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4章 鉱山都市グランデ
40話 家路
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江戸時代の旅人は、日の出前に起きて1日の旅をスタートさせた。
有史以前のクロマニヨン人は、日の出とともに狩りを始めた。
なぜ俺は、日の出とともに起きれないのだろう。
朝日を浴びてベッドの上で座ってじっくり考える
今日は鉱山都市グランデ最終日、アドラーブルへ出立の日を迎える。
準備は全て終わっている。
膝当て、肘当て、皮鎧をつけて、半袖ジャケットとショルダーベルトを……
あれ?なんか足りない。
馬鹿猫が誰も来ていないんだ。そうか、来ないのか……
ローブを着てバックパックと愛刀鬼切丸・改を手に持ち、お世話になった宿泊所を後にする。
白亜のラトーナ商会。その前の駐車場はごった返していた。
荷物を積むもの、馬車に馬をつなぐもの、書類を持ってみんなに指示を出すもの。
でも誰も焦っていない。
多分いつもの風景なんだろう。
「遅いぞトーマ!」
うん、いつもの風景だ。
「俺の配置は最後尾でいいんですか」
「わかってるんなら早く行け。出発するぞ」
はいはい。
うーん、まだ出発していないのでどれが最後尾かわからない。えーと、幌が張っていて飼い葉がたっぷりと積んでるやつ……あった。
また道産子たちのお世話をさせていただきますか。
「おはようございますです。マスター」
マスター?
荷物お預かりします。マスター。早速馬車に乗り込みますか?
うん、茶髪に茶色い瞳。小柄な身体に灰色のローブ。大きな荷物を背負っている。
間違いなくルナステラさんだ。
「あの……マスターって何?」
「改めてご挨拶いたします。本日付をもちまして冒険者トーマ様の従者となりました従者ランクDのルナステラです。至らないところはございますが精一杯努めさせていただきますです」
ペコっと頭を下げるルナステラさん。
「だからあ、その呼び名、マスターって何?」
「ご主人様の方がよろしいですか? あとは親方様とか?」
「トーマでいいよ」
「わかりましたトーマ様で」
「様、もいらないから。呼び捨てでいいから」
「契約者様を呼び捨てにするなんて従者としての矜恃が許しませんです」
「うーん、じゃ百歩譲ってトーマさんとか」
「ではトーマさんで」
ええんかい!
しかし……
あの悲壮感漂ってたルナステラさんが、こんなに元気になってるとは……これが素の姿? それとも営業トーク?
いつの間にか馬車が動き始めている。
発車ベルが鳴ったりドラがジャーンとなったりテープが舞ったりはしない。だらだらと三々五々スタートしていく。
地元の人なんだろう親しくなった冒険者さんたちと別れの挨拶をしている。
そういやディーさんとはこの街で一度も合わなかったなあ。何してたんだろ。
「きゃーディライト行かないでー」「また遊びに来てねー安くしとくわよー」「今度来た時は帰さないからー」
俺が乗る馬車の御者席で、派手なお姉さんたちに手を振ってるディーさん。何をしてたのかわかりすぎるくらいわかる。
「おいトーマ」
聞き覚えのあるダミ声がする。
「間に合ったか」
「やあ、きてくれたんですか……えっと……」
「バルカンじゃ!」
「ああ知ってます知ってます」
思い出せなかった
「色々すまんかったな」
「いえ、楽しかったです」
「これ持っていけ」
ポンと投げられたものはナイフ?
「わしが打った解体用のナイフじゃ。武器は会頭が揃えたと思うのでな」
「バルカンさんが……ありがとうございます」
余計なことを喋りすぎたお詫び? または口止め料?
「そういや鍜治屋さんでしたね」
「そうじゃ鍜治屋で鉱山技師で冒険者じゃ」
「大切にします。お世話になりました」
「また来いよ」
バルカンさんと別れの挨拶をして、バックパックを荷台に乗せ、よっこらせと荷台の中に入る。
ルナステラさんもひょいと入ってくる。荷物を担いだまま。
中には大量の飼い葉と水樽。そしていつもの場所にブエナさん。
「よろしくお願いします。今日付をもちましてトーマ様と従者契約致しましたルナステラ、従者ギルドDランクです。よろしくお願いしますです」
「ブエナ魔法使いCランク……よろしく」
あ、また寡黙な魔法使いやってるよ。
朝日を浴びて鉱山都市の開かれた城壁を進んでいく隊商。
帰りの編成は荷馬車が二台少なく八台編成。破損した荷馬車を補充するということはないらしい。
十台で運ぶ予定だった帰りの荷物は、分散して積んでいる。
ややセンチメンタルな気分になりながら……
さあアドラーブルへ帰ろう。家に帰るまでが護衛です。
どあああああっ!
「力入れすぎるな! 折れるぞ!」
「だって緩めるとスピードが!」
帰りは命がけのとんでもない工程だった。
坂道を登る時、馬力で引っ張ればなんとか登れる。
しかし下りは、ブレーキを効かせながら下らないと馬車はどんどん加速する。
特に鉱石をたっぷり積んで車重が重くなった荷馬車は暴走する。
この世界にドラムブレーキやディスクブレーキがあるのかは知らないが、少なくともこの荷馬車には装備していない。
テコの原理で木の棒を倒し、後輪の車輪に摩擦物を押し付ける原始的ブレーキである。
俺たち冒険者も降りて馬車を押す……じゃなくて引く。
道産子たちは馬具で荷台と間接的に繋がっているので楽しているが。
ようやく緩い下り坂になってホッとひと息付く。
「みんな大丈夫か! 野営地に着いたら馬車の点検をしておけ! あと少しだ!」
ロサードさんが馬で馬車列を回りながら励ましていく。
もうすぐ野営地。
そうなのだ。下り坂の良いところ、上りよりはるかに進行速度のペースが上がる。
野営地に着き、馬車を並列に並べ、ロープで簡単な柵を作る。
道産子たちを中に入れて、水と飼い葉を置いていく。二十頭以上の馬の世話はやっぱり大変。でもルナステラさんが手伝ってくれている。俺より手際よく。
馬たちは、今日は楽だったなあ、という顔をしながら食事をしている。
石を並べてかまどを作り、火を炊き、料理ができていく。調理になれた冒険者たちが次々と夕食を作っていく。初日なので食材と水はたっぷりある。
ルナステラさんも料理や配膳を手伝っている。うん、よくできた従者さんだ。
真っ先にパクパク料理を食べているブエナさん。寡黙な魔道士ロールプレイはどうした?
簡易テントを張るものもいるが、晴れているし大抵はごろ寝をしている。
俺もペラペラの毛布らしきものを敷いてローブをかぶって寝ることにした。
馬車で寝ていいと言ったのに、ルナステラさんも同じようにごろ寝。
ちゃんと毛布を敷いて、ローブをかぶって、荷物を枕に寝ている。
高いやつなんだろうなあ、Dランクだからなあ。
夜中に流石に寒くなって寝返りを打つ。
あれ、ルナステラさんの寝床が空だ。トイレかな。
焚き火を囲んで寝ずの番の冒険者たちが周りを見張っている。
体を丸くして寝直した。馬鹿猫の暖かさが懐かしい。
夜が明ける少し前、ルナステラさんはそっと帰ってきた。
有史以前のクロマニヨン人は、日の出とともに狩りを始めた。
なぜ俺は、日の出とともに起きれないのだろう。
朝日を浴びてベッドの上で座ってじっくり考える
今日は鉱山都市グランデ最終日、アドラーブルへ出立の日を迎える。
準備は全て終わっている。
膝当て、肘当て、皮鎧をつけて、半袖ジャケットとショルダーベルトを……
あれ?なんか足りない。
馬鹿猫が誰も来ていないんだ。そうか、来ないのか……
ローブを着てバックパックと愛刀鬼切丸・改を手に持ち、お世話になった宿泊所を後にする。
白亜のラトーナ商会。その前の駐車場はごった返していた。
荷物を積むもの、馬車に馬をつなぐもの、書類を持ってみんなに指示を出すもの。
でも誰も焦っていない。
多分いつもの風景なんだろう。
「遅いぞトーマ!」
うん、いつもの風景だ。
「俺の配置は最後尾でいいんですか」
「わかってるんなら早く行け。出発するぞ」
はいはい。
うーん、まだ出発していないのでどれが最後尾かわからない。えーと、幌が張っていて飼い葉がたっぷりと積んでるやつ……あった。
また道産子たちのお世話をさせていただきますか。
「おはようございますです。マスター」
マスター?
荷物お預かりします。マスター。早速馬車に乗り込みますか?
うん、茶髪に茶色い瞳。小柄な身体に灰色のローブ。大きな荷物を背負っている。
間違いなくルナステラさんだ。
「あの……マスターって何?」
「改めてご挨拶いたします。本日付をもちまして冒険者トーマ様の従者となりました従者ランクDのルナステラです。至らないところはございますが精一杯努めさせていただきますです」
ペコっと頭を下げるルナステラさん。
「だからあ、その呼び名、マスターって何?」
「ご主人様の方がよろしいですか? あとは親方様とか?」
「トーマでいいよ」
「わかりましたトーマ様で」
「様、もいらないから。呼び捨てでいいから」
「契約者様を呼び捨てにするなんて従者としての矜恃が許しませんです」
「うーん、じゃ百歩譲ってトーマさんとか」
「ではトーマさんで」
ええんかい!
しかし……
あの悲壮感漂ってたルナステラさんが、こんなに元気になってるとは……これが素の姿? それとも営業トーク?
いつの間にか馬車が動き始めている。
発車ベルが鳴ったりドラがジャーンとなったりテープが舞ったりはしない。だらだらと三々五々スタートしていく。
地元の人なんだろう親しくなった冒険者さんたちと別れの挨拶をしている。
そういやディーさんとはこの街で一度も合わなかったなあ。何してたんだろ。
「きゃーディライト行かないでー」「また遊びに来てねー安くしとくわよー」「今度来た時は帰さないからー」
俺が乗る馬車の御者席で、派手なお姉さんたちに手を振ってるディーさん。何をしてたのかわかりすぎるくらいわかる。
「おいトーマ」
聞き覚えのあるダミ声がする。
「間に合ったか」
「やあ、きてくれたんですか……えっと……」
「バルカンじゃ!」
「ああ知ってます知ってます」
思い出せなかった
「色々すまんかったな」
「いえ、楽しかったです」
「これ持っていけ」
ポンと投げられたものはナイフ?
「わしが打った解体用のナイフじゃ。武器は会頭が揃えたと思うのでな」
「バルカンさんが……ありがとうございます」
余計なことを喋りすぎたお詫び? または口止め料?
「そういや鍜治屋さんでしたね」
「そうじゃ鍜治屋で鉱山技師で冒険者じゃ」
「大切にします。お世話になりました」
「また来いよ」
バルカンさんと別れの挨拶をして、バックパックを荷台に乗せ、よっこらせと荷台の中に入る。
ルナステラさんもひょいと入ってくる。荷物を担いだまま。
中には大量の飼い葉と水樽。そしていつもの場所にブエナさん。
「よろしくお願いします。今日付をもちましてトーマ様と従者契約致しましたルナステラ、従者ギルドDランクです。よろしくお願いしますです」
「ブエナ魔法使いCランク……よろしく」
あ、また寡黙な魔法使いやってるよ。
朝日を浴びて鉱山都市の開かれた城壁を進んでいく隊商。
帰りの編成は荷馬車が二台少なく八台編成。破損した荷馬車を補充するということはないらしい。
十台で運ぶ予定だった帰りの荷物は、分散して積んでいる。
ややセンチメンタルな気分になりながら……
さあアドラーブルへ帰ろう。家に帰るまでが護衛です。
どあああああっ!
「力入れすぎるな! 折れるぞ!」
「だって緩めるとスピードが!」
帰りは命がけのとんでもない工程だった。
坂道を登る時、馬力で引っ張ればなんとか登れる。
しかし下りは、ブレーキを効かせながら下らないと馬車はどんどん加速する。
特に鉱石をたっぷり積んで車重が重くなった荷馬車は暴走する。
この世界にドラムブレーキやディスクブレーキがあるのかは知らないが、少なくともこの荷馬車には装備していない。
テコの原理で木の棒を倒し、後輪の車輪に摩擦物を押し付ける原始的ブレーキである。
俺たち冒険者も降りて馬車を押す……じゃなくて引く。
道産子たちは馬具で荷台と間接的に繋がっているので楽しているが。
ようやく緩い下り坂になってホッとひと息付く。
「みんな大丈夫か! 野営地に着いたら馬車の点検をしておけ! あと少しだ!」
ロサードさんが馬で馬車列を回りながら励ましていく。
もうすぐ野営地。
そうなのだ。下り坂の良いところ、上りよりはるかに進行速度のペースが上がる。
野営地に着き、馬車を並列に並べ、ロープで簡単な柵を作る。
道産子たちを中に入れて、水と飼い葉を置いていく。二十頭以上の馬の世話はやっぱり大変。でもルナステラさんが手伝ってくれている。俺より手際よく。
馬たちは、今日は楽だったなあ、という顔をしながら食事をしている。
石を並べてかまどを作り、火を炊き、料理ができていく。調理になれた冒険者たちが次々と夕食を作っていく。初日なので食材と水はたっぷりある。
ルナステラさんも料理や配膳を手伝っている。うん、よくできた従者さんだ。
真っ先にパクパク料理を食べているブエナさん。寡黙な魔道士ロールプレイはどうした?
簡易テントを張るものもいるが、晴れているし大抵はごろ寝をしている。
俺もペラペラの毛布らしきものを敷いてローブをかぶって寝ることにした。
馬車で寝ていいと言ったのに、ルナステラさんも同じようにごろ寝。
ちゃんと毛布を敷いて、ローブをかぶって、荷物を枕に寝ている。
高いやつなんだろうなあ、Dランクだからなあ。
夜中に流石に寒くなって寝返りを打つ。
あれ、ルナステラさんの寝床が空だ。トイレかな。
焚き火を囲んで寝ずの番の冒険者たちが周りを見張っている。
体を丸くして寝直した。馬鹿猫の暖かさが懐かしい。
夜が明ける少し前、ルナステラさんはそっと帰ってきた。
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