異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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5章 領都プリンシバル

49話 狩りの雑用をするだけの簡単なお仕事

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 夜明けはまだ遠い。

 俺たちはキャンプ場で仮眠をとり夜中過ぎにこそっと旅立った。
 君子危うきに近寄らず。別に君子じゃないけれど、貴族との接待魔獣狩りに付き合わされるのはたまったもんじゃない。おまけに接待してるのがゴルドフィン商会。鉱山都市グランデ行きの打ち合わせの時にもめた冒険者が確かゴルドフィン商会だったはず。下っ端の俺には何も教えてくれなかったが、一連の嫌がらせも襲撃も、あの商会の仕業かもしれない。

 ルナステラさんに聞けばあのじーさん魔道士の雇い主が誰なのかはっきりするが、そこはそれ、過去の契約者の情報を公開するのは従者としての矜持が許さないとかなんとか。
 全て丸く収まったと言われたのは全てはなかったことにするという裏取引らしいから。

 森林の近くを静かに進んでいく俺たち二人と一頭と一匹。
 俺はローブを脱いでバックパックを背負い、愛刀鬼切丸を肩に背負った警戒態勢。ルナステラさんの従魔ザイラは先行して周りを警戒。馬鹿猫ムーは左肩で寝ている。
 真っ暗な中を進んでいるわけではない。月が満月に近くそこそこ明るい。 ルナステラさんが大きなリュックを背負い、中から取り出した携帯用のランタンで前を照らしている。これは魔道具で魔石を使うらしい。勿体無いので夜明けが近づいたら消してもらおう。

 前を歩いていザイラから緊張感が伝わる。 

 ウウウ……

 ルナステラさんが構える。

「異変です、森の中で何かが争ってます」
「魔獣か?」
「わからないです。どうしますか」

 うん、逃げようと思ったその時、

「助けてくれええ!」

 ……逃げられないじゃないか。

 男が木々の間から倒れこむように飛び出してくる。

「わああああ」

 その男を襲う黒い物体。
 俺は肩の愛刀鬼切丸・改を抜く。
 ザイラが飛び出し男を飛び越えて襲いかかる。

 ギャイン! 悲鳴を上げる黒い物体。
 黒い物体、フォレストドッグの首に噛みつき絶命させる。
 俺は身体強化をかけたいなあと思う。ひたすら思う。

 森を抜けてきた黒い物体たち、フォレストドッグの群れが数頭、次々と襲ってくる。
 フォレストドッグが一頭いたら十頭いると思え。
 こいつらとはこの前の護衛依頼ですでに戦った。
 飛びかかってきたフォレストドッグを斜め下から切り上げる。

 ザクっ!

 今度の鬼切丸・改には刃が付いている。返す刀で二頭目を切り捨てる。うん身体が動く。身体強化魔法がいい仕事している。
 ザイラも二頭、三頭と軽く倒していく。

「やめてくれー殺さないでくれー!」

 はあ?
 殺されかけた男が何を言っている。

「生きたまま捕まえなくちゃならないんだ、殺したら仕事にならないんだ~」
「……あんた魔獣狩りに雇われた『見習い』なのか」

 俺は刀を構えながら一旦引く。
 フォレストドッグもあと数頭。ようやく手を出してはいけないものに手を出したことがわかったみたいだ。主にザイラを見ているけど。

「頼む殺さないでくれ、でも助けてくれ、生かさず殺さず半殺しにしてくれ~」

 いい加減にしろ!
 俺は鬼切丸を峰に返してフォレストドックに叩きつける。

 ボクッ

「安心しろ峰打ちだ」

 言いたい年頃である。
 倒れてヒクヒク痙攣するフォレストドッグ 。
 生きているよね?

 残った数頭は森の中へ逃げていく。
 後に残った俺たちと、貴族に雇われた日当制の冒険者見習い。

「大丈夫ですか、怪我はありませんか」
「いえ、ボロボロです」

 そんな答えが出来るんなら大丈夫だろう。

「シャールどこだ!」
「シャール!」

 森の中から声がする。

「こっちだー」

 ボロボロ見習いが返事をする。

 森を出てきた男二人が見習いを見て安心し、周りの惨状を見て絶句する。

「こ、これは……」
「喜べ、フォレストウルフを捕獲したぞ」
「本当か、よくやった!」

 よほど嬉しかったのか周りの惨状を無視して駆け寄る三人。
 早速気絶したフォレストウルフを捕獲しようとする。
 生きてるよね。


「お待ちください! この獲物はトーマ様が全て倒したもの。あなた方が捕獲する資格はありません!」

 ルナステラさんが勝手にフォレストドッグを捕獲しようとする三人に教育的指導をする。

「「「あっ……」」」と現状を理解する三人。

 他の冒険者が倒した獲物を横取りするのは重罪である。多分。
 フォレストドッグって肉はまずいって言ってたよなあ、毛皮もはがずに埋めてたし。

 俺は助け舟を出すことにした。

「みなさん魔獣狩りのために雇われた方ですか」
「は、はい。プリンシバルのギルドで二日前に雇われました。ゴルドフィン商会の方に。狩りの雑用を手伝うだけの簡単なお仕事だって……」

 おお、同士よ。
 どこでもあるんだな、簡単なお仕事という命がけの仕事。
「それが魔物を捕まえて森で待機しろだなんて……」
「三人で罠を張ってなんとか捕まえようとしたんだけれど、まさか山犬の群れが出てくるなんて」

 あとはパニックを起こして逃げたんだろうな。群れは一番弱そうなやつを追いかけたと。
 それにしてもゴルドフィン商会って大森林のことを知らないのだろうか。

「わかった。そのフォレストドッグは持って帰っていいよ」
「「「ほ、本当ですか」」」
「ただし、死体は穴を掘って埋めておいてくれ。血の匂いで魔物が集まってくるかもわからないから」
「「「ええっ、埋めるんですか???」」」

 あれ、なんかマズイこと言った?

「もしよろしければ埋める前に肉と毛皮をいただけないでしょうか」
「それはいいけど、肉ってまずいんじゃ?」
「ギルドで買取はしてくれませんが煮込めば十分食べたれます。それに場末の宿屋や食堂で買い取ってもらえますし」

 げ、ひょっとしてなんかわからんクズ肉って……いや考えないことにしよう。

「じゃあ俺たち先を急ぐので。あとはよろしく」
「あの、せめてお名前を」
「名乗るほどのものではない」

 言いたい年頃である。
 そういって振り向きもせず去って……

「あ、さっきトーマ様と言っていたぞ。トーマ様だ」
「ありがとうございますトーマ様。さぞ高ランクの冒険者様なんでしょうね」

 ……名乗るほどのランクでもないです。
 言いたくない年頃である。

 ああ、長い夜だった。

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 冬馬の家計簿
 入金
 0
 支出
 キャンプ使用料(2人分)2シルド
 
 残金11ゴルド30ペンド
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