異界の異邦人〜俺は精霊の寝床?〜

オルカキャット

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5章 領都プリンシバル

68話 ギルドふたたび

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 疲れた。
 初めての掲示板依頼をお試しで軽く引き受けたけど、戦闘に巻き込まれるわ貴族を助けるわ精霊獣と戦うわどこがお試しなんだ。
 大山鳴動ボア一匹とドード一匹。

 学園の講師寮に戻り、風呂へ入って食事をして、自分たちの部屋に戻ってなんとか落ち着いた。

 今日大活躍した精霊獣マーは俺の懐で眠り続けている。ベッドで寝かそうと思ったが、俺のマナを吸収したいんじゃないかと思ってお腹で温めている。どうやって吸収をしてるのかわからないけど。

 フォレストウルフの従魔、ザイラはルナステラさんの足元でダラーっとしながらブラッシングを受けている。これがいちばんのご褒美らしい。
 テーブルの上にはルナステラさんが入れてくれた紅茶と二ゴルド二シルドが置かれている。
 とりあえず今日の報酬を山分けにして一ゴルド一シルドと。

「ギルドのお仕事も本気でやらなきゃ儲けにはならないなあ。ルナステラさんこれとっといて」
「いらないです」
「は?」
「従者はチームメンバーと違いますので報酬はいらないです」
「そうなの?」
「トーマさんがもし新しいチームに入って報酬を分けたとしても従者とザイラと猫ちゃんで四人分はカウントされません。あくまでもトーマさん一人分です」
「な、なるほど。じゃ、携帯食とか回復薬とかは?」
「経費はすべてトーマさん持ちになりますね」

 やっぱり……。

「ただ、あたしには過去の遺産、ストックがバッグに入っていますのでそれを消費するまでは必要ありませんです」

 そうか、悪徳魔道士の持っていた道具をすべて引き継いでいたんだ。あのジジイ、杖以外手ぶらだったからすべての荷物をルナステラさんに持たせていたのか。あ……。

「あの、荷物の半分こっちで持とうか」
「これはあたしの従者としてのお仕事です。ご心配無用です」

 そ、そうか。従者としての矜持というやつか。

「でも……ありがとうございますです」

 にっこり笑うルナステラさん。
 う……、ドキッとした。

「あ、明日は休みにして俺一人でギルドに行ってくるよ。ルナステラさんはゆっくりしといて」
「ダメです。ギルドの職員といったら海千山千の人ばかりです。トーマさんが一人で行ったらあっという間に丸め込まれます。当然あたしもお伴しますです」

 あ、信用ないんだ。うん、俺も自信ない。

「よろしくお願いします」
「お任せください」

 と、胸を張るルナステラさん。フッと鼻で笑うザイラ。

 久しぶりに家計簿をつける。というか久しぶりの収入だ。ちなみに今まで落とし紙や文庫本の空いてるところにメモってたやつを小ぶりのノートにまとめ直している。文具は経費で落ちるし。

ーーーーーーーーーーーー
 冬馬の家計簿
 入金
 ギルド報酬 2ゴルド2シルド

 支出
 荷車代 1ゴルド
 
 残金9ゴルド9シルド30ペンド
 ーーーーーーーーーーーー

 次の日、朝起きてストレッチと素振りのルーティーン。がいつもと違う。痛みはないが筋肉が硬い。昨夜はサウナでたっぷりとストレッチしたんだけどなあ。やはり実践後は違うんだなあと改めて思う。

 着替えを済まし、ベッドで寝ている猫を起こそうと……あれ? 誰もいない。今日は休みなんだろうか。
 着替えてリビングに行くと、「おはようございます」とルナステラさんの声。
「朝の食堂は混んでいますので朝食をもらってきました。あら、仲がいいのですね」
「?」

 ルナステラさんの目線を追うと、ソファーの上で寝ているザイラのお腹を枕に、うちの精霊獣がどたーっと寝ている。
 ムスッとしているザイラが俺を冷たい目で見ている。
「あら仲がいいのですね」と言ってやる。

 ガルルルル……。
 あ、怒ってるな。でも喧嘩しないだけ前よりマシになっているのかな。
 ということで今日の担当はムー。

「怒るな怒るな」

 だんだん機嫌の悪くなるザイラのお腹からムーを持ち上げる。

「あれ?」

 両脇に手を入れてこちらに向ける。クターっと寝ぼけているムー。
 そのまま上げ下げしてみる。

「お前、でかくなった? 重たくなってないか?」

 成長したんだろうか。え? 精霊獣って成長するの?
 でっかくなったら『猫です』ってごまかせないかもしれない。
 昨日がマーで今日がムー。明日がミー。このまま子猫サイズなら、どれも全身真っ黒だから他人が見ても見分けがつかないんだけど。

「あら、今日はムーちゃんなんですね。交代で召喚してるんですか」
「え? わかるの?」
「はい。顔も仕草も違いますし、毎日見てたらわかりますよ」

 頭に乗るのがマー、首筋をチューチュー吸うのがミー、ただ寝てるのがムー。これが俺の判断方法。
 さすが従魔師。見る人が見ればわかるのか。そういや気にせず三匹の名前呼んでたしなあ。

 だらだらと朝食を食べ、準備をして授業を受けている学生たちを横目に学園を出る。
 今日はギルドに呼び出されている。

「どこまで話せばいいんだろう」
「あの時の雛鳥、風の精霊獣なんですよね」
「やっぱりわかるのか」
「ええ、精霊獣のサラマンダーを召喚されるのを……何度も見てますし」

 そうだ。ルナステラさんは悪徳魔道士に召喚されたサラマンダーを何度も見てたんだろうなあ。

「ウインドカッターを使う魔獣ということにしておこう。戦ってたら逃げたということで。でないとマーのことまで話さなきゃいけないし」
「通りがかりの冒険者ということですね」



 石造りの三階建のギルドは朝の喧騒が終わり一段落したところ。中へ入ると掲示板前の冒険者はまばら。サロンには暇なやつらがだらだらしている。
 受付に行き俺がきたことを告げると、奥から金髪エルフおねーさんが出てくる。

「これはトーマ様、お忙しいところ申し訳ございません。早速ですがこちらへどうぞ。お連れ様方もご一緒に」

 あなたが強制したんでしょうが、とも言えない。懐のムーは当然、ルナステラさんとザイラも一緒でいいらしい。
 エルフのおねーさんに案内をされ、受付の隣にある大きな階段を上がり二階へ。廊下を通って奥の扉の前に行く。

 コンコンコンとノックを三回。

「トーマ様をお連れしました」
「入りなさい」

 ドアを開け中へ入るとそこはお偉いさんの執務室みたいなところで、応接セットに二人の男が座っている。
 その一人はなんとあの男爵の家令だ。
 ガタイのいいもう一人が立ち上がりにっこり笑う。

「私が領都プリンシバルギルドのサブマスター、リズモア・スクワートです。まずはお座りください」

 サブマスターって、そんなに偉い人と話さなくちゃいけないの?
 ほとんど黒のような濃い茶髪をビシッとオールバック。目も同じ色。190cmくらいはあるさぞかし鍛えているんだろう身体。高級そうな茶色いハイネックのスーツを身にまとっている。

 俺がソファーに座るとエルフのおねーさんがお茶を出してくれる。

「お連れの方もどうぞ」
「いえ、従者ですので」

 ルナステラさんは当然のように俺の後ろに立ったまま。その横でザイラが座っている。ついてきてもらってよかったあ。

「さて昨日の事件についての話だが……」

 早速本題か。やばい、サブマスターが威圧してくる、アウエーだ。
 俺は魔獣に対するより緊張して冷や汗をかいていた。
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