフラムのおばちゃんが回復魔法でシルビアさんの怪我を直し、オーガの解体も終わり、村へ帰り、みんなと合流して、今回の見習い仕事は終わりを告げた。
俺は精神的にこれでもか! というくらい疲れた。
でもあのタイミングで発見されて良かったのかもしれない。もう少しあとなら俺は兵士たちに袋叩きにあっただろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
冬馬の家計簿
入金
3シルド
支出
0
残金=18ゴルド6シルド20ペンド。
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いきなり水中に落ちた。オーガが倒れた衝撃で、女隊長さんと俺は一緒に崖を落ちていった。岩山の向こうは崖、その下には川。高さ五~六メートルの河原も無く切り立った崖のすぐ下に勢いのある流れの川だった。
深みに落ちたので助かったのか、冷たすぎる水温で目が覚めたのか、俺は下流へ流されつつも水面に顔を出す。
必死で息継ぎをしながらシルビアさんを捜す。
いない!
俺は着の身着のままだがシルビアさんは軽鎧を着てたはず。泳げるのか?
息継ぎもそこそこに潜って当たりを捜す。ええい、リュックが邪魔だ。息が持たずに水面に顔を出そうとするといきなり後ろから流れてきたものがぶつかってくる。
わっと思って溺れそうになるが、それが何とシルビアさんだった。
とにかく考えるのは後、俺はシルビアさんの身体を掴み水面へ。
顎に片手を当てて上向きにホールドし、横泳ぎで河岸へ泳ぎつこうとするが……お、重い!全力で泳がなければ浮力を維持できない。邪魔だと思ったリュックがフロートの代わりになっている。水中で鎧を脱がす訳にもいかず、出来るだけ水面にシルビアさんの顔が出るようにして河岸へ泳いだ。が、氷河の流れでえぐられたのか地殻の裂け目なのかわからないが、川は切り立った崖の間を蛇行しながら流れている。
ようやく河原があるところを見つけ必死で泳ぎつく。
何とかシルビアさんを引っ張り上げ河原に大の字に倒れる。
キツかったあ……とか言ってる場合ではない。慌ててシルビアさんのそばまで行き声を掛ける。
水から引き上げたままの姿。銀髪がべっとり体に張り付いてる。
「シルビアさん! 大丈夫ですか! シルビアさん!」
返事がない、ただのしか……などと言ってる場合じゃない。
息をしていない。どうする? どうする!
こういう時は反応を確認する。揺すって声を掛ける。
「ダイジョーブですかあーー」
……反応はない。
脈は? 耳の下の頸動脈で調べるんだろうけどやったことない。仕方ないので手首で調べる。ある! 脈はある。 でも弱い、消えそうだ。
救急車を呼ぶ……無理。
誰かAEDを……ってそんなものあるわけない。せっかく大学で講習を受けたのになんの役にも立たないって当たり前か。
やっぱりあれなのか、あれしかないのか。
次は気道の確保。
俺はシルビアさんの横へ座り、首の下に手をいれて持ち上げ気道を確保する。
呼吸はしていない。
そして……ややぽっちゃりとした唇へ、甘い……じゃなくてえ! 人工呼吸だ!
おもむろに口を付けて、ままま、まうすつうまうす。
ゆっくり息を吹き込む…ふふふふふふふ、笑ってるんじゃない、緊張のしすぎでガタガタ体が震えてまともに息が吹き込めない。歯がガチガチ当たる。何をやってるんだ俺は!
必死で空気を送り込む。肺に届いてるのか?胃は膨らんでいない。それを何度も繰り返す。
ええい次は胸骨圧迫だ。
確か人工呼吸はこの二つを繰り返したはず。
む、胸をあっぱくう?
しかしシルビアさんの胸は軽鎧で固められてる。鎧の外し方なんてわからない。
どうしたら!!
「そうだ」
俺はシルビアさんの身体にまたがり肋骨の下、軽鎧の胸当ての切れ目に両手を当て、えいっと力をいれて突き上げる。何回か繰り返すと、ゴフッっとシルビアさんが、水を吐いた。
高校一年の体育の時間は柔道だった。クラスの柔道部のやつが面白がって絞め技を使った。被害にあったクラスメートが落ちた。(気絶した)
もちろん俺じゃない。その時はもういじめられっ子じゃなかったので。
慌てた柔道部がこの方法でクラスメートの息を吹き返えらせた。喝を入れたんだそうな。柔道の練習中に寝技で落ちた奴にいちいちマウストゥマウスなんてしない。気持ち悪いだろう男同志で。あ、女性の柔道部もいるのか、などと考えている場合ではない。
ゲホゲホッ、なおも水を吐くシルビアさん。
大丈夫ですか?と水が逆流しないようにうつ伏せにして背中を叩く。
呼吸が戻ったシルビアさんがいきなり剣を俺に向かって振り抜く。
「わっ!」
俺は慌てて後ろへ飛ぶ。
危なかったあ!
「きさま! 何をする気だ! え? お前は……は! オーガはどうした? 部下は?
うっ……」
シルビアさんは立ち上がろうとしてうずくまる。
「落ち着いてくださいシルビアさん。大丈夫ですか? どこか怪我してませんか?」
「ここは……どこだ?」
やっと今の状態がわかったのか、ゆっくり周りを見ながらシルビアさんが俺に問いかけ た。
それにしても剣を落とさなかったのはすごいなあとよく見たら、ツバのところに紐が通してありそれを輪っかにして手首にはめている。手抜き紐だ。時代小説で読んだことがある。武士の鏡というか用心深いというか……。
剣先がこっちを向いたまま……睨んでる……あれ? ひょっとして俺疑われてる? 意識が戻ったら俺が覆いかぶさって身体をつかんでひっくり返して……あかん!。
「違います違います! 周りを見て、この切羽詰まった状況を確認してください」
俺はもう必死で状況を説明した。まあ、マウスツゥマウスのことは飛ばしたけど……
「オーガはみんなで倒したと……思います。オーガが倒れる衝撃で俺とシルビアさんは岩山から崖に飛び出して川に落ちました。何とかここに泳ぎ着いて……」
「泳ぐ……そうか、またお前に助けられたのか」
「イヤイヤ、必死で二人で泳ぎ着いてそのあと気絶して……」
「気を使うな。私は泳げない。お前がいなければ鎧と剣を身につけたまま川に落ちて生きていられる訳がない。それにしても……トーマは回復魔法まで使えるのか」
「はあ? 違います違います。魔法じゃないです。人工呼吸じゃなくて水を吐き出させただけで……」
「とにかく落ちたことは部下は知っているんだな。だったら救援がくる。むやみに動かん方がいいだろう。うっ……」
「……って動いてどうするんですか!」
立ち上がろうとしたシルビアさんが痛みに固まる。
「はは、どっちみち動けんみたいだ」
河原の乾いたところまでシルビアさんに肩を貸す。ただその先は数メートルの切り立った崖。川が運んできた砂利が大きく蛇行したこの場所に堆積して河原になったのだろう。しばらくここで助けを待つしかない。
剣は落としたが未だにリュックを背負っている俺。リュックの中身は、携帯食糧、薬、毛布など。もう少し時間がかかっていたら、リュックが水を吸いその重さで溺れていただろう。
二人ともガタガタ震えている。雪解け水かと思うほど冷たい川だった。大昔に氷河が流れてできた川なのかもしれない。
「火を起こさなければ……でも俺火を起す魔法知りません。シルビアさんはつかえますか?」
「私は不器用で水系統の魔法しか使えん。でも……魔法で起こさなきゃいけないのか? 火打石で起こしちゃいけないのか?」
「そんな都合よく火打ち石が転がってるはずないですし……あったとしても水に使って使いものにならないし……ああ、ライター持ってれば……って俺タバコ吸わないし」
シルビアさんは俺の話を無視して、リュックの底から油紙に包まれた火打ち石を出して俺の目の前でプルプルと振る。
河原に落ちている流木や、崖から垂れ下がる蔦が落ちて乾燥したやつとかを集めて火を起こす。
リュックは雨にも対応した撥水性の生地でできた優れもの。しかし密封性はないので中はかなり水浸しになっている。大量の黒パンは水でふやけてる。チーズみたいな携帯食は固形なので濡れても食べることができる。水浸しになった干し肉は干し肉と言えるのか?
毛布は固く巻いて入れてたので表面は濡れているが中の方は被害を受けていない。
焚き火の周りで毛布を乾かしながらシルビアさんと寄り添っている俺。
「やはり寒いな、もうすぐ日が落ちる。焚き火もあまり持ちそうにないか。トーマ、今のうちに服を脱いで乾かそう」
ふ、ふくをぬぐう?
シルビアさんは軽鎧を外した。胸当ての所は簡単に外れるのか。鎧を外し下に着ている布製シャツに鎖が編み込んでるインナーを脱ごうとしてまたうずくまるシルビアさん。
「ダメだ、あばらをやっているらしい。一人では……トーマ、ぬ、脱がしてくれ」
ぬ、ぬがすう?? 俺がシルビアさんの服を脱がす……
「何をしている、お前も服を脱いで乾かすんだ。体温が落ちると死ぬこともあるんだぞ。そ、その間、二人で、だ、抱き合っていれば……何を言わせるんだ、察しろ! 私もはずかしいんだぞ」
真っ赤になってうつむく可愛い女の子がそこにいた。誰これ?
見知らぬ男女が雪山で遭難してようやく無人の山小屋にたどり着いた時、裸になって身体を温め合うという。命がかかってるんだ。仕方ないんだ。察しました察しました。
俺は自分を納得させひょっとしてこの異世界で一気に大人の階段を登ってしまうのかと思いながらシルビアさんの服を脱がそうとした。
「隊長ーー!」
「どこですか隊長ーー!」
ガクッ!
大人の階段は登れなかった……。
兵士たちは崖の上から俺がシルビアさんを確保したのを見ていたらしい。すぐに川沿いに捜索隊を出し、河原でいる二人を見つけ、なんとあのなんちゃって宮廷魔導師のフラムのおばちゃんが回復魔法でシルビアさんの怪我を直し、オーガの解体も終わり、村へ帰り、みんなと合流して、今回の見習い仕事は終わりを告げた。
俺は精神的にこれでもか! というくらい疲れた。
でもあのタイミングで発見されて良かったのかもしれない。もう少しあとなら俺は兵士たちに袋叩きにあっただろう。
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冬馬の家計簿
入金
3シルド
支出
0
残金=18ゴルド6シルド20ペンド。
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