父子で異世界転生: いいんですか? 救いますよ。世界。

かんのななな

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パンツァー・フォー

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 その日、空から天女が降った。

 グンルーンの民は意気軒昂だった。
 とにもかくにも万能薬エリクサーがある。
 そもそも聖都セーロポリスに後背地などない。
 ここが世界の涯てなのだ。

 熱気球が整備されている。
 観光用の熱気球である。
 火魔術の遣い手が操る。
 この世界は石化燃料にとぼしい。
 泥炭はあるがせいぜい煮炊きに使う程度である。

 石炭はかろうじて存在する。
 石油は存在しない。
 マイクラみたいだなと、緋袴テツロウは思う。
 石化ガスも存在しない。

 アテンション・プリーズ。
 マイクラとはマインクラフトというコンピュータゲームである。テツロウはウィー・ユー・エディションを遊んだ。
 つまり、世界は有限だった。

「一グラムの水の温度を一度上げるために必要な熱量を一カロリーとする」

 屋台で買った豚バラ肉の串をかじりながら、緋袴イッペイが言う。防衛戦を前にセーロポリスはお祭りさわぎになっている。

「成人男性の消費熱量が一日二千二百キロカロリー程度、これと同じ熱量を魔術行使に費やせるとしても二桁足りない」
「熱気球ってふつうはプロパンガスだっけ?」
 テツロウが訊く。

 赤子を抱きながら、ロランも肉にかじりついている。
「火魔術師は木炭から抽出した魔力をキャパシタに充填しますな。僭越ながら、それこそがそれがしの得意分野」
 ロランは魔導キャパシタの第一人者である。

「うん、ロランさん……あっ、そうか……木炭……木ガスと木タール、木酢液!」
 親の顔より見た木酢液である。ガラス管をかたむけるのを忘れるな!
 木炭って……やっぱりマイクラみたいだな。
 と、テツロウは考える。

「そうなんだよ、テツロウ。魔力とはエネルギーで、重要なのは結局エネルギー密度なんだ」
 緋袴イッペイの言葉には実感がこもっている。ロランもうなずいた。

 アンジェ・クオンを先頭に十三人の猟兵が歩いてくる。《選抜猟兵》レイガ・マーロゥと十二人の兵たちである。

「分隊を二班に分割する。それでいいんだな、イッペイ」
 レイガが最後の確認を行う。
「はい。第一班が仮称ベヒモスの監視、第二班はポイント・ヤンキーで待機してください」

「第二班は俺が率いる。第一班はクオン嬢に付け」
「サー、イエッサー」と「マム、イエス、マム」が半分ずつ混ざりあった。

「イッペイ、第一班のほうが安全だというのはまちがいないな?」
「はい。だいたい君たち、俺よりテツロウのほうに近い年齢じゃないか。若者を死なせるような作戦は立てないよ。君のお姫様には傷ひとつつきゃしないさ」
 おじさんは若者をからかうように言った。

「パパ、そういうの、よくないと思うよ……」
 テツロウが鼻白んだ顔で言った。
「ですわね。まあ、よいですわ。イッペイおじさま、お任せくださいまし」
 アンジェが告げる。

 決戦場はセーロポリスから五里離れた荒野である。およそ二十キロメートル、仮称ベヒモスの石弾の最大射程を勘案してのものだ。
 仮称ベヒモスは間接射撃を行わない。おそらくは行えないのだろうと目されている。

 アンダカーラ教団は所詮、カルト組織にすぎない。仮称ベヒモスに跨乗しているのも軽兵のみ。間接射撃を行うだけの能力を有していない。
 いかな巨大合成獣キマイラといえど、侵攻戦力としては不充分だ。聖地どころか聖都を占領するに足る兵もない。

 無論、そこには隠された意図があった。
 《転校生》の目論見が。
 だからこそ、緋袴イッペイは寡兵をさらに分け、多連装魔導バリスタを温存している。

 帝国軍治安維持部隊から抽出された増強中隊はすでに決戦場に到着していた。
 虎の子の鉄騎小隊を中核に、かきあつめた臼砲を加え、まがりなりにも諸兵科連合を実現している。
 もっとも、聖地に駐留している帝国軍の戦闘部隊を糾合しただけともいえる。

 鉄騎小隊は四台の鉄甲車を運用する。
 雨あられと降りかかる法撃や砲撃のさなか、戦線を突破し、敵火力を撃破することが期待されている。

 チャリオットとタンクの中間、フス派の装甲馬車ウォーワゴンに近いといえば、読者諸氏にはご理解いただけるだろう。

 ただし、魔法が存在する世界である。
 二頭の魔馬と身体強化上手の四人の騎士を動力とする珍兵器に仕上がっている。
 魔馬に万能薬エリクサーを振りかけた飼葉を与え、戦の備えもばっちりだ。

 作戦開始時刻が近づいていた。
 仮称ベヒモスは龍脈レイラインをたどり、まっすぐ聖都セーロポリスを目指している。速度は一時間に一里程度、人間の歩行速度に等しい。

 カロル・ダルヴァロス少佐は壕のなかで仮称ベヒモスを睨んでいる。距離はおよそ一里、地平線上の岩山がすこしずつ大きくなっていく。
 仮称ベヒモスは鴆毒が詰まった石弾をまきちらしながら前進している。

 フォルベン伍長が通信文を携えて指揮所に入ってきた。
「少佐。ヘルダー大尉より連絡。万事とどこおりなし。気球は定刻通り離昇。天女隊は滑空準備を完成せり。以上です」
「うん、了解。ご苦労さま」

 民間人も動員して、ミスリル線を敷設した甲斐があったというものだ。

「聖都最終防衛中隊、作戦開始だ。臼砲、跨乗兵の頭を抑えろ。鉄甲車、前進しろ。諸君、クソカルトのクソバカどもにまじめな戦争を教えてやれ」

 その日、空から天女が降った。
 噴霧された万能薬エリクサーは戦場に虹をかけた。
 帝国兵は歓声をあげて突撃した。
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