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5章 領都プリンシバル
52話 前途多難
しおりを挟む「うるせーんだよばか! あたいの仕事を邪魔するとはいい度胸だ。ぶっ殺されたいのかい!」
プリンシバル冒険者ギルドの石造りの建物に胸のすくような啖呵が響き渡る。
ようやくたどり着いた領都プリンシバル。冒険者のしきたりとして、新しく活動する街のギルドにはギルド登録をしなければならない。こちらで活動させていただくというご挨拶みたいなものだそうだ。
そしてギルドで酔っ払い冒険者に絡まれた。これはトラブルの予感。着いて早々戦闘シーンなのか。と思ったら全てのテンプレをぶっ壊す受付のおねーさんの啖呵!
「ははは、誰だラウダねーさんを怒らせたの」
笑い声が起こる。
怒られた酔っ払い冒険者は固まっている。
仲間の冒険者が首根っこを押さえ、受付の金髪エルフのおねーさんにヘコヘコ謝っている。
「ねーさんすいません、こいつ悪酔いしてるんで」
「ねーさんて呼ぶな。ったく、今度仕事の邪魔したら出入り禁止にするよ」
すいませんすいませんと、仲間の冒険者たちが酔っ払い中年をラウンジの方へ引っ張っていく。
周りは全然緊張感もなくギルドは元の雰囲気に戻る。
「お待たせしました。どのようなご用件でしょうか」
何事もなかったように金髪美人エルフおねーさんの受付は、俺たちに営業スマイルで業務を再開する。
プロだ。
「アドラーブルからやってまいりまた。冒険者トーマです。しばらくこちらでご厄介になりますのでよろしくお引き立てのほどを」
そういってギルドカードを差し出す。思わず卑屈になる。
「従者のルナステラと従魔のザイラです」
と、ルナステラさんもギルドカードを差し出す。
「あらまあ、ご丁寧に。ようこそプリンシバルへ。良い冒険を祈らせていただきます」
ガチャガチャとギルドカードの手続きをする。
「あら、アドラーブル冒険者チーム・イソシギ所属トーマ様ですね 伝言をお預かりしております。しばらくお待ちください」
そう言いながら席を立ち奥へ行くおねーさん。
思わず深呼吸をする。
「お待たせしました。学園よりの伝言ですね。詳しくはこれに。それでは今後ともよろしくお願いします」
「はいこちらこそ……」
俺に伝言と言う名の封筒を渡したおねーさんの目線が後ろの列に移る。
あ、早く変われというやつだ。
一日の仕事を終えた冒険者たちが大きな袋を担いで入ってくる。
奥のサロンでは一日の疲れを癒すのか冒険者たちがワイワイとガヤガヤしている。
受付を離れて俺は封筒から二つ折りにされた羊皮紙を取り出し開ける。
「アドラーブル……ギルド……ぼうけん……」
ルナステラさんに羊皮紙を渡す。
さっと目を通した後、
「エクリブス学園からの伝言ですね。到着したら直ちに学園受付に出頭せよ。ということです。宛先は『アドラーブル冒険者ギルドチーム・イソシギ殿』となってます。差出人は『王立エクリプス学園プリンシバル校教務室』となってます」
「出頭って、今から行くの?」
「夕方ですからまだ空いているんじゃないですか」
「今晩の宿をとって旅の疲れをゆっくり取ろうと思ったのに。で、学園てどこにあるのか知ってる?」
「辻馬車で行けると思いますよ」
ギルドを出て大通りで待っていると馬車がやってくる。あ、久しぶりに見る道産子みたいなずんぐりむっくりした馬が観光馬車みたいなのを引っ張っている。
ルナステラさんが手を振ると御者が手綱を引き、眼の前で止まる。
「従魔も一緒にいいですかあ」
「でかい犬だな、空いているからいいよ」
「さ、トーマさん乗ってください」
乗合馬車らしく左右に長椅子があってテントの屋根がついている。
「どこまで行くんだい」
「エクリプス学園前までお願いします」
「はいよー」
御者が手綱をしごくとゴトゴトと馬車は進む。
辻馬車というのは大通りを定期的に回ってるそうだ。乗りたい者は手を挙げ行き先を告げると、一番近い通りで降ろしてくれるらしい。
田舎のコミュニティーバスみたいなシステムなんだろうか。ちなみに一人五十ペンド、先払い。
辻馬車に揺られながら、これからどうしようと考える。一晩ゆっくり考えるつもりだったのに。うん、こういう時はいつものパターン、後で考えよう。
「着いたよー」
あ、道を覚えるのを忘れた。
この街は、商業地、住宅地、貴族街、と城壁で区切られているそうだ。有事の際には何重もの城壁で城を守った名残りというやつだろうか。
俺たちが降りたのは学園区。城壁の門は大きく空いていて馬車が出入りしている。
門を抜けると、装飾された鉄柵が左右に広がり、貴族の豪邸みたいな白亜の洋館がその奥に広がっている。
「これが学園?」
「この区画全てが学園の敷地となりますです」
校門は凝った作りのアーチ状の門で、その前には学生を迎えに来たのか小ぎれいな馬車が並んでいる。
校門には門番が常駐しているので、中に入るための手続きをお願いする。
「連絡は来ておらぬ。正式な許可を取って明日また来られよ」
「は?」
槍を持ってお揃いの青い制服で立っている門番に、学園に呼ばれた冒険者で受付に行きたいと伝えるとこの仕打ち。
「ギルドで伝言をいただいております。教務の方から着き次第受付に出頭せよと」
そういって、伝言の封筒を見せるルナステラさん。
「だからそう言う連絡は来ておらぬと言っている。出直して参れ」
と言って手持ちの槍を握り直し、慇懃無礼な態度から威圧的な態度に変わる門番さん。
「どうしましょうトーマさん、ギルドで改めて連絡取ってもらいましょうか」
う~ん、なんか腹が立つ。こっちに来てから権力を笠にきた絡みが多くなったような気がする。できるだけ避けてきたのに。
従魔ザイラは唸りたいのを我慢している。馬鹿猫マーはパシパシ尻尾を叩きつけている。俺の頭の上で。
「本当に帰っていいんでしょうか」
「何?」
「私たちは学園からの依頼を受けて、はるばるアドーラブル冒険者ギルドからやってまいりました。こちらのギルドに着くと学園より、到着次第一刻も早く学園の受付に来て欲しいと伝言を受けました」
怪訝な表情になる門番二人。
「その俺たちをあなた方の判断で門前払いを食わした場合、そちらのお立場は大丈夫なのかなあと……」
表情に焦りが出てお互いを見つめる門番、追い打ちを食らわす。
「あ、きっと全権を委任された偉い門番さんなのですね。では改めて出直してまいります、いつになるかわかりませんが……」
「待て!」
「はあ? これから宿とか探すんですけど」
「だから少し待てと言っている。確認して参る」
慌てて門番の一人が走っていく。残りの門番さんは目線を合わせず業務に戻ってますとアピールしている。
どっと汗が出る。やり過ぎた感もあるがルナステラさんがさりげなく親指を立てている。あれがよくやったと言うサインなのだろうか。
「お待たせしましたー」
洋館の入り口から叫びながら走ってくる人がいる。後ろを先ほどの門番さんが着いてくる。
目の前に立ち、呼吸を整えると、
「お待たせして申し訳ありません。教務室事務官のパゴ・ニアルコスです。こちらには先ほど連絡が届きまして、乗合馬車で通信が入ったのですがいやあ早馬を使ってくださればよかったのに、後数日はかかると思っていたのがいきなり慌てて……」
「ちょ、ちょっと落ち着いてください」
「は?」
この早口でまくし立てている短く青いローブを羽織った青年が、なんとか事務官というのはわかった。
ロサードさんが早馬じゃなく長距離馬車に返信を託したのもわかった。ついでに料金をケチったのも。
「とにかく! 私たちはどうしたらいいのでしょう。このまま門前でお話をするのでしょうか」
「あ、すいませんすいません。詳しくは事務室で、ご案内します」
と言って事務官さんは白亜の洋館へ走っていった。
走るのがデフォルト?
俺たちは遅れないよう急ぎ足で着いていった
帰ってきた門番さんと目があったが無視された。
全ての展開が想像の斜め上をいく領都プリンシバル。
いやあ前途多難です。
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