父子で異世界転生: いいんですか? 救いますよ。世界。

かんのななな

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ちゃんとしたおとな

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「テツロウ、緋袴家には相伝の革命工学があった」
 緋袴イッペイが言う。
「あったんだね、パパ」
 緋袴テツロウが相槌を打つ。
「おまえの伯母、緋袴イバラは革命工学の正統後継者だった。世界から失踪し、《転校生》になりはてた」
「なりはてたんだね、パパ」
「おまえに教えた《思考分割》、あれも革命工学の技術のひとつだ。本質は霊感にある。システムをまなざすとき、いかんともしがたく脆弱性が見えてしまう。そういう工学だ」
「あ……あれ!? ドミノ理論ってそういうはなしだったの?」
「あれは似て非なるものだが、まあ、そういうあれこれだ」

 緋袴イバラは十九歳のまま、セーラー服で世界を渡った。
「ひさしぶり……イッペイ。おおきくなったね」
「そうだよ、姉ちゃん。もう不惑だよ。こいつのほうが姉ちゃんの歳に近い」
「ふふふ……はじめまして……テツロウくん」
「はじめまして、イバラさん」
 テツロウは頭をさげる。

「これが此方の決戦兵器か」
 《総番》鬼瓦ゲンゾウが低く太い声を出した。視線の先に多連装魔導バリスタがある。
「うふうむ。これはなかなか骨だ」
 骨とはいかなる意味か。
 ゲンゾウの能力は攻勢に偏っている。
 先制攻撃に弱いのであった。

 女神クティスは、華凛を前に押し出し、そのうしろに隠れた。
 百八体めの分霊わけみたまである。
 百七体を殺したのが鬼瓦ゲンゾウだった。
 殺すたび、抱きしめて耳元で「あいしてる」とささやくのだからたまらない。
 たまらぬサイコパスであった。
 そりゃあ女神だって隠れる。
「そうよ! この世界の技術と異世界の技術を結集して完成させた因果論兵器なんだから! あんたたち《転校生》なんか、けちょんけちょんのぎったんぎったんにしてやるんだからね!」
 クティスは隠れたまま、威勢よく啖呵を切った。

「《われら》だけじゃない……でしょ?」
 緋袴イバラ——《ゲバルト》ローザが嗤う。
「くっ……」
 処女神クティスは歯噛みした。

「まあまあ、落ち着いて。世界を崩壊させることを俺たちは望まない。ここはひとつ、落としどころを見つけようじゃないか」
 イッペイが言う。
「へぇ……」
 ローザが眉をつりあげた。
「おとなになったじゃない……あのころ……そうなるまいと誓ったはずの……おじさんに」
「抜かせ。ガキだっているんだ。ちゃんとしたおとなにだってなろうもんさ」
 イッペイは挑発的な笑みを浮かべた。
「いいよ……話して……」
 ローラが言う。

「まず、この世界のなりたちの話をするね」
 テツロウが口を開く。
「この世界には大陸がひとつあって、その過半を人類種の帝国が支配してる。皇帝の王権は実在する神様が与えたもの。だから、この世界の人類は王権神授説を否定できないし、技術の発展ツリーに啓蒙思想が出てこない。現状、民主主義的政体を持つのは汎アールヴ社会主義共和国だけ」
 テツロウは女神クティスを見る。

「だから……《われら》は神を殺す」
 ローラが言う。
 ゲンゾウが重々しくうなずく。
 もっとも、この男は話の内容を理解していない。

「もう、やだぁ、なんでこいつら、すぐ殺しにくるのよ! こっちは女神様なのよ、もっと敬ってよ!」
 クティスは泣き言を言った。
「うむ。神が実在する世界はめずらしいからな」
 ゲンゾウはしかつめ顔でうなずく。

「他にもね、月がふたつあるでしょ」テツロウは指を天につきたてる。「そのせいで潮汐パターンがひどく不安定で、海上交通が発達しなかった。ランドパワーしか存在できないから、人類種はひとつの帝国に統合された」
「……つづけて……」

「世界が若すぎて石油も出ない。石炭はかろうじて産出するけど、地球みたいにどこ掘っても出てくるわけじゃない。つまりね、啓蒙思想も大航海時代も産業革命も起こらない世界なんだ」
「しょうがないでしょ! この世界は最初からこうだったんだから!」
「語るに落ちたね、女神様。仮にも創世の女神を名乗ってるんだから、世界が最初から存在してたなんて言っちゃだめなんじゃない?」
 緋袴テツロウが指摘する。
 クティスは舌打ちした。
「ぐぬぅ……」

「それで……落としどころって……?」
 ローザが訊く。
 イッペイが会話を引き取った。
「女神クティスの神性、永遠えいえんを渡すことはできない。かわりに世界間通信の技術を渡す。それで華凛との契約を破棄して、この世界から退去してくれ」

 華凛が、ある意味で偶発的に実現してしまった世界間通信の技術は《転校生》さえ持ちえぬものだった。
 技術的には量子もつれを利用したステートマシンレプリケーションであると言える。本質的に女神クティスの分体生成アルゴリズムと等価である。

「ふぅん……」
 ゲンゾウが学ランの内ポケットからスキットルをとりだし、ローザに放った。
 受けとめたローザは蓋をひねり、琥珀色の酒をなめた。
「……他の勢力は?」

「まず、俺たちは現地勢力の久遠商会と協力関係にある。久遠商会は抑止力として多連装魔導バリスタを運用する。女神からも独立して、グンルーンと神性を守護するのが彼らの目的だからだ」
 イッペイが言う。
「次が、アルザル人だね。さっき、女神様が口を滑らせたけど、女神たちが来るまえからこの世界にいた固有種の知性体。彼ら彼女らは召喚した。メサイア会の聖女と《合衆国》海軍を」
 テツロウが続ける。
「《合衆国》海軍は殲滅するしかない。彼らは侵略のために来た。落としどころがない」
「……メサイア会の聖女は?」
「そうだ」ゲンゾウがワイルドターキーをボトルから直接あおる。「そ奴が《われら》の同志を消尽させた。捨ておけるものか」
 メサイア会が共産主義者を不倶戴天の敵とするならば、逆もまた真である。彼らは東亜反神武装戦線『銀狼』なのだ。
「難しいだろう。メサイア会の聖女マリアは、おそらく固有の神性を持ってしまっている。懐柔するのがいちばんだ」
 イッペイが強い口調で言う。

「あ、あのー、あたしは? あたしはどうなっちゃうの?」
 女神クティスはおそるおそる挙手した。
「女神様にお願いしたいことはみっつあるんだ。ひとつめ、アルザル人に土下座で詫びて、グンルーンに彼らの自治区を用意する。ふたつめ、新しい神性、民主主義を構築して精霊魔術を拡張する。みっつめ、長期休暇をとる」
 緋袴テツロウは指を三本立てた。
「えっと、三番めって遠回しな死刑宣告じゃないよね? ね?」
「違うよ、女神様。おやすみとって、がっつり結婚相談所にでも行くといいんじゃないかな」
「むきぃ! あたしはオーガニックな出会いがいいの! あっ、違うからっ! そっちのゴリラみたいな《転校生》は願いさげだから!」
「うふうむ……」
 鬼瓦ゲンゾウが首をひねる。

 《ゲバルト》ローザがスキットルをあおり、まぶたを閉じる。眼を見開いて、
「わかった……呑むよ、イッペイ……その条件を。神を殺したら……あんたたち……帰れないんでしょ?」
「ありがとう、姉ちゃん」

 そのとき、風が吹いた。
 影から少女が立ち現れた。
 黒髪ショートボブの少女だった。
 ブレザーの制服に身を包んでいる。

 《コミッサール》将門ユウキ。
 コミッサールとは政治将校を意味する。
 ユウキはソ連製の自動拳銃をかまえていた。

「通らないねえ。そんな反革命は通らないよ、ローザ」

 八人めの《転校生》が告げた。
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