父子で異世界転生: いいんですか? 救いますよ。世界。

かんのななな

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鶏が鳴く前に

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 緋袴テツロウは訊く。
「華凛さん……華凛さんが本当に望んだ結末ってなぁに?」
「わたしが、望んだ結末?」
「うん。部族としてのエルフではなく、華凛さん自身が望んだのはなんなのかなって」
「……わかりません」
「答えられないじゃなくて、わからない、なんだね……」

 この眼だ。華凛は思う。
 緋袴テツロウは根底のところで、人間を人間として見ていない。
 読解するべき問題のように見る。
 解決するべき問題のように扱う。
 いやになるくらい、父のイッペイに似ている。
 異世界人はまったく厄介だった。

「質問を変えるね。華凛さんは精霊魔術で俺たちを召喚したって説明した。でも、この世界に精霊なんていない」
「ええ。そうですね」
「エルフは計算資源のことを精霊って呼んでる。それは、エルフが創世の女神の端末だったから」
「……ええ、まあ」

「エルフに自由意志はあるの?」
「人間に自由意志はあるんですか?」
 してやったりとばかり、華凛は微笑んでみせた。
 テツロウがにぃ、と唇を歪めた。

「ないよ、華凛さん。あるわけないじゃない。自由意志があると錯覚しているだけだよ。うん、やっぱりそうなんだ。華凛さんはそうなんだね……」
 華凛の貌から微笑が消えた。
「……どういう、意味ですか?」
「俺たちをなんだと思って、この世界に呼んだ?」
「ヒバカマ・イバラさんの親族です。だから、勇者として召喚しました」
「いや、まさか、華凛さん、気づいてなかったりしないよね……ちょっと不安になってきた……」
 テツロウは真顔になった。
「え……?」
「どうしてパパが見てきたように作戦を立案できるか……わかってる?」
「それは、その……そういう異能をお持ちだからだと……」
 緋袴テツロウは天をあおいで嘆息する。

「うーん、これは、ママにどうにかしてもらうしかないかも……えーと、華凛さん、パパのスマホの充電器が元の世界とつながったままなのは、さすがに意図的なものだよね?」
「はい! そちらの世界の機器は電気がないと十全に機能しないんですよね? 苦労したんですよ。ケーブルをつないだまま、テーブルまるごと召喚するのはたいへんでした!」
 華凛は胸を張った。
 犬だったら尻尾をぶんぶん振っていただろう。
 テツロウは真顔で言う。
「うん、ありがとう。だけど華凛さん、電気が送れるってことはね、世界間で情報を送信できちゃうんだ。つまりさ、どでかい脆弱性を作りこんだってこと。わかりやすく言うと超ヤバい」
「……」
 華凛は沈黙した。
「まさか、意図的なものじゃなかったなんてね。そういうループもあるんだね。だとしたら、華凛さんは本当の本当に自分が望んだ結末を意識していないんだね……」
「どういうことですか? どうしちゃったんですか、テツロウくん、さっきからずっとおかしいですよ?」

「俺は緋袴テツロウ、中学受験生だ。元の世界じゃ、エヌピー困難な問題の解をヒューリスティクスで求められる程度の知性体をそう呼ぶ」
 エヌピー困難というのはなんか超めんどくさくてまじめに解こうとすると超時間がかかるクラスの問題のことだ。
「永遠・無限・混沌からすこしずつ神性をちょろまかしてこねこねして、新しい神性を造る。それが華凛さんの本当の目的だと、俺たちは推定した。民主主義という名前の精霊を産みだすためにね」
「なんで……そんな……いえ、わたしが意識していないことを、どうして断定できるんですか?」
「理由はもう話したよ。世界間で通信できるってことは、いや、ちゃんと説明するね。俺たちは元の世界から情報を受け取っている。じゃあさ、その情報を送っているのは誰だと思う?」
「さあ?」
「俺だよ。もろもろが終わったあと、元の世界に戻った俺が送信している。因果も時制も転倒して、未来から過去に情報が届いてるんだ」
「そんな……!」
「危険だよね。これって時空間にまたがる脆弱性そのものだから、いつ数学的構造が崩壊するかわからない。それだけの危険を犯してでも手に入れたい結末が華凛さんにあるはずだって演繹した」
「なんで……そんな! そんなことを! わたしはそんなこと望んでいません!」

 テツロウはなにかを悼むかのように、そっと眼を伏せた。

「……そうだね。ごめんね、華凛さん。だけど、華凛さんが呼んだのは徹頭徹尾、そういう存在たちだったんだ。《転校生》は人を辞めた存在だ。ねえ、華凛さん、俺たちが人間だと本当に思っているのかな? 人間のままじゃ届かない地平に俺たちは立っている」
「でも……でも!」
「意地悪な質問になるけど、もういちど訊くね。エルフに自由意思はあるの?」
「……」

 《親子鬼》緋袴イッペイと緋袴テツロウ。
 しかし、エルフの華凛はまだ気づいていない。
 鬼の子が鬼ならば、鬼の母も鬼である。
 緋袴リンコ。イッペイの妻、テツロウの母。
 本物の鬼が出番を待っていることに。

「本当にごめん、華凛さん。だけど、華凛さんの動機は俺たちが定義させてもらうね。顧客が本当に必要だったものを提供させてもらうよ、強制的に」
「ひどい……ひどいです……テツロウくんはすごく冷たいです……」
「うん。そうなんだ。そのことについてはひどく申し訳なく思っているよ、マジでね。だけど、もう決めちゃったんだ。ごめんね」

 緋袴テツロウは三度「ごめん」と告げた。彼にとって、それは必要十分な回数の謝罪だった。
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