父子で異世界転生: いいんですか? 救いますよ。世界。

かんのななな

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多連装魔導バリスタ

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 《総番》鬼瓦ゲンゾウ。
 巨躯の男だ。
 太い筋肉の束が学ランの下に隠れている。
 角刈りである。
 両眉がない。
 固有能力は、ピケ破り。

 軍事用語では哨戒線をピケット・ラインと呼ぶ。学生運動や労働運動においてもピケという言葉が遣われた。

 一九六九年一月。
 帝工大はバリ封されていた。
 アテンション・プリーズ。
 バリ封とはバリケードで封鎖することだ。
 緋袴イバラは九〇〇番講堂に立てこもっていた。

 鬼瓦ゲンゾウはまだ《転校生》ではなかった。
 しかし、その異能はすでに芽吹きつつあった。
 固有能力は欲望の形象である。
 ゲンゾウは盗んだダンプで走りだした。

 トラックで前から突っこむのは出入りの素人である。ヤクザの出入りだって、ダンプが突っこむときはお尻からと決まっている。

 鬼瓦ゲンゾウも後ろむきにバリケードに突っこんだ。土砂も積んでいた。机や椅子、木材で作られた砦などひとたまりもない。二度、三度、ダンプは前進と後退を繰りかえす。

 セーラー服の少女が、九〇〇番講堂のとばぐちに立つ。
 緋袴イバラ。
 またの名を《ゲバルト》ローザ。
 すでに《転校生》であった。
 ローザはライシャワー駐日大使が殺された世界線に転移してきた。三島ユキヲを死なせないために。

「きみ……おもしろい……ね……」
 ローザが告げる。
 銀髪の女だった。
 美しい女だな。
 ゲンゾウはそう思う。

 そもそものはなし。
 鬼瓦ゲンゾウは、なぜダンプでバリケードにつっこんだのか。
 民族派の右翼学生だったからだ。
 なぜ右翼になったのか。
 モテたかったからだ。
 肉体を鍛えたのもそれが理由だ。
 根本的にまちがっているのが鬼瓦ゲンゾウという男だった。

「おもしろい……か……!?」
 鬼瓦ゲンゾウは声まで太い。
 ワンチャンあるかも、と思ってしまった。

「うん……悪くない。おもしろくて、やがて……おいしそう……」
 ローザは舌舐めずりをした。

 この女に喰われるなら悪くない。
 鬼瓦ゲンゾウはそう考えた。
 考えてしまった。
 鬼瓦ゲンゾウ、童貞である。
 童貞の男であった。

 であるがゆえに、ゲンゾウはローザにオルグされた。動詞としてのオルグはオルガナイズの略語である。現代の言葉で言えば勧誘からの洗脳となる。
 オルグはローザの固有能力ではない。
 相伝能力の一端である。

「きみ……わたしといっしょに来なよ。モテるよ……モテちゃうよ……」
 鬼瓦ゲンゾウは誘いに乗った。
 そして異能を開花させた。
 ピケ破り。
 現代風に言えば、防御無視や貫通効果になる。
 《総番》鬼瓦ゲンゾウの前では、いかなる防壁も装甲も意味を持たない。無限の防御力を持つ《転校生》同士の抗争においては無双の能力である。

 そういう男が、この世界でなにをしているか。
 聖都セーロポリスの正門のまえで腕を組んで立っている。
 そういう男が、この世界でなにをしてきたか。
 世界をめぐり、女神クティスの分霊わけみたまを抱きしめ殺してきた。
 性的な意味ではない。
 ゲンゾウの固有能力は女神にも効く。
 問答無用でピケット・ラインを割る。
 東亜反神武装戦線『銀狼』で《総番》を名乗るとはそういうことだ。

 女神の端末を抱きしめ殺した。
 その数、百と七。
 《ゲバルト》ローザの命にしたがってのことだ。
「待たせたね……往こうか……」
 銀髪の女が現れて、ゲンゾウに告げた。
「うむ。往こう」
 そういうことになった。

◆◆◆

 聖地グンルーン。
 聖都セーロポリスの城壁の内側、神殿の一区画は異世界人の庭と呼ばれている。
 その場所に、久遠商会は多連装魔導バリスタを展開した。緋袴イッペイと数理魔導技術者ロランが完成させた兵器システムは、元の設計からかけはなれた兵器になっている。
 きっかけは弾道計算用にイッペイのスマートフォンを組み込んだこと。元の世界から情報を受け取れるスマートフォン、因果律を超越可能な情報機器をつないだ。
 完成したのは因果論兵器だった。
 理論上、神も聖女も《転校生》も倒すことができる。

「多連装魔導バリスタはすでに稼働しています」
 緋袴イッペイは告げる。
「これを抑止力にして、各勢力と停戦交渉を行い、この世界を救う」
「そして、僕たち……俺たちは還る」
 緋袴テツロウが言う。

 エルフの華凛は不安そうな顔で兵器システムを見つめる。言うなれば、魔鋼の槍を高速に射出する質量兵器だ。そうだったはずだ。
 巨大な投槍器がどうして因果論兵器になるのか。
 頭がおかしいと華凛は思う。
 イッペイとロランの説明によれば、発射よりも先に着弾するという。
 そうでなければどうして神を、聖女を、《転校生》を殺せよう。
 厄ネタばっかり集まってくる。
 華凛は嘆息した。

「それじゃあ、華凛さん、呼んでもらえる?」
 テツロウが訊く。
「うう……どうしても呼ばなきゃだめなんですか?」
「枢機卿のひとにお願いするわけにはいかないでしょ。だって、これから女神様にだいぶん無礼なこと言うつもりだし……」
 テツロウは肩をすくめた。
「わかりました……やりますよ……やればいいんですよね……」
 華凛は世界への干渉を行った。
 女神クティスが降臨する。
 白い光とともに百八体めの分霊わけみたまが現れた。

「エルフの華凛、愛し子よ。残機も少なくなってきたから、ぽんぽん呼び出さないでって言ったでしょ!」
「緋袴イッペイです」
「緋袴テツロウです」
 父と息子が挨拶する。
「さっそくだけど、女神様、俺たちの要求を呑んでほしい。さもなければ神性を奪わせてもらう」
 テツロウが言う。
「女神を初手で脅してきた!? 鬼なの? 悪魔なの?」
「この世界に悪魔はいないはずですが……俺たちは鬼ですが、やさしいほうの鬼です」
 イッペイが詐欺師の貌で言う。

 はっとして、クティスと華凛が振り返る。
 気配がしたからだ。
 足音がしたからだ。
 セーラー服を着た銀髪の女と学ランの巨躯の男が歩いてきたからだ。
「げっ、また来た!」
 クティスは思わず叫んでしまう。

「どうも……やさしくないほうの……鬼です」
 緋袴イバラが告げた。
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